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January 05, 26
スライド概要
生成AIブームも中盤に入り、いよいよ関連サービス提供ベンダーも黒字化など損益改善に取組む必要性が高まっている。しかし、それの逆風になる、AIバブルの兆しを主張する論説も散見するようになった。2026年は、どちらの要素も混在して、今後の趨勢を定める重要な年になりそうである。そんなことから、今年の最初のコンテンツは「AIバブルは崩壊するのか?」としてみた。まだまだ不確定な情報が多い中ではあるが、とりあえず見出した資料を元に第一段の資料をまとめたので公開する。
定年まで35年間あるIT企業に勤めていました。その後、大学教員を5年。定年になって、非常勤講師を少々と、ある標準化機関の顧問。そこも定年になって数年前にB-frontier研究所を立ち上げました。この名前で、IT関係の英語論文(経営学的視点のもの)をダウンロードし、その紹介と自分で考えた内容を取り交ぜて情報公開しています。幾つかの学会で学会発表なども。昔、ITバブル崩壊の直前、ダイヤモンド社からIT革命本「デジタル融合市場」を出版したこともあります。こんな経験が今に続く情報発信の原点です。
AIバブルは崩壊するのか? No.1 B-frontier 研究所 高橋 浩
目的 • 米国はAIを原動力とした驚異的な経済ブームの中にある。 • AI関連企業の時価総額は異例の高騰を見せ、データセンター等 のAIインフラには数千億ドル規模の資金が投じられている。 • これは現在の延長でAGIが登場するとの前提の元に未来のAIに 全財産を賭けているような面がある。 • しかし、いくらデータセンター増設やチップ活用に賭けても AGIに近づけないとの観察も浮上している。 • また、生成AI活用による収益拡大は相変わらず芳しくない。 • 結果、AI業界と米国経済は全体として投機バブルに見舞われて いるのではないかとの疑念が生じている。 • 本稿は、これらの観察の根拠、および今後の趨勢について関連 情報を探索し状況を整理することを目的とする。 2
目次 1. 2. 3. 4. 5. はじめに MITレポートの紹介 可能なシナリオ例と検討項目 検討項目の分析 今後に向けた示唆 3
1.はじめに 感染力を持つ生成AI熱 … • サム・アルトマン氏は2025年1月に「我々はAGIの構築方法を知って いると確信している」と述べた。 • イーロン・マスク氏も同様に、少なくとも2026年までには「最も賢 い人間よりも賢い」AGIに到達すると確信していると述べた。 • Anthropicのダリオ・アモデイ氏も「あらゆる分野のノーベル賞受賞 者よりも賢いAIが早ければ2026年にも登場する」と述べた。 • 元Google CEOのエリック・シュミット氏は2025年4月に「AI革命は 過小評価されている」、AGIは「3~5年以内に」実現するとした。 • AGI実現への最大のハードルは、AIボットを訓練するためのコン ピューティング能力の不足にあるとの認識が共通にあった。 4
AGIとは? • AGIとは「人間と同等かそれ以上のレベルで、様々なタスクを理解 し、学習し、知識を適用できるタイプのAIを指す。AGIは人間が実 行できるあらゆる知的タスクを実行できる能力を持つ。」と定義さ れる(ChatGPTによる)。 • 言い換えれば、AGIモデルは、訓練データに含まれる特定の事例を 超えて一般化することができることを意味する。 • これは、人間がタスクのやり方を少し見せられるだけで、経験から 学び、必要に応じて方法を変えることで、ほぼあらゆる種類の仕事 をこなせるようになるのと同様である。 • アルトマン氏は、AGIは「新たな科学を発見できる」と豪語し、OpenAIの o3モデルは「すでにかなり賢い」と語った。 5
