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May 26, 24
スライド概要
「生成AIとプラットフォーム - 生成AIがプラットフォームに与える影響とは?-」の付属資料
定年まで35年間あるIT企業に勤めていました。その後、大学教員を5年。定年になって、非常勤講師を少々と、ある標準化機関の顧問。そこも定年になって数年前にB-frontier研究所を立ち上げました。この名前で、IT関係の英語論文(経営学的視点のもの)をダウンロードし、その紹介と自分で考えた内容を取り交ぜて情報公開しています。幾つかの学会で学会発表なども。昔、ITバブル崩壊の直前、ダイヤモンド社からIT革命本「デジタル融合市場」を出版したこともあります。こんな経験が今に続く情報発信の原点です。
生成 AI とプラットフォーム - 新たなプラットフォーム理論の構築に向けて - B-frontier 研究所 高橋 浩 要約 生成 AI はコンテンツ作成を民主化する。この影響は極めて大きく、これに起因して新たな ビジネスモデルが生み出される可能性がある。この環境はプラットフォーム理論の定番である 両面市場モデルにも修正を迫る。基本的には、製品、エコシステム、デジタルプラットフォー ムのユーザーベースが新たな関係構築によって新モデルを登場させる姿が想定される。生成 AI はこの関係性を高度に活性化させる起爆剤になる。 キーワード 生成 AI、プラットフォーム、生成性(Generativity)、製品ビューと社会相互作用ビュー 1.はじめに 新たな変化の兆しとして Quibi の失敗を紹介する。ハリウッドで著名な映画 プロデューサー、ジェフリー・カッツェンバーグによって立ち上げられた、ス マホに特化した Netflix 類似の短編ストリームプラットフォーム。サービス開 始前に 17 億 5000 万ドルを調達し、2020 年 4 月にサービス開始したが、わず か 4 ケ月で撤退した。失敗の原因は、1)高価なクリエータや俳優を雇っていた、2)閉鎖的なハ リウッドスタイルの制作システムを強化していた、3)個人クリエータに力を与えるのでなくブ ランドクリエータに賭けていた(Gupta, 2023)、などとされている。結果、コンテンツがスマホ 利用者ニーズに合致せず失敗した。これは両面市場モデルの失敗(あるいは終焉?)と見えな くもない。 ビデオ・プラットフォーム全体を考えてみる。Netflix, TikTok, Youtube などが代表例だが、 TikTok, Youtube はユーザー作成のオープンコンテンツを取り入れている。もし Netflix に TikTok, Youtube 流のオープンコンテンツを取り込んでみると、今度は、1)影響力のあるコン テンツ作成者の維持、2)新しいコンテンツ作成者のモチベーションの向上、3)コンテンツ視聴 者数の維持・拡大などで問題が起きる。要するに“コンテンツ作成の民主化”によってこのよ うな種類の問題が次々に誘発する。Quibi の失敗は生成 AI 時代を占う良い事例を提供している。 このような認識の下に、本稿では次のテーマを考える。 ・事例1:GitHub Copilot によるプログラム開発(生成 AI の影響の一端を深堀り) ・事例2:サービスプラットフォームにおける補完者と生成 AI 間の緊張(Dugga を例に) ・生成 AI 時代のプラットフォームを再考(生成性(Generativity)の理論を基礎に)
図2.“Copilot と人間のプログラム作成能力の比較”実験の結果 2.事例1:GitHub Copilot によるプログラム開発 Copilot は GitHub リポジトリー中の膨大なコードサンプルで事前トレーニングされたプロ グラム自動生成ツールで、プログラム開発者の負担を大幅に軽減してくれる。そこで、中立的 立場から Copilot と人間プログラマーの能力を明らかにする比較研究が行われている(Dakhel, 2023)。評価項目は、正解率、 「バグあり」ソリューションの修復率、修復時間、多様性、複雑 性などで、Copilot 分は自動生成、人間作成分はコンピュータ専攻の学生を動員した。結果を 図 2 に示す。まとめると、Copilot 生成ソリューションは、正解率は人間作成ソリューション より低いが、バグありソリューションの修復可能性は高く、修復に要する時間も短い。生成ソ リューションの多様性は低く、構造はシンプルであった。他方、人間作成ソリューションは、 正解率は Copilot 生成ソリューションより高いが、バグありソリューションの修復可能性は低 く、修復に要する時間は長い。作成ソリューションの多様性は高いが、構造は複雑である、と の結果が出た。 3.事例2:サービスプラットフォームにおける補完者と生成 AI 間の緊張 Fiverr 始め世界中のフリーランスサービスプラットフォームの大半の機能が生成 AI で提供 できるかもしれない状況にある。