495 Views
February 24, 25
スライド概要
最近のDeepSeek騒ぎでNVIDIAへの成長期待は低下するのか?とか、半導体産業の未来に影響はあるのか?など、色々と生成AI起因の話題はメディアを賑わし続けている。・・・その震源地であるChatGPT登場から2年3カ月経過したが、振り返って見ると、この間業界変革についての認識の変化は並大抵ではなかったように感じる。・・・このような変化の流れは、嘗てのメインフレームからPCへ移行、更にはあらゆるものがスマホに移行のような大変革に繋がるのだろうか?
このような問いは時期尚早の感があるが、皆が関心を持っているテーマには違いないだろう。・・・そんな認識から、推測を伴う野次馬的試みではあるが、少ない資料を手掛かりに、とりあえず資料をまとめてみた。
定年まで35年間あるIT企業に勤めていました。その後、大学教員を5年。定年になって、非常勤講師を少々と、ある標準化機関の顧問。そこも定年になって数年前にB-frontier研究所を立ち上げました。この名前で、IT関係の英語論文(経営学的視点のもの)をダウンロードし、その紹介と自分で考えた内容を取り交ぜて情報公開しています。幾つかの学会で学会発表なども。昔、ITバブル崩壊の直前、ダイヤモンド社からIT革命本「デジタル融合市場」を出版したこともあります。こんな経験が今に続く情報発信の原点です。
生成AIは次の新たなプラットフォームか?
目的 • コンピュータの登場以来、現在までに、メインフレーム時代の 後のパーソナルコンピュータ(PC)の出現やオンプレミスIT時代 の後のクラウドコンピューティングの台頭など、IT業界でのプ ラットフォームシフトは不定期に発生し価値の創造と獲得に大 きな混乱を引き起こしてきた。 • また、プラットフォームシフトは、プラットフォーム自体の変 革だけでなく、エコシステムにも大幅な変化をもたらし、企業 の長期的成長に大きな影響を与えてきた。 • そこで、生成AIの台頭がこれまでのようなプラットフォームシ フトに繋がるのかどうかに関心が集まっている。 • 本稿は、このような認識から、生成AI起因でプラットフォーム シフトが起こり得るのかについて論述した論文を探索し、今後 のIT業界変革の展望を考察することを目的とする。 2
目次 1. 2. 3. 4. 5. 6. はじめに NVIDIAの事例研究 ChatGPTの事例研究 Salesforceの事例研究 生成AIプラットフォームエコシステムの構造 「イノベーション」プラットフォームエコシ ステムでの生成AIの役割と課題 3
1.はじめに アプリケーション開発の新たなプラットフォームとしての生成AI • 生成AIはソフトウェア開発の新たなプラットフォームとして 急速に台頭している。 • 過去のプラットフォームには、コンピューター、スマートフォン、 クラウドサービスなどがあった。 • 生成AIはさまざまなアプリケーションを可能にする基礎技術であ り、これらと類似の傾向を持つ可能性がある。 • 主なプレイヤー: • ハードウェアおよびソフトウェア プロバイダー:Nvidia など • クラウドプロバイダー:Amazon、Microsoft、Google など • 大規模言語モデル (LLM)プロデューサー:OpenAI、Google、Meta など • アプリケーションプロバイダー:多数 4
生成AIは何に使用されるか? • 典型的用途例を以下に挙げる。 • 小売業者やその他のサービスプロバイダー:動的チャットボット、AI アシス タントなどを通じて、顧客体験を向上させる。 • 検索エンジン:より直接的で人間のような回答を提供する。 • ライフサイエンスの研究者:生成AIをトレーニングして、タンパク質、分子、 DNA、RNA を理解する。 • 開発者:ソフトウェアを作成し、ロボットに物理的タスクを教える。 • マーケティング担当者:生成AIをトレーニングして、顧客のフィードバック やリクエストを整理し、製品をカテゴリに分割する。 • 金融アドバイザー:収益報告の電話会議を要約したり、重要な会議の記録を 作成したりする。 • クレジットカード会社:消費者を保護するために、生成AIを異常検出や不正 分析に使用する。 • 法務チーム:法的な言い換えや書き起こしを支援する。 • 新たなエコシステムを形成するプレイヤーの現状を次頁に示す。 5
生成 AI から価値を獲得する新たなプラットフォーム構築に向けて 半導体チップ インフラ クラウド 基礎モデル アプリケー ション 産業 国 6
潜在的に価値獲得の可能性がある5つの層 1. インフラストラクチャ層:基盤となる大規模生成AIコンピュー ターシステムを実装するのに必要なAIチップやクラウドインフラ ストラクチャを提供する企業 2. 基礎モデル層:クリエイティブな成果を生み出す巨大なテキスト、 画像、音声、その他の生成AIモデルを提供する企業 3. アプリケーション層:消費者、企業、政府がクリエイティブなタ スクに使用するアプリケーションを構築する大企業や中小企業、 スタートアップ企業 4. 業界と組織層:クリエイティブな活動の一環として、生成AI ア プリケーション、ツール、プラットフォームから価値を引き出す 企業や企業群あるいは業界 5. 国:国境の内外で生成AI テクノロジーを開発、輸出、展開する 国 7