ChatGPT-5は期待外れ • しかし、その後、事態は急速に悪化し始めた。 • ChatGPT-5は、アルトマン氏が約束したAGIへのブレークスルーには程遠 く、ユーザーの期待は大きく外れた。 • ChatGPT-5は基本的な数学や地図の問題に回答できず、片手の指の数も数え られず、最初の12人のアメリカ大統領も正しくリストアップできなかった。 • ChatGPT-5の失敗は、ますます大規模なモデルを構築するという生成AI業 界の中核戦略が行き詰まっているのでは?との深刻な疑念を提起した。 • 認知科学者を含む批評家たちは、LLMを単純にスケールアップするだけで はAGIにつながらないと長年主張して来ており、ChatGPT-5の残念な失敗 は、こうした懸念を裏付けていると受け取られた。 • 「…言語学と知識の哲学から、LLMは人間の推論や言語使用とは大きく異な ることが分かっている。…人間の心は、パターンマッチングのための重々し い統計エンジンではない」 6
大規模LLMの構築は行き詰まりを招いている • (わずか4か月前に「3~5年以内にAGIが実現する」と予測していた)エ リック・シュミット氏は、2025年8月19日ニューヨーク・タイムズ論説記 事で、「AGIがどれほど早く実現できるかは不確実だ」と主張し、シリコ ンバレーに、AGIへの執着をやめるよう促し、その執着は有用な技術の構 築を阻害すると警告した。 • そして、2025年8月に発表されたMITレポート「生成AIの分断:ビジネス におけるAIの現状 2025」で、企業における生成AIパイロットの95%は失 敗しているとの結果が出たことで、市場は完全に動揺した。 7
2.MITレポートの紹介 MITレポートの要点 • 企業への生成AI導入の投資額は300~400億ドルに上っていた。 • しかし、95%の組織はゼロリターンという驚くべき結果が明らか になった。 • 購入側(大~中堅~中小企業)と提供側(スタートアップ、ベン ダー、コンサル企業)間の結果があまりにも明確に分かれていた。 ……そこで、レポートではこれを「生成AIの分断」と呼んでいる。 • 統合AIパイロットのうち数百万ドル規模の価値を生み出していた のはわずか5%であった。 • 大多数の企業は測定可能な損益への影響がないまま停滞していた。 • 成功・失敗の相違はモデルの品質や規制などではなくアプローチ により発生していた。
MITレポートの要点(続) • ChatGPTやCopilotなどは広く導入されていた。 • 80%の組織はこれらを調査/パイロット運用しており、約40%が導 入済と報告していた。 • しかし、これらは主に個人の生産性向上に寄与するものであり、 企業の損益向上には寄与していないと結論づけられた。 • 一方、カスタムシステムまたはベンダー提供のエンタープライズ システムは企業からは密に拒否されていた。 • 組織の60%がこれらを評価してはいたが、パイロット段階に達し たのはわずか20%、本番環境に到達したのは5%であった。 • 殆どは、脆弱なワークフロー、コンテキスト学習の欠如、日常業 務との不整合などで失敗に終わっていた。
調査結果1 生成AIの組織での個人使用、企業統合使用の利用状況 • タスク特化型生成AIツールのパイロット段階から本番環境への 急激な低下は、生成AIの分断を浮き彫りにしている。 個人使用の生成AI 調査済み 組み込み型またはタスク固有の 生成AI パイロット段階済み 実装に成功済み
調査結果2 企業統合使用で生成AIパイロットが失敗する理由 • 企業への生成AI導入における壁の上位について、ユーザーに各 項目(問題点)を1~10のスケールで評価してもらった。 挑戦的な変更管理 経営陣の支援不足 貧弱なユーザー経験 モデル出力の品質に関する懸念 新しいツールを導入したくない意思
