どうすればサービス・パラドックスを克服できるか?

739 Views

January 13, 21

スライド概要

「サービス化」は現代主流のトレンドである。「製造業のサービス化」も話題になった。しかし、実はあまり上手く行っていないのではないか?そんな気もしていた。皆が「サービス化」に血道を上げれば(顧客にとっては良いかもしれないが)ビジネスとしては上手く行かない懸念も高まる。「サービス・パラドックス」という言葉も存在する。
そこで、本稿は「サービス・パラドックス」を生む背景は何か?とか、これを克服するにはどのような手段が有り得るか?などについてまとめる。問題が難しいので決定打はなかなか見つからないが、強いて言えばこのような対応策がありうるということを示す。

profile-image

定年まで35年間あるIT企業に勤めていました。その後、大学教員を5年。定年になって、非常勤講師を少々と、ある標準化機関の顧問。そこも定年になって数年前にB-frontier研究所を立ち上げました。この名前で、IT関係の英語論文(経営学的視点のもの)をダウンロードし、その紹介と自分で考えた内容を取り交ぜて情報公開しています。幾つかの学会で学会発表なども。昔、ITバブル崩壊の直前、ダイヤモンド社からIT革命本「デジタル融合市場」を出版したこともあります。こんな経験が今に続く情報発信の原点です。

シェア

またはPlayer版

埋め込む »CMSなどでJSが使えない場合

関連スライド

各ページのテキスト
1.

どうすればサービス・パラドックス を克服できるか? B-frontier研究所 高橋 浩

2.

背景:最近の製造企業のトレンド 工業製品の独 占的提供から 製品とサービス の組み合わせ提 供へ 何故そうしなければならないか 大量生産による 「規模の経済」活 用から 「不均一な顧客 ニーズ」に対応する 製品の提供へ 市場環境が変化したから:サービス化 2

3.

ところが・・ • 各顧客の専門的サービスニーズに対応しよう とすると、 – 開発・提供のコストが上昇 – 高度サービス提供のための組織が複雑化 多くの場合・・ • サービスからの収益の増加が結果として全 体利益の減少を招来する! サービス・パラドックス 3

4.

何故、混沌とするのか? データ収集が容易化 顧客ニーズが顕在化 顧客ニーズ対応の サービス化が必然 • デジタル化の進展など で実現手段が登場 • プラットフォーム化、エコシ ステム、デジタルアーキテ クチャ、ビッグデータ、IoT など使いこなすべき手法も 手段も登場 • しかし、成果達成に向けたプロセスは不確実な まま 4

5.

このサービス・パラドックス問題 に挑戦するため以下のプロセスで検討 目次 1. 何故視界は不良なのか? どこに着手の切り口があるか? 2. プラットフォームアプローチによる取 組み 何が取得できるか? 3. サービスイノベーションのためのエコ システム管理 どのような能力が有効か? 5

6.

1. 何故視界は不良なのか? 何故、視界不良になるのか? 考えられる主な理由・・ • IT業界やIT導入産業においてはプラットフォー ム登場が一般的に、・・その結果 – プラットフォーム階層の下位層のイノベーショ ンなどでは影響範囲が広く価値創造の状況が 把握できない。 – 補完者によるエコシステムが様々な利害関係 者に依存し、価値創造の構造が単純でない。 – また、相互依存関係が「鶏が先か卵が先か」 の問題を引き起こす可能性が高く、不透明に なりやすい。 6

7.

パターン1(P1):キーストーン(エコシステム チャンピオン)の存在を仮定できる場合 • ユーザーニーズが比較的よく知られている 場合には可能性がある。 • 例:AppleのiPod+iTuneによる音楽エコシステ ム – キーストーンはApple – レコードレーベルは音楽エコシステムのビジョン を理解しAppleとビジョンを共有できた。 – 類似例:Google,Intel/Microsoft、など 7

8.

しかし、・・ パターン2(P2):多くの製造企業では・・ • このようなビジョンが描けないことが多い。 • デジタルインフラストラクチャの下位層にデジ タル新技術が導入されたような場合 – 例:IoT由来のアプリ実現のため近距離無線通信 用半導体チップ標準が登場 • 誰がキーストーンかが不明確 • 仮にキーストーン候補者が居ても皆を納得させられる ビジョンを提示できない。 影響範囲が広すぎてビジョン/価値創造の状況が描けない。 8

9.

両形態間の相違 • P1:誰がキーストーン、補完者、またはサプラ イヤーかがあらかじめ認識されている。 – 主にB2C市場に多い。 • P2:多くの場合下記のようである。 – どの企業も価値提案を事前に指定するのが難し い。 – アイデアがあっても実際の実現法が不明確であ る。 – 市場で受け入れられるまでの経路が非線形プロ セスを辿る。 9

10.

