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March 03, 23
スライド概要
多くの製造企業はデジタルサービス化を目指しているが、デジタル化とサービス化は、実際にはそれぞれの性格を持ち、容易には統合されない性質も持っている。そして、両者の適切な関係性を構築することはDX化のX(トランスフォーメーション)にも深く関わっており、検討の優先度は高い。
その一方、両者の統合によるデジタルサービス化の実現は選択の幅が急激に拡大するため、複雑性の発散も生じかねない。そこで、特に複雑性の制御に焦点を当て、代表的な先行企業の取組みと、それらの分析から抽出した、これからのデジタルサービス化へ向けた取組みの指針を提供する。
定年まで35年間あるIT企業に勤めていました。その後、大学教員を5年。定年になって、非常勤講師を少々と、ある標準化機関の顧問。そこも定年になって数年前にB-frontier研究所を立ち上げました。この名前で、IT関係の英語論文(経営学的視点のもの)をダウンロードし、その紹介と自分で考えた内容を取り交ぜて情報公開しています。幾つかの学会で学会発表なども。昔、ITバブル崩壊の直前、ダイヤモンド社からIT革命本「デジタル融合市場」を出版したこともあります。こんな経験が今に続く情報発信の原点です。
デジタルサービス化 Ⅳ B-frontier研究所 高橋 浩 デジタルサービス化による 変革(改訂)
自己紹介 - B-frontier研究所代表 高橋浩 • 略歴: • 元富士通 • 元宮城大学教授 • 元北陸先端科学技術大学院大学 非常勤講師 • 資格:博士(学術)(経営工学) • 趣味/関心: • 温泉巡り • 英語論文の翻訳 • それらに考察を加えて情報公開 • 主旨:“ビジネス(B)の未開拓地を研究する” 著書: 「デジタル融合市場」 ダイヤモンド社(2000),等 • SNS: hiroshi.takahashi.9693(facebook) @httakaha(Twitter)
本編の目的 デジタル化とサービス化の関係は充分には理解されていない。 背景: 両者の適切な関係構築はDX化のX(トランスフォーメーション)に特に 関わり、検討の優先度が高い。 デジタルサービス化(Digital Servitization:DS)の概念を導入する。 検討: 特に複雑性の制御に焦点を当てる。 先行事例の分析の枠組みを示す。 結果: 今後の取組みの指針を示す。 3
内容 1. DS化の概念 2. DS化のモデル 3. DS化のプロセス 4. DS化による複雑性 5. DS化とプラットフォーム 6. 今後に向けて 4
1.DS化の概念 デジタル化とサービス化の統合を大きな視野で把握する。 • DS化とは「製品中心のBM(ビジネスモデル) ① からサービス中心のBMへの変革プロセスのた めにデジタル技術を利用する」ことと捉える。 + • サービス化を実現するためのソフトウェアを含む ② システム化としても把握する。 + • 多様なパートナーと連携したサービスエコシス ③ テムとしても把握する。 5
DS化の概念図 • DS化は統合された製品サービスソフトウェアシス テムに決定的に依存 デジタルサービスビジネスモデルのイノベーション サービス 製品 ソフトウェア サービス化 デジタルサービス化(DS化) 製品サービスソフトウェアシステム 製品およびアドオンサービス から 統合された製品サービスソフトウェアシステム への移行
DS化を実現している先進企業 海事産業分野の中心企業 ABB Marine & Ports • • 多国籍船舶所有者および運航者に海上ソリューションを提供する大手プロバイダー ABB Marine & Portsのシステムはモラー・マークスはじめ世界の大手海運会社に提供 されている海上&陸上オフィス向け総合海上ソリューションシステム 製造企業ABBが各種海事従業者向けに統合サービスを提供している 7