各層毎の価値獲得のシナリオ • 各層毎に独自の価値創造の可能性がある。 層 シナリオ インフラストラク チャ層 先行の大手企業およびこれに支援される企業が中心になって行う。 • チップメーカー:NVIDIAおよびその他のAIチップ開発企業 • クラウドベンダー:Microsoft, Google, Amazonおよびその他の連携企業 基礎モデル層 テキスト、画像、ビデオ、オーディオ向け生成AI、あるいはそれに関係した ツール、サービスを提供する企業が中心になって行う。 • 総合サービス:OpenAI, Google, Meta, Microsoft, Amazon, など • ツール&サービス:Synthesis, HagingFace, など • 特定層でのサービス:Stability.ai, Midjourny, Cohere, など アプリケーション層 従来のアピリケーションベンダー(Salesforce, Microsoft, Oracle,..)と新たな スタートアップ企業との競争の場が登場し、それらの共存を通じて行う。 • 主要な生成AI活用アプリ提供領域 • 代表的ベンダー:Adept AI, AI21Labs, Grammarly, Jasper.ai, Botika, Character AI, など 業界と組織層 • 上述の活動の複雑な共存、競争が発生する。 国 • 上述の活動が国家同士で複雑に共存したり、競争したりする。 8
プラットフォームシフトの可能性を検討する枠組み • 以上の認識の下に以降の検討を次の枠組みで行う。 • 各層のプラットフォーム論理を分析する。 • インフラストラクチャ層:NVIDIAを例題にして • 基礎モデル層:ChatGPTを例題にして • アプリケーション層:Salesforceを例題にして • 全体を俯瞰したプラットフォーム論理を分析する。 • プラットフォームエコシステムの構造について • 製品プラットフォームからイノベーションプラットフォームへ の移行について • イノベーションプラットフォームエコシステムの課題、など 9
2.NVIDIAの事例研究 CUDA:GPUプラットフォームの核の仕組み • 2006年にCUDA(Computer Unified Device Architecture)が 発表された。 • 基本的考え方は、データを多数のスレッドに分散し、これら のスレッドを一斉に実行するためのソフトウェアである。 • CUDAはNVIDIAのGPUのみに対応する仕組みとして、 NVIDIA自身によって開発された。 • GPUでは一度に膨大な数のデータの並列処理ができるよう に数千のコアが実装されている。 • プログラマーはC言語やC++に基づいた拡張プログラミング 言語を使用してGPUを直接制御する。 • CUDAの登場でGPUの用途は爆発的に拡大した。 10
CUDAの基本構造と典型的応用分野 CUDAの基本構造 典型的なCUDAの用途例 言語統合 装置レベルAPI DirectX を使用する アプリケーション OpenCLを使用する アプリケーション CUDAドライバー APIを使用するアプ リケーション C, C++, Fortran, Java, Python等を使 用するアプリケー ション HLSL シェーダーを計算 OpenCL C カーネルを計算 CUDA C カーネルを計算 CUDA C 機能を計算 OS カーネルでの CUDA サポート NVIDIA GPU 内の CUDA 並列計算 エンジン • AIと機械学習 • 生成AIソフトウェア • 暗号通貨マイニング • 仮想現実アプリケー ション • 自動運転車 • ロボット工学 • データセンタークラウ ドサービス • など 11
生成AIソフトウェアを動かすGPU市場の現状 生成AI向けGPU市場シェア(2023) NVIDIAのGPU占有率は約80% • GPUの歴史 3% 92% GPU市場シェア(2022) • 当初はPC/WSのCPUからグラフィッ ク処理を引き継ぐ専用チップとして発 足した。 • 2006年頃コンピュータを高速で動作 させる多数の単純コア配列方式に切り 替えた。 • 次期アーキテクチャ(Fermi)では従来 より8倍高速化した。 • 同時にCUDAと呼ぶ無料ソフトウェア 開発キットを導入した。 • GPUがPC/WS/サーバの一部に組み込 まれる限りCUDAは様々な機器で実行 できるようになった。 12
生成AIアプリケーションにとってGPUは何故有利になったのか? • GPUアーキテクチャはニューラルネットワークの中核とな る膨大な数の行列乗算や論理計算に適していたが、下記活動 によって一層最適化した。 • 2006年、フランスの研究者がNVIDIAのグラフィックカードを使用 してニューラルネットワークをトレーニングした。 • 2012年、トロント大学で有名な実験(AlexNet)が行なわれた。 • NVIDIAはこれらの研究を綿密に追跡し、2014年深層学習アプリ ケーションを構築するためのソフトウェアとツールを提供した。 • またNVIDIAは大学やOpenAIに複数のサーバーを寄贈した。 • このような長い経過の中で、NVIDIAはLLMと推論エンジン 向けに、GPUとCUDAソフトウェアをより最適化するための 投資をし続けた。 13
NVIDIAのGPUが寡占化した理由 • 2023年迄で、5億台を超すGPUインストールベースと数千個の CUDAベースアプリケーションが存在する。 • このうちサードパーティー作成のCUDAベースアプリケーション はGPUのみで動作する。 • Amazon, Microsoft, GoogleなどのデータセンターではNVIDIA ハードウェアがインストールされており、CUDAベースソフト ウェアのみがクラウドサービスとして提供されている。 • 最近の生成AIブームでLLMトレーニングの頻度は増加し、より多 くのNVIDIAハードウェアが必要になった。 • この状況は、PC時代における、Intel CPUと無料Microsoft SDK をWindows PCで実行するIntel-Microsoft連合に似ている。 • しかも、NVIDIAはハードウェアとソフトウェアの両方を保有し ており、この点ではIntel-Microsoft連合よりも更に優位な位置に 立っている。 14
