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October 10, 21
スライド概要
AIは人間の「意思決定」の一部あるいはかなりの部分を代替する。そうなれば、製品やサービスのデザインは根本的に変わる。そこで、従来の方式に対比してAI時代はどのように変化するのかに焦点を当てる。基本的にはAIはデータ駆動で問題解決ループを永続的に回転させ、最新のソリューションを提供し続けると考えられる。そこで、まず、そのモデルを設定し、このモデルに該当しそうな例としてNetflix,Airbnbをサーベイする。その後、AI方式の従来方式との根本的相違を考える。最大の相違はAI方式が従来方式に比較して、「規模、範囲、学習」の従来方式の3制約条件を排除あるいは大きく改善する点にあると思う。この視点からAI時代の新たな取組みを考える。
定年まで35年間あるIT企業に勤めていました。その後、大学教員を5年。定年になって、非常勤講師を少々と、ある標準化機関の顧問。そこも定年になって数年前にB-frontier研究所を立ち上げました。この名前で、IT関係の英語論文(経営学的視点のもの)をダウンロードし、その紹介と自分で考えた内容を取り交ぜて情報公開しています。幾つかの学会で学会発表なども。昔、ITバブル崩壊の直前、ダイヤモンド社からIT革命本「デジタル融合市場」を出版したこともあります。こんな経験が今に続く情報発信の原点です。
AI時代のイノベーション とサービス再考 B-frontier研究所 高橋 浩
問題意識 • AIは人間の「意思決定」の一部あるいはかな りの部分を代替すると言われている。 • そうなると、従来の製品やサービスの設計・ 開発などはどのように変わるのだろうか? • また、AIは従来方式の設計・開発の制約条件 をどのように変更あるいは克服するのだろう か? • しかし、このような視点での情報は必ずしも多 くない。 • そこで、探索してみる。
目次 1. 2. 3. 4. はじめに・・・課題設定 事例による探索 新方式の枠組み AI時代の新たな取組み
1.はじめに・・・課題設定 従来方式 • 従来方式は基本的に人間の「意思決定」に依 存している。これはかなりの労力を強いる。 – 個々のユーザー毎に異なるソリューションの提供 は事実上不可能である。 – 従って、ユーザーセグメントに対して、「設計」「製 造」「使用」を時系列に実施するしかない。 – そして、例え、市場が変化したり、新技術が生ま れたり、顧客「使用」についての新たな洞察を得 たとしても、そのフィードバックは次のサイクルま で凍結される(下図)。 設計 開発 次のサイクル 使用 凍結期間が存在 洞察をフィードバック 設計 開発 使用
AIによる新たな方式 • 一方、AI方式ではAIエンジンが顧客とのやり取り、 AI利用企業エコシステムのメンバー企業とのや り取りを一括して統括する。 • そして、これら情報から、オブジェクト認識、自然 言語処理、予測、結論引き出しなどを行う。 • 結果、適切に考察されたアルゴリズムは人間の 労力無しに個別ユーザー毎の正確なソリュー ションを自動的に生成する。 • 更に、新しいデータの継続的収集とAIエンジンの 学習機能により、ユーザーニーズと行動の予測 を改善し、時間の経過とともに、より優れたソ リューションを提供する。 ⇒このビジョンを次頁図に示す。
AIによる新たな方式図 問題解決ループ 設計 問題解決 ソリューション提供 使用 センサー AI データ • 問題解決ループは永続的に展開される。 • ソリューションは最新のものが提供され続ける。
課題設定 • 基本設定:2つのモデル、とりわけ、AIによる 新たな方式は適切と考えられるか? • 実際にこのような処理を実行している事例は あるか? ⇒ 第2節 • AI方式は、どの程度の範囲でこのような「問 題解決ループ」を適切に展開させていると考 えられるか? ⇒ 第3節
