小さく始める閉手順原理

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January 27, 26

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1.

第12回大阪SAS勉強会 2026.01.28(水) 小さく始める閉手順原理 ~多重性調整手法の礎~ ノーベルファーマ株式会社 研究開発本部 データサイエンス部 森田 祐介 1

2.

動機:多重性調整をきちんと理解したい • 業務を通して多重性の問題や多重性調整手法は知っていたつもり… • 検定の繰り返しによるαエラーの上昇(数撃ちゃ当たる)への対処 • 固定順序法、ゲートキーピング法、グラフィカルアプローチなど • 製薬協の多重性に関する素晴らしい総説も読んだ • 統計検定1級(応用):医薬生物学で多重性に関する出題あり • 2025年、2024年の2年連続出題 • よく知っている話題のはずなのに、解けない…、情けない… • 小手先の知識では通用しないなあ… • 多重性調整手法について、原理原則から正確に理解したい • どうやら閉手順原理がポイントらしい • 小さく始める、千里の道も今日の一歩から 2

3.

おさらい:αエラーとβエラー • 臨床試験の検定には2種類の誤り 1. αエラー(第一種の過誤確率) • • 本来は効果がない被験薬を「効果あり」と判断する誤り 実務では有意水準により調整 2. βエラー(第二種の過誤確率) • • • 本来は効果がある被験薬を「効果なし」と判断する誤り 実務では目標とする検出力(1-β)を満たすよう症例数を調整 ★ポイント★ • • αエラーは、帰無仮説が正しい世界 βエラーは、対立仮説が正しい世界での話 αエラーとβエラーはトレードオフの関係、同時に両方ゼロにはできない 3

4.

多重性の問題とは? • 検定を複数回実施することでαエラーが増加 • 下手な鉄砲数撃ちゃあたる 検定回数 1 2 3 4 5 10 20 50 100 αエラー 5% 10% 14% 19% 23% 40% 64% 92% 99% 少なくとも一つ以上 有意になる確率 無視できない程度に 増加する 各検定は互いに独立と した場合のαエラー 4

5.

多重性の調整:FWERの強い制御 • FWER(Family Wise Error Rate) • 真の帰無仮説を1つでも誤って棄却する確率 • FWERの強い制御が必要 • 複数の帰無仮説の真偽がどのような組み合わせであっても FWERが設定値を越えないことを保証 パターン 帰無仮説 • 例:3つの帰無仮説を検定する場合→ • 帰無仮説の真偽の組み合わせは8パターン • 真の帰無仮説がどれであってもFWERを制御する →強い制御 • ただし、パターン⑧ではFWEは起こりえない →真の帰無仮説が存在しないためFWER=0 →偽の帰無仮説を棄却しないとβエラーになる 真の帰無仮説は 棄却したくない ① 帰無仮説 ② 帰無仮説 ③ ① 真 真 真 ② 真 真 偽 ③ 真 偽 真 ④ 偽 真 真 ⑤ 真 偽 偽 ⑥ 偽 真 偽 ⑦ 偽 偽 真 ⑧ 偽 偽 偽 5

6.

多重性の調整:Bonferroni法 • FWERを制御するために、個々の検定の有意水準を厳しくする • 有意水準αを検定の個数Kで割ったものを個々の有意水準にする • 例:3個の検定ならば、個々の検定の有意水準は(α÷3)とする • メリット • 計算が簡単 • デメリット • 保守的な検定となる反面、検出力が低下する 6

7.

閉手順原理:FWERの強い制御を保証 • 閉手順原理(Closed Test Principle) • 固定順序法とは区別する (たまに閉手順=固定順序法を指す文献もあるので見極める) • 閉手順原理の発想 • 個々の帰無仮説を棄却する際には、 チェックポイントも通過する必要がある(棄却のハードルをあげる) • チェックポイントの通過を課すことでFWERの強い制御を実現する • チェックポイントの内容がミソ 7

8.

多重性の調整:閉手順原理(Closed Test Principle) H1∩H2∩H3 H1∩H2∩H3が真ならば H1∩H2も真である H1∩H2 ルール: ある仮説Hiを棄却するには、 その仮説を「包含する(implyする)」 すべての積仮説も棄却されていなければならない implyする H1∩H3 これが チェックポイント H2∩H3 H2∩H3が真ならば H3も真である H1 H2 H3 8

9.

