AIエコシステムの進化のダイナミックス

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August 10, 21

スライド概要

現在のAIに絡んだ情報は、「AIの巨人」(GAFA等)の圧倒的先行の分析とか、その中での一般企業のチャンスの可能性提示など、AIエコシステムの進化の分析が期待されていると思う。この背景の一つにAI技術が深く安全保障に関係し出したことがある。例えば、中国のAIによる住民監視システムの普及などは民主主義国との体制の違いをクローズアップさせており、AI技術活用の取組みが従来の先進技術の取組みを遥かに超えた状況を示唆している。しかし、これらについての適切な研究や情報提供は従来あまりなかった。そこで、この状況をAIエコシステムの進化のダイナミックスと捉え、既存の理論も活用して初歩的分析を試みる。

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定年まで35年間あるIT企業に勤めていました。その後、大学教員を5年。定年になって、非常勤講師を少々と、ある標準化機関の顧問。そこも定年になって数年前にB-frontier研究所を立ち上げました。この名前で、IT関係の英語論文(経営学的視点のもの)をダウンロードし、その紹介と自分で考えた内容を取り交ぜて情報公開しています。幾つかの学会で学会発表なども。昔、ITバブル崩壊の直前、ダイヤモンド社からIT革命本「デジタル融合市場」を出版したこともあります。こんな経験が今に続く情報発信の原点です。

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各ページのテキスト
1.

AIエコシステムの進 化のダイナミックス B-frontier研究所 高橋 浩

2.

問題意識 • AI活用が叫ばれて久しい。ただ、AIはデータ収 集/蓄積が前提になる。 • それだとGAFA等が先行し、増々他を引き離すこ とが自明なようにも見える。そのような中で、・・ ① 一般企業のAIへの取組みはどのような突破口 がありうるのだろうか? ② また、AIの技術覇権が一国の成長戦略の要に なり安全保障とも結びつき出している。 • このような状況の把握にはAIエコシステムの全 体像解明が必要になる。 – しかし案外、このような視点での研究や情報は少な い。 • そこで探索してみる。

3.

中国のAI技術、米国に肉薄 元Google CEOエリック・シュミット氏インタビュー記事から(日経 2021.7.9) シュミット氏は現在米国人工知能国家安全保障委員会(NSCAI)委員長 • NSCAIはAIに関する米国政府への政策提言を 担っており、最近の報告書で「現状のままでは 中国に主導権を奪われる恐れがあり、米国の 安全保障が脅かされる」と警告した。 • このような背景もあって、現在世界に広がっ ているGAFA等の規制案については、「中国に 対する競争力低下につながるため、企業分 割などの案は何の役にも立たない」とも述べ ている。

4.

目次 1. 2. 3. 4. 5. 6. はじめに AIエコシステムのパートナーたち AIの巨人の絶対的優位性 それ以外のパートナーのチャンス 各地域特性の影響 どのようにAI推進に取組むべきか

5.

1. はじめに AIを取り巻く環境 • 現在、AI対応の製品やサービスは多数市場 に出回っている。 – 検索エンジン、顔認証、コールセンター、医療診 断、自動運転、など • 従って、AI関連の議論は、技術論段階から、 ビジネスモデル、規制、倫理、データ所有権、雇 用構造への影響、人間の再スキル化あるいは 安全保障との関係などに移行している。 – AIによる広範な影響は多数提示されてきた。 ⇒例:次頁参照

6.

「人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの 東京大学 松尾 豊」より

7.

AIを取り巻く環境(続) • しかし、既存のAI関係の研究は特定のアプリ ケーションに焦点を絞ったり、 • 逆に、生産性と雇用市場に対するAIの影響 分析などが多かった。 • それらはどちらも一定の有用性はあったが、 AIの実質的推進者である企業が – どのようなビジネスモデルに取組むべきか? – AIに対してどのような姿勢で臨むべきか? の適切な説明や指針、あるいはサポートを提 供している訳ではなかった。

8.

