プラットフォームエコシステム理論の新潮流(改)

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June 10, 21

スライド概要

GAFAに代表されるデジタルプラットフォーム企業がますますデジタル経済の中核に躍り出ています。この中で殆ど売上げを広告費に依存しているGoogleとFacebookは、有る意味、より純粋なプラットフォーム企業と言えるかもしれません。そこで、Facebookを例に取り上げて、何故、わずか10年強で数百万人のユーザー規模から27億人のユーザー規模にまで飛躍的に拡大したのかの分析に挑戦してみます。これは単に経済学ベースの既存のプラットフォーム理論だけでは説明しきれないと考えます。そこで、プラットフォーム構造の変化を3つの境界の変化に分類することで、その実態を分析します。また、現在、GAFA等は前例のない規模にまで拡大しました。その結果、新たな問題も発生しています。そこで、後半では若干それらについても敷衍してみます。

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定年まで35年間あるIT企業に勤めていました。その後、大学教員を5年。定年になって、非常勤講師を少々と、ある標準化機関の顧問。そこも定年になって数年前にB-frontier研究所を立ち上げました。この名前で、IT関係の英語論文(経営学的視点のもの)をダウンロードし、その紹介と自分で考えた内容を取り交ぜて情報公開しています。幾つかの学会で学会発表なども。昔、ITバブル崩壊の直前、ダイヤモンド社からIT革命本「デジタル融合市場」を出版したこともあります。こんな経験が今に続く情報発信の原点です。

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各ページのテキスト
1.

プラットフォームエコシステム 理論の新潮流(改) - プラットフォーム境界変動によるFacebook他の 変革の先にあるもの B-frontier研究所 高橋 浩

2.

問題意識 • プラットフォーム企業の成長が一層活発化 • 特に、GAFA等はプラットフォーム以外の仕組 みの既存競争企業を一段と引き離している (2009年から2019年にプラットフォーム企業7社の 合計時価総額は4兆ドル以上増加した)。 • この変化の分析に、既存プラットフォーム理 論は有用だろうか? • 現実に競争力を高め成長しているプラット フォーム企業の行動の説明はどうすれば可 能だろうか?

3.

目次 1. はじめに 2. 活性化するプラットフォーム企業の 成長の仕組み 3. その仕組みを分解 4. プラットフォーム戦略の提案 5. これからのデジタル化世界

4.

1.はじめに はじめに • 近年、Google, Amazon, Facebook, Appleなどのデジタルプラットフォーム企業、 および、Uber, Airbnbなどのデジタルプラッ トフォーム新興企業の活躍が目立っている。 世界の時価総額ランキング 1位~6位(2021年5月現在) 順位 企業名 時価総額(ドル) 業種 国 GAFA 1 アップル 2兆0793憶ドル IT・通信 アメリカ 2 マイクロソフト 1兆8811憶ドル IT・通信 アメリカ 3 サウジアラコム 1兆8789憶ドル エネルギー サウジアラビア 4 アマゾン 1兆6244憶ドル サービス アメリカ GAFA 5 アルファベット (グーグル) 1兆5817憶ドル IT・通信 アメリカ GAFA 6 フェイスブック 9339憶ドル サービス アメリカ GAFA

5.

プラットフォーム企業のパフォーマンス • 「これらのプラットフォーム企業は、プラット フォーム以外の仕組みの競争企業と同じレベ ルの年間収益(約45億ドル)を生み出した が、従業員数は半分を使用しているのみで あった。また、営業利益は2倍になり、市場価 値と成長率ははるかに高くなった」 ・・・Cusumano et al. 2020

6.

世界の研究開発への投資額のトップ15企業 研究開発投資額でもGAFAは高い位置を占めている GAFA 1.Amazon 2.Google 7.Apple 14.Facebook 単位:10億ドル Source: PwC 2018 Global Innovation 1000 study

7.