ABB Marine & Portsの概要 歴史 • DS化に向けた取り組み は 10 年以上 • 以前は製品サプライヤー だったが、2006~2009 年 頃にシステムインテグ レーターに転身 • 統計学者やビジネスアナ リストなど、新システムに 向けて新たな従業員を採 用 中身 船舶に搭載する新たな機器を特別開発 • 既存機器を改良し監視・リモート診断やトラブルシューティン グができるように変更 • その機器を3rdパーティのハードウェア向けにも拡張 • 船舶のエネルギー使用を最適化するためエネルギー消費を 監視し、航行条件 (天候など) 下での意思決定もサポート • 機器と連動したバックオフィスプロセスの変更も実施 建設中の船舶に機器を事前に搭載する戦略も実 施 初期には無料提供。最終的には保証期間終了後 も有償サービスを利用し続ける顧客が大幅増加 8
仮説の設定 DS化は極めて自由度が大きく高レベルの複雑性を生じさせる。 そこで、以降の検討を進めるため次の仮説を設定する。 仮説1: モジュール化は複雑性を軽減する標準的方法だが、この延長でルールを規 定しオープン化すると価値獲得を毀損する場合がある。 仮説2: プラットフォームも複雑性を制御する能力を持つが、提供価値の共有性を 意図しレベルを下げ過ぎるとパートナーが集まらず、逆に特定機能に由来 した高レベル価値を提供するとパートナーを限定せざるを得ない場合があ る。 9
2. DS化のモデル 本節では複雑性を軽減するモ ジュール性に着目することから モジュール性関連の4つの切り口 検討を開始する(仮説1)。 ① ビジネスモデルのモジュール性 ② 製品のモジュール性 ③ サービスのモジュール性 ④ ソフトウェアのモジュール性 10
① ビジネスモデルのモジュール性 企業は、ビジネスモデル構造の完全な再設計から特定モジュール の変更まで可能である。 ⇒ビジネスモデル革新の試行 企業は、様々な統合プロセスを分離し、必要に応じて特定プロセ スを組織外に移転することが可能になる。 ⇒技術大手や新興企業と協力してシステム開発 企業は、ソリューションのカスタマイズや多様なニーズの増加に 直面した際、戦略的柔軟性や効率の高い運用、業績改善などが可 能になる。 11
② 製品のモジュール性 • 製品システムはモジュラーからインテグラ ルまで次のような特性によって描写される。 特性項目 コンポーネントの標準化 コンポーネントの共有 製品の多様性 カスタマイズの程度 モジュラー インテグラル 高 ←→ 低 高 ←→ 低 高 ←→ 低 高 ←→ 低 モジュラーの例 LEGOのおもちゃ 自転車 エレベーター 携帯電話 インテグラルの例 フェラーリのSF1000 スペースXのファルコン シーメンスのMRI装置 12
③ サービスのモジュール性 • サービスシステムは次のような特性によって基本サー ビスから高度サービスまでの連続体で描写される。 特性項目 コンポーネントの標準化 複製可能性 付加価値要素 差別化の程度 基本サービス 高度サービス 高 ←→ 低 高 ←→ 低 低 ←→ 高 低 ←→ 高 基本サービスの例 簡単な修理とメンテナンス コールセンター スペアパーツの手当て 高度サービスの例 専門サービス 再現性の低い個別対応 顧客ニーズに応じた専門対応
④ ソフトウェアのモジュール性 • ソフトウェアシステムは固有の価値創造とデー タ由来の予期しない価値創造を生み出す能力が あり、次のような制御が必要である。 特性項目 オープンサービス クローズサービス データの標準化(オープン性) 標準化されたデータの使用 パーソナル/ライバルへのデータアクセス許可 高 ←→ 低 高 ←→ 低 高 ←→ 低 オープンサービスの例 VISAのVISA NEXT NASDAQのDate-on-Demand クローズサービスの例 ABBのABB Ability SiemensのMindSpher GEのPredix
モジュール性を起点としたDS化のモデル レベル1: ビジネスモデルイノベーション レベル2: システム レベル3: アーキテクチャ デジタルサービスビジネスモデルのイノベーション 製品 モジュラー サービス サービス化 インテグラル 基本 高度 DS化 ソフトウェア オープン クローズ レベル4: モジュール 製品アーキテクチャ サービスアーキテクチャ ソフトウェアアーキテクチャ