AIエエコシステム分析の目標 • そこで、AIに取組む様々な企業/組織間の新 たな分業(AIエコシステムにおけるパートナー 間の関係性)や進化のダイナミックスに焦点を 当て、 • AI開発と適応をサポートする過程を検討する ことによって、 – AIとは何か? – AIを生産する人は誰か? – AIから利益を得るにはどうすべきか? などの理解を深めることを目標とする。

9.

AIエコシステムの特殊性 • その際、AI台頭を可能にするにはナショナル イノベーションシステムや多様なアクター(コ ミュニティ、大学、公的/私的研究機関など)と の関わり方も強く影響する。 • そこで、AIの生産、消費に関わる包括的構造 分析が必要になる。 • また、米国と中国のAI進化の軌跡の違いなど の分析も重要になる。 – AIの技術覇権確保が国の成長戦略の要だけでな く、安全保障とも結びつき出したため

10.

2. AIエコシステムのパートナーたち 企業を中心としたAIの生産と消費の構造の分析 • AIの生産と消費に必要なAI対応スタックは主 に次の2層からなる。 – ハードウェア層(センサー、チップ、ストレージインフ ラストラクチャなど) – データの処理と管理層 • そして、AIの生産と消費に関わる動作モードは 主に2×3の5つ(重複で1つ削除)からなる。 ⇒次頁表参照 – 横軸:2つの消費(クライアントが消費するAIソ リューションの販売【左】と内部的AI消費【右】) – 縦軸:3つの生産(内製、購入、と両者の混合形態) • 但し、「AIの巨人」はAI消費2パターンが重複なので合体 2節以降は主に「MG Jacobides et al., “The Evolutionary Dynamics of the Artificial Intelligence Ecosystem”, Evolution ltd., Academic Paper ,May 1, 2021 」を参考に論述している。

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AI生産とAI消費の動作モード AI消費 クライアントがAIを利用できるようにAI生産 サービスを販売。しかし社内では消費しない。 AI 生 産 サービス提供または企業パフォー マンス向上のために内部でAI消費 主に社内 で生産 (内製) AIの巨人: AIスタックのエンドツーエンドの統合により、内部および外部での使用 に必要なAIを生成する機能がある(例:Google, Amazon, Microsoft, Alibaba, Tencent, Baidu)。 自社生産 と購入生 産のバラ ンスの取 れた組み 合わせ (混合) AIクリエーター:クライアントに販売されるAI の一部を作成またはカスタマイズする機能 はあるが、「AIの基本」についてはAIの巨人 に依存している(例:Accern, MonkeyLearn, Levity, AI コンサルティング・サービス)。 AIを活用したオペレーター:AIの巨 人のサービスと内部機能の両方を 使用して、日常の運用と提供にAI を活用し、重要な機能/運用に必要 なAIを生産する (例:Facebook, Uber, Spotify, ByteDance,内部にAIパワーハウス を持つ伝統企業 - Walmart, Ping An, …) 殆ど購入 されたAI 生産 (購入) AIトレーダー/インテグレーター:既成のAIソ リューションやユースケースを購入および販 売し、商業的およびマーケティングの取り組 みを追加する(例:バンドル、再パッケージ、 ブランディング)あるいはクライアントエコシス テムとの統合はサポートするが、AIの改善は ない(例:Google翻訳サービスを使用する翻 訳会社、SalesforceまたはMSのオファーを 統合するCRMコンサルタント、…) AIテイカー:重要なビジネス機能を 実現するために、既製のソリュー ションのみあるいはほとんどを利用 する(例:AI生産のほとんどをアウト ソーシングしているデジタルネイ ティブや内部AI機能が限られてい る従来企業)。

12.

5つのカテゴリー • AIの巨人: – 内部、外部で必要な全てのAI機能を保有する。 – AIの有効化と生産の全ての層を運用し、様々な 部分で生産したものを消費している。 • 例:AIの改善が常に必要なGoogle検索エンジン、顧客 をターゲットにした物流を常に最適化するAmazon – これらの巨人は、有機的に開発、提携、買収する ことで、AIのあらゆる分野で地位を維持している。 – ただし、今後の買収などは、欧米日においては規 制機関の姿勢の変化の影響を受ける可能性が ある。

13.