これらの企業のプラットフォーム構造は 変動していた • これらの企業のプラットフォーム構造は一見 固定したものとして捉えられがちだが、・・・ • 実際には、初期段階か成熟段階に達した か、・・・などの時間的経過に伴う変化や、 • サービスの拡大、買収案件の統合などに伴う 変更、などで、・・結構変動していた。 • しかし、プラットフォームの何が変わり、その 要因は何なのか、などは今まで明確にされて こなかった。

8.

プラットフォーム構造の変動を下記の枠組みで考える 3つの境界:企業のスコープ、サイド構成、インタフェース

9.

実際の変動をFacebookで見る[1] 2004年ー2019年の15年間 SNSと して開始 開発者 サイドを 追加 広告主 サイドを 追加 2014年 Instagram 買収 WhatsApp 買収 • • Facebook 広告主サイド 2019年 2012年 2007年 2004年 • Facebookの Instagramとの 統合 Instagram広告 サイドの追加 APIの開発と進化 (徐々にオープン化) Facebook Facebookと WhatsAppとの データ交換を 制限(隔離) • • WhatsApp, Instagram, FB Messenger間の インタフェースを再 調整⇒3者統合 化へ Facebook広告 主とInstagram 広告主の統合 2018年3月 ケンブリッジ・アナリティカ (CA)事件 * Facebook 開発者サイド *: 開発者のユーザーデータへのア クセスを制限した(CA事件) • 開発者とのインタ フェースを再調整

10.

Facebookの変動のまとめ [2] サイド ② の拡大 ① Instagram 広告主サイ ド スコープ の拡大 ② Instagram ユーザーサイ ド Facebook 広告主サ イド ③ サイド の拡大 Facebook ユーザーサイ ド インタフェース の変更 ③ インタフェース の変更 Facebookは最終的に Instagramインターフェースを 独自のものと統合し、それに よってサイドを拡大した。 Facebook 開発者 サイド ケンブリッジアナリティカ事件 の後、Facebookは開発者の ユーザーデータへのアクセス を制限した。 トランザクション プラットフォーム イノベーション プラットフォーム ハイブリット プラットフォーム

11.

前頁図右側の補足説明としてのプラットフォームの 3基本タイプ(2.で解説) • トランザクションプラットフォーム – 情報、商品、サービスの交換 – 例:Amazon Market place, Airbnb, Uber • イノベーションプラットフォーム – 3rdパーティー企業が補完サービスや製品を追加 – 例:Google Android, Apple iPhone, AWS • ハイブリッドプラットフォーム – 上記の組合せ(組合せで新たな価値創造) – Facebookは2基本タイプのハイブリッド型を強 化していた(前頁図) [3]

12.

Facebookでは何が変動していたのか[4] 3つの境界における変動 ① • プラットフォーム企業のスコープ – Instagramの追加、WhatsAppの追加 ② • プラットフォーム企業のサイド構成 – 広告主サイド、開発者サイドの追加 – Instagramユーザーサイド、広告主サイドの追加 ③ • デジタルインタフェースの追加・変更 – 開発者サイドとのインタフェース(APIの追加/変 更)追加 – Instagramとのインタフェース追加 – WhatsApp, Instagram, FB Messenger間インタ フェースの調整・統合

13.

Facebook発展の経緯[5] • 初歩的なソーシャルネットワークサービスから出 発した。 • 早期に価値を拡大する広告主サイドと開発者サ イドを追加した。 • 初期段階を終えた頃、トランザクションを拡大す るためにInstagram、WhatsAppなどを買収し、企 業のスコープを拡大した。 – ライバル企業を買収して自らを守る側面も – また、ケンブリッジ・アナリティカ事件を契機に全体を 再調整 • その結果、Facebookは(ユーザー追加の限界費用が極めて 低いかほぼゼロであることもあり)10年強で数百万人の ユーザー規模から27億人のユーザー規模にまで 飛躍的に拡大した。

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ダイナミックな・・ プラットフォーム戦略分析の必要性 • 従来のプラットフォーム理論(特に経済学 ベースの理論)はサイド構成を固守した静的 な分析が多かった。 • しかし、プラットフォーム企業はダイナミックに プラットフォーム構造を変動させていた。 • そこで、実践的プラットフォーム戦略の構築に は3つの境界に着目したプラットフォーム構造 の変化の分析が重要である。

15.