3.DS化のプロセス • 本節では前節のモジュール性に基づいてDS化のプロ セスを検討する。 • 基本的枠組み: • 製品システム: • モジュラー vs インテグラル • サービスシステム: • 基本サービス vs 高度サービス • ソフトウェアシステム: • オープンサービス vs クローズサービス 16
サービスカテゴリーマトリックス • 製品システム(2種)、サービスシステム(2種)の組 合せによリ、4つのサービスをカテゴリー化する。 17
サービス1~サービス4の解説 Ⅰ• サービス1:モジュラー製品システムと基本サービスシ ステムの組合せ • 組込みコンポーネントを多くのサプライヤーに外注 できる疎結合製品 Ⅱ• サービス2:モジュラー製品システムと高度サービスシ ステムの組合せ • 特定製品システムに合わせて調整された継続的アッ プデートが行なわれる疎結合製品 Ⅲ• サービス3:高度サービスシステムと統合された製品シ ステムの組合せ • コンポーネントを共有せず、カスタマイズ程度が限 定された少数バリエーションで構成される製品 Ⅳ• サービス4:統合された製品システムが基本サービスシ ステムと結合した製品 • 複雑な製品システムであっても顧客が基本サービス のみを求めるような場合 18
DS化へのプロセスモデル サービスカテゴリーマトリックスに ソフトウェアシステムを追加する 高度サービス サ ー ビ ス シ ス テ ム 基本サービス モジュラー インテグラル 製品システム サービスカテゴリーマトリックス DS化の立体図(DSキューブ) 19
DSキューブへのマッピング 1. DSキューブに移行するには、製品サービスソフト ウェアシステム(PSSw)を再構成し必要なレベルの 統合・分解を行う必要がある。 2. 最適なPSSwを特定し、既存リソースを再構成し、 新しい機能を開発する必要がある。 3. PSSwをモジュールに分解することで、標準化とイ ノベーションを考慮し、異種モジュールとの再結合 や代替を行う必要がある。 4. アーキテクチャレベルの革新を行うことでPSSwモ ジュールを新しいビジネスモデルに再構成すること もある。 20
ABB Marine & Portsの場合 DS化のモデル 早期にビジネスモデルを製品 中心からサービス指向に明確 にシフトしている。 新規開発機器を3rdパーティー 向けにも拡張し、パートナーと の連携を拡大している。 当初、全顧客にサービスを無 償提供し、価値あるデータを収 集している。 DS化のプロセス • 顧客ニーズに合わせ航行条件最適化 機能、バックオフィス機能などのカ スタマイズを実施している。 • サービスカテゴリーはサービス3で 開始している。 • DS5→DS4→DS6でプロセス移行し ていると推定 • 当初の高度・統合サービスレベルを モジュール化/標準化等の実施で連 携ソフトと整合を確保した後、DS化 段階での再統合に移行している(仮 説1対応)。 21
4.DS化による複雑性 複雑性について再考 • サービス化でビジネスの複雑性は増大し、次のように複 雑性は拡大する。 • DS化は多様性、相互依存性、変動性で複雑性が拡大 • デジタル技術の採用増加により複雑性が拡大 • スマート・コネクテッド製品の普及、クラウドコンピューティングの普及、 ビッグデータの分析によるフィードバックの普及、IoTの普及、デジタルプ ラットフォームの普及、拡張現実他の先進技術の採用、など • サービス提供と提供プロセスの不確実性により複雑性が拡大 • 収益増加の不確実性により複雑性が拡大 22
複雑性の課題への基本的姿勢 • 課題対応の一般的方法は存在する。 • • • • サービスの標準化とモジュール化 エコシステムアクターのオーケストレーションおよび統合化 デジタルプラットフォーム活用によるサービスビジネスの組織化 など • しかし、本質的には完全な解決は不可能な世界で ある。 • 本節では、複雑性の軽減よりも、複雑性の管理に 焦点を当てる。 23
複雑性の管理 • 複雑性を管理する2つの 方法がある。 • 環境の解釈を簡易化し組織 対応の多様性を低く抑えて 複雑性を軽減する(削除戦 略)。 • 環境の複数の解釈を敢えて 許容(あるいは意図的に実 施)することで複雑性を吸 収する(吸収戦略)。 • 複雑性の性質も2種類存 在する。 • 認知的複雑性: • アクターが交換する情報 の多様性が関係する。 • 関係的複雑性: • アクター間の相互作用の 構造(行為)が関係する。 24
