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October 11, 26
スライド概要
SAS言語を中心として,解析業務担当者・プログラマなのコミュニティを活性化したいです
第9回日本臨床薬理学会 近畿地方大会 / Estimand寸劇ワークショップ 「この薬は効きましたか?」 ⸺Ǔその“ 効いた” は、どの意味? Estimandをやわらかく理解する 15 分 答えを出す前に、問いをそろえる 森岡 裕 (統計解析担当者)
同じ試験でも、“ 効果” は一つではない? 新薬A v s 標準薬B 評価:24週時点のHbA1c変化 0週 治療開始 架空の 2型糖尿病対象24週間試験 24週 12週 救済治療 HbA1c測定 レスキュー薬インスリン開始 Q1 現実の経過を見る Q2 “ もしも” を考える Q3 成功/失敗として見る 最初に選んだ治療方針はどうだった? どうなっていた? 治療失敗と考える? 救済治療も含めて、 救済治療が使えなかったら、 問いが違えば、目指す答えも変わる 救済治療を使ったこと自体を、
Estimand = 「知りたい治療効果」の設計図 臨床的な問いを、“ どの治療効果を知りたいか” まで具体化する S T E P 1 今日はここ Estimand 何を知りたい? 臨床的な問いを、 “どの治療効果”か、まで具体化する STEP 2 STEP 3 Estimator Estimate どう計算・推定する? その治療効果を、 データからどう推定するか 今日は、まず左だけを押さえればOK ※ Estimandは、解析方法の名前ではありません 得られた数値 計算して 出てきた数字
ひとりの患者さんを追ってみる 架空の24週間・2型糖尿病試験 ── 境界 ── 0週 佐藤さん 新薬Aを開始 医師 「患者さんのために、 救済治療は必要でした」 12週 血糖コントロール不十分 救済インスリン開始 CR C/CR A /DM e t c 「救済治療後のデータも、 追いかけますか?」 この24週の値は、何の効果を表している? 24週 HbA1cを測定 値は改善 統計担当 「何を知りたいかで、 解析のやり方変わります」
途中で起きて、結果の意味を変える出来事 DEFINITION 中間事象 Intercurrent event 治療開始後に起こり、治療効果の解釈や測定値の意味に関わる出来事 割り付けられた 治療の中止 中間事象 値があっても、意味が変わることがある 救済治療の実施 別治療への切替 欠測データ 測るはずの値が、手元にない たまに混合されがちなので注意。 同じ患者さんに、欠測と中間事象,両方が起きることもある 中間事象による欠測の場合、通常の欠測と対応が異なることがありえるので注意 死亡などの 終末事象
2 分 / 組み立て方 Estimandは、5つの質問で組み立てる Q1 誰に? 対象集団 Population Q2 何と何を? 治療 Treatments 5 つそろえば、こんな感じの一文になる 対象集団 2型糖尿病患者で 治療 新薬Aと 標準薬Bを比べ Q3 何で見る? 変数 評価項目 Variable 変数 24週のHbA1c 変化を見て Q 4 中心の問い 途中の出来事を どう扱う? 中間事象への対応 Intercurrent event strategy 中間事象への対応 救済治療後の値も含め Q5 どう比べる? 集団レベル の要約 Summary 集団レベルの要約 平均変化量の 差で示す
中間事象への5 つのアプローチ 救済治療という 一つの出来事 にも、5つの問い方・捉え方 治療方針ストラテジー Treatment policy 救済治療後も含めて、割付後の経過全体を見る ストラテジーは 5つに限るというわけではない 合言葉:「込みで見る」 複合変数ストラテジー Composite Variable 救済治療の使用を、失敗など結果の一部にする 合言葉:「出来事も結果」 主要層ストラテジー Principal stratum どちらの治療でも救済治療を必要としない人など を考える ※ 潜在的な集団の概念 合言葉:「特定の潜在的な人たち」 (今日は存在だけ知ればOK) 仮想ストラテジー Hypothetical 救済治療が使えなかったら、 どうなっていたかを見る 合言葉:「なかったら?」 12週 救済インスリン 開始 ▲ 治療下ストラテジー While on treatment 救済治療を始める前までの反応を見る 合言葉:「そこまでを見る」 どれが正解かではなく、どの臨床的疑問に答えたいか