AI技術とITスタック(層) AI有効化と層の統合と担い手企業 「AIの巨人」の例 AI 製 造 AI 有 効 化

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• AIを活用したオペレーター: – 日常業務とその提供においてAIを活用 – AIの巨人のサービスと内部能力の両方を使用して、 重要な機能/操作に必要なAIを生産 – 社内に強力なAI機能があり、ビジネスのコアとしてAI を使用し、多くの場合、社内で作成されたAIソリュー ションを通じてAIを実現 • AIソリューションが競争上の優位性の一部を形成しているこ とが多いので、これらの企業は、社内で開発されたAI生産 ソリューションを販売することで収益を得ることはしない傾 向がある。 SNSサービスに特化 Facebook ライドシェアサービスに特化 音楽サービスに特化

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• AIクリエーター: – 主に特定サードパーティ向けにAIを作成し、自社向け には作成しない。 – AIの巨人のプラットフォームとサービスに依存し、クラ イアントのニーズに合わせて改善する。 • AIトレーダー/インテグレーター: – AIソリューションを売買し、商用およびマーケティング サービス(バンドル、再パッケージ化など)を追加する か、クライアントのエコシステムとの統合をサポートす るが、AIの改善はしない。 • AIテイカー: – 重要なビジネス機能を有効にするためにAIソリュー ションを必要とする。 – 多くの場合、AIソリューションを使用して変革を目指 す既存企業や社内で開発する能力や資金のない新 興企業が該当する。

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一般企業が該当する主な領域 AI消費 クライアントのAI利用向けにAI生産 サービスを販売(社内では消費しな い) 内製化 自社生 産と購 入の混 AI 合 生 産 購入 サービス提供/企業性能向上 のため内部でAI消費 AIの巨人: 例:Google, Amazon, Microsoft, Alibaba, Tencent, Baidu AIクリエーター: 例:Accern, MonkeyLearn, Levity, AI コンサルティング・サービス AIトレーダー/インテグレーター: 例:Google翻訳サービスを使用する 翻訳会社、SalesforceまたはMSのオ ファーを統合するCRMコンサルタント、 … AIを活用したオペレーター: 例:Facebook, Uber, Spotify, ByteDance, 内部にAIパワーハウスを持 つ伝統企業 - Walmart, Ping An, … AIテイカー: 例:AI生産のほとんどをアウ トソーシングしているデジタ ルネイティブや内部AI機能が 限られている従来企業 一般企業のAIへの取組みもターゲットを絞った取組みが必要

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AIエコシステム分析の以降の枠組み • AI推進の主体である企業においても、取組み形 態は多様である(5カテゴリーで整理)。 • 特に「AIの巨人」とそれ以外のAI取組みの相違 は大きい。 • また、AIエコシステムパートナーの幅が極めて広 く先進性が強いため、政府、学術機関との関係 性も強い。 • 結果、米・中・EUなどの地政学的相違も大きい。 • そこで、以降は次の枠組みで論述する。 ⇒「AIの巨人」優位の背景: 3節で ⇒主として一般企業のチャンス: 4節で ⇒米中EUのAIシステムの比較: 5節で

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3. AIの巨人の絶対的優位性 AIの巨人が占める役割 • AIエコシステムにおいてAIの巨人が占める役 割は極めて大きい。 • 例えば、クラウドサービスの上位は殆どAIの 巨人が占有している。 – Amazon:1位、Microsoft:2位、Google:4位、 Alibaba:5位 • AI対応層の全てをカバーしている。 • キーとなる技術を主導している。 – 例:機械学習向けのプラットフォームは、Google のTensorFlow、MicrosoftのCNTK、Facebook のPyTorchなどが主導している。

19.

