生成AIとプラットフォーム

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May 26, 24

スライド概要

生成AIはコンテンツ作成を民主化する。この影響は極めて大きく、これに起因して新たなビジネスモデルが生み出される可能性がある。この環境はプラットフォーム理論の定番である両面市場モデルにも修正を迫る。基本的には、製品、エコシステム、デジタルプラットフォームのユーザーベースが新たな関係構築によって新モデルを登場させる姿が想定される。生成AIはこの関係性を高度に活性化させる起爆剤になる。このような認識で“生成AIとプラットフォーム”をまとめた。

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定年まで35年間あるIT企業に勤めていました。その後、大学教員を5年。定年になって、非常勤講師を少々と、ある標準化機関の顧問。そこも定年になって数年前にB-frontier研究所を立ち上げました。この名前で、IT関係の英語論文(経営学的視点のもの)をダウンロードし、その紹介と自分で考えた内容を取り交ぜて情報公開しています。幾つかの学会で学会発表なども。昔、ITバブル崩壊の直前、ダイヤモンド社からIT革命本「デジタル融合市場」を出版したこともあります。こんな経験が今に続く情報発信の原点です。

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各ページのテキスト
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生成AIとプラットフォーム - 生成AIがプラットフォームに与える影響とは?- B-frontier 研究所 高橋 浩 1

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目的 • 容易にコンテンツ作成が可能な生成AIの登場はコンテンツ作 成を民主化する。 • この影響は大きく、新たなタイプのビジネスモデルを生み出 す可能性がある。 • 従来、この分野はプラットフォーマーが有力コンテンツ作成 者を巧みなインセンティブで囲い込み、その結果生み出され たコンテンツを幅広い消費者に仲介することで巨大な利益を 得て来た。 • では、生成AIの登場は既存の構造にどのような変化をもたら すだろうか? • 本稿は、このような問題認識で、新たな方向に示唆を与える 事例研究によって今後の方向性を探ることを目的とする。

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目次 1. はじめに 2. Copilotと人間のペアモデル 3. 生成AI活用によるプラットフォー ムの変化 4. 生成AI時代のプラットフォーム 5. これから 3

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1.はじめに 現在のデジタルプラットフォームの代表例 • AppleのAppStore • GoogleのYoutube • MetaのFacebook • X(Twitter)のSNS • Amazonのクラウド • Netflixのビデオサービス、など 指数関数的成長を特徴とする 4

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プラットフォーム理論 • 巨大化したデジタル経済はGAFA等のプラットフォーマーに依存している。 • これを説明する典型的プラットフォーム理論は次のようなものである。 2sidesネットワーク型のプラットフォーム構造 × 2sideで構成される市場モデル 消費者、 ユーザー 1 直接的 な 価値の 交換 プラットフォームを介したネットワーク効果 Side間ネットワーク効果 補完品(コンテンツ、 アプリ、など) 2 Side内ネットワーク効果 一方Sideの市場価値はネットワーク効果で増幅された他方Sideの数(ユーザー数、補完品数)によって決まる。 5

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プラットフォーマーの戦略 • 補完品(Side2)を消費者(Side1)に仲介することでプラッ トフォームなしでは取引できない価値を消費者に届ける。 • 戦略の調整は価格を通して行う。 • どちらのSideをどのくらい優遇するか? • 具体的には一方Sideを優遇(通常は消費者(side1)を最大無料化)、 他Sideを冷遇 • (クリエーターなど補完品を作る)補完者は良いコンテンツの作成を プラットフォーマーによって奨励される(インセンティブ政策によ る)。 • 結果、ネットワーク効果が強く働くことで、多くの消費者、 補完者を集めることに成功したプラットフォーマーがビジネ ス総取りになる。・・・GAFA等が巨大化した理由 6

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生成AI登場による変化 • 生成AI登場はコンテンツ作成を民主化するので、 • この動向でプラットフォームの補完者(Side2)の作業は容易 化し、更には自動化に繋がる可能性すらある。 • 生成AIが各種プラットフォームに与える影響例を以下に示す。 対応する生成AI機能 アプリケーションプラット フォーム サービスプラットフォーム Apps(プログラム) 人 モノ Amazon MTurkの人間 クラウドワークの人間 Airbnb, Uberなど コンテンツ Copilotによるプログラム生成 生成AIによる代替 生成AIによる代替 動画:(Netflix,Youtube,他) 生成AIによるコンテンツ作成 情報:各種 生成AIによるコンテンツ作成 7