調査結果3 格差を決定づける学習ギャップ • コアのワークフローを生成AIと統合する際、次のような学習 ギャップが壁となり生成AI導入の格差を決定づけていた。 エッジケースで問題が発生し適応できない 特定のワークフローに合わせてカスタマイズできない 毎回、手動のコンテキストが多すぎる 我々のフィードバックから学習しない
調査結果4 業種による相違 • 生成AIによるディスラプションは業界で大きく異なっていた。 エネルギーと素材 先端産業 金融サービス 消費者・小売 ヘルスケアと製薬 プロフェッショナルサービス メディア&テレコム 新たに開発したAI市場破壊指数に基づく評価 • 左図は各業界を5つの観測可能な指標(下記)で 0から5までスコア付けした結果 1. 2. 3. 4. 5. 主要既存企業の市場シェア変動率(2022~2025年) 2020年以降に設立されたAIネイティブ企業の収益成長 AI主導の新しいビジネスモデルの出現 生成AIに起因するユーザー行動の変化 AIツールに起因する経営組織の変更頻度 相対的に左記業種には浸透しだしている。
適切な生成AI活用に向けた提言 • 生成AIの分断を上手く乗り越えた組織には、パターンがあった。 • 購入側はAI提供側をソフトウェアベンダーとして遇せず、ビジネス サービスプロバイダーとして扱い、下記のようなベンチマーク基準を 適用して活動を推進していた。 • 社内プロセスとデータに合わせた徹底的なカスタマイズを要求 • モデルベンチマークではなく、運用成果に基づいてツールをベンチマーク • 初期段階の失敗を乗り越え、導入を共進化と捉え、パートナーとして連携 • AIイニシアチブの調達先を中央研究機関ではなく現場のマネージャーに委託 • 実績を元にした取組みが有効であった。また、次の傾向もあった。 • 生成AIの分断を越えた組織でROIが最も高かったのは、運用や財務といった見過 ごされがちな機能(部門)であることが多かった。 • 真の利益は、社内スタッフの削減ではなく、BPOや外部代理店の置き換えから 生じていた。
MITレポートからの示唆(中間まとめ) • 企業向け生成AI投資はかなりの額に上っている。 • しかし、わずか5%の企業しか成果を達成できていなかった。 • この原因はAIモデルの品質でも、規制でもなかった。 • 寧ろ、生成AIの特質を生かすためのコンテキスト学習の欠如、それを 実現するのに必要な日常業務との不整合(フィードバックの着実な フォローなど)が未達で失敗していた。 • これらの解決には、企業固有の環境にあくまでカスタマイズ、導入を 共創可能なパートナーとの連携などで取組む必要があった。 • これは生成AIの一般的使用とはかなり異なり、企業組織適応ならでは の極めて苛酷な条件であったことが明確になった。 • 従って、今後、生産性向上の中核である個別企業への生成AI導入の要 件を克服できない限り進展は難しいことが判明した。 • 方向性は分かったが、この達成には時間がかかる。 15
実際、大手企業ではAI導入率が低下していた 米国国勢調査局の企業規模別最新データによると従業員250人以上の企業ではAI導入率が低下していた 大企業のAI導入率が低下し始めている 従業員250人以上
3.可能なシナリオ例と検討項目 検討の前提条件 • AIの未来に対する悲観論が台頭しているとは言え、1) AGI実現の 見通し不透明化と、2) 企業への生成AI導入の壁顕在化が同時に発 生したことに伴う影響も想定される。 • 2つの要因は本来別個のものなので、両者を明確に分けて考える 必要がある。 • また、どちらもAIバブル崩壊と関連付けるには時間軸がポイント になる。その際、両者の時間的趨勢は独立性が強い。 • 大多数の企業が測定可能な損益への影響がないまま停滞している状 態へのブレークスルーは単純な技術論では済まない。 • このような観察から、本節ではまず簡単な予想シナリオを設定し、 これを具体化する中で、検討項目を設定する。