閉手順原理:帰無仮説が2つの場合① • 閉手順の結論として H1を棄却する条件 ① H1を包含する上位の積仮説H1∩H2が棄却される ② 個別検定でH1が棄却される ③ 閉手順の結論としてH1を棄却する(①かつ②) • 閉手順の結論としてH2を棄却する条件 ① H2を包含する上位の積仮説H1∩H2が棄却される ② 個別検定でH2が棄却される ③ 閉手順の結論としてH2を棄却する(①かつ②) • 積仮説H1∩H2の棄却が チェックポイントの役割を果たす • 実は、3群のFisher LSDと同じ手順 H1 H1∩H2 implyする H2 9

10.

閉手順原理:帰無仮説が2つの場合② • H1とH2がともに真の帰無仮説とする 閉手順の結論としてH1を棄却するため(③)には①と②の両方が必要 ① H1を包含する上位の積仮説H1∩H2が棄却される ② 個別検定でH1が棄却される ③ 閉手順の結論としてH1を棄却する(③=①∩②) • したがって、Pr(③)=Pr(①∩②) ≦ Pr(①) (直感:「両方起きる」は「①が起きる」の一部:包含) • また、①の検定は有意水準αで行うため、 H1∩H2が真のとき Pr(①) ≦ α • よって( H1∩H2が真のとき)、 Pr(誤ってH1が棄却される)=Pr(③) ≦ α • チェックポイントを必須にすることで、 真のH1を誤って棄却する確率がα以下に抑えられる 10

11.

閉手順原理:帰無仮説が2つの場合③ • H1のみが真の帰無仮説とする 閉手順の結論としてH1を棄却するため(③)には①と②の両方が必要 ① H1を包含する上位の積仮説H1∩H2が棄却される ② 個別検定でH1が棄却される ③ 閉手順の結論としてH1を棄却する(③=①∩②) • したがって、 Pr(③)= Pr(①∩②) ≦ Pr(②) (直感:「両方起きる」は「②が起きる」の一部:包含) 積仮説H1∩H2は偽となるので Pr(①) ≦ αは保証できない • また、②の検定は有意水準αで行うため、 H1が真のとき Pr(②) ≦ α • よって(H1が真のとき)、 Pr(誤ってH1が棄却される)=Pr(③) ≦ α • 真の帰無仮説がH1だけである場合も、真のH1を誤って棄却する確率がα以下に抑えられる →FWERの強い制御ができている (なお、H1とH2の両方が偽の場合は、FWEが起こらないので、ここで検討しない) 11

12.

まとめ:閉手順原理は多重性調整手法の礎 • 閉手順原理:FWERの強い制御を実装する方法のひとつ • 強い制御:帰無仮説の真偽の組み合わせによるFWERを制御 • 閉手順原理のポイント • 個別仮説を棄却する前に,必要な上位のチェックポイント(積仮説)の棄却を義務化 • 個別仮説を誤棄却するには,必ずチェックポイントも棄却 • チェックポイントの棄却によってFWERのインフレを抑制 • 臨床試験で頻用される多重性調整手法は 閉手順原理に基づいている • 固定順序法 • Holm法 • step-down Dunnett法 • Graphical Approach など 12

13.

参考文献 1. 製薬協:臨床試験における多重性の諸問題の現状と今後の課題について https://www.jpma.or.jp/information/evaluation/results/allotment/pmct.html 2. 土居 正明.多重性制御の基礎理論(閉検定手順) https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjb/36/Special_Issue_2/36_S99/_article/-char/ja/ 3. 森川 敏彦.臨床試験における多重性問題への統計的接近法 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjb/29/Special_Issue_1/29_Special_Issue_1_S15/_pdf 4. 舟尾 暢男.多重比較の基礎とゲートキーピング法 https://nfunao.web.fc2.com/files/mcp_gatekeeping.pdf 5. 牛尾 英孝.Fisher's protected LSD法におけるFWER(Family-Wise Error Rate)の制御 https://www.docswell.com/s/6484025/KEX7RE-2025-04-15-043217