治療方針ストラテジー 合言葉:「込みで見る」 患者Aが16週でレスキュー薬を開始し、24週HbA1cが7.0%だった場合、7.0%をそのまま評価に使うイメージです。 つまりレスキュー薬による改善も含んだ「治療戦略全体」の結果です 仮想ストラテジー 合言葉:「なかったら?」 同じ患者について「仮に16週でレスキュー薬を開始しなかったら、24週のHbA1cはいくつだったか?」を考えます。例えば観 測された7.0%をそのまま使うのではなく、レスキュー薬なしのIFの予測値 (反実仮想)の24週値を統計的な方法で推定します。 複合変数ストラテジー 合言葉:「出来事も結果」 レスキュー薬開始そのものを悪いアウトカム=治療失敗として評価に組み込みます。 例えば「24週HbA1c <7.0% かつレスキュー薬を使用していない患者の割合」を比較する、という定義ができます。
治療下ストラテジー 合言葉:「そこまでを見る」 レスキュー薬を開始した後のHbA1cは、関心の対象から外します。たとえば16週にレスキュー開始なら、レスキュー開始前までのHbA1cの 経過を対象にする、という考え方です。ここは注意点があり、単純に「16週のHbA1cを24週値の代わりにする」という意味ではありませ ん。 例えば「ベースラインから、24週またはレスキュー薬開始直前の最終測定時点のうち早い方までのHbA1c変化量」を評価するという方針 で、「24週時点のHbA1c差」という臨床的疑問を絶対に維持したいのであればとりにくい方針です 主要層ストラテジー 合言葉:「特定の潜在的な人たち」 (今日は存在だけ知ればOK) ここが最も概念的です。例えば、 「新薬に割り付けられても、対照薬に割り付けられても、24週までレスキュー薬を必要としなかったであろう患者」 という潜在的なsubpopulationを考え、その患者集団における24週HbA1cの治療群間差を推定します。 これは単純に「実際にレスキュー薬を使わなかった患者だけを抜き出して比較」ではありません。割付けられなかった反対側の治療を 受けた場合にもレスキュー薬を使わなかった、という潜在的な状態で層を定義するところがポイントです。 新薬でも対照薬でもレスキュー薬を必要としなかったであろう患者では、24週HbA1cにどれだけ差があるか?(ただし実際にレス キューを使わなかった患者だけを比較するわけではない) 「どちらの治療でもレスキュー薬を使用しない潜在的患者集団における、24週HbA1cの平均的な治療効果」を統計モデル+仮定を使っ て対象の潜在集団を推定するという工程を経たうえでモデル解析を行うイメージ。
ただし、この5つから好きなものを選ぶというわけではありません。 その治療がどんな場面で、何を目的に使われるのかによって、 そもそも答えたい問いが変わります。 Therapeutic setting and intent of treatment determining a trial objective Therapeutic setting(その治療が使われる臨床的な状況・文脈) ・根治を目指す治療なのか? ・症状をコントロールする長期治療なのか? ・他に有効な治療がなく最後の選択肢なのか? ・効かなければすぐ別治療へ切り替えるのが普通なのか? Intent of treatment(その治療を何のために使うのか) Trial objective (そこで知りたいこと)
状況・文脈・目的 Therapeutic setting / intent そこで知りたいこと trial objective 中間事象をどう考えたくなる? 新薬Aから治療を開始する方針は、必要な 救済治療も込みで見る →治療方針ス ➀ 日常診療での治療戦略を知りたい ら救済インスリンを追加する現実の診療も トラテジーが候補 含めて、標準薬Bより血糖を改善するか ➁ 新薬Aそのものの血糖降下作用を 他の血糖降下治療の影響を除いたとき、新 「救済インスリンがなかったら?」 薬Aは標準薬BよりHbA1cを改善するか 知りたい →仮想ストラテジーが候補 救済インスリン開始自体が治療不十 ➂ 単剤でコントロールできる治療を 新薬Aは、追加治療を必要とせずHbA1cを 分の意味を持つ → 複合変数ストラテ 目標まで改善できるか 選びたい ジー が候補 ➃ 追加治療が必要になるまでの効果 新薬Aによる治療を続けている間、どの程 救済治療開始までを見る → 治療下ス 度血糖をコントロールできるか に関心がある トラテジーが候補 ➄ 追加治療を必要としないタイプの どちらの治療でも救済インスリンを必要と 特定の潜在的患者集団 → 主要層スト しないであろう患者では、AとBの効果はど 患者で薬効を知りたい ラテジーが候補 う違うか