P2パターン時の着手の切り口(例) • エコシステムの補完者を巻き込んだ価値創造 のダイナミズムへの挑戦 • それぞれの事例毎に固有の紆余曲折がある のは当然との認識 • 変化をつかさどるコントロールポイントの存在 有無なども考慮した実行 10

11.

事例1:A社(IT業界) • 例:波長データ多重化装置(WDM)関連 – 光ファイバーネットワーク利用の代替として翡翠 利用の独自技術製品を開発 – それをデジタルインフラストラクチャ(下位層)に導 入 – しかし、上位アプリケーションとの適合が上手く行 かず – これがネックになりコアビジネスにできず – 他社にライセンス供与の方針へ転換 – その結果、大手通信会社をエコシステムのパート ナーにすることに成功 – やっと日の目をみた。 11

12.

事例2:B社(通信業界) • 例:携帯電話が多数のセンサー、アクセサリー、 特殊デバイスへのハブとなるとのビジョンを構想 – 真のゲートウェイと成るための新技術を開発 – しかし、出現したユースケースは想定していたものと は相違していた。 – そこで、小型デバイス企業を招集しライセンス供与。 独自エコシステムの構築を企画 – ところが、勢いが伴わず – 結局、支配的企業が支持する既存コンソーシアムに 統合を決断 – その結果、やっとIoTアプリケーションのイネーブラー の一つに到達した。 12

13.

コントロールポイントの例 • 顧客アクセス・ビヘービア • ネットワーイング能力 • ブランド、なども • これら無形のコントロールポイントも 活用して、ダイナミックに新たなプロ セスを導出することが必要 13

14.

どこに着手の切り口があるか? 多様なダイナミズムを認識して対処すべき • エコシステムの創造に必然的に発生するそ れぞれ固有の不確実性を受け入れる。 • エコシステム形成を意図する場合、動的制御 を通じて影響を与えることを目指す。 • 環境変化に呼応して繰り返し変革案を構想し 提示する行動計画を実行する。 14

15.

2.プラットフォームアプローチによる取組みの例 プラットフォームアプローチとは? 製品を モジュール化 生産効率/運用効 率の向上とカスタマ イズの両立を目指 す • モジュールアーキテクチャの元で各モジュー ルを簡単に着脱交換することで幅広いポート フォリオの実現を目指す。 15

16.

但し、懸念事項も ・サービスの無 形性の性質 ・製品とサービス のモジュール化 によるハイブリッ ドアーキテクチャ 複雑性が増し、 高コストをもたら す可能性も 16

17.

その背景 • 顧客は製造企業に製品とサービスの完全連続 性を要求 – 多くの製造企業がサービスプロバイダーへ – 結果、サービスプロバイダーが乱立化 • 顧客は特定ニーズに適合した高度サービスを要 求 – サービス化プロセスが多様化し複雑化 17

18.

この課題解決への挑戦 • 明確な戦略と競争力のある価格に適応した 製品・サービスの効率的メカニズムが必要 • デジタル化機能を効率的メカニズム提供の主 要促進要因にすべき – プラットフォームは高度サービスを効率的に開 発・提供できるインフラストラクチャ – 製品プラットフォームのコアは一連の物理コン ポーネントで構成されるモジュール構造 サービスも幾つかのサービスモジュールに分解 18

19.

モジュール分解の一例 製品モジュール サービスモジュール デジタル化機能 情報モジュール 高度なサービス実装へ挑戦 19

20.

サービス化の2ユニットへのマッピング 全体を制御する プラットフォーム・オーケストレーターの役割を担う バックエンドユニット 開発 構成 配達 顧 客 フロントエンドユニット ソリューション・ビルダーの役割を担う 20

21.

マッピング案の解説 • 製品・サービスを提供する製造企業の構造と 価値創造活動を再定義する。 • 情報モジュールをコアとして製品のモジュー ル化とサービスのモジュール化を再検討し、 その上で全体を再統合する。 • 情報モジュールをコアに位置づけ、製品と サービスの組み合わせの最適化を目指す。 21

22.

事例3:MaaSへの適応 MaaSサービス実現には多くの課題が存在する 顧客 サービスプロバイダーの統合化 MaaS プロバイ ダー 輸送プロ バイダー MaaSプラットフォーム データプロ バイダー • MaaSプラットフォームは顧客へ のインターフェース一本化が価 値創造の源泉 • しかし、MaaSプロバイダーが どれだけ統合できるかで価値 が変動し不確実性が存在 • 公共交通などは基本インフ ラ活用が前提でバランス確保 が必須の課題 22

23.