2.事例による探索 NetflixでのAI処理の例 ① 類似と見做された顧客のアクションと結果 (選んだ映画など)で構成されるラベル付き データセットを作成する。⇒それらから効果 的な推奨事項の作成と提示を行う。 ② 特定のデータを前提とせずに、関連する顧 客グループを発見したり、様々なユーザーイ ンタフェースを作成する。⇒更に最初のコンテ ンツを予測する。 ③ 更に、提示する映画の選択を洗練させ、 ユーザーと推奨事項の最適化を図る。⇒特 定ユーザーに向けて改善されたビジュアルで多 数の推奨事項を提示する。
NetflixのAI処理とAIアルゴリズム ①、②、③とAIアルゴリズムとの関係 ①:「教師あり学習」の利用 – ラベル付きデータセットの作成で、従来の人間による 設計・開発に類似の機能を実現する。 – 但し、多様な関連情報による学習で、「問題解決ルー プ」の出力は従来方式以上によりユーザー中心にな る。 ②:「教師なし学習」の利用 – 前提を置かないデータの活用により、先入観や仮定 なしの洞察を発見しうる。 – 非常に大量のデータを永続的に処理していくので、 新たな洞察に結実しうる(新たな発見という点では「デ ザイン思考」に類似の側面を持つ)。
NetflixにおけるAI処理の例(続) • ③:「強化学習」の利用 – 開始点とパフォーマンス関数を設定して始める。 – 「より多くの時間をかけてコンテンツの複雑性を更 に調査するか」 vs 「これまで構築されたモデルを 活用して意思決定とアクション設定を行うか」のト レードオフを判断する時点がある。 – 非常に大量のデータを永続的に処理していくこと で、複雑な人間の好みを最も深く学習し、ユー ザーのエンゲージメントを長期に渡って最適化し うる(「反復」*の原則に類似の側面がある)。 *:満足の行く結果が得られるまで、ソリューションがテストされ改良されるプロセスのこと
Netflix発展の歴史 • 元々はビデオレンタル屋で、DVDの出荷管理 で構成されていた(この段階では顧客の視聴 行動を監視することはできなかった)。 • 2007年、ストリーミングサービスを開始した(こ の結果、視聴行動を監視できるようになった。 ここからAIモデルに転換した)。 • コンテンツ予想(②)は2013年頃から始めた。 • この頃から既に「Netflixは3,300万の異なる バーションがある」と言われていた。 • 最近では一層進んだ活動を行っている。(例: 次頁)
最近のNeflixのサービス例 • 既に新規映画製作などの製作事業に参入 している(2013年頃から)。 • そして、既存映画スタジオと競合して久しい。 • Netflixオリジナル作品が アカデミー賞なども受賞し ている。 • また、オリジナルTV番組も 開始している。 Netflixオリジナルシリーズ
AirbnbでのAI処理の例 ホスピタリティビジネスの従来の方式 • ホスピタリティビジネスは人々の中心性を実現し ようとするため、文化、年齢、背景、旅行目的な ど、様々な要素の多様性によって特徴付けられ る。 • 従って、本質的に非常に複雑である。 • この様な複雑性に直面して、従来のモデルは、 – 不動産(ホテルとそのスペース、部屋など) – 労働集約的なプロセス(雇用、教育、調整、など) への多額の投資に依存してきた。 • このモデルでの資産の大きい企業は何らかの標 準化を行い、その結果、一定期間サービスは静 的なままになっていた。
デザイン思考による改善の取組み • このような状況に対し、「デザイン思考」で有名な IDEOによるインターコンチネンタルホテルグルー プでの取組みを例示する。 – 例1:短期滞在の旅行者を対象とした便利な体験の 訴求プログラム – 例2:ビジネス旅行者を対象とした会議や仕事のため の適切なスペースの設計プログラム – 例3:チェックイン方式から部屋自体の見栄えまで全 てを再設計して別ブランドを作成、など • 全体的には対象セグメントへの効果的体験の策 定に焦点を当て、特定ソリューションのプロトタイ ピングに依存していた。 – しかし、この段階では本質的改善は道半ばである。