NVIDIAが直面している競争 ハード • AMDは生成AI向けに特別に設計されたMI300XでNVIDIAのH100を ターゲットにしている。 ウェア • 同じくIntelはH100をターゲットにしたGaudi2を導入した。 • 一方、クラウドサービスプロバイダーもGPU購入台数を減らすため独 自のシステム構築を模索してきた。 • しかし、いずれの取組みもハード/ソフト両面で優位なNVIDIAの牙城 に対抗できるような状況には至っていない。 ソフト • CUDAライブラリーは約250個あるが、充分でないとの見方もある。 ウェア • 一部のプログラマーはCUDAがオープンソースでないこと、C/C++ に通じないと使いにくいなどの不満を抱いていると言われる。 • 但し、NVIDIAは最近Python(PyCuda)も提供し一般的言語サポートを拡充 した。 • AMD, Intelの大きな弱点はGPUソフトウェアサポートが限られてい ることである。 • 彼等はNVIDIAとの対抗上、ソフトウェアをオープンソースにしたが、 この方式ではソフトウェアが成熟するまでに時間が掛かる。 15
NVIDIAの事例研究(中間まとめ) • 現状はNVIDIAの実績と戦略は万全のようにも見える。 • ハード/ソフトの両面を押さえていることは、新たな変革の時期に ビジョンアピールなどでも好都合である。 • CES2025ではこの特質を生かし物理AIを激しくアピールした。 • 但し、DeepSeek旋風では大きく株価を下げた。 • これは、DeepSeek流技術が普及すると、少ない/低レベルのGPUでも生成 AIアプリが実行できるのでGPU需要が減少するとの思惑からだった。 • 他方、この傾向は生成AI普及を従来の予想以上に加速させ、基本的には NVIDIAへの需要は拡大するとの予想もある。 • 但し、無視できないのは、生成AIアプリの普及拡大が生成AIアプ リ開発者側に全体の重心を移動させる効果がある点である。 • DeepSeekショック時にはSalesforceやMetaなどの株価が上昇した。 • ただ、このような変化にもNVIDIAは充分対応可能な余地を残して いると考えられる。 16
3.ChatGPTの事例研究 ChatGPTへ進化の歴史 • 2017年、Googleの研究チームが主として言語翻訳効率化の ためTransformerと呼ばれる新たなモデルを発表した。 • これは並列処理に優れたGPUを最大限活用できるようにも 設計されていた。 • Transformerは言語翻訳を超えて多くの分野に急速に拡大し た。 • OpenAIはGPTファミリーと呼ばれる高性能モデルを次々に 開発した(GPT(2018), GPT-2(2019), GPT-3(2020))。 • GPT-3は前例のないレベルで流暢な言語を生成したが、ユー ザーの指示に正確に従えない欠点もあった。 • この欠点に対処し、チャット機能を付与したChatGPTが 2022年11月に発表された(その後、GPT-4が発表(2023))。 17
ChatGPTを中心とした基本構造 • 基礎モデル: • 初期段階のため、LLMプロデューサー間の競争は激しい。 • LLMは全体的機能、APIアクセスコスト、クローズドソースかオー プンソースかなどで特徴付けられる。 • LLM の使用と開発: • 高性能で大規模なLLM使用の方が、小規模なLLM使用よりはコス トが掛かる。 • API経由でアクセスできるクローズドLLMの場合、通常は、価格モ デルは「トークン」単位で行われる。 • GPT-4の場合、入力トークン100万個30ドル、出力トークン100万個60ドル • 最近は、MetaのLLaMA系だけでなく、DeepSeekなどオープン ソースLLMが増加している。 • 但し、オープンソースは幾つかの制限があることが多い。 • 研究目的のみ or 商用も可、LLMトレーニングデータが使用できるか?、他 18
ChatGPTを中心とした基本構造(続) • LLM とアプリケーション開発: • 従来の典型的プラットフォームOSなどと異なり、LLMは正しい方 法での指示や最小限のトレーニングだけで新しい機能を実行できる。 • このような、プロンプトを使用するだけでさまざまな処理を実行で きる「瞬時の汎用性」がLLMの最大の特徴と言える。 • ChatGPTはこの機能のカスタムバージョンを素早く作成できる GPTs(GPT Builder:カスタムGPT)をChatGPT発表1年後の2023年 11月6日に提供開始した。 • この機能は提供後わずか2カ月で300万件の利用が発生したと言う 活況があり、膨大なGPTsが作成された。 • その後、2カ月後の2024年1月10日に、OpenAIはこの機能をGPT Storeと命名し、一般の利用を開始するとともに、収益の一部を作 成者に還元する予定とアナウンスした。 • そこで、生成AI特有のプラットフォームエコシステムに深く係わる GPTStoreの変化に焦点を当てる。 19
データの収集法 • BeeTrove データセット (OpenAI GPTs Dataset, 2024)を 活用する。 • BeeTrove データセット は、OpenAI提供のツールを使用して作成 されたGPTs に関する広範なデータを提供するオープンソース プロ ジェクトである。 • 約 349,000 の GPTs の詳細が記載されている。 • GPTsは、研究、開発、その他のアプリケーションで自由にアクセ スできる。 • BeeTrove コレクションは 3 つのデータセットで構成されている: • Authors’ Dataset :GPT 作成者の組織とオンラインプレゼンスの詳細を示す。 • GPTs Details Dataset:作成日、機能、タグなどの GPT 属性を示す。 • GPT Performance Dataset:会話数、平均評価、レビュー、星などの履歴メト リックを示す。 20