複雑性の概念的フレームワーク Ⅱ 複 雑 性 管 理 の ア ク シ ョ ン • 吸収戦略 • • • 削除戦略 • Ⅰ Ⅲ サービス プロセスにアジリ ティを追加する 実行の自由度を追加する 発散を追加する • • サービスネットワークを 形成し拡大する ネットワーク内の接続 の多様性を高める • 標準化されたルーチンと プロセスを定義する 標準化された製品、マスカ • スタマイゼーションを使用す • る モジュラー提供構造を使 用する モジュール編成を使用す る ソリューションを統合する 認知的複雑性 関係的複雑性 複雑性の性質が異なる構造(行為) サービス 化におけ る複雑性 の管理: 最適な複雑性 レベルを追求す べきである Ⅳ
複雑性フレームワークの解説 Ⅰ• 認知的複雑性・削減戦略 • 製品を簡素化し、製品化されたソリューションとマスカスタ マイズされたサービスを提供 Ⅱ• 認知的複雑性・吸収戦略 • 様々な企業のプロセスと製品を拡張し、複数のビジネス目 標を追求 Ⅲ• 関係的複雑性・吸収戦略 • 多様な組織間および組織内の関係をサービス組織に埋め 込む Ⅳ• 関係的複雑性・削除戦略 • モジュール化手法を調整して複雑性を軽減 26
削除戦略と吸収戦略の関係 • 複雑性を軽減するメカニズムは複雑性を制御できるが、多様 な顧客ニーズには対応できない。 • 複雑性の削減戦略と吸収戦略はお互いに挑戦あるいは拮抗し 合う。 • 企業は以下のような側面で最適な複雑性を追求すべきである。 • アジャイルなプロセスか vs 標準プロセスか • 多様な製品か vs 標準化された製品か • モジュール化によって拡張・多様化を維持するか vs 統合によって 安定性&差別化を追求するか 27
複雑性対応 • 船舶所有企業は多様(規模、航行海域、船種、品物、季節 変化、・・)である。 • そして、世界的レベルで一貫した対応が必要である。 • 人工衛星利用、各種港湾設備との連携、船舶規格など対応が複雑 • 船舶に搭載される特定機器の機能・バージョンも多様 • DS5→DS4→DS6のように、一旦モジュール化/オープン化 してPSSwを再構成する。しかし、その上で、 • 削減戦略と吸収戦略を組合せて統合化を押し進め、それぞ れの環境に最適な複雑性レベルのニーズに対応することが 必要になる。 • 削減戦略 • 新規搭載機器の標準化、モジュール化、・・ • 吸収戦略 • 旧機種のインタフェースを吸収、互換性の保証、・・ 28
5.DS化とプラットフォーム プラットフォームの利用 • 本節では複雑性を制御するプラットフォームの能力に焦点 を当てる(仮説2)。 • プラットフォームは以下のような手段で複雑性を軽減できる。 ✓ APIやデバイス相互運用の共通ルール、プロトコルで ✓ マーケットプレースとして組織化することで ✓ ユーザーがソリューションを自己開発できるツール提供で ✓ プラットフォームをオープンにし、参加者間の相互依存性増加でネットワーキン グを促進することで、など • 実際にはこれらが相乗効果(次頁図①,②)を発揮できる可能 性がある。 ① ② • プラットフォームは複雑性を制御しながらシステム機能の多様 性を最大化できる可能性がある。 29
プラットフォーム:複雑性を制御する新たな手段 Ⅱ 複 雑 性 管 理 の ア ク シ ョ ン 吸収戦略 削除戦略 オープン化を促進しネット ワーキングを強化する • 多様なリソースの組み合わ せを受け入れる • コラボレーションを強化する ① ためのツールを提供する • • ソリューションの自己開 発を促進させる • 共通ルールとプロトコル を設定する マーケットプレイス論理 を使用する • Ⅲ ② • プラット フォーム での複雑 性管理: メカニズム間の 相乗効果を追 求すべきである モジュール性を使用する Ⅳ Ⅰ 認知的複雑性 関係的複雑性 複雑性の性質が異なる構造(行為) ① プラットフォームが共通のルール、プロトコルを採用することで市場を作成し、安定した相互作用 が可能になる。 ② システム部品数が減少することで高度なソリューションの自己開発が容易になる。