AIの経済学の視点から AIの規模の経済学 規模がデータの蓄積 を通じて学習開始を 容易化させる。 Google Amazon AWS Microsoft など 競争優位性を 向上させる。 オンデマンド で商用利用で きるようにす ることで競争 が激化 拡張が集中 する領域を クローズアッ プ 対応のアルゴリズム モデル(TensorFlow, PyTorch、など)は特 にML分野(自然言 語処理など)で規模 の経済にドッキング AIの範囲の経済学 ・豊富なデータを持つ企業はAIに投資し活用する動機が大きい。 ・DBが大きいほどトレーニングモデルの計算コストが削減される。 ・データセットが大きくなるほど予測精度が向上する。

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AIの巨人が有利な理由 • 「AIの規模」はAIの巨人の累積的利点を拡大 させ、参入障壁を大きくする。 – GoogleはGoogle検索からGoogle Map, Mail, 他多 様なサービスに拡大 • 「AIの範囲」は横方向に成長し、新しい垂直市 場に参入する能力を向上させる。 – Amazonはオンライン書籍販売から多種の小売業、 物流、その他の垂直市場に拡大

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4.それ以外のパートナーのチャンス その他の構成員のチャンスの典型的 側面例をクローズアップ 1. エッジによって駆動されるAIセクター 2. AIの巨人に縛られないAIコミュニティの 拡大と活用 3. AI導入に先行して成功した企業からの 示唆

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1:エッジで駆動されるAIセクター • 既存の主要技術企業はコアの強みを生かして 業界関連のエッジIoT製品を構築できる。 • 新規参入企業は新規デバイスのアプリケーショ ンや分析ソフトに焦点を当てて推進できる。 • エッジデバイスやIoTデバイスは普通AIの巨人 (クラウドコンピューティング機能所有)では作成 されない。 – 但し、スマートホーム向けにGoogle, Amazon, Apple, Zigbee Allianceがコネクテッドホームプロジェクトを発 足させた例がある。 – この種の業界標準はエッジプロバイダー、デバイスプ ロバイダーを犠牲にして、AIの巨人の立場を強化す る可能性があるので要注意 ⇒次頁図参照

23.

成長するエッジ市場における既存企業と新規参入者 デバイスエッジ ソースデバイスでのオン ボード信号とデータの処理 構内エッジ オンプレミスのインフラ 環境(例:企業、車、家 庭)での処理 アクセスエッジ RANセルサイトを介した ネットワークアクセスポイ ントとアクセスPoPでの処 理 メトロエッジ 近隣地域からの交通を カバーする主要集約ポ イントでの処理 サ ー ビ ス ソ フ ト ウ ェ ア ハ ー ド ウ ェ ア :新規参入者 出典:BCG primary and secongdary research; AI implementation projects including multiple interviews

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2.AIの巨人に縛られないAIコミュニティの拡大と活用 • ますます集中化するクラウドに縛られないよう に、 • AIコミュニティがhuggingface.coやrasa.comの ような開発コストを共有できるプラットフォーム に関与したり、サポートする傾向が出ている。 The AI community building the future. Rasa:主導的な会話型AIプ ラットフォーム。

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3.AI導入に先行して成功した企業からの示唆 AIを先行導入して成功している企業の特徴は・・ • 次のような従来とは異なる運用モデルを持つこ とが多い。 – – – – – – AIをコアに置くためにプロセスを再定義している。 データで駆動させている。 実験に従事し、リアルタイムに決定を下している。 詳細な予測を実行している。 顧客の反応から学んでいる。 製品にリアルタイムに実験を採用し、データを評価し ている。 – など

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AIを導入している企業の特徴(続) • しかし、ほぼ全ての側面で利点を備えたAIの巨 人は、AIの大規模な展開をほぼ限界費用ゼロで 実施できる。 • そこで、AIで先行している企業と言えども、 – 大きなメリットを報告しているのはわずか11% – AIインフラ、人材、戦略に積極投資した企業でさえ 21% – しかし、AIを使用した組織学習に焦点を当てた場合、 • 即ち、人間と機械のコラボレーションに明確に焦点を合わせ、 AIを大規模に実装した場合 73%に跳ね上がる。 S. Ransbotham et l., “Expanding AI's Impact With Organizational Learning”, MIT Sloan Management Review and Boston Consulting Group, 2020.