データの分析法 • これらのDatasetから得られたデータをカテゴリー別に分類 しパターンマッチング手法で分析する。 • 次の項目などにも注意を払う。 • モジュール作成:コアとモジュールを識別(GPTsはモジュール) • リソース統合:リソースが統合、管理される様を観察 • リソース液化:リソースのデジタル化で検索/アクセスの様を観察 • 結果を次の4つで示す。 1. GPTsの成長の過程 2. GPT開発者数の変化 3. 画像を作成するGPT数の変化 4. ゲートウェイ機能を備えたGPTによるネットワークの変化 • 以上をGPTs機能が公開された日以降の2カ月半の変化で示す。 21
結果1:GPTsの成長 • GPTs はモジュール式拡張を 民主化し、プログラミング ス キルのないユーザーでも GPTsを容易に生成できるよ うにした。 • ユーザーは自然言語入力を通 じて、特定のニーズと文脈に 合わせて調整する。 • 右図:急速な成長をカテゴリ 別に示す。 • 従来のソフトウェア開発ベー スのプラットフォームとは異 なるペースで成長している様 が観察される。 2カ月半 22
結果2:GPT開発者総数の変化 • ChatGPTの自然言語インター フェイスにより、ユーザーはシ ステムと関わりやすくなり、認 知的要求が軽減され、アクセス しやすくなった。 • ユーザーは目的を述べるだけで よいので、顧客経験が向上し、 専門知識が限られている人でも システムにアクセスし易くなっ た。 • 右図:GPT開発者数が急増して いる。 2カ月半 23
結果3:DALL-Eにより画像作成GPT数の変化 • ChatGPTは、まったく新しいタ イプのリソースを生成し、革新的 な方法でビジネスプロセスに価値 を付加する。 • 右図:DALL-E(画像作成用生成 AIツール)を使用して成果物を作 成するGPT数の変化を示す。 • リソース統合は、以前のプラット フォームより合理化され効率的に なっている。 • さまざまなテキストソースから情 報を抽出し、プラットフォームと 互換性のある標準形式に変換する ことで、シームレス統合を実現し ている。 2カ月半 24
結果4:ゲートウェイ機能を備えたGPTの変化 • ChatGPTのネットワーク構造は、 ゲートウェイ機能を提供する GPTを介して他プラットフォー ムと統合することで形成される。 • ネットワーク構造により、プ ラットフォーム製品をシームレ スに統合できるため、トランザ クション プラットフォームの提 供範囲が広げられる。 • 右図:ゲートウェイ機能を備え た GPTの累積数を示す。 2カ月半 25
GPTsの例 • 右図:KAYAKを例に示す。 • ユーザーがKAYAK GPTを選択 すると、ChatGPTはKAYAKの 旅行専門知識と予約サービスに アクセスできるようになる。 • この統合により、ユーザーは ChatGPTインターフェースで自 然言語を使って旅行を計画した り予約を行うことができる。 • KAYAK GPTはChatGPTを汎用 機能から専門的旅行計画ツール に変貌させる。 26
プラットフォームシフトの可能性 • モジュールの普及と多様な プラットフォームの統合に より、プラットフォーム内 およびプラットフォーム間 の補完性が高まる。 アクター の統合 リソース の統合 リソース の作成 リソース の液化 ネットワーク 構造 エコシステム 補完性 ネットワーク効果 高次元の補完性 外部性 モジュール の作成 プラットフォームの能力 • この延長でリソースの流動 化が大幅に促進され、デジ タルエコシステムによる価 値創造が発生しうる。 プラットフォーム 既存プラットフォーム • ChatGPTは、右図のように モジュール作成とリソース 統合を促進することで、プ ラットフォームシフトを実 現させる可能性がある。 高次元のネット ワーク効果 リソース密度 27
ChatGPTの事例研究(中間まとめ) • 2024年1月, OpenAIはChatGPTベースで作成されたユーザー オリジナルのチャットボット(GPTs)の公開/提供を開始した。 • このような構造を持つ生成AIプラットフォームは、Windows vs LinuxやApple vs Androidのような、明確に峻別された少数 プラットフォームに席巻されるというよりは、GPTStoreの品 揃えや作成の容易さなどがプラットフォームの構造に影響を 与える、より柔軟な独自の進化を遂げると思われる。 • 例えば、典型的大企業は少数のクローズド大規模LLMと狭い ユースケース向けの多数の小規模オープンソースLLMを組合 わせて使用するかもしれない。 • このような利用形態も想定される中で、生成AIプラット フォームは、柔軟ではあるが、GPTs構造も相まって、既存シ ステムとの連携や変化の速さも加わり複雑な様相を呈するも のと思われる。 28