DS化でプラットフォームを利用している先進企業例 航空機産業分野の中心企業 Airbus Skywise • • SkywiseはAirbus社が米Palantir社と共同開発したオープンデータプラットフォーム 自社機だけでなく航空機の部品企業、整備企業等を含めて世界30社以上が利用 (航空会社ではエミレーツ航空など。日本ではLCCのピーチが使用) 製造企業Airbusは各種航空機事業従業者向けサービスを開発し提供している 31
Airbus Skywiseの概要 歴史 • 航空宇宙産業の中心的企業 の一つ • 航空宇宙産業では、航空機、 エンジン、コンポーネントの製 造企業で資産売却を含む価 格競争が発生 • このプレッシャーを克服する ため、Airbus社も航空機の保 守、修理、およびオーバー ホールを含む新サービスを新 収益源にする活動を開始 中身 米Palantir社と共同でAirbus関連のトータルデータプ ラットフォームを開発 それをオープン化して既存の保守運用会社および 航空機運用会社に提供 • 既存の保守会社(例:Lufthansa Technik の Aviatar など)と も競合はしているが、 • DS化の推進で有利にサービス提供している状況 DS化は航空宇宙産業に破壊的な影響を及ぼし企 業内および企業間のビジネスを大きく変化させてい る。 32
6.今後に向けて • 以上を踏まえ、欧州先進企業と対比できそうな日 本の先進企業を抽出し,DS化成功の秘訣を探る。 比較システム 特定用途向け 総合システム プラット フォーム利用 の専用システ ム 欧州の先進事例 日本の類似事例 相違点 ABB Marine & ブリジストンの フリート管理シス Ports テム ブリジストンのシ ステムは未完成。 実現は今後 Airbus Skywise スマートコンストラクションの 一部を切り出して 提供しているので、 汎用型に近い面が ある コマツ LANDLOG 33
ブリジストンのフリート管理システム 1. 2. 3. 4. ブリジストンは「サステナブルなソリューションカンパニー」のビジョンを掲げ、 昨年、車両管理ソリューションを米国で展開するAzuga Holdingsを買収した。 既に同様のサービスを欧州で展開しているWebfleet Solutionsも買収している。 両社合計で既に累計契約台数が約100万台を超え、世界全体でフリート(運送事業 者)管理サービスを提供している。 5. それとは別に、最近、「半導体チップ入りタイヤ参入」も発表した。 6. タイヤ予測・メンテナンスの高度化とフリート管理を融合させたDS化を目指している。 製造企業ブリジストンは運送事業者向けサービス提供を既に開始しており、順次 自社製品と運用事業者向けサービスとの融合高度化を実現しようとしている。 34
欧州先進企業と日本企業の比較一覧 仮説1 仮説2 ABB Marine & Ports ブリジストン フリート管理 システム *1 ◎ *2 今後 Airbus Skywise コマツ LANDLO G *3 〇 *4 △ 35
* 1. 製品サービスソフトウェアシステム(PSSw)を再構築し易く するため、一旦モジュール分割し標準化などを進めたのち、 顧客ニーズにカスタマイズするため再クローズ化も進め差別 化している。 * 2. 買収した欧米の車両管理ソリューションと自社のIoT搭載タ イヤ由来の機能等を融合させた新たなサービス機能の提供を 想定しているが今後多くの日時が必要である。 * 3. Skywiseは元来、自社航空機Airbusを管理するために作成し たシステムを保守会社、Airbus機運用航空会社にも公開した システム。提供機能レベルを維持しながらパートナー企業に も機能提供は稀有の差別化と言える。 * 4. コマツのスマートコンストラクション機能の一部を切り出し、 他建機利用ユーザーを含む幅広いユーザーへのサービスを目 指したシステム。一定程度のサービス拡大を実現しているが、 仮説2のトレードオフを克服できていないと推定される。 36