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AI導入に成功している企業からの示唆 以上のようなことから・・・ • 「運用管理、データの使用、顧客との関わり合 いに既に熟練している企業のみがAIの導入/ 展開から先行的に価値を生み出すことができて いる」と言える。 • このようなことから、AI導入の影響は重大で、 成功する企業と失敗する企業の体系的不平 等が発生する可能性がある。

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換言すると・・ • 技術への投資自体はパフォーマンス向上に 寄与しない(かもしれない)。 • 寧ろ、AI導入時のアイディアを製品、サービス に継続的に変換させる運用管理、組織機能 などに積極投資することでAI導入を補完する のがポイントになる。 • 先行してAI導入に成功した企業はこのような 優れた(ダイナミックな)スキルに恵まれてい たと言うことができる。

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5.各地域特性の影響 米国、中国、EUの対比 • AIエコシステムはその環境によって部分的に (あるいはかなりの部分)形成されて来たと言 える。 – 商業的、学術的、規制的、政治的、文化的背景など で地政学的に大きな相違が発生しているので • その状況の典型例を米国、中国、EUの相違 で見る。 ⇒アンケートによる相違: 次頁 ⇒イノベーションシステムの相違: 次々頁

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米国/カナダ、中国、EUのAIソリューションへの信頼の相違 質問 米国,カナダ 中国 EU AIのエンドユーザーは通常、AIソリューションの決 定を信頼するか? 39% 86% 45% AIのエンドユーザーは、AIがビジネスの成果を向 上させると信じるか? 54% 88% 62% AIのエンドユーザーは、特定のリコメンデーション の背後にある理由を理解していると思うか? 39% 85% 42% AIのエンドユーザーはAIシステムの限界を理解し ていると思うか? 35% 80% 28% 我々は顧客がAI主導の製品を求めるのでAIに関 心を持っていると思うか? 61% 87% 63% 我々はサプライヤーがAI主導の製品とサービスを 提供するのでAIに関心を持っていると思うか? 72% 89% 69% 我々はAIの開発コストを理解していると思うか? 50% 90% 54% 我々は最初から部門の枠を超えたチームを編成 していると思うか? 56% 84% 61% Source: BCG/MIT Survey, 2020. • 中国のAIユーザーは特にAIソリューションに非常に高い信頼性 を示していたことが注目される。

31.

米国、中国、EUにおけるAIセクターのイノベーションの違い 米国 技術企業(垂直統合スペシャリストやデジタル巨人)が既存企業に取って代 わり、新しい垂直市場に移行する。 セクターX セクターY 既存企業 既存企業 代替する 政府は企業や機関 をプッシュする戦略 代替する 技術巨人の 垂直子会社 技術巨人の 垂直子会社 技術的能力 技術的能力 AIの結果としてセ 巨大技術企業(および急成長している新技術プレーヤー)が、 クターはどのように 十分な速さで適応できない既存企業を押し出して、ローカルお よびグローバルにサービス提供する範囲を拡大する。および既 変化するか? 存企業をも調整しようとする。

32.

米国、中国、EUにおけるAIセクターのイノベーションの違い 中国 政府の指導を受けた技術企業が既存企業と協力してAI変革をサ ポートするエコシステムを調整する。 政府はAI採用とイノ ベーションを推進するた め企業や機関を「引っ 張る」ガイドを行う戦略 セクターX 技術企業 技術的能力 データ/顧 客にする パートナーにな り移管する 既存企業 データ/顧 客にする 既存企業 AIの結果としてセ 既存企業と「変革者」(テクノロジー企業、テクノロジー機能 クターはどのように を備えた既存企業)間のパートナーシップを通じて変革する。 変化するか?