4.Salesforceの事例研究 Salesforce選択の背景 • アプリケーション分野は多岐に渡る: 【一般検索、ライティング、セールス&マーケティング、コーディン グ、カスタマーサービス&チャットボット、RPA、知識管理/要約、 イメージ&ビデオ、カスタマーアバター&顔アプリ、設計(ファッ ション、建築、・・)、ゲーム、音楽、音声&スピーチ、フルスタッ クアプリ(法律、バイオ、金融、・・)】など • このうちアプリケーション分野の代表として、本節では生成AIが エンタープライズプラットフォームに与える影響について考える。 • 問題意識:生成AIはエンタープライズプラットフォームを変革す る新たな破壊的技術となり得るか? • 背景:エンタープライズプラットフォーム(SAP、Salesforce、 Oracle、など)は、「製品」プラットフォームからコア部分を切 り離し、補完者が自由に拡張機能を提供する「イノベーション」 プラットフォームに変貌を遂げつつあり、生成AI導入はこの変革 の加速に繋がるか? 29
エンタープライズプラットフォーム向けの生成AI • エンタープライズプラットフォームに生成AIを導入した場合の利点、欠 点を述べる。 • 生成AIの利点: • プラットフォーム所有者にとって生成AIはプラットフォームガバナ ンスとエコシステムオーケストレーションに貢献する。 • 補完者は個々の顧客ニーズに対応する生成AIのパーソナライズ機能 の恩恵を受ける。 • 生成AIの欠点: • しかし、新たな課題(プライバシー、著作権、非倫理的アプリケー ション、など)ももたらす。 • 結果、倫理的懸念とビジネスへの影響に対処する新たなガバナンス も必要になる。 • 現在、このような視点からの影響はほとんど明確化されておらず、 研究の焦点にもなっていない。 30
研究方法 • そこで、このような検討を行うため、Salesforceを取り上げ て、次の研究を行う。 • 研究方法:プラットフォーム所有者(Salesforce)、補完企 業(主要プレイヤー)、顧客企業(多国籍企業、)などのエ コシステム参加者にインタビューしてデータを収集する。 • 各分野向けにカスタマイズした半構造化インタビューリストを準備 し、その利用を通じて一次データを収集する。 • インタビュー対象者:Salesforce関係者、エコシステム参加企業の CTO、COO、プロジェクトマネジャー、ビジネス/技術アーキテクト、 データサイエンティスト、など。…17回実施した。 • データ分析にはATLAS.tiを使用した。 • この作業に基づいた利点と課題のまとめを2つの表で示す。 • また、生成AIによる影響の概説(予想)を図示する。 31
生成 AI のエンタープライズ プラットフォーム向け利点 ① 迅速な実装:生成AIは、既存のプラットフォームに追加のサービス レイヤーとして簡 単に統合できる。これにより、現在のインフラストラクチャを全面的に改修すること なく、生成AI機能を組み込むことができる。 ② 幅広いアプリケーションスペクトルとユースケースの多様性: 生成AI は、顧客の幅広 いビジネス領域に適用できるため、プラットフォーム所有者と補完者は既存の機能を 強化し、新しい機能を探索できる。 ③ アプリ開発者の支援: 生成AI は、すべてのエコシステムアクター (所有者、補完者、顧 客) の技術スタッフの副操縦士および推論エンジンとして機能し、コードエラーを検出 して説明し、コードを生成し、コーディング論理を自然言語で文書化できる。 利 ④ アプリ開発におけるドメイン エキスパートの支援: 生成AI により、広範な技術的知識 点 を持たないビジネス エキスパートでも、少数コードまたはNOコード機能を使用して アプリケーションを開発およびテストできる。これにより、顧客企業はプラット フォーム上で独自にアプリケーションを開発できる。 ⑤ 生産性とイノベーションの向上: 生成AI は、タスクを自動化し、エラーを削減し、イ ンテリジェントな洞察でイノベーションを推進する。プロンプトにより、データ処理 とユーザーインタラクションが合理化できる。プラットフォーム所有者と補完者は 生 成AI を活用したソリューションを通じて競争上の優位性を獲得し、顧客企業はカスタ マイズされた電子メールや製品の説明など、顧客とのパーソナライズされたデジタル インタラクションを実現できる。 32
生成 AI のエンタープライズ プラットフォーム向けの課題 ① 幻覚検出:生成AI モデルは、特に顧客の複雑または微妙なトピックを扱う場合、不正確、虚偽、または無意味な情報を 生成する可能性がある。 ② 正確性と説明可能性: 生成AI モデルの複雑な性質により、特定の出力がどのように生成されたか、およびそのプロセ スが顧客企業のユーザーにとって透明で理解しやすいものであるかを追跡するのが困難になる場合がある。 ③ バイアス、非倫理的な結果、著作権の問題:生成AI モデルは、トレーニングデータのバイアスを増幅し、非倫理的なコ ンテンツを生成し、意図せずに著作権を侵害する可能性がある。法的基準、規制コンプライアンスを遵守し、データ 処理が管轄法に準拠していることを保証することは、生成AI の導入を予定している顧客にとって重要である。 ④ 生成されたデータのデータプライバシーと所有権: 一般的なサードパーティの生成AI モデルプロバイダー (Open AI な ど) を使用するため、セキュリティ侵害または競合他社によって、顧客の機密データが公開または悪用されるリスクが ある。また、生成AI によって作成されたコンテンツの権利を誰が所有するかについても懸念がある。 ⑤ 生成AI のユースケースの不確実性:生成AI の幅広いアプリケーションは、すべてのエコシステム関係者にとって圧倒 課 的である。関連性の高い業界固有のアプリケーションを導き出し、それらを優先順位付けすることは、プラット フォーム所有者、補完者、特に顧客にとって困難である。 