シナリオA シナリオの設定 • 企業に生成AI導入時の壁克服のポイントが浸透し、パートナー との連携が速やかに構築されて生成AI導入が飛躍的に拡大する。 • それと共に、汎用生成AIのレベルも引き続き上昇し、増設した AIインフラの価値低下を引き起こさない程度にはAI利用が継続 する。 シナリオB • 各企業が引き続き企業組織に生成AI導入の要件充足に苦労し、 企業への生成AI導入が飛躍的には伸びない。 • その一方、AGI達成の目途が立たず、AIインフラ投資のみは継続 して、従来方針の大転換が達成できなければ、AIバブル崩壊の 可能性は高まる。
シナリオに基づく枠組み • 以上のシナリオ設定を元に、検討を【技術面(縦軸)×マネタイズ面(横 軸)】で構想し、これに時間軸を加えて検討することを考える。 ベンダー側 技術面 生成AIのほどほ どの進化を活用 AGI登場がキー (但し個人利用 の進化も期待) ユーザー側 :バブル加速 :バブル抑制 シナリオA シナリオB’ (AGI登場とは独立に)AIの進歩 はほどほどで個人使用が拡大 AGI登場せずとも生成AIアプリの 活性などが活性化 弱い 崩壊 AIの企業組織統合:早期 AIの企業組織統合:遅延 シナリオA’ シナリオB AGI登場が本質的に重要ではあるが 個人レベルのAI活用進化も著しい AGI登場がキーで尚且つAGI登場 が遅延 AIの企業組織統合:早期 AIの企業組織統合:遅延 ほどほどに拮抗:AI バブル崩壊は回避 投資に見合う回収の目途が 立たない:AIバブル崩壊 バブル 崩壊 マネタイズ面
検討の具体化 • 加えて、検討項目設定のため、ベンダー側要因とユーザー側要 因の例を抽出する。 ベンダー視点からの考慮事項 • NVIDIA GPUは現在独占状態なので、GPU購入は高値掴みになる。し かし、AIチップ競争の激化を想定するとAIチップの低廉化は必須であ る。またAIインフラ導入機器の償却期間はかなり短いと想定される。 • また、生成AIのマネタイズは極めて難しいことが露呈している (OpenAIは毎四半期に120億ドルの赤字を垂れ流している)。 • それでもAGIが早期に登場すれば、先行投資してAIの未来の座席を確 保する行動は一定の合理性を持ち得る。 • 但し、AGI到達までには現行技術から2~3回の新たなブレークスルー が必要、あるいは専門分野毎に複数AGIが登場のようなイメージも一 般化しつつある。
検討の具体化(続) ユーザー視点からの考慮事項 • AGI登場を待たずともAI起因のリストラは始まっている(例:コールセ ンターの自動化、定型的会計処理アウトソーシングの自動化、など) • 現行技術で生産性向上が達成されリストラのプレッシャーが生じてい る例はあるが、以下の2領域は大きく様相を異にしている。 • 個人:個人または組織内の個人作業での効果は既に発生している。 しかし、それらの企業損益への貢献は軽微と見られている。 • 企業:MITレポートによれば企業導入の95%は失敗している。一方、 成功している5%はバックオフィスへの適応などで結果を出している。 その際は社外委託などを削減し損益を向上させている。このような 趨勢は一企業を超えて社会の変革に繋がる傾向がある。従って、生 成AIの本格的浸透には時間が掛かると推定される。
検討項目の設定 • このような検討から下記項目を検討項目(設問)として設定する。 1• AGI登場の遅延はAI市場に何をもたらすか? 2• 生成AIの企業組織統合に有効なビジネスモデ ルは存在するか? 3• AIの生産性向上への影響はどのように予想さ れているか?