DS化に向けた先進企業の評価 特定用途向けソリューション プラットフォームを活用したソリューション • 卓越した製造企業が特定グロー • 寡占業界の寡占企業は圧倒的 に有利である(Airbus)。 バルニーズを早期に発見し早く から準備することは有利に働 • 卓越した企業が先行している く(ABB Marine & Ports)。 自社ソリューションを切り出してプ ラットフォーム展開すること • 自社製品由来のサービスビ は有りだが(LANDLOG)、 ジョンの範囲内でITベン 想定パートナー群の特性や層の厚 チャー企業を買収しDS化を進 さなどで、競争企業との間に める方式は有りだが、組織改 差異が生じる可能性がある 革、実施スケジュールなどに (仮説2)。 は細心の注意が必要である (ブリジストンのフリート管 理)。 37
DS化に向けた指針 特定用途向けソリューション • 一般に自社製品の独自活用に起因するビジョンの構想が 出発点になる。 • 併せて顧客向け最終ソリューション提供までの長い期間 と自社組織の抜本的変革のロードマップが重要になる。 • 一方、何を目指すかのアイディア抽出はかなり難しく、 また、完成までの道程も長い。 • それに耐えうる経営陣・従業員の意識改革とガバナンス も重要になる。 38
DS化に向けた指針(続) プラットフォームを活用したソリューション • プラットフォーム活用は押しなべてIoTプラットフォーム 的傾向を持つ。 • 取組みの容易さは有るものの、世界には数百種のIoTプ ラットフォームが乱立している。 • そして、現在までに、IoTプラットフォームがGAFA流プ ラットフォームのように寡占化する兆しはない。 • このような状況では寧ろ、想定されるパートナー群のス キルや層の厚さ、顧客の想定領域、価値共創の可能性な どの方がより重要性が高いと言える。 39
DS化による変革(まとめ) 1. 自社は、今の仕事をこのまま続けて行って今後とも生き延び られるかを問う必要がある。 2. もし難しいと思うなら、何をすべきかを考えなければならな い。 3. そのビジョンが例え夢のようなものであっても、実現に向け て着手することが求められる。 4. その際、DS化の概念は、可能性が如何に幅広いものであるか を示唆する。 5. しかし、その一方、実現に向けては途方もない複雑性が発生 することを肝に銘じる必要がある。 6. 複雑性を制御する方法の一端は提示しうるが、実質的には挑 戦者自身が変化の都度対応するしかない。 7. 先進企業の事例は、その長い歩みへの若干の道しるべを提示 している。 40
結論 1. ビジョン構築の肝は顧客に何(What)を届けるかの発想力に ある。 2. その中に、自社技術を拡大解釈してWhat実現に貢献しうる箇 所を発見する必要がある。 3. もし、ビジョン構築に有用な外部パートナーやソフトベン ダーが見つかれば、エコシステム構築や買収、連携を準備す る。 4. これ等と連携を取るためにも、自社システム刷新と組織組み 換えのロードマップを作成する。 5. このような過程を進める上で生じる複雑性の制御と将来の利 益獲得は必ずしも両立しない危険性がある。 6. この間のバランスを維持しつつ、ビジョン実現の全体的進捗 を粛々と進めるため、アジャイルな意思決定と適切なガバナ ンスを重視する。 41
文献 • 2,3節は、主として、Juliana Hsuan et al., “Exploring digital servitization trajectories within product–service–software space”, International Journal of Operations & Production Management 2021. を参考にして作成した。 • 4,5節は、主として、Ville Eloranta et al., “A complexity management approach to servitization: the role of digital platforms”, International Journal of Operations & Production Management Vol.41 No.5,2021, 622-644. を参考 にして作成した。 42