題 ⑥ 透明な価格設定モデルの欠如:生成AI のサービスは、プラットフォーム所有者と補完者の現在のサービスに統合する必 要があるが、プラットフォーム所有者と補完者は明確な価格設定構造を提供するのに苦労し、顧客がこれらのサービ スの予算を立てることが困難になる可能性がある。 ⑦ ロックイン効果: LLM のような生成AI モデルを提供できるのは大手テクノロジー企業だけの可能性がある。LLM の 開発と維持にはリソースを大量に消費するため、現実的に維持できるのは大企業だけの場合、市場は独占され、顧客 企業にロックインの罠を作り出す可能性がある。 ⑧ 生成AI の急速な進化と専門知識の欠如:生成AI の急速な進化は、トレーニングの維持に課題をもたらす。補完者と顧 客は、陳腐化や高度なソリューションによる置き換えを恐れて生成AI の完全な導入をためらう可能性がある。さらに、 経験豊富な専門家の不足が生成AI の戦略と実装を妨げる。 ⑨ 顧客企業による採用: 顧客企業は、信頼性、信頼性、セキュリティ、およびテクノロジーの全体的な成熟度に関する懸 念から、生成AI ソリューションの採用を躊躇する可能性がある。 33
エンタープライズ プラットフォームへ生成 AI導入による影響(予想) • 生成 AI モデルプロバイダーと補 完者がプラットフォームから派 生したプロンプトとデータを保 存できないようにするメカニズ ムを実装する。 • 主要な生成 AI モデルプロバイ ダーおよび主要な補完者との パートナーシップを促進し、共 同イノベーションイニシアチブ、 共同マーケティング活動、統合 ソリューションの作成を行う。 • 生成 AI の先駆的な補完者と新興 のスタートアップを戦略的に買 収し、補完者を確保し、市場で の存在感を拡大し、プラット フォームの機能を強化する。 • 具体的なビジネス成果を重視し、 ビジネス固有の生成 AI ユース ケースに重点を置いたコンサル ティングおよび教育パッケージ を提供する。 プラット フォーム アーキテク チャ プラット フォーム ガバナンス エンタープ ライズ プラット フォームの ための生成 AI プラット フォーム ケーパビ リティ • 生成 AI をコンポーネントとして組み込むことで、 既存アーキテクチャ 層の入力/出力を容易化する。 • サードパーティLLM (OpenAI など) やプラット フォーム所有者と補完者の独自モデルを生成 AI モデル型に統合する新たなアーキテクチャ を導 入する。 • ①プロンプト構築、②データマスキング (本物で はないが構造的に類似したデータのコピー作成)、 ③毒性検出 (有害または不適切なコンテンツ除 外)、④ゼロ保持 (生成 AI モデルにプロンプトと データを保存しない)、⑤プロンプトフィード バック管理のための信頼の仕組みを確立する。 • 生成 AI モデルと対話して正確で適切な応答を生 成するようにカスタマイズされたクエリを作成 する。 • これを効果的に実行するプロンプトエンジニア リング手法を開発する。 • 生成 AI 機能を既存のすべてのプラットフォーム オファリングの拡張機能として統 合する。 • 生成 AI の一般的なユースケースと業界固有のユースケースの両方を開発する。 • モデルビルダー、プロンプトビルダー、ボットビルダー、アプリビルダー、フロー ビルダーなどの特殊な生成 AI スタジオを提供する。 34
図の解説 • 本図は生成AI導入による利点/課題から影響を推測した最初の試みである。 • エンタープライズソフトウェアベンダー(SAP、Oracle、など)は長年、 オンプレミス形式の製品を提供してきたが、新規参入者 (Salesforce、な ど)がクラウドベース のプラットフォームを提供しだしたのを受けて、既 存ベンダーもクラウド形式にサービス形態を変化させてきた。 • 結果、補完者にとってプラットフォームへのアクセスが容易化し、幅広 い補完者がこれらのプラットフォームにソリューションを提供するよう になった。 • この延長で、エンタープライズプラットフォームベンダーは、既存「製 品」プラットフォームからコア部分を切り離し、補完者が拡張機能をよ り自由に提供し易いように「イノベーション」プラットフォームへの業 態変容を目指している。 • この流れを、生成AIは、① 既存アーキテクチャの変更、② 各種ツールの 開発、③ プラットフォームガバナンスの見直しなどを伴うものの、大幅 に加速させる可能性がある。 35
Salesforceの事例研究(中間まとめ) • 本節はSalesforceに生成AIを導入した際の影響を関係者へのインタ ビューを通じて考察した研究の要約である。 • この研究は、生成 AI をコンポーネントとして組み込むことで、既存層 間の入力や出力を容易化する効果が期待でき、より一層「イノベーショ ン」プラットフォームへのシフトが進むことを示唆する。 • そして、ChatGPTにおけるカスタムGPT機能類似の、特定エンタープラ イズソフトウェアを前提とした拡張機能が、生成AI導入によってより簡 易に、且つ、分かり易いインタフェースで提供される可能性がある。 • その際、生成AIの一般的ユースケースと業界固有のユースケースの両方 が開発され実装される可能性がある。 • このプロセスがどのような発展経路を辿るかはもう暫く観察が必要だが、 多様な課題はあるものの、最終的には生成AI導入に踏み切ると思われる。 36