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新たな兆しの例としてのビデオ・プラットフォーム • 生成AIはビデオストリーミング用コンテンツを作成する能力 を既に持ち出している。 • 現在のビデオストリーミング用大手プラットフォーマーは Netflix, TikTok, Youtubeなどであるが、 【彼等は魅力的コンテンツを開発するようにコンテンツ作 成者を奨励し、その結果作成された適切なコンテンツを適 切な消費者にマッチングすることで成立してきた】 • しかし、生成AI登場でコンテンツ作成者は劇的にコンテンツ 作成が容易になる。 • それと同時にコンテンツ作成の障壁が劇的に低くなる。 • 結果、今までの奨励策やネットワーク効果起因の価格政策は 有効性を失う可能性が強い。 8

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これからのビデオ・プラットフォームの課題 • Netflixを例に取ると、TikTok, Youtubeのようなユーザー作成 のオープンコンテンツ取り込みも必要になるかもしれない。 • しかし、そうすると今度は次のような課題が発生する。 ① 影響力のあるコンテンツ作成者の維持 ② 新しいコンテンツ作成者のモチベーションの向上 ③ コンテンツ視聴者数の維持あるいは拡大 • Netflixが最も厳しそうだが、TikTok, Youtubeも次のような視 点でのサービス見直しが必要になる。 A) 従来以上に顧客ニーズを適切に予測するための情報の収集 B) コンテンツ制作者の敷居を下げながら品質保持や消費者ニーズによ りマッチするサービスの提供 • 既に、スマホに特化してNetflix類似のサービスを立ち上げ、 手酷い失敗をした例が発生している(次頁)。 9

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Quibiの失敗 • スマホ向けに特化した短編ス トリームプラットフォーム • サービス開始前に17億5000万ド ルを調達 • 2020年4月にサービス開始したが、 わずか4ケ月で撤退 • 失敗の原因 • 高価なクリエータや俳優を雇っ ていた。 • 閉鎖的なハリウッドスタイルの 制作システムを強化していた。 • 個人クリエータに力を与えるの ではなくブランドクリエータに 賭けていた。 • 結果、コンテンツがスマホ利用 者のニーズに合致せず失敗 スマホ用に設計された映画品質の番組を視聴できま す。 毎日新しいエピソードが追加されます。 今すぐ Quibi にサインアップして、期間限定の 90 日間無料 トライアルを入手してください。 写真はハリウッドで著名な映画プロデュー サーのジェフリー・カッツェンバーグ氏 10

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生成AI登場後のプラットフォームの新状態 • 従来、補完者によって独占的に作成されてきたコンテンツ/ サービスが生成AIでも生成できることになり、従来の補完者 と生成AI活用者間に緊張が発生している。 • 補完者の役割の変化と新たな事態を管理するため、補完者の 再定義とプラットフォーマー自身の変革が必要な状況にある。 • これに示唆を与える事例を2節,3節で検討する。 生成AI機能 アプリケーションプラット フォーム サービスプラットフォーム Apps(プログラム) 人 モノ Amazon MTurkの人間 クラウドワークの人間 Airbnb, Uberなど コンテンツ 動画:(Netflix,Youtube,他) 情報:各種 2節 Copilotによるプログラム生成 人間作業の生成AIによる代替 人間作業の生成AIによる代替 生成AIによるコンテンツ作成 3節:教育情報を例に 生成AIによるコンテンツ作成 11

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2. Copilotと人間のペアモデル GitHub Copilotとは • 生成AIを利用することでコーディングの補完や生成を支援 してくれる強力な開発ツールが登場した。 • 結果、プログラム開発者としての補完者の負担は大幅に軽 減される可能性がある。 • CopilotはOpenAIとGitHubが共同開発し、5400万GitHubリポジ トリーからの15GBのコードサンプルで事前トレーニング • 120億パラメターのモデルでGPT-3ベース • (OpenAIとMicrosoftから商品としても提供) • しかし、生成されるコードが常に正しいとは限らない。 • また、中立的立場からのCopilotと人間プログラマーとの能 力比較や人間との望ましい連携形態等も明らかでない。 • そこで、次のような質問が登場する(次頁)。 12