4.検討項目の分析 1 AGI登場の遅延はAI市場に何をもたらすか? 米国経済全体が幻覚状態にある AI市場の状況 • アメリカのAI業界全体は、AGIが すぐそこまで来ているという前提 に基づいて構築されてきた。 • 2024年から2025年にかけて、大手 IT企業はデータセンターに累計 7,500億ドルという驚異的な投資を 行った。 • 2026年から2029年にかけては更に 累計3兆ドルのデータセンター投 資が計画されている。 • 「マグニフィセント7社」のうち4 社の設備投資額を右図に示す。 四半期ごとの設備投資額 1000億ドル 750 500 250 注: データは四半期ベースで、ファイナンスリースを含む
AI市場の状況 米国経済全体がAI幻覚状態にある • 2023年から2024年の2年間で、 S&P 7(マグニフィセント7社)は S&P 493(S&P 500から7社を除外 したもの)を6倍も上回るパフォー マンスを示してきた。 • 中でもNVIDIAの時価総額は現在4 兆ドルを超え、2022年半ばの約 4,000億ドルから10倍に増加した。 • S&P500は2023年から2024年にか けて約58%上昇した。 • しかし7社を除いた493社の株価は わずか25%の上昇に留まった。 • アメリカの株式市場は、完全にAI によって牽引されている。 データレンジ:2022年12月31日ー2024年12月31日
米国のAI市場の状況 • AIインフラ構築にはネオクラウド企業と呼ばれる一連の企業が存在する。 • CoreWeave、Lambda、Nebiusなど • 彼等はゴールドマン・サックス、JPモルガン、ブラックストーンなどの ウォール街からの融資によって資金を調達している。 • そしてNVIDIAはGPUを彼等に販売している。 • Microsoft、Meta、Amazon、OpenAI等は、これらの企業に「研究」目的 でGPUをレンタルする対価を支払っている。 • これら以外に、AIコンピューティングに対する実質的需要はない。結局、 これはすべて、まだ到来していないAI革命への期待に基づいている。 • 早速、最近のAIバブル崩壊か?の噂を受けて、CoreWeaveらの株価は低下 している。 …CoreWeave、時価総額5兆円失う。AIバブル懸念浮き彫り(WSJ 2025年12 月16日)
1 設問の検討 • AGIへの期待をベースにしたAIバブルは基本的には利益享受者と想定さ れるマグニフィセント7*とウォール街の結託によるものと考えられる。 (*: Microsoft, Google, Meta, Apple, Amazon, Nvidia, Tesla) • 従って、AGI登場の技術的見通しが多少ふらついたからと言って、それ くらいで基本方針を大きく変えることは出来ない。 • また、主役のマグニフィセント7はいづれも財力がある。それに変化の サイクルはITバブル時に比較しても早いと予想されるので新陳代謝も 速いことが想定される。 • GPUの償却期間は推定3~5年、一方、ITバブル期の光ファイバーの償却期 間は10年程度と言われていた。 • ITバブル時はルーセントなど通信会社と無数のITスタートアップが一旦消 滅し、その中からAmazonのECやGoogleの検索が登場した。 • 多少AIバブル崩壊的事象が出てきても現状のまま行くと推測される。
2 生成AIの企業組織統合に有効なビジネスモデルは存在するか? 企業への生成AI導入促進で参考になる企業 • Palantirの結果連動型ビジネスモデル • 顧客サイドにAIトップエンジニア(博 士号も持つような)を送り込む。 • 顧客システムにがっちり入り、売上向 上、利益率アップを当事者意識で考え 解決策を見出し実際にやってみせる。 • その後営業が入ってきて、価格設定し、 このサービスを継続するかどうか顧客 に持ちかける。 • 顧客もどの程度利益が出るかが分かっ ているので、適切な支払いに応じる。 AIを既存事業だけでなく新規事業へ もインストールする世界で最も評価 されているソフトウェア企業 「Palantir」