たとえば、こう書けば,背景と問いがそろう 日常診療での治療戦略を知りたい 新薬Aは、標準薬BよりHbA1cを改善するか? ➀ 対象集団 2型糖尿病患者において 、 A F T E R 具体的なE s t i m a n d 5 つの質問で具体化 ➁ 治療 新薬Aと標準薬Bを比較し 、 ➃ 中間事象への対応 救済インスリン使用の有無にかかわらず 、 ➂ 変数 24週時点のHbA1c変化量 の ➄ 集団レベルの要約 平均差 を評価する。 この一文が、デザイン ・ データ収集 ・ 解析 ・ 解釈 の背骨になる
だから、臨床試験の出演者・裏方の視点の共有が欠かせない Estimand = みんなで作る 共通の脚本 医師 「臨床的に 意味のある問いか?」 統計担当者 「その問いを、データから 推定できるか」 CR C/CR A /DM 「現場で何が起こり、 何を追跡できるか,データ とできるか」 患者・意思決定者 「その答えは、 治療選択に役立つか」 目的 → デザイン → 実施 → 解析 → 解釈 を、同じ問いでつなぐ
今日の寸劇では、「答え」より「問い」を演じる 1 STEP 臨床的な場面を 読む 2 3 STEP 5つの質問に 当てはめる STEP 登場人物の 会話にする 今日の問い 途中の出来事が起きたとき、 私たちは何を“ 治療効果” と呼びたいのか? まず、問いをそろえる。それがEst im an d。
今日は初学者向けにも とっつきやすいように 「途中で何か起きたら、何を治療効果と呼びたい?」という語り口をとった側面があります。 一方、 ICH E9(R1) Training Material(ガイドラインを理解するためにICHが作成した公式のトレーニング資料) では、より体系的には Therapeutic setting / Intent of treatment ↓ Trial objective ↓ Estimand ↓ Estimator ↓ Estimate と、いうように「どんな状況で、何を知りたいのか」から問いを定めていくのが基本的な考え方として示さ れています 今日の話は、この流れを“ Estimand側からやわらかく体験した” もの 振り返るときは、ICH E9(R1)やTraining Materialに戻って確認してみてください。
Estimandは, ICH E9 (R1)で提示されているものであり, 臨床試験の計画・評価のために定義された概念ですが その本質は「評価のフレームワーク」つまり 「どのような集団に対して、どのような治療効果を、どのようなルールで測定 し、どのような比較するか」なので, 臨床試験以外のもので考えることも可能 できるだけ,これからの寸劇ワークシップを邪魔したくないので 日常生活とはちょっと違う,趣味領域で,「釣り」で考えてみました
「新しいルアーAは、従来ルアーBより魚を多く釣れるか?」という比較試験?を考えます 主要評価:「朝6時から正午までの6時間で釣れた魚の数」 同程度の経験を持つ釣り人 6時間で釣れた魚の数 ルアーA vs ルアーB 「途中で餌釣りに変更」を 中間事象として設定 平均釣果の差
治療方針ストラテジー 合言葉:「込みで見る」⇒ 餌も込み 途中で餌に切り替えても,それも含めて最終的に何匹釣れた? と問おう 仮想ストラテジー 合言葉:「なかったら?」⇒ 餌がなかったら? もし誰も餌に切り替えなかったら,6時間で何匹釣れた? と問おう 複合変数ストラテジー 合言葉:「出来事も結果」⇒ 餌を使ったら失敗 餌に切り替えたこと自体を“ ルアー失敗” として評価したらどちらが優れている? と問おう 治療下ストラテジー 合言葉:「そこまでを見る」⇒ 餌釣りに替えるまでに注目 餌に切り替えるまで、ルアーだけで何匹釣れた? と問おう(※ちょっと推定するものが変わってる 気もするので,主要評価をルアー使用中の釣れた魚の数などとしないと噛み合わない気がした) 主要層ストラテジー 合言葉:「特定の潜在的な人たち」⇒ Aを使ってもBを使っても餌に切り替えずに済む釣り人では、どちらのルアーの釣果が多い? Aを使ってもBを使っても餌に切り替えずに済む釣り人では、どちらのルアーの釣果が多い? と問おう
Therapeutic setting and intent of treatment determining a trial objective 純粋にルアーの性能 を知りたい どうしても魚を持っ て帰りたい 大会で勝つことが目的 ルアーだけで釣り切 れるか知りたい 釣具店として一般客 にどちらを勧めるか 知りたい 「どうしても1匹は釣って帰らないと奥さんに怒られる!!」 という背景があれば、餌に切り替える可能性は高いと思いますし、ストラテジーとしては治療方針ストラテジー (込みで見る)になりそう