2.活性化するプラットフォーム企業の成長の仕組み 全てのプラットフォームが同じではない トランザクションプラットフォーム • サイド間のデータ交換またはトランザクション を容易化することに注力する。 • サイドメンバーは主に既存の商品やサービス を交換するためにプラットフォームを利用する。 • 次のようなサイド構成が特徴: – 【買い手と売り手】【貸し手と借り手】【サービス・プ ロバイダーとサービス・ユーザー】【デジタルコン テンツの生成者と聴取者】【ソーシャルネットワーク 上での情報提供者と読者】【デジタル広告主と ユーザー】など Facebookの場合[6]

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イノベーションプラットフォーム • プラットフォーム上でイノベーションを促進す ることで価値を生み出す。 • サイドメンバーはプラットフォームを補完する 新しい商品やサービスでイノベーションを引き 起こす。 • 次のような構造が特徴: – 一方のメンバー(プラットフォーム)は新しい補完的イ ノベーションを開発できる様に誘導するための基盤と して機能 – 他方のメンバー(サイドメンバー:補完者)は常に補完 的イノベーションの開発者として機能

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基本的なプラットフォームの3タイプを図示 トランザクション トランザクションプラットフォーム イノベーションプラットフォーム イノベーション このプラットフォームは、ネット ワーク効果の影響を受けて、 直接交換またはトランザクショ ンの仲介者として機能する。 このプラットフォームは、他の企 業が補完的なイノベーションを 開発するための技術的基盤と して機能する。 ハイブリッドプラットフォーム ハイブリッド 企業群 Source: Cusumano, M. A., A. Gawer, D. B. Yoffie (2019). The Business of Platforms (p. 18). HarperCollins.

18.

トランザクションプラットフォームとイノベーションプラットフォームを融合させた・・ 代表的ハイブリッド企業群を抽出 トランザクションプラットフォーム イノベーションプラットフォーム Apple AppStore Apple iOS Google Play Google Android Google Windows Store Microsoft Azure Microsoft SalesForce AppExchange Force.com Steam(Valve) Steam Facebook social network Instagram Facebook for Developers WeChat WeChat Tencent Amazon Marketplace Amazon AWS Amazon プラットフォーム企 : トランザクションプラットフォーム ×(融合) 業成長の仕組み イノベーションプラットフォーム ハイブリッド企業 Apple SalesForce Valve ⇒ Facebook ハイブリッド企業

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急拡大するプラットフォーム企業の成長の仕組み (中間まとめ) 1. 初期段階のプラットフォームはトランザクション プラットフォームかイノベーションプラットフォー ムかのいずれか 2. トランザクションプラットフォームは初期にはネッ トワーク効果を最大限活用してプラットフォーム 立上げに注力! 3. イノベーションプラットフォームは初期にはプ ラットフォーム技術基盤を活用する補完者の糾 合に注力! 4. 成熟段階に近づくに連れて、両プラットフォーム の特性を融合させて、収益獲得に転換へ

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3.その仕組みを分解 プラットフォーム企業成長の仕組みを 次の図式で分解する 2つの評価軸 3つの境界 企業のスコープ サイド構成 × トランザクションプラットフォーム かイノベーションプラトフォームか 初期立上げ期か成熟期か インタフェース

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企業のスコープ • 初期立上げ期:デジタル化により所有権のな い資産管理、雇用のない労働者管理が可能 になる。 – 例:スマホや車、エンジンに埋め込まれたセン サー群でドライバーの動きが追跡・監視可能に • 成熟期:デジタル化により接続された市場全 体で相乗効果の活用が容易になる。 – 以前には観察できなかった行動が可視化可能に ⇒所有権の必要性が減少⇒不確実性が低下し 新たな契約が可能に

22.