MaaSへの適応(案)の解説 • MaaSプロバイダー、輸送プロバイダー、データ プロバイダー、更に各種サービスプロバイダーの 役割を再定義する。 • 全体をバックエンドユニット部分(実現の仕組 み:電車、車、自転車、なども)とフロントエン ドユニット部分(サービス提供の仕組み: MaaS固有の多様なサービスの提供)に分解 する。 • その方針の元でモジュール構造を再構想する。 • 全体を再統合する。 23

24.

何が取得できるか? • 適切な情報モジュールの設計と、 • それを製品モジュール、サービスモジュール に統合し、 • 情報モジュールをシステムのコアと位置付け た最適実施と運用により、 • 生産/運用効率の向上の達成と多様なサービ ス提供の両立を目指す。 • 環境変化に対応したダイナミックな調整に よって順次目標に接近する。 24

25.

3.サービスイノベーションのためのエコシステム管理 サービスイノベーションのための エコシステム管理とは・・ 予測不可能で 標準化されてい ないプロセスに ダイナミックに対 応 非常に協力的で 競争力のあるエ コシステム管理 が有効に ダイナミックケイパビリティ的機能 企業は組織境界を越えて活動を 調整するために努力がより必要に 25

26.

ダイナミックケーパビリティとは? • 「急速に変化する環境に対応するために、内部 および外部の能力を統合、構築、再構成する ための企業の能力」 – ダイナミックケーパビリティには、製品とサービス の全ての機能にまたがるさまざまな管理機能が 含まれる。 – ダイナミックケーパビリティは、イノベーションを通 じて変化に適応する企業の可能性を促進させる 重要な役割を担う。 26

27.

狙いとするダイナミックケーパビリティ ダイナミックケーパビリティのカテゴリー分けの例 • 検知:機会と脅威を感知して形成する能 力 • 捕捉:それらの機会をつかみ取る能力 • 再構成:無形および有形のリソースを強 化・再構成することで競争力を維持する 能力 27

28.

検知能力とは? • テクノロジーと市場を継続的にスキャン、フィ ルタリング、および調査することで機会の特 定と調整を行う。 – 外部の技術情報、市場情報、競争情報を感知し 収集する機能 • ネットワーク内外の協力パートナーの特定、選択、獲 得が必要である。 – 規制、法律、および制度の理解に関する機会を 感知する機能 • 焦点企業は企業自身のイノベーションに関係するさま ざまな利害関係者の影響を分析する必要がある。 28

29.

エコシステム関連の検知機能 1. さまざまなエコシステムパートナーの多様な セットのためのオープンマインドセットを作成 する。 2. 異なるパートナーとの機会をより詳しく評価 する。 3. 遠方の市場や技術を的確にスクリーニング する。 4. 機関、規制当局、インフルエンサーなどから の情報を詳細に収集する。 29

30.

捕捉能力とは? • 企業は外部とのネットワーク化を促進し、外部関 係者との関係性を維持する必要がある。 – 1)パートナー間の協力に必要な法的規制 – 2)協力の時間的範囲がイノベーション活動に適切か どうか – 3)関係管理を形式化する必要があるかどうか、など • 補完者と補完的資産がサービスイノベーション に影響を与え、より大きなソリューションの要素 になることが多いので、独自イノベーションを開 発する必要がある。 – 企業はさまざまなエコシステムアクターを意思決定プ ロセスに統合する必要がある。 30

31.

エコシステム関連の捕捉機能 1. オープンイノベーションのための管理能力を 育成し強化する。 2. 意思決定プロセスに関わるエコシステム内 のアクターを統合する。 3. エコシステム内における重要な位置を特定 し、その維持確保を追求する。 4. エコシステム内のボトルネックを適切に制御 する。 31

32.

再構成能力とは? • 機会の特定と調整は企業の成長につながる 可能性があり、パスの依存関係にもつながる。 • 収益性の高い成長を維持するには、企業は 「特定の有形および無形資産の継続的な調整 と再調整」を確保する必要がある。 • 企業はまた、焦点となる企業とエコシステム関 係者との戦略的適合を継続的に再調整する 必要がある。 32

33.

エコシステム関連の再構成機能 1. サービスシステムのオーケストレーションを 実施する。 2. エコシステムを継続的に再編成する。 3. エコシステム強化・維持に役立つガバナンス 構造を確立する。 4. エコシステム関連の関係性を適切に管理す る。 33

34.

今後の電気自動車(EV)エコシステム、5 Gエコシステムなどへの挑戦に向けて 検知 本質的相互作用の探索 捕捉 新たな課題のクローズアップ 再構成 エコシステム戦略の構築 社会的・文化的トレンドも踏まえて 34

35.