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GitHub Copilot活用に向けて 質問1:Copilotは基本的アルゴリズムの問題に正しく効率的 なソリューションを生成してくれるのか? 質問2:一連のプログラミングの仕事に対して、Copilot生成 のソリューションは人間プログラマーのソリューショ ンと比較して、どのような違いがあるのか? また、どの程度効率的か? • この質問に対応し、Copilotを人間プログラマーのペアプロ グラマーとして採用できるかどうかを判断するための企画 を立案し実験した研究が登場した(次頁図)。 • 人間の役割はコンピュータ専攻の学生が担う。 13

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実験プロジェクトの概要 Copilotの能力 Copilotと人間の比較 14

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評価1: “Copilotの能力”の実験方法 課題 • 問題の明確な説明が与えられた場合、Copilotは適切なソ リューションを生成できるか? テスト項目 • 並べ替え、データ構造、グラフ、分析、関連の機能など プロンプト準備 • 2ステップで実施する。 • ステップ1:問題の説明 • ステップ2:問題の説明が適切かの相互検証 実験方法 • 毎回上位10件のCopilotによるソリューション生成の試行 を3回実施する。 • 30日以内に同様のCopilotによる試行を3回実施する。 評価基準 • 正しく生成できた試行回数、正解率、コードの最適性、 コードの再現性、コードの類似性、などを評価して判定す る。 15

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評価1の結果 並べ替え • 問題を分類する能力は比較的高い(1回目、2回目とも8問 中6,7問は返答:正解率は51.42%(1回目),34.77%(2回目))。 二分探索木 • 一部を除きほぼ問題の記述を理解可能(正解率は81.86%(1 回目),54.76%(2回目))だが、正しいソリューションの再 現に苦労した。 グラフアルゴリズム • グラフアルゴリズムのコード生成には熟達している(正解 率は74.27%(1回目), 2回目は少数のみ正解)。 貪欲アルゴリズム • アクティビティ選択問題を代用として使用したが、基準を 満たす正しいソリューションを生成できなかった。 全体評価 • 説明が短く簡潔である限り基本的アルゴリズムは認識でき、 それなりに正しく最適なコードを生成できる。 • しかし、一部単純な説明に対しても不必要に複雑なコード を生成するなど、Copilotを真に人間のペアプログラマー とするには改善の余地があった。 16

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評価2: “Copilotと人間の比較”の実験方法 課題 • Copilot生成コードと人間作成コードをさまざまな定量的 指標で比較し、両者の違いを明らかにする。 対象データセット • Copilot生成、人間作成のコードが含まれるデータセット を準備(人間2,442人の「正しい」コード、1,783人の「バ グあり」コード、およびコード自動修繕ツールも包含)。 対象タスク • q1:順次検索, q2:一意の日付け, q3:重複の削除, q4:タプル の並べ替え, q5:組込み関数未使用の上位k 要素、の5つ 実験方法 • 各タスクに対応するプロンプトをCopilotに読ませる。 • 毎回10個のソリューションを返答。このプロセスを5回 • 都合、各タスク毎に50個のCopilotのソリューションと人 間作成のソリューション(2,442+1,783を5タスクに分類) 評価基準 • 正解率、「バグあり」ソリューションの修復率、修復時間、 多様性、複雑性、などを評価して判定する。 17

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評価2の結果 正解率 (%) 学生 GitHub Copilot 学生 GitHub 人間作成のバグありソ Copilot リューションの平均修 復時間=6分48秒 Copilot生成のバグあり ソリューションの平均修 復時間=4分94秒 18

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評価2の結果(続) 多様性 • Copilot生成、人間作成ソリューションの重複無し正解数と正解 数の差を比較した結果、Copilotの方が小さかった。人間作成の ソリューションの方が構造が多様であった。 複雑性 • Python組込み関数の数、Python構文キーワードの数を比較した 結果、Copilotの方が少なかった。人間作成のソリューションの 方が構造が複雑であった(下図)。 19