AirbnbのAIによる取組み • 運用管理の責任をホストに委託することで多様 性と規模拡大の従来のボトルネックを克服した。 • そして最先端のソリューションを提供した(下記)。 – デザインオプションの圧倒的な幅の広さ – 2017年段階で190ヶ国、8万都市で300万ホスト(大手 ホテルの3倍以上)。そして、300万の部屋のデザイン は全て異なる。 – この膨大な選択肢からの最適選択にAIを導入する。 • ゲスト(顧客)が見ているものに対するUI(洞察)の支援と、 • ホスト(貸主)に効率的ソリューションを提供してもらうため の問題解決の支援(例:価格の設計)を両立させる。 • AIがプラットフォームの両側(ホスト、ゲスト)にそ れぞれ独立して問題解決ループを実行すること で、従来モデルの制約であった様々な利害関係 者の要件のバランスを確保する。⇒次頁図参照
ゲストがAirbnbサイトへアクセス キートとなる情報のDB 市場洞察サーバー 洞察を生み出す 洞察を注意深く批判的に調べる 例:人々が忙しくしている場所など 各種センサーからのデータ 価格設定支援サービス 対ホスト向け サイト検索支援サービス 対ゲスト向け https://medium.com/airbnb-engineering/helping-guests-make-informed-decisions-withmarket-insights-8b09dc904353より引用
3.新方式の枠組み AIについての基本認識 • AIは(デジタル化による製造の自動化のよう な範疇を超えて)製品やサービスの設計の自 動化に及ぶ。 • 即ち、AIによる設計の自動化は直接的な問 題解決(ソリューション提示)を導く。 • 結果、従来のデザイナーやエンジニアの役割 は変わる。彼等は設計をAIに委任するので、 単にそれらを実施しないだけでなく、新たな役 割は問題解決ループを設計することに変わる。
AIアルゴリズムは人間のようには機能 しない • 但し、AIは、エンジニアやデザイナーの思考を コピーして自動化している訳ではない。 • それらは異なる方法で機能する(大量のデー タに基づき何百万回も“反復”することで人 間の能力を超えた複雑な予測を提示する)。 • 従って、今までのエンジニアやデザイナーは 過去のノウハウのみで問題解決ループを設 計することはできない。 • しかし、現状では新たな教育も実施されてい ない。
設計の対象が変われば設計のプロセ スも変わる 「AIによる方式」での2つのプロセス 従来同様の人間中心の設計フェーズ AIによる反復的設計フェーズ ・ アルゴリズムによって特定ユーザー 向けの特定ソリューションを開発 • ソリューション空間の考察 ・ このフェーズはユーザーの要求に • 問題解決ループの設計 対応して実時間で個別ユーザー毎 に活性化 ・ 毎回、利用可能な最新のデータと 学習結果を活用して実施 新方式では製品やサービスの青写真(従来方式では設計と使用の 間にバッファーとして機能していた)は存在しない。
適用範囲を考察するためのTeslaの事例 • TeslaはNetflixやAirbnbのようにハードウェア (車)を自動的に設計している訳ではない。 • しかし、車のデザインそのものを再考している。 – 物理的に相互作用する全ての要素(ボタンなど) を取り除き、殆どのコントロールをデジタルユー ザーインタフェースに埋め込むようにしている(下 図の左側)。 • 次に、データを収集するた めのセンサーを取り付けた。 • これにより、問題解決ルー プで提示された処理がか なりの機能を実現している。
AIは規模、範囲、学習という3つの 制約条件を排除する AIによる新たな方式 従来方式 [規模」 ・ 人間ベースの活動のため、リ ソースや時間に制約があった。 [範囲」 ・ 製品/サービスは特定の業種向 けに設計される(別の文脈に適 応される可能性は殆どなかった)。 [学習」 ・ 学習は既存プロジェクト内に限 定される。 ・ また、学習の成果は次のバー ジョンでのみ活用される。 [規模」 ・ 特定ソリューションの開発が機械で 実行されるので基本的制約はない。 [範囲」 ・ 設計概要は流動的であり、製品/ サービスがリリースされた後でも再構 成が可能である(別業種向けへの適 応など新たなパターンを見つけ出し 易くなった)。 [学習」 ・ 学習の成果はループを介して広く伝 搬される。 ・ また、学習効果によりソリューション は常に最新のものに更新される。