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米国、中国、EUにおけるAIセクターのイノベーションの違い EU 既存企業が(少数の)焦点を絞った新規参入者と共にアップグレードや コラボレーションを行ってAI機能を統合している。 セクターX パートナーになる 既存企業 既存企業 政府は企業や機関を プッシュし、コラボレー ションを促進させる戦略 統合する (タレント企業、 スタートアップが) 技術的能力 一般的な技術 サービスを提 供する 技術企業 AIの結果としてセ クターはどのように 変化するか? 既存企業が(スタートアップを含む)技術パートナーの独自 エコシステムと調整したり、AI部門を構築したり、提携を結ん だりすることで、AIを活用するために自らを再発明する。およ び既存企業と協力する幾つかの新プレーヤーが参入する。

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AI推進の特徴(まとめ) • AIに先行した米国は従来から新陳代謝が激 しい社会で、AI推進においても、Googleなど 新興企業が既存大企業を代替する形で変化 をスタートさせた。 • その結果、GAFAなどのビッグ技術企業が登 場し、彼等のダイナミックな手法と、蓄積され た利益がAI分野に大規模に投資されることで AI推進が行われた。 • 一方、他地域はこのような米国の状況を踏ま えた上で地域独自の方法で対応策が取られ た。

35.

3,4,5節の中間まとめ 1. AIの巨人の優位性はほぼ絶対的で、最近の 先進技術にしばしば見られる先行投資者優 位が顕著に表れている。 2. 一般企業のAIの巨人と差別化した取組みの ポイントも顕在化している。技術指向だけでは 駄目で、AI導入時にそれを補完する運用管 理、組織形態、顧客との関わりなどへの積極 投資が必須になっている。 3. また、先行投資の効果が大きいことから、国主 導の政策が奏功する可能性が高くなっている。 4. このような特性を踏まえAIエコシステムの進化 を急激に駆動させることが重要になっている。

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6.どのようにAI推進に取組むべきか AI変革の起源とその後の状況 • 元々はGoogleなどベンチャー企業が大企業 を代替する形で立ち上がった。 • この間、アカデミズムから民間企業へのAI人 材の大量移動も発生した。 • その結果、技術体系自体が更新され、 • 彼等がビッグ技術企業になった後も、大企業 とベンチャー企業間のコラボレーションによっ て大規模変革が継続した。 • 中国やEUも米国のこのような状況を参考にし て(または真似たり、状況を踏まえて)地政学 的に独自の進化を推進させた。

37.

AI進化のダイナミズムの要因 • その中で、AIが安全保障と関連することもあ り、技術競争の進化のパターンを形成する上 で政府の役割が大きくなった(特に中国)。 • また、異なる多様なアクター、各自の能力、制 度との相互作用などで地域性が出た。 • これらは各地域の文化的特性が影響し、特 に大規模システムにおいて特定機関がシス テム進化に介入する余地が生じた(例:中国 の住民監視システム)。

38.

様々な進化のアプローチ • AIエコシステムの進化のダイナミックスは既 存進化アプローチに単純には合致しない。 • そこで、既存の3アプローチに照らしてみる。 • ナショナルイノベーションシステム・・・(大規模 技術システムの進化) 進化パターン1 • イノベーションエコシステム・・・(産業構造と組 織の同時変化) 進化パターン2 • デジタルプラットフォーム・・・ (プラットフォーム を基盤とした構造変化) 進化パターン3

39.

システムの進化パターン1とAI世界 基礎(左) → 拡張(右) ナショナルイノベーション システム 焦点を当て ている点 AI関連のコ ア要素 指標となる 貢献者 パートナー間の相互作用 (例:3重らせんモデル) イノベーションの軌道を 産業界、大学システム、政府の 形成する上での各国政 関係者間の動的でオープンエ 府の役割。 規制と政府 ンドな相互作用 が支援している研究など を通して • 欧米と中国のイノ ベーションシステム間 の競争 • AIライブラリーの組 織化へのさまざまな アプローチ Freeman; Nelson; Lundvall • 基本的なAI研究における 民間企業の役割の増大 • 企業がAIでできることを形 作るデータポリシー • AI状態サポートダイナミクス Etzkowitz & Leydesdorff

40.