何故失敗95%のような状況になっているのか? • 「AIツールがそれぞればらばらなAI技術やインフラを基に構築され、 実際のユーザー企業のニーズからかけ離れすぎている」からである。 • 現状は「経営者が完全にAI技術への投資をやめたわけではない」が、 「ユーザー企業は、AIモデルの明確な用途や戦略情報不足で疲労を抱 えている」と見られる。…だからPalantirなどが期待される。 • また、「AI技術への投資資金がデータセンターやチップ等に、AI活用 の進度よりも早く流れ込んでいるため、過熱した期待がビジネスから 得られる価値を超えている」時間的なミスマッチがある。 • 背景に、「AI業界の主要プレイヤーが互いに投資し合い、“幻の経済活 動”を作り出している」ことや「国家の防衛関連契約などに深く入り 込み、将来的に政府に救済を要請できる」との期待も予想される。 • 今後は、ユーザー企業からの測定可能な結果を出す圧力が増し、複雑 化する地政学的、経済的リスクを乗り越える取組みが求められる。
2 設問の検討 • 今回も最終的には全く新しいビジネスモデル登場に繋がるはずだが、そ の構造はITバブル期とはかなり異なりそうだ。 • 企業組織へ生成AI統合で成功させている例では、組織構造も変えて損益 を向上させている。この延長では最終的に企業構造も社会の仕組みも変 わる。 • 但し、このような取組みは一般には難しい。 • そこで、このような環境に取組む新たなビジネスモデルとしてPalantir のような企業が注目されているが、一般化は難しいであろう。 • より一般的取組みとしては、企業内に個人作業で卓越した従業員が育ってい る(あるいは育つであろう)ので、彼等も動員した社内チームと選抜された パートナー間の有機的に連動した取組みが有益かもしれない。 • 何れにしろ、抜本的変革までにはかなり時間を要する状況にある。
3 AIの生産性向上への影響はどのように予想されているか? 支出が多すぎ利益が少なすぎないか? • 今後数年間で、大手IT企業をはじめとする企業はAI関連の設備投資に1 兆ドル以上を費やすと言われている。 • これには、データセンター、AIチップ、その他のAIインフラだけでなく、拡大 するエネルギー供給に関わる電力網への多額の投資も含まれる。 • しかし、現状でのこれらへの支出は、開発者の効率性向上が報告されて いる程度で、今のところ成果はほとんど上がっていない。 • そこで、業界と経済の専門家の間で、この巨額の支出がAIのメリットと リターンの面で報われるのかどうか、そして報われる場合、あるいは報 われない場合、経済、企業、そして市場にはどのような影響があるのか が話題になっている。 次頁はノーベル経済学賞受賞のアセモグル先生の見解
AIのマクロ経済学の解説 • 著名な論文“The simple macroeconomics of AI”, (2025)の要点 • AIの効果をタスクベースのモデルで評価。特に自動化とタス クの補完性について考察している。 • タスクレベルのコスト削減/生産性向上の影響を受けるタス クの割合とそれらタスクの平均コスト削減で推定している。 Daron Acemoglu 2024年ノーベル経 済学賞受賞者 MIT教授 • 結果:今後10年間でAIが米国の生産性に与える影響はわずか0.5%。GDP 成長率はわずか0.9%しか向上しないと予測している。 • 初期データは学習しやすいタスクから得られていたが、今後は、文脈依存型で、 学習が難しいタスクが多くなることも一因としている。 • また、AIが特定のタスクにおいて低スキル労働者の生産性を向上させる 場合、不平等は縮小するどころか拡大する可能性があることも実証した。 • 結論:アセモグル先生は、今後10年間でAIが米国経済にもたらす恩恵は 限定的だと見ている。
3 設問の検討 • 一部専門家は現在でもAGI登場で真に変革をもたらす影響が迫っている と考えて居る。 • また、2023年頃には楽観的予想が続いていた。 (ゴールドマン・サックスは、米国の生産性が10年間で年率1.5%増加する、マッキンゼーは 今後10年間で先進国の平均年間GDP成長率は最大1.5~3.4パーセント上昇する, 等) • しかし、AI技術はコストに見合う複雑な問題を解決するように設計され ておらず、多くの人が期待するほどコストは下がらないとの見方も増え ている。 • 即ち、AIのコストが下がり、多くのタスクを自動化できるほど手頃にな ることに懐疑的と言うことである。これは、AI導入コストの高さに加え、 GPUチップのような部品製造が複雑で競争を阻害しているなどの推測 にもよる。 • 但し、これらの結果を超えて個別には企業組織への生成AI統合で成功さ せている場合は存在し得る。(その検討は 2 の事例など)