AIによる設計の特徴 • 「AIによる設計」とは、従来方式における「設 計」のようなものではなく、ソリューション提示/ テストの集中的反復処理のようなものである。 • 従って、そのキッカケは外部データに起因し ており、基本的には外部ユーザーとの共感の 「反復」のような、「デザイン思考」的性格の側 面がある。
イノベーションへの影響 • AI方式は、改めて“創造とは何か?”という問 題と絡む可能性がある。 • 従来の「創造性とは問題解決に他ならない」 と考えられていた(Simon、1988)。 • しかし、問題解決をAIが行ってしまうと、「創造 性とは問題発見である」(Csikszentmihalyi, 1988)との意見も登場する。 • 換言すれば、良い問題を見つけ、その解決に 関連するデータを発見することが実際上は 重要と考えられる。
新方式の枠組み(中間まとめ) • 新方式は従来方式の制約条件をかなりの程 度緩和する。 • 適用分野は、自動車産業のような物理産業 においても、デザインを再考することで適応 性を拡大できる。 • そして、よりリアルタイムに顧客ニーズに対応 するソリューションを提供し続けられる。 • 即ち、既存業種は従来の常識をAI時代に向 けて如何に再考できるかがポイントになる。
4. AI時代の新たな取組み AIと組織変革 • AIは人間の活動に取って代わるだけでなく、 企業の概念を変える可能性がある。 • AIの真に劇的な影響は組織の性質と組織が 我々の周辺世界を形作る方法を変えることか もしれない。 • 例:AIは企業の運営方法や競争方法を変える かもしれない。 ⇒ 次頁参照
AIによる組織変革の例 • 運営方法: – Google,Facebook等は、膨大な画像データ収集か ら、顔認証、写真並べ替え、画像強調などのアル ゴリズム改善で今や驚くべき予測を提示する。 – 人間活動のデジタル表現は、アナログでは不可 能な方法でそれ自体を学習・改善できる。これは 企業経営の運営方法を根本的に変える。 • 競争方法: – 前例のないレベルの規模、範囲、学習能力を身 に着けた企業が登場する。 – これは従来の競合他社を粉砕する可能性が高い (Netflix, Airbnb, SNS企業、モバイル企業など)。
AIによる企業成長のメカニズム 1.生産性向上の推進力としてのAI – 一部の仕事で人的労働を代替(⇒単位当たりの人件 費削減) – より良い予測と意思決定による効率の向上 2.新製品/サービスや新市場拡大の推進力としての AI – 顧客の好みやニーズに合わせた製品・サービスの 提供の可能性 – 適切な予測により一連の対象顧客の拡大の可能性 ⇒新しい市場や地政学的拡大に繋がる。 2.の効果の方が大きいと実証されている・・(Babina、2021)
AI時代の新たな取組み(まとめ) 1. AIはイノベーションの中核である「意思決定」 や「学習」を自動化する。 2. AIは人間中心の設計で一般的であった制約 条件(規模、範囲、学習)を大幅に取り除く。 3. しかし、この可能性を具現化するには、組織 を根本的に再構築する必要がある。 4. AIを活用した組織での人間の役割は、「完全 なソリューションを開発することから、どのイノ ベーションが意味があるかなどを理解し、問題 解決ループを設計する」ことに移る。
AI時代の新たな取組み(まとめ)(続) • 換言すれば、「問題解決」から「問題発見」へ のプロセス移行が求められる。 • しかし、現状ではよく分からないことも多い。 – 組織はどうすれば人間中心のイノベーションシス テムからAI中心のイノベーションシステムに移行 できるか? – どのような能力変更が必要か? – それらの能力を身に着けるには何が重要か? • 但し、成功企業は既に登場している。そして、 成功企業の持つ従来の制約条件克服能力は ただちに従来企業の脅威になる。
今後の課題 • 結局、AIを含むデジタル化が本質的にどのよ うな変化を招来させているのか?また、 • このような新たな環境における製品・サービ スの設計・開発はどうすべきか?を根本から 問い直す必要がある。 • 想定される切り口の一つはデザイン思考の考 え方をより新しい環境に適合させて進化させる ことかもしれない。 • そうすることで、適切な「問題発見」の可能性 を具体化させられるかもしれない。