企業のスコープ(続) • 方向性1:データの収集、集約、分析に重点 を置き、物理的リソースへの投資を行わない。 – 例:新しいアセットライト(資産保有が少ない/な い)新興企業(Uber, Airbnb等)が登場 • 方向性2:様々なセクターからデータを収集 し集約できる企業は新たな市場への参入が 容易になる。 – 例:データ分析により革新的ターゲット市場への 参入やターゲット企業の買収など(Amazon等)

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サイド構成 • プラットフォーム企業はプラットフォームに関 連付けることを目的に、①サイド構成(サイド の数)や、②その構成員(誰を参加させるか) を戦略的に決定できる。(事例は下記) – Freelance.com(代表的デジタルフリーランス作業 プラットフォーム):全世界で2400万人の雇用者と フリーランス契約。入会に特に制限はない。 – Upwork(同分野のライバル企業):一定の手段を 使用して意図的に一定の登録制限を課している。

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インタフェース • イノベーションプラットフォーム向け: – プラットフォーム企業は補完的イノベーション創発 を刺激するために、インターフェースをオープン化 (特に初期において) • 両プラットフォーム向け: – プラットフォーム企業がプラットフォームを過度に 制御すると、3rdパーティ開発者を追い出すリス クがあり、プラットフォームの活性化は低下 – 他方、プラットフォーム企業がプラットフォームを 過度にオープンにするか制御しないと、プラット フォームは断片化され、開発者とユーザー双方 にとって有用性は低下

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インタフェース(続) • APIやそれと連動するSDKが重要なインタフェー ス • サービス拡充を目指す際、APIを拡充してオープ ン化することは、プラットフォームと開発者間、プ ラットフォームとアプリユーザー間のデータ交換 を容易化 • 補完的イノベーションを生み出しながら、プラット フォームの進化に対する制御も維持するバラン ス確保が重要 • 但し、成熟期には収益確保のため意図的にイン タフェースを制限あるいはクローズすることも

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プラットフォームライフサイクルの2つ のフェーズ(初期立上げ期と成熟期) • 初期立上げ期: – 初期のプラットフォームは競争に対して脆弱。プ ラットフォームはまずネットワーク効果の競争に 勝たねばならない。 • プラットフォームが市場を転換するのはその先 – 必須事項はネットワーク効果を通じて如何に規模 を達成するか • 成熟期: – 市場が一転すると、ライバルや新規参入者に対 して参入障壁を構築、または維持しながら、利益 獲得を行うことが重要になる。

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デジタルプラットフォームの境界の決定(まとめ) プラットフォームタイプ トランザクションプラットフォーム ライフサイクル・フェーズ 提案2 提案1 初期 立上げ期 提案3 成熟期 イノベーションプラットフォーム 狭い 広げる サイドは資産保有者とユー ザー/または労働者 に設定 サイドは補完的イノベーター のために設定(片側) トランザクションの増加と監 視のためにオープンにする サードパーティのイノベー ションを増やすためにオープ ンにする 非対称のデータ活用や買収を することで拡大する 提案4 補完者の機能吸収や買収を することで拡大する 新しいサイドを追加してハイブ リッドにし、サイドに参加できる 人をより選択的にする 新しいサイドを追加してハイブ リッドにし、サイドに参加できる 人をより選択的にする ライバルがデータにアクセスする のを防ぐために、再調整または クローズにする ライバルがデータにアクセスす るのを防ぐために、再調整また はクローズにする

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4.プラットフォーム戦略の提案 トランザクションプラットフォーム・初期の場合 • プラットフォーム企業は資産所有や労働者雇 用の代わりにサイドを利用し、意図的に企業 のスコープを狭める傾向がある。 • その際、サイドメンバーの行動を監視できる ようにする。 – Upworkは登録したフリーランス労働者にインス トールを勧めるツールによって、労働者がタスク に従事する時間などを監視している。

29.