システムの進化パターン2とAI世界 基礎(左)→拡張(右) イノベーションのセクターシス テム/産業アーキテクチャ セクター固有のパターンを形 成する際のテクノロジー、アク 焦点を当てて ター、および機関間の動的な いる点 相互作用の分析。セクター内 の分業における内因的に進化 するルールと役割 ビジネスとイノベーションのエコシ ステム 競争と協調のダイナミクスと補 完者に重点を置く。 直接的およ び間接的なネットワーク効果重 視。 主要なオーケストレーター を取り巻くすべてのダイナミクスと イノベーション • アップストリームAI機能と • アプリケーション固有のダウン 全体的なデータインフラス ストリーム補完機能と新しい AI関連のコ トラクチャの開発における データ駆動型ビジネスモデル ア要素 AIの巨人の役割 の新たな役割 • コーダーコミュニティの役割 • 企業固有のエコシステム戦 略 Adner & Kapoor; Jacobides et al 指標となる貢 Malerba & Orsenigo/ Jacobides & Winter 献者

41.

システムの進化パターン3とAI世界 基礎(左) → 拡張(右) 焦点を当て ている点 AI関連のコ ア要素 指標となる 貢献者 複雑な技術システム デジタルプラットフォーム 複雑なシステムの内部ダイ ナミクス、それらの進化する アーキテクチャや相互依存 性に着目。 産業レベルでの コア周辺構造の出現と安定 性を注視 技術システムのデジタル化可能な 進化可能性と生成可能性に着目。 新しいアプリケーションの継続的な 参入と永続的な出現。 補完者を 引き付けて活用するためのプラット フォーム所有者の戦略的選択 • AIシステムのアーキテク チャ(即ち、有効化、生 産、消費など) • 企業と技術の選択間の 関係 • キープレーヤーとその補完者の 戦略 • 様々なデータとライブラリの役 割 • クラウドテクノロジーとエッジテク ノロジー間の相互運用性(また はその欠如) Gawer & Cusumano; Parker et al; Boudreau Hughes; Hobday; Rosenberg

42.

AI世界の進化とガバナンス 変革とコントロールのバランス確保が必要 ナショナルイノベーションシステムとその発展 ・関係者間のオープンな相互作用 ・AI研究における民間企業の役割増大 ・AIでできることを形成するデータポリシー ・AIサポートのダイナミックス イノベーションエコシステム デジタルプラットフォーム ・競争と協調のダイナミックスと補 完者の役割 ・新しいデータ駆動型ビジネスモデル ・企業固有のエコシステム戦略 ・キープレイヤーと補完者の戦略 ・様々なデータとライブラリーの役割 ・クラウド技術とエッジ技術の相互運用 ・新たなアプリケーションが継続的に参 入/出現

43.

AIにおける3パターンの組合せから・・ • 米中EUなど各地域の進化のダイナミックスは、 3パターンの組合せや重点の置き方の違い、あ るいはその先の進化に向けて他を意識した取組 みによって変革を継続させている。 • 進化の状況を幾つかの視点で推測する。 ① Q&Aの設定から ・・ 次頁 ② 主要パートナー間の関係性から ・・ 次々頁 ③ 「AIの巨人」と一般企業の境界から・・その次の頁

44.

① Q&Aから見た主要AIエコシステムの特徴 • AIは最終的には生産性と成長を向上させる汎用 技術か? – Yes ⇒公的資金援助に値するが、 – No ⇒公的支援/政府援助は別の意図か? • AIは特定の「AIの巨人」がニーズに合わせて推 進したものであり、オープン共通ライブラリー提供 も彼等の利益獲得の範囲に留まるのではない か? – Yes ⇒新たな垂直市場への拡大はやりすぎか? – No ⇒特定セクターや国はどこまで責任を負うべき か? • 国/セクターレベルのAIエコシステム進化に関わるダイナミ ズムが必要ではないか?

45.