5.生成AIプラットフォームエコシステムの構造 検討の背景 • 本節は生成AIがどのようなエコシステムを誘発するかの構造を考える。 • 生成AIプラットフォームエコシステムは、新しいプラットフォームコア (LLM)に依存した新しいタイプのエコシステムと言える。 • エコシステムの補完者は、GPTsなどのモジュールを登録する。 • これらモジュールは、ユーザーに対するLLMの応答をガイドし、追加のコン テキストや計算機能を提供する。 • 補完者は企業、スタートアップ、非営利団体、愛好家などと多様である。 • 今までのプラットフォームではユーザーインタフェースは補完者の手に委ね られていたが、・・・ • それとは対照的に、生成AIプラットフォームエコシステムでは補完者とユー ザー間のインタラクションは全てLLMを利用する。この違いは大きい。 • 即ち、補完者はプロンプトとコンテキストデータを使用してLLMに提案する ことしかできない。 37
研究方法 • 研究方法:ケーススタディとしてChatGPTを取り上げる。 • ChatGPTの関連機能の歴史: • 2023年3月以降、補完者向けにプラグイン機能が提供された。 • 2023年11月、プラグインを引き継ぐ形でGPTStore(GPTs)が提供された。 • 2024年1月にはGPTsの一般公開が開始された。 • 現在、生成AIプラットフォームエコシステムとしては最大の規模を形成している。 • 特徴は、LLMが全てのユーザーインタフェースの本質的部分を担い、且つ、 LLMは非決定論的に常に進化していることである。 • このような特殊な対象を研究するため、補完者(ChatGPTプラグイン、および GPTs開発者)に半構造的インタビューを実施し、一次データを収集する。 • インタビュー対象者:主として米国、カナダ、オーストラリアのスタートアッ プ、非営利団体の創業者に14回のインタビューを実施した。 • 次に、インタビューで得た一次データをWeb、ブログ、プレスリリースなど の二次データで補強した。 • これらを分類理論に基づいて反復的プロセスを重ねてまとめた。 38
調査結果 • インタビュイーは全てシステムプロンプト(ユーザー入力をLLMに渡す前に データを追加する、あるいは補完者自身がコンテキストデータを追加する (バックエンド))を使用していた。 • インタビューの例を以下に示す。 例1 独自の API を開発します。API リクエストを処理するインフラストラクチャを設定するのは、あなた自身の手にありま す […]。さまざまなクラウド プロバイダーを使用できます。電話で実行する必要がある一種のパッケージである [従来 の] アプリとは異なり、これらすべてに対してさまざまなアプローチを取ることができます。 例2 [他の補完者は] ユーザーに伝えたい情報を持っている可能性があります。私にはそれがありません。まず別の手段でコ ンテンツを生成する必要があります。[…] 私の場合、そのためにはバックエンドで OpenAI 自体を使用しています。 例3 [我々の GPT は] 基本的にGitHub で公開されているデータを提供しています。ログインしたり、アクションやトランザ クションなどを実行したりすることはありません。[…] 週に数回、使用する知識を更新しています。また、バックエン ドのデータベースのみを変更するため、GPT を変更する必要はありません。 例4 私たちは API を提供しており (OpenAI は) データの呼び出しと取得、検索などを行うことができます(補完者は LLM の使用料を支払う必要が無い)。このことから得られる非常に興味深い学習は、特に言語間で誤った情報を挿入するこ となく正確に要約できることです。 例5 Apple App Store やGoogle Play Storeでは、携帯電話で実行されるアプリのアップグレード毎に少なくとも承認手順が あります。GPT ではこれは必要ありません。 例6 アプリでは、電話数はこれだ、などと心配する必要があります。グローバル化についても心配する必要があります(全 ての言語に対応できるようにする、など)。しかし、LLM では、私たちはそのような心配をする必要はありません。 39
生成AIプラットフォームエコシステムのアーキテクチャ • インタビュー結果やさまざまなソースからの二次データで補強した上で 推定したアーキテクチャを下記に示す。 ユーザー ユーザーインタフェース 他のサービ スとデータ ベース バックエンド モジュールA 自然言語 インタフェース 自然言語 インタフェース プラット フォームエコ システム外の LLM LLM ユーザーインタフェース ユーザーインタフェース モジュールA モジュールB モジュールC - システムプロンプト - 静的コンテキスト データ - システムプロンプト - 静的コンテキスト データ - システムプロンプト - 静的コンテキスト データ 周辺 自然言語 インタフェース フィルター (AIモデル) 標準インタフェース L L M プラットフォーム 所有者のシステム プロンプト 不安定なコア 安定したコア コアのコンポーネント 40
図の解説 • プラットフォームと周辺モジュール(GPTs)間の相互作用は従来と大きく異なる。 • 生成AIプラットフォームエコシステムの中核であるLLMは不安定であり、イン タフェースは標準化されていない。 • LLMは時間の経過とともに動的に変化し、同じプロンプトに対しても応答が変 わることがある。 • 補完者は自然言語インタフェースを介してのみLLMと対話する。 • LLMは非決定論的であり、機能と能力は文書化されておらず、プラットフォー ム所有者でも分からない。 • ユーザーインタフェースとモジュールによるユーザー経験は(LLMを含めた)プ ラットフォーム所有者側に委ねられており、補完者はユーザーへの出力に対し ては提案することしかできない。 • 結果、ユーザー経験の点でモジュールは類似したものになるが、組合せは容易 化する可能性がある。 • 同時に、補完者はユーザーインタフェースを管理する必要がないのでモジュー ル開発は容易になる可能性がある。 41