検討項目の設定と分析結果(中間まとめ) • 経済学者がAIの経済的影響を推定したり、企業組織に本格的に生成AI を統合する際に大きな壁が立ちはだかることなどを見てきた。 • しかし、そのことと大手IT企業がこぞってデータセンターに巨額の投 資を行い、米国経済をAI主導で活性化させていることとの間には強い 相関がないように感じた。 • 前者は過去の実績に基づいた既存理論の適応や推測であるのに対し、 後者は今までとは全く異なる新たな世界を見据えた将来に向けたリス クを取った挑戦であり、視野が極めて乖離しているからである。 • 従って、AGIへの夢を見直すようなインパクトは 2 3 のような経済 学的予想や当面の適応事例の低成功率などでは生じていないようだ。 • 投資額はあまりにも巨大化しているので、シナリオAはもはや困難な 状況にある。 • と言って今の時点でシナリオBと断定するのも時期尚早である。 • 次節では、もう少しAGI関連に絞って状況を深堀りする。 33
5.今後に向けた示唆 AIの経済への影響とAGI • コンピューティング能力をスケールさせればAIは次の高みに到達 できるとの思い込みはシリコンバレーにおいて根深いものがある。 • スケーリング則は、Open AIによって最初に発見され過去5年間非 常に有効であることが証明されてきた。 • また、AlphaGoの後継のAlphaZeroは、基本ルールのみから始め、 完全に自己プレイで学習することで、囲碁など複雑な戦略的領域 で人間の理解力をはるかに凌駕できることを証明した。 • しかし、2025年12月15日のスタンフォード大学のHAI(HumanCentered AI)研究所は「2026年にAGIは実現しない」と予測する 一方、世界的にAI主権が大きく加速すると予想した。 • 各国がAIプロバイダーや米国の政治システムから独立する動きを 強めていると言う。
地政学的な中国 AI戦略との競争 • 例えば中国の例では、2015年発表の中国製造2025でAIを極めて重要視し、長 期的視野に立って研究と開発が積極的に進められて来た。 • その計画は地政学的であり、米国の覇権に挑戦、あるいは凌駕する意図がある。 • 結果、米国もかなり国家間競争を意識しなければならない状況にある。 中国製造2025における戦略的マイルストーン 戦略的的テーマ コアメッセージ 含意 経済変革の方向性を導くのは市場ではなく国家であるべ きだ。 経済近代化の主な要素として中央計画と政策を強調 この変化は経済的なものだけでなく、イデオロギー的な ものでもあり、技術的な自立と国家意識を反映する。 中国を単なる製造国ではなく創造国として認知させ、 イノベーションに対する国民の誇りを育む。 社会と官僚機構の連携 国家の復興にはインフラだけでなく、技術的に熟練し、 政治的に忠実な官僚機構と社会が必要である。 機関や国民全体にわたる人的資本とイデオロギー的統 一の必要性を強調する。 国家の誇りの源泉とし ての技術的自立 主要技術の自立を達成することは経済的に不可欠である と同時に、近代化と主権の象徴でもある。 対外依存を打破するために、研究開発と国内イノベー ションへの戦略的投資を促す。 中国の近代化モデル 中国のアプローチは、市場メカニズム、産業ナショナリ ズム、そして社会主義統治を組み合わせたものであり、 西洋の自由資本主義とは異なる。 中国に触発された独自の社会主義に基づく成長戦略を 推進する。 中国は世界と関わらなければならないが、追随者ではな く、強力で独立したリーダーを目指す。 中国は、現在の国際構造において受動的な参加者では なく、世界の規範、貿易、技術に影響を与える立場に 立つ。 国家主導の長期計画 「Made in China」か ら「Created in China」へ グローバルな関与の強 化
金融投機とイノベーションの誇大宣伝 • そもそもAIは、バリューチェーンの再構築、イノベーションの促 進、生産コストの削減、資源配分の改善といった能力を持ち、豊 かな未来への鍵となるという野心的予測が喧伝され過ぎた。 • その結果、多くの国がAIを将来の経済発展の柱と捉え、国家戦略 を策定している。 • このような背景を持ったブームは過大な期待を伴い、技術の実際 の経済価値と比較して市場価値や投資価値を不当に高騰させる。 • この問題は、世界的な市場変動に影響を受けやすい新興国や発展 途上国にとっても重要になっている。 • 従って、この現象の理解には、市場ダイナミクス、投資家の行動、 大企業の戦略、政府の動向まで理解することが求められる。