② AIエコシステム主要パートナーの関係性の例 AIの巨人 ② 政府 (政策立案者) ④ 一般企業 ① ③ ① 研究機関 1. 主要研究機関とAI生産企業間には密接な関係性が有る。 2. デジタル高度化はAIの使用と生産性向上の前提条件である。 3. AI生産にとって、当該分野の専門知識の存在はコアAI機能を補 完する重要な要素である。 4. AIが汎用技術でない場合は、政府がAIに全面的に助成するので なく、AIに従事する特定事業者(あるいは事業)を選別して対処す べきか?

46.

③ 「AIの巨人」級と先進AI企業の競争の例 前頁の3と「AIの巨人」級の垂直市場への参入の比較 • 「AIを活用したオペレーター」のビッグ企業は必 ずしも垂直市場への参入で成功しない傾向も出 ている。 – Facebook Dating(出会い系サービス)でのつまずき • 米国連邦取引委員会は、プライバシー保護に関する過失 に対し、Facebookに記録的(約5345億円)罰金を科し、ユー ザーのプライバシーを扱う際の判断について、より重い責 任を負うように指示した。 – Uberの自動運転車資産の売却 • Uberは自動運転部門のUber ATGをAmazon系の自動運転 ベンチャーAuroraに売却した。 – など

47.

今後のAIの戦略的選択 • 現在、エッジコンピューティングに絡むAIベン ダーの登場が著しい。 • これはAIに関係する企業の幅を大きく変化させ る要因となりうる。 • また、データの取り扱いについての関心も高まっ ている(例:EUのGDPRなど) • 一般企業のAIに取組むチャンスも増大している が、前提条件の順守はより厳しくなっている。 • AIエコシステムの進化のダイナミックス拡大と、 独占禁止法検討のせめぎ合いも発生している。 • 企業、政策立案者、その他のエコシステムパート ナーにとって、米中の地政学的競合などの注視 が一層必要になっている。

48.

どのようにAI推進に取組むべきか(まとめ) 1. AI技術は汎用技術でないかもしれないが、先行投資 の優位性を確保するため、特定AI技術の効用が見 通せない段階でも投資判断する必要がある時がある。 2. そして、支援の選別が必要な場合には、対象者が曖 昧な段階でも早期判断が必要な時もある。 3. AI導入を成功させる事業者は当該分野の専門知識 とAI導入を補完する各種への積極投資、それを可能 にする組織風土が必要になる。但し、それらの特性は 基本的には当該組織の自律性に依存する。 4. 即ち、企業も国もAI推進において独自の進化のダイ ナミックスが求められる。 5. また、AIの技術的覇権(あるいは相対的ポジショ ン)は一国の成長戦略の要なので、支援は各国間の 相対的ポジション期待も判断材料になることがある。

49.

AIの軍事利用加速への対応と民主主義主導 • 本年7月13日、NSCAIが主催する米議会の独立 委員会で先端技術の国際協力を議論する国際 会議が開催された。 – 前述のNSCAI報告書では、AIを「莫大な力を持つ技 術であり、民主主義に基づいて開発・使用されなけれ ばならない」とし、民主主義主導を主張としている。 • その場で、オースティン米国防長官は講演し、 「AIの活用を通じて将来の軍事的優位性を向上 できる」と強調した。今後5年で約15億ドルのAI関 連研究開発費を投じることも表明した。 • 既に米国、中国、ロシアはAIに関する戦略を策 定し、産学官連携で様々な研究開発を推進させ ている。 • 最近公開の日本の防衛白書でもAIの軍事利用 の詳細が記述された。

50.

日本の今後のAI推進について • 既存の技術戦略のスケールを超えてAI推進 の重要性が高まっている。 • 「AIの巨人」優位の中で米中2大AI巨人国の 戦略が増々ぶつかる状況にある。 • その中でより重要な役割を期待される日本は、 従来のAI基盤を見直し最適なAIエコシステム 再構築に早急に取り組むべきである。 • その際、パートナーそれぞれの能力向上だけ でなく、相互連携の強化など、司令塔を明確 に立てた総合的推進に取組むべきである。 • 加えて、独自の文化的視点に立脚した適切 な進化の遂行が必要である。