トランザクションプラットフォーム・初期への 提案(提案1) 1. コストを最小限に抑えるため、企業のスコー プを狭める。 2. 資産所有の代わりに、サイド構成やサイドメ ンバーの資格などを調整する。 3. インタフェースを通じてサイドメンバーや資産 を監視し、サイド間の取引機会を特定できる ようにする。 4. これらの選択の最適化をネットワーク効果の 拡大に役立たせる。

30.

Facebookの場合[7] • 「ソーシャルネットワークがGoogle検索と同じ ように収益化できるかどうかは分からなかっ た」 • 「しかし、3年後には最適モデルが何であるか は理解する必要があった」 • 「それまで、焦点は収益ではなく成長である」 ・・・・2008年ザッカーバーグへのインタビュー記事から • その後、FacebookはMySpace、Friendster、 GeoCitiesなどの以前のライバルに打ち勝ち、 • 2009年には最初の利益を獲得した。

31.

イノベーションプラットフォーム・初期の場合 • イノベーションプラットフォーム企業を目指す 企業は3rdパーティ(補完者)が補完的イノ ベーションを開発する技術基盤を社内で生み 出す傾向がある。 • この基盤構築には通常多額の投資、資産所 有権、労働者の雇用が必要で、企業の活動 スコープは広い。 • また、一連の魅力的補完品を自ら作りリリー スすることもある。 – 任天堂は1995年ファミコンを発売した際、マリオ ブラザーズをリリースした。

32.

イノベーションプラットフォーム・初期への 提案(提案2) 1. 基盤技術を構築して、その上に補完品を開発し てもらうため、必要な資産の所有権を通じて企 業のスコープを広げる。 2. サイドの1つを補完的イノベーションの開発者で 構成する。 3. インターフェースをオープンにし補完者がプラッ トフォームの技術とデータにアクセスできるよう にして、補完的イノベーション開発を刺激する。 4. これらの選択を最適化することで、様々な側面 でのネットワーク効果の拡大に役立たせる。

33.

トランザクションプラットフォーム・成熟期の場合 • 収益性を追求し始めると、一部のサイドメンバー と競争し、事実上サイドに侵入することがある。 – その際、買収を通じて企業スコープを拡大することが できる。 • スコープを拡大すると、プラットフォームの再調 整やインタフェースの制限(あるいはクローズ)も 発生しうる。 – トランザクションプラットフォーム企業がイノベーション サイドを追加することもある(例:Facebookの開発者サ イド追加)。[8] – その理由は、アプリや機能を増やして、トランザクショ ンプラットフォームがユーザーにより魅力的な経験を 提供できるようにするためである。

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トランザクションプラットフォーム・成熟期への 提案(提案3) 1. サイドメンバーから取得した非対称なデータ を活用して新しい市場に参入あるいは買収 などで、企業のスコープを拡大する。 2. 新しいサイドを追加してハイブリッドにし、サ イドに参加できるメンバーをより選択的にす る。 3. ライバルがデータまたはユーザーネットワー クにアクセスするのを防ぐため、インターフェ イスを再調整またはクローズにする。 4. これらの選択を最適化することで、利益を生 み出しながら競争をかわすのに役立たせる。

35.

Facebookの場合[9] • 成熟期に入るとライバ ルとの競争がより激しく なる。 • FacebookはInstagramと WhatsAppを買収して企 業のスコープを拡大さ せた。 • これは、スコープ拡大 の意図だけでなく、新し い競争から身を守る面 も強かった。

36.

イノベーションプラットフォーム・成熟期の場合 • イノベーションプラットフォーム企業が補完者 のサイドに侵入し、彼等と競争し始めると、3rd パーティによる補完品イノベーションは低下 する傾向がある。 • また、イノベーションプラットフォーム企業は マーケットプレース(サイド)を追加することで ハイブリッドになることもできる。 – そうすることで、補完物の流通促進や制御をする ことができる。(例:AppleのAppStore)

37.