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全体評価 Copilot生成ソリューション • 正解率は人間作成ソリューションより低いが、バグありソ リューションの修復可能性は高く、修復に要する時間も短 い。 • 生成ソリューションの多様性は低く、組込み関数、構文 キーワードの利用数も少なく、構造はシンプルである。 人間作成ソリューション • 正解率はCopilot生成ソリューションより高いが、バグあり ソリューションの修復可能性は低く、修復に要する時間も 長い。 • 作成ソリューションの多様性は高いが、組込み関数、構文 キーワードの利用数は多く、構造は複雑である。 20

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結果の解釈 • Copilot は、プログラミングにおいて高度で、さまざまな面で人 間に匹敵するソリューションを提供する。 • しかし、バグありソリューションや最適でないソリューションを 検出してフィルタリングするには、依然として専門開発者が必要 である。 • したがって、専門開発者がペアプログラマとしてCopilotを使用 する場合には、ソフトウェア プロジェクトの資産になる可能性 が高い。 • 一方、Copilotの提案を完全に信頼する人(例えば初心者)が使 用する場合には欠点(負債)になる可能性がある。 • プラットフォーム上の補完者(開発者)の立場では、専門開発者 がCopilotを活用すれば、高い効率性と有効性を得られるので、 プラットフォーマーとの新たな調整が必要になる可能性がある。 21

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Copilotをペアプログラマーとするための注意事項 Copilot生成ソリューションの特性 • 人間には理解できる問題の一部の詳細をCopilotは細かくは 理解できない場合がある。 人間作成ソリューションの特性 • バグありソリューションの場合でも、一貫したストーリーの 元に作成されている形跡がある。 Copilotを人間のペアプログラマーとするために • Copilotの性格を把握することで、どのようなプロンプトに すれば正解率の向上が図れるかなど有効なスキルを身に着け る必要がある(見通しあり)。 • その一方、LLMの進化、学習データの追加、繰り返し質問か らの学習などで、Copilot返答の一貫性は保証されない。こ のような変化に対応する即応能力も求められる(やや困難)。 22

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3.生成AI活用によるプラットフォームの変化 補完者と生成AI間に緊張が発生する。 プラットフォームの例 緊張の中味 1. 独占的にコンテンツ/サービスを提供してきた補 完者(サービス提供者)は生成AI登場で突然代替 できるサービス主体に直面する。 世界最大級のフリーランスのサービス プラットフォーム サービス内容 デザイン、マーケティング、ラ イティング、翻訳、動画、プロ グラミング、ライフスタイルな どのサービスを提供可能 しかし、これらのサービスは 基本どれも生成AIでも提供可 能な状況にあると考えられる。 2. 結果、コンテンツ/サービスが過剰になり、野放 図に提供される危険性がある。これは顧客のサー ビス体験の質を低下させる。 3. これを解決しなければ、顧客離れが起きプラット フォームの寿命にも関係してくる。 4. そこで、プラットフォーマーも人間主体のコンテ ンツ/サービスと生成AI主体のコンテンツ/サービ スのバランスを管理する戦略的拡張が求められる。 既存の補完者、生成AI活用者、プラットフォーマー それぞれが新局面に遭遇する。 23

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検討の方法 • “緊張の中味”分析に見られるように、デジタルプラット フォームに新補完者として生成AIを統合することの影響は 極めて大きい。 • 現在、このような変化によって発生する次のような課題へ の取組みは明確でない。 1. 新たな役割になる補完者の再定義 2. 新たな状況をプラットフォーマーがどのように管理すべきかの 指針 • そこで、このような課題に示唆を与える事例を探索し、調 査研究を行う。 • 前段として次のような質問がある(次頁)。 24

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課題の整理 質問1:• 人間と人間以外のエージェントはどのように相互作用しうる か? 質問2:• それらは、個別に、または集合的にどのようなタスクを実行 しうるか? 質問3:• このような方向性において、プラットフォーマーはどのよう な役割を果たしうるか? • 従来の枠組みを超えて、各主体の境界作業や境界移動を伴う課題 を受け入れられるか検討する。 • そのために、課題に示唆を与える事例を探索し観察する。 デジタル学習プラットフォームDuggaを取り上げる the all-in-one assesment platform for teacher heroes! 25