事例4:Car2Go(ダイムラーのカーシェアリング) 乗り捨てできるカーシェアリング! 35

36.

本製品・サービスシステムの解説 • ダイムラーは、サービスの提供に使用された製 品を変更する必要があった。 • テレマティクスソリューションを車両に組み込む 必要があった。 • カーシェアリングソリューションを効果的に運用 する機能をすでに備えているエコシステム補完 者と提携する必要があった。 – 例えば、顧客の需要に合わせて定期的に車両を移 動し、車両の整備、給油、清掃を行う大手との連携 • そのため、多くの主要都市で事業を展開してい る大手レンタカー会社Europcarとの合弁会社を 設立した。 36

37.

Car2Goのエコシステム関連機能例 • エコシステム全体を開発および調整するため のより広いエコシステムの視点が必要であっ た。 • これには、機関、コミュニティ、規制当局との 非直接的な付加価値関係が含まれた。 • サービスを正常に展開するために、車両の特 定の駐車規則を地方自治体と合意する必要 があった。 • 特定の都市では、Car2Goメンバーは、地方自 治体が所有する有料の駐車スペースに無料 で車両を駐車できた。 37

38.

どのような能力が有効か? • エコシステム管理に特化した検知・捕捉・再 構成の各種能力が有効に • これらの能力によって予測不可能な事態に 対しても一定の対応が可能に 38

39.

4.新たな可能性に向けて 新たな取組みを目指す企業の指針(1) 1. エコシステムの青写真が結晶化する前に望 ましくない未来を回避するための行動を開始 する。 2. エコシステムの創造に固有の不確実性があ ることを受け入れることで「システムをエコシ ステムに戻す」。 3. コントロールポイントを初期段階のシステム にインストールし、最終的価値獲得を確実に するために、価値創造を発見するプロセスを 戦略的にナビゲートする。 39

40.

新たな取組みを目指す企業の指針(2) 1. 製品コンポーネント中心の従来の役割分担 の一部を情報モジュールで代替する。 2. 情報モジュールによって収益を獲得し、同時 にサービス提供に関するコスト削減の機会 にする。 3. プラットフォームアーキテクチャの中核に情 報モジュールを据えることで、顧客ニーズと 製品の消費形態分析に基づく新製品と新 サービスモジュールの再構成を行う。 4. これらの手法によって、サービス・パラドック スの克服に挑戦する。 40

41.

新たな取組みを目指す企業の指針(3) 1. 革新的サービスの開発と提供に関連する外部 エコシステムアクターを感知、特定する。 2. 直接的でない付加価値の利害関係者(例:地方 自治体、ユーザーコミュニティ、など)も考慮した 広い見方をする。 3. 意思決定プロセスに間接的エコシステム補完者 も関与させ共進的な開発プロセスを取る。 4. サービス提供過程に沿って、エコシステム全体 を継続的に再評価・再構成する。 5. 組織全体でオープンな考え方を促進することに より能力を構築・維持する。 41

42.

事例5:日本瓦斯(ニチガス) • これまでの国の規制をシス テム的監視や暗号化で担 保する。 • お金、データの通り道や業 務フローから“摩擦”をなく す。(ブロックチェーンやクラ ウドの活用で) • 人間が汗をかいていた時代 から電子を走らせる時代へ のシフトを実現する。 • 他とも連携するため、標準 化とオープン指向を採用す る。 https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00896/080500003/ 42

43.

新たなエコシステムの管理 • ビジネスモデルをサービスエコシステムに向けて 変革するためには、さまざまな手段が利用でき る。 • これには、予知/保守パッケージ、データ駆動型 サービス、機能サービスの開発における、直接 的付加価値と非直接的付加価値の利害関係者 の統合が含まれる。 • 企業は、直接的付加価値のない貢献をしている アクター(機関、インフルエンサー、規制当局な ど)を含め、エコシステムを調整できる重要な位 置を追求する能力を確保する必要がある。 43

44.

暫定まとめ サービス・パラドックスの克服に向けて ① エコシステムの不確実性を是とし、この状態 に対応する能力を獲得する。 ② 情報モジュールを中核に据えたシステム構 成の最大活用を構想する。 ③ エコシステムのスコープを間接的利害関係 者まで含めた広い視野で捉え、従来の想 定を超えた活用を企画する。 44

45.

関連Slideshare 画像をキックすると当該slideshareにジャンプ 2章 1章 3章 コントロールポイント (2重らせんモデルも) MaaSの各種サービス 例と課題 間接的利害関係者ま で含めたエコシステム 45