イノベーションプラットフォーム・成熟期への 提案(提案4) 1. 補完者によって開発された技術的機能を吸 収あるいは買収することで企業のスコープを 拡大する。 2. 新しいサイドを追加してハイブリッドになり、 サイドに参加できるメンバーをより選択的に する。 3. インターフェイスを再調整またはクローズし て、(ライバルか評判を損なうパートナー)補 完者がデータにアクセスできないようにする。 4. これらの選択を最適化することで、利益を生 み出しながら競争をかわすのに役立たせる。

38.

5.これからのデジタル化世界 勝ち残ったハイブリッド企業達 • プラットフォームビジネスは多くの企業が容易に金 儲けできるほどユニークはビジネスではない。 – 競争他社よりも絶えず優れた製品やサービスを提供 し続けなければならない。 – 更にスケーラブルで効率的な運用をし続けなければ ならない。 • 例:Facebookは中国の人口よりも遥かに多い27億人の ユーザーを監督しなければならない。 [10] • その過程で、失敗する要因は数多くあり、GAFA 等の現在は失敗要因を巧みに回避し、適切な処 置をし続けてきた結果ということになる。 • しかし、ここまで巨大化したが故に新たな問題が 発生している。

39.

新たな問題点 1. プラットフォーム企業は前例のない規模に達し た。彼等の活動は社会を効率化させているかも しれないが、寡占化の弊害も出てきている。 • 例:潜在成長率の低下、イノベーションの低下 2. あらゆる分野にデジタルワーカーが登場してき た。彼等は自律的請負人(雇用された労働者で ない)との建前の下に、低賃金で保証のないギ グワーカーに堕してゆく危険性が出ている。 3. データ駆動型社会になった。その中で個人由来 のデータの所有権、プライバシーが大きな問題 になっている。これは、新たな社会における個人 の権利・幸福とも絡み、個人とは何かの問題に 関係している。

40.

問題点1 プラットフォーム企業の他企業買収件数 2008年~2018年のGoogle,Facebook,Amazonの企業買収数 Googleは 168社 Facebookは 71社 [11] Amazonは 60社 買収した。 E. Argentesi et al., 'The Lear report: Ex-post Assessment of Merger Control Decisions in Digital Markets'. Prepared by Lear for the UK Competition and Market Authority. 2019

41.

世界のSNS市場シェアの変遷 • Facebookは安定して64%相当かそれ以上 のシェアを確保し続けている(2019年10月 から2020年10月の結果)。[12] 80% 64% 48% 32% 16% 0% Source: StatCounter Global Stats, 'Social Media Stats Worldwide'.

42.

問題点1:寡占化の弊害の改善 • 主要プラットフォーム企業は現在既に圧倒的 シェアを確保している(Google検索は90%)。 • 加えて、彼等は現ビジネスを補完する多様な 企業を買収し続けている。 • 結果、市場での支配的地位をより高め、革新 的挑戦者の参入をより困難にしている可能性 がある。 • 既に米国司法機関などはその懸念の調査に 入っている。そして、抜本的施策なしにはこの 状況は変えられない段階に達している可能 性がある。

43.

問題点2 デジタル労働力プラットフォームが拡大 デジタル労働力プラットフォームの分類 デジタル労働者 フリーランサー マイクロワーカー クラウドワーカー 住居提供者(ホスト) ドライバー 配達作業従事者 サービス作業者

44.

ILOの提言(抜粋):マイクロワーカー向けを中心に • 労働者が結社の自由と団体交渉権を行使できる ようにする。 • 労働者の居住場所の一般的最低賃金を適用す る。 • 仕事またはプラットフォームに技術的問題が発 生した場合に失われた作業のコストを保証する。 • 不利な評価を受ける理由を労働者に通知する。 • 労働者が、不払いなどの状況に異議を唱える能 力を持てるようにする。 • 労働者評価システムと同じくらい包括的な雇用 主評価システムを確立する。 • など

45.