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Duggaの概要と実施プロジェクト 設立/目的• 教育テクノロジー由来の情報共有に携わるスタートアップ企業(ス ウェーデン, 2018年設立) • 由来:経験豊富な教育者によって設立された教育教材、試験教材などについてのデジタル 評価プラットフォーム。 評価プロセス全体に革命をもたらし、教育者にシームレスなエン ドツーエンドのソリューションを提供する。教育ニーズを深く理解し、卓越性を追求する ため、評価の複雑さを軽減しながら効率を最大化する機能が組み込まれている。 • 目的:特に試験効率を最大化することを大きな目的としており、教師が顧客であり、且つ 補完者でもあるプラットフォームである。 生成AIへ • 2023.5に教材や問題作成に生成AIを利用することを宣言した。 の取組 • これにより、従来以上に教師の試験プロセスの合理化を促進させる。 • 例:教師は章、節のテキスト、または講義スライドを入力しワンクリックす るだけで質問事項や試験問題が生成されるサービスを受けられる。 研究の実施• Dugga従業員、ユーザー兼補完者である教員へのインタビュー 調査事項 • 特に、プラットフォーマーであるDugga社および顧客兼補完者であ る教員の生成AI導入後の役割の変化について調査を行う。 26

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結果 • 生成AI導入当初は教師から次のような強い抵抗があった。 (1)権威を失うことへの恐怖, (2)品質と正確性に対する不信, (3)教師の技術との親 和性の欠如、など • しかし徐々に教師自らが生成AIでコンテンツ作成をするようになると、 教師の役割が変わった。 • 補完者として教材作成のため既存データの再入力などをしなくてもよくなり、 生成AIによってコンテンツが自動作成されるようになった。 • また、教師と生成AI間に生じていた緊張に対しては次のような作業を 行うことで収まった。 • 境界線の変更:生成AI使用の正当性確保、生成AIと教師の信頼関係促進のため、 Dugga由来の製品やサービスを(出版社などと連携し)オンライン、教科書に 掲載などで利用拡大し、より賢くより速くサービス普及する道筋を作った。 • 境界の見直し:生成AIの優位性による過剰な集中を回避するため、教師が独立 して機能するスペースを確保する施策を取った。 • 教師が生成AIの生成プロセスを制御できるようにした。 • 例:教師が生成AIによる提案を拒否または回避するオペレーションの提供, など 27

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結果の解釈 • 本事例は教師が顧客であり且つ補完者でもあるため、“補完者と 生成AI間に発生する緊張”の矛盾を収束させやすかった。 • しかし、このような場合でも、当初、教師の抵抗は大きく、落ち 着き処に至るまでには紆余曲折があった。 • 最終的にはプラットフォーマーも巻き込んだ次のような変更が行 われた。 • プラットフォーム境界の変更 • プラットフォーム境界線の変更・・出版社なども巻き込んだ情報のオープン化 • プラットフォーム境界の見直し・・一部、従来のプラットフォーマーの機能を補完者 (教師)に開放 • このような過程を経て、既存の補完者、新規補完者、新たな顧客、 プラットフォーマー間の役割の再定義が行われた。 • 小規模で調整の矛盾が小さいDuggaの例から推測すると、より規 模が大きく、既得権者の利権が大きい場合には、より大きなトラ ブル発生と変革が予想される。 28

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4.生成AI時代のプラットフォーム デジタルプラットフォームの生成性 • デジタルプラットフォームが無限の成長を生み出す生成性 (Generativity) を持つとの理解は(インターネット登場を 契機に)従来から唱えられていた。 • 最近では更にプラットフォームのオープン性が新しい機能 と使用の拡大をもたらし、プラットフォームエコシステム を形成してきていると考えられている。 • 生成AIは、この流れを抜本的に加速する流れと考えられる。 この認識で上述の現象を検討する。 • 生成性には少なくとも2つのビューが考えられている。 製品ビューと社会的相互作用ビュー(次頁表) 29