これでは補完者と生成 AI 間にかなりの緊張が発生する。こ の問題の分析は複雑だが、小規模ではあるが、教師が顧客であり補完者でもある教育プラット フォーム Dugga(スウェーデン、2018 年設立)が、2023 年 5 月に教材や問題作成に生成 AI を利用すると宣言した。このシステムに着目した研究者が Dugga 社(プラットフォーマー) と顧客兼補完者である教員にインタビューした研究が公開されている(Mayer, 2024)。ポイン トは、生成 AI 導入当初、教師から強い抵抗があったが、教師自身が生成 AI でコンテンツ作成 をすることで徐々に変わって行き、最終的には緊張収束のため次のような作業をしたと言う。 ・境界線の変更:生成 AI 使用の正当性確保、生成 AI と教師の信頼関係促進のため、Dugga 由来の製品やサービスを(出版社などと連携し)幅広くサービス普及させる道筋を作った。 ・境界の見直し:生成 AI 優位による過剰な集中を回避するため、独立して機能する、例えば 教師が生成 AI による提案を拒否または回避するオペレーションの提供-が行われた。
図3. 生成 AI によるプラットフォームへの影響の推定図 (著者作成) 4.生成 AI 時代のプラッフォーム 関連情報、事例などを参考に生成 AI によるプラットフォームへの影響を図3に示す。この ような激しい変動はインターネット勃興を契機に唱えられた生成性(Generativity)の理論に類 似性が見られる。最近、この理論の拡張版(Fürstenau, 2023)が登場し、要因を製品ビュー、 社会相互作用ビューの2つで捉えている。そこで、この枠組みと、既存、最近の事例をまとめ て表1に示す。 生成 AI の浸透は従来から着目されていたデジタルプラットフォームの生成力を極端なレベ ルで加速する変化と考えられる。そして、複雑さを増す生成 AI 浸透の時代では、製品ビュー、 社会相互作用ビューは統合して考える必要がある(図4左)。更に、図4右に示すように、動的 な動きを考える必要がある。具体的には、1)変革の主体を2つのビューに対応する製品とエコ システム(社会相互作用)に加えてデジタルプラットのユーザーベースとし、2)これらがプラッ トフォームの内外で境界の拡大(場合によっては縮小)を繰り返すと見做す必要がある。 表1. デジタルプラットフォームにおける生成性についてのビュー
図4. 製品ビューと社会相互作用ビューの統合と生成 AI 登場による生成性の加速 3)そして、3者間の関係は一般にはエコシステム境界拡大が製品境界拡大を促進し補完者間の 相互作用が増えると考えられるが、一定の状況下では安定化(縮小)の場面も想定され、これ らの活動全体が新たなビジネスモデルを生み出す(図4右)。まとめると、 1. デジタルプラットフォーム変革の説明のために開発された Generatibity Theory(生成性の理 論)の拡張版で大筋では生成 AI 浸透のイメージに対応できると考える。 2. 但し、新規補完者の増幅は計り知れず、生成 AI 活用の規模と速度も予想がつかない。早 晩、従来理論の拡張だけでは収まらないと思われる。 3. 結果、ビジネス環境が、従来型プラットフォームの破壊、新規プラットフォームとの共存、 または既存プラットフォームビジネスの凋落に繋がるかどうかは現時点では分からない。 4. 一方で、生成 AI プラットフォームの登場は現プラットフォーム理論で主流のネットワー ク効果重視型よりはエコシステムベースの理論の延長線上にあると思われ、現在の理論を ある程度修正する契機になると考えられる。 5. この延長で新たなビジネスモデル、新たなプラットフォーム理論の構築が期待される。 参 考 文 献 Arghavan Moradi Dakhel et al., (2023) GitHub Copilot AI pair programmer: Asset or Liability? Journal of Systems and Software 203 Daniel Fürstenau et al., (2023) Extended Generativity Theory on Digital Platforms, Information Systems Research Atin Gupta and Geoffrey G. Parker, (2023) How will generative AI disrupt video platforms? Harvard Business Review, Online article, March 13 Anne-Sophie Mayer et al., (2024) The emergence of generative AI platforms: the changing role of complementors in educational practices, ECIS 2024 Proceedings