問題点2:デジタルワーカーの処遇の改善 • 最近まで、プラットフォームでの作業に直接向け られた規制は存在しなかった。 • 地域最低賃金が透明性の根拠として求められて も、世界各地でバラバラである。 • また、英語圏、仏語圏、日本語圏などの違いや、 同じ言語圏でも旧植民地と旧宗主国との関係、 その他の文化的相違は極めて大きい。 • また、価格の決め方も様々である。 – Uber:地域性(米国内など)がある。乗客の運賃は状 況(混雑具合、雨が降った)に応じて動的に決められ る。 – Amazon Mechanical Turk:価格は仕事を発注する雇 用主が決める。一連のプロセスは個別労働者を無視 した自動化が図られている。 • これらの環境を乗り越えた解決策が必要である。

46.

問題点3 デジタル世界での個人の問題 • 既にプラットフォーム企業側には個人に関わる 膨大なデータの蓄積があり、これは益々増えて ゆく。 • そして、プラットフォーム企業の個人データの扱 いは個人のプライバシー問題だけでなく、企業 の参入障壁の構築や個人のイノベーションへの 侵害にも関係している。 • このような中で、企業と個人間には既にデータ由 来の価値創造について企業側に有利な非対称 性が存在している。 • これらを克服した個人の新たな立ち位置の構築 には多大な困難が予想される。

47.

プラットフォームエコシステムの新潮流(暫定まとめ) • デジタル経済においてデジタルプラットフォー ムが果たす役割はますます中核になっている。 • 研究面でも、従来のビジネスモデルの明確化 や成功要因の特定から、プラットフォーム企業 の行動のより完全で動的なモデルの分析が重 要になっている。 • 実際的で適切な方向性を見出していくには、 より個人や行政の立場を加味した検討が重 要になる。 • 今までとは異なる視点から全体を見渡すこと が重要である。

48.

最後に • 仮に米国連邦取引委員会がFacebookの分割 (Instagram切り離し)などを裁定したとしても、ラ イバルが登場し、イノベーション環境が改善され るまでにはかなりの時間がかかる。[13] – その間、ユーザー向けのサービスはさほど変化しな いかもしれない。 • デジタルワーカーの処遇改善やデジタル社会で の個人の問題は、それらとは並行して対処され る必要がある。 • デジタルワーカーの賃金を透明性のある地域最 低賃金に近づける努力はある程度進展するかも しれない。 • しかし、個人の問題は現在あまり具体的取組み の方向性が見えない。今後の行政(例:米国,EU) の動きなども重要になってくるものと思われる。

49.

Facebookの概要(再録) • 設立:2004年(設立後約17年) • 時価総額(2021年5月現在):9339億ドル(約 102兆円)(世界6位) – トヨタ:2322億ドル(約25.4兆円)(世界38位)の約4倍 • 研究開発費:78億ドル(世界14位) – トヨタ:100億ドル(世界11位)の約8割 • 企業買収数(2008年~2018年): Instagram,WhatsApp含め71社 • SNSシェア:世界の64%以上 • Facebookユーザー数:27.4億人(世界)、2600 万人(日本) • Instagramユーザー数:10億人(世界)、3300万 人(日本)

50.

主な参考文献 • Michael A. Cusumano, Annabelle Gawer, and David B. Yoffie, “Platform versus Non-Platform Company Performance: Some Exploratory Data Analysis, 19952015”, working paper, 2018. • Michael A. Cusumano, David B. Yoffie, and Annabelle Gawer, “The Future of Platforms”, MIT Sloan Management Review, 61(3): 46-54, 2020. • Annabelle Gawer, “Digital platforms’ boundaries: The interplay of firm scope, platform sides, and digital interfaces”, Long Range Planning, 2020. • Annabelle Gawer, Nick Srnicek, “Online platforms: Economic and societal effects”, European Parliament, 2021. • Janine Berg, “Digital labour platforms and the future of work: Towards decent work in the online world”, International Labour Organization, 2018.