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デジタルプラットフォームにおける生成力のビュー 一般的に認識されている生成性(Generativity) ビュー 成長の定義と参照 (1)製品 生成性は、初期の概念を超えてプラットフォー ビュー ムの製品境界を拡張し、多くのユーザーを引き 付ける新しいコンポーネントの無制限の成長を 可能にするプラットフォームの能力を指す。 例:SNS, Appstore上のビデオゲームコンソー ルで新しいゲーム追加、など 今後:生成AIによるコンテンツ生成やプログラ ム生成、など (2)社会 的相互 作用 ビュー (エコシ ステム) 生成性は、人間とテクノロジー間の相互作用の 際限のない成長を生み出すプラットフォームの 能力を指す。これにより、エコシステムの境界 が拡大され、新たな矛盾や障害を解決すること でユーザーの成長につなげる。 例:スマートフォンなどの新しい技術コンポー ネントを生み出す社会的相互作用 今後:人間労働の生成AIによる代替、など ダイナミックな境界変動との関係 • • • • 新しいカテゴリのコンポーネントの出現、 または既存のカテゴリへの新しいコン ポーネントの追加は、製品境界の拡大に つながる。 プラットフォーマーは、プラットフォー ムと補完品間の境界リソースの確保や特 定の補完品の促進など、製品カテゴリを 管理するための構成的境界の作業に従事 する。 競合を巡る開発者と他の補完者間の新た な相互作用の出現は、エコシステムの境 界の拡大につながる。 プラットフォーマーと開発者(補完者)は、 どのような競合を、どのように、誰が解 決するかを交渉しながら、協力して境界 作業に取り組む、など。 30

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境界変動の動向と評価 • 生成AI登場以前から、「プラットフォームプロバイダーの正式なメ ンバーでない開発者が、プラットフォームの価値創造の貴重な部分 となり、企業の能力を逆転させる」現象は発生していた。 • デジタル プラットフォームの仮想環境が、空間や資源の物理的制約 から相互作用を解き放ち、広範かつ多様な開発者がプラットフォー ムに参加できるようになった。 • 生成AIの登場は、この傾向を更に助長させる動きと考えられる。 • 生成AIは生成性の「製品ビュー」「社会的相互作用ビュー」両側面 を保有しているが、より変幻自在な後者の特性が強く働くと思われ る。 • 結果、プラットフォーマーと補完者間の矛盾は拡大し多様化する。 • この中で、「製品ビュー」と「社会的相互作用ビュー」は統合して ゆく(統合ビューを次頁に示す)。 31

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製品ビューと社会相互作用ビューの統合ビュー (2) エコシステム(社会相互作用ビュー)の境界の拡大 紛争解決の ための内部 交渉の場 製 品 ビ ュ ー の 境 界 の 拡 大 カテゴリーd カテゴリーc (1) カテゴリーe カテゴリーb カテゴリーa 動的な境界 プラット フォームの 核 相反する期待解決の ためのオープンな場 相反する期待を解決する解決策の共同交渉 (例:各種GitHubコードの採用などで) サードパーティによって提起された相反する 期待に対する内部解決策の策定 (例:Copilot活用によるApp作成などで) プラットフォーマーによって提起された相反す る期待に対する外部ソリューションの策定 (例:事例2の「出版社」の導入などで) 注:“相反する” 一般に各補完品 は、どの程度広 い範囲を想定す るかと、どの程 度(コストも含め て)効率的である べきかについて 矛盾が生じるこ とが多い。 補完品 補完品内および補完品間の競合を解 決するための交渉 補完品のカテゴリー (1):より多くの補完品または新しいカテゴリーの補完品が追加されることによって境界の拡大が生じる。 32