生成AIの誇大宣伝バブルは徐々に縮小 • 一方で最近では、下記のような認識も深まりつつある。 • 「AIは非常に高価であり、そのコストを正当化するには、複雑な問題を 解決できなければならないが、AIはそのようには設計されていない」 • AIが「期待を裏切らない」としても、「AIバブル崩壊には長い時間がか かる」 • 各種の設備投資は、それに見合う収益に結びついておらず、これを改善 する道筋も見えていない。利益確定の時期はまだだいぶ先である。 • また、バブルの縮小あるいは崩壊は害悪の帳消しにはならない。誇大宣 伝は現実世界に物質的そしてしばしば有害な影響を及ぼす可能性がある。 • しかし、AIが将来のインフラの不可欠な部分となる可能性は高い。 • 嘗ての自動車、鉄道、電気、コンピュータなどと同様、これらが機能し 主流になるために、道路、線路、電力網、オフィス労働力、ワークフ ロー変化への大規模な投資が必要であったと後で振り返る可能性はある。
今後への示唆 1節より • 規模を拡大すればAGIに到達すると言う単純な生成AI業界の中 核戦略はかなり不透明になった。 2節より • 損益向上手段の中核である企業組織へのAI導入は不調であった。そ して、その原因はAIモデルの品質や規制などでなくアプローチの違 いだったので、各企業はかなり準備した取組みが必要になった。 3,4節より• AGI登場とAIの企業組織統合の時期によるシナリオ設定は便宜的な ものだが、課題クローズアップには有用と考える。 • その一方、3つの問題設定は個別には有用ではあるが、AIバブルの 問題は大きすぎ、1 2 3 の各論ではカバーしきれないことが判 明した。 最後に • 全体像は相変わらず分からないが、目標達成の困難性と各分野へ の投資の必要性は徐々に理解され出していると考えられる。
最終まとめ • AIが期待通りの成果を上げ始めるか、それ以前にAIバブルが崩壊するかは現 時点では分からない。但し崩壊する場合でも長い時間がかかり、それまでは、 AIは依然として発展の余地があると考え続けられるのだろう。 • 但し、AIチップと電力の不足などによって、AI技術が期待通りの成果を上げ られないのではないかとの懸念はある。 • 特に電力インフラへの大規模投資は、規制の厳しい電力業界の性質とサプラ イチェーンの制約により、迅速かつ容易には実現しないかもしれない。 • 結局、もしAIバブルが崩壊するとしても、ゴールドラッシュの時のように、 一部のAIインフラプロバイダー(「つるはしとシャベル」提供者)はその間 も利益を上げ続けると思われる。 • そして、AIがインフレ率を押し上げることなく成長と企業収益性を押し上げ るという最も好ましいシナリオは、将にAIがしばしば謳われる潜在能力を如 何に発揮しうるかにかかっている。 39
編集後記 • 新経済思考研究所 (INET:Institute for New Economic Thinking)と言う 2009年に設立されたNew York Cityベースの非営利シンクタンクがあり、、 そこで発行されていたWorking Paperの一つに面白いものがあったので、 今回はこれを元に(特に1節, 4節)構成してみた。 • 論文巻末に「おそらく、米国経済の窮状を最もよく表しているのは、サ S. Storm ム・アルトマン氏でしょう。彼はデータセンターを宇宙に設置するとい う夢を描いています。太陽光集光衛星を使って(無限の)星のエネル ギーを集めるというこうした「幻想」が、騙されやすい金融投資家、政 府、そしてAIとAI業界の利用者を説得し続ける限り、米国経済は間違いな く破滅する運命にあるでしょう」と言っていた。 • これは、AIバブル崩壊の予兆として、電力不足によるボトルネックがか なり深刻な問題になっていることを示唆していると思う。 • 中国との覇権争いもあるし、投資額も半端でないので、もう少し地に着 いた議論や分析が増えても良いと思うが学術論文で適当なものを発見す ることはできなかった。 • AIは米国経済の屋台骨なので、更なる観察が必要と強く認識した。 40
文献