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• 2節から 生成AIの当面の評価 • 生成AI技術を使用したプログラム自動生成ツールGitHub Copilot は、使用 に課題はあるものの、プログラミングにおいて高度で、さまざまな面で人 間に匹敵するソリューションを提供する。 • バグありソリューションや最適でないソリューションが検出された際、そ れを適切にフィルタリングできる専門開発者が利用すれば、高い効率性と 有効性が期待できる。 • 今後、大規模に活用されるのは確実と思われ、補完者のApp開発を含め、 プログラム開発環境は大きく変化すると予想される。 • 3節から • 既存のフリーランス・サービスプラットフォームなどで提供されている大 半のサービスは生成AIで技術的には代替可能と思われる。 • しかし、生成AIによる代替を断行しようとすると既得権を持つ補完者から の手厳しい反発が予想される。 • 既存補完者が速やかに新規環境に適応してゆく場合もあるが、多くの場合 は補完者代替は簡単にはゆかないことが予想される。 • この打開策としてプラットフォーマーのサービス境界を移動させ、相互の 利益をバランスさせることが必要になる。 33

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生成AIプラットフォームの方向性 • 生成AIのインパクトの評価は、生成性(Generativity)の2つの ビュー「製品ビュー」「社会相互作用ビュー」を統合したビュー の方が枠組みとしてはより親和性が高い。 • 生成AIと既存プラットフォーム間には既に緊張が発生しており、 解決に向けた歩みは始まったばかりと思われる。 • 解決に向けては製品/サービスとエコシステムおよびデジタルプ ラットフォームのユーザー間の連携の見直し、場合によっては境 界の見直しが発生する。 • 生成AIの影響力は凄まじいので、統合ビュー上での生成AI本格浸 透時には、相当の境界見直しが発生すると予想される。 • そのイメージを次頁図に示す。 34

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生成AIプラットフォームのイメージ図 動的な 境界 エコシステ ム境界 安定化 プラット フォーム の核 展開 • 変革の主体は、2つのビューに 対応する製品とエコシステム (社会相互作用)とユーザー ベースである。 • これらはプラットフォーム内外 で境界の拡大(場合によっては 縮小)を繰り返す。 • 3者間の関係は一般にはプラス (境界が拡大)でエコシステム境 界拡大が製品境界拡大を促進し 補完者間の相互作用も増える。 • 但し、一定の状況下では安定化 (縮小)の場面も想定される。 ユーザー ベース 製品境界 *:デジタルプラットフォーム におけるユーザーベースの成長 と製品境界の拡大は双方向で正 の関係にあると思われる。 35

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5.これから 今後の変化について • デジタルプラットフォーム変革の説明のために開発された Generatibity Theory(生成性の理論)の拡張版は大筋で生成AIの 浸透イメージに適応しているように見える。 • しかし、新規補完者の増幅は計り知れず、生成AI活用の規模と速 度は予想がつかないので、早晩、従来理論の拡張だけでは収まり きらないと思われる。 • それが、従来型プラットフォームの破壊、あるいは新規プラット フォームとの共存、更には既存プラットフォーム型ビジネスの凋 落の契機になるのかどうかは、現時点では分からない。 • 但し、理論面で言うと、生成AIプラットフォームは現プラット フォーム理論で主流のネットワーク効果重視を補完あるいはある 程度修正するキッカケにはなるものと思われる。 • 生成AIによるプラットフォームへの影響の推定例を次頁に示す。 36

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生成AIによるプラットフォームへの影響 アプリケーション プラットフォーム サービス プラットフォーム Apps(プログラム) 人 Amazon MTurkの人間 クラウドワークの人間 モノ Uberなど Airbnbなど コンテンツ 動画:(Netflix,Youtube,他) 情報:各種 影響要因 影響度合い a b 中 c c b a c d 大 大 b a c b a c 大 大 大 小 影響要因 事例1:Copilotの活用 事例2:Duggaに見られる生成AIの導入 a :プログラム作成の容易化 b :コンテンツ作成の容易化 c :人間労働の代替 d :自動運転の実現 37

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我々は何をなすべきか? • まずは、生成AIに習熟し、活用能力を身に着け るとともに生成AIの性質を理解する。 • 既存環境に生成AI導入による“緊張”発生の個所を 特定する。 • 緊張発生の原因を見極め関連部門と連携して解 決策を探る。 • その過程でパラダイム変革の実態を理解し新し い環境に馴染む努力をする。 • このような変化を逆手にとって生成AI活用への 挑戦に繋げる。 38

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文献