生成AIプラットフォームエコシステムの構造(中間まとめ) • 本節は生成AIプラットフォームエコシステムの構造をプラグイン/GPTs 開発者へのインタビューを通して推定した研究の要約である。 • 分析結果のアーキテクチャの元ではコアと周辺の境界は明確でなくなる。 • 結果、補完者のプラットフォームエコシステムへの貢献の内容は変わる。 • 補完者はLLMによって生成された価値を拡大する役割を担うようになる。 • これは、補完者にとって生成AIプラットフォームエコシステムの将来に チャンスを持っているとも言える。 • 生成AIプラットフォームのオープン性はLLMを活用して革新的アプリ ケーションを生成するための新たな方法の探索と発見に繋がる。 • 従って、補完者の最終目標はコアのLLMが実行できる新たな方法を発見 することになるかも知れない。 • この目標のためには、プロンプトの作成とともにコンテキストデータの キュレーションがプログラミング以上に重要になるかもしれない。 42
6.新たなイノベーションプラットフォームエコシステムとしての生成AI 「製品」プラットフォームから「イノベーション」プラットフォームへ • 最後に本節では下記定義の元に生成AI導入による「イノベーション」プラッ トフォームエコシステムへの移行を考える。 • エコシステムとは: • 『階層的に管理されておらず、全体的な有効性と存続のために相互に依存する企 業のコミュニティ』 • この定義の元で2つのプラットフォームの特徴を示す。 • 「製品」プラットフォームベースのエコシステム • 補完者が拡張機能を開発するエコシステム内で、メイン企業が中心的サービスを 提供するエコシステム • 例:SAPなどのパッケージ化されたエンタープライズソフトウェア • オンプレミス形態での補完的拡張機能は、「製品」プラットフォーム独自の機能 に基づいて実装されることが多い。 • 「製品」プラットフォームの機能と補完者が開発した拡張機能は、個々のユー ザーニーズに応じてスタンドアローンあるいはカスタムビルドソリューションと して提供される。 • 結果、モジュールの再利用の機会は限定される。 43
「製品」プラットフォームから「イノベーション」プラットフォームへ(続) • 「イノベーション」プラットフォームベースのエコシステム • エコシステムを構成する補完者はプラットフォームに緩く結合され る。 • その上で、補完者は再利用可能なソリューションを共同で作成する ための一定の標準インタフェースやソリューション開発のための柔 軟な境界リソースの提供を受ける。 • 結果、補完者が開発した拡張機能が再利用される機会は格段に増加 する。 • エンドユーザーはプラットフォーム所有者と補完者が提供する統合 されたサービスから価値を引き出す。 44
「製品」プラットフォームと「イノベーション」プラットフォーム • 「イノベーション」プラットフォームエコシステムへの移行を検 討するための典型的事例を抽出し比較を行う。(比較表は次頁) • 「製品」プラットフォームベースのエコシステム: • SAP/Salesforceなどが単独機能およびそれらが提供する独自機能 を利用して補完者が拡張機能を開発し提供しているケース • 「イノベーション」プラットフォームベースのエコシステム: • GPTStoreを利用して自前GPTを登録し、自前機能と一体的に生成 AIインタフェースで機能を提供するケース • SAP/Salesforceなどが自前コアと拡張部分を明確に分離し、拡張 部分は生成AI(など公開)インタフェースで補完者が自由に機能を提 供するケース 45
「製品」プラットフォームエコシステムと 「イノベーション」プラットフォームエコシステムの比較 「製品」プラットフォームエコシステム 「イノベーション」プラットフォームエコシステム オンプレミスの技術などを使用したプラット フォームで、補完者はプラットフォームと高度 に連携した顧客ニーズに合わせた拡張機能を開 発し、個々のエンドユーザーに提供する。 デジタルプラットフォーム技術(クラウドなど)を 使用したプラットフォームで、補完者は、プラット フォームに緩く結合され、さまざまなエンドユー ザーに提供される再利用可能な拡張機能を開発する。 拡張機能の開発における規模の経済と範囲の経 済を推進するための生産的レバレッジを推進す る。 生産的レバレッジは規模の経済と範囲の経済を推進 するが、取引レバレッジは検索と取引の経済を推進 し、イノベーションレバレッジは拡張機能の開発に おける補完性の経済を推進する。 プラットフォーム とインターフェー スの標準化 拡張機能の開発と統合のための標準化がほとん ど行われていない異種開発環境とインター フェースをもっている。 拡張機能の開発と統合のための標準化された開発 キット(SDK)とインターフェース(API)が提供さ れる。 プラットフォーム のオープン化度合 い プラットフォームとプラットフォームにアクセ スできる補完者、およびエンドユーザーとの関 係が管理され、選ばれた補完者のエコシステム がサポートされる。 プラットフォームの拡張やエンドユーザーとの関係 は制御されず、潜在的な補完者全員にプラット フォームへのオープンアクセスを提供し、異種補完 者へのより広範なエコシステムがサポートされる。 プラットフォーム プラットフォーム が提供するレバ レッジの種類 46
「イノベーション」プラットフォームエコシステムへ 移行のための生成AIの役割 • 移行に対し生成AIは次のような役割を果たすと考えられる。 1. ChatGPTのGPT Store機能は「イノベーション」プラットフォームエ コシステムを形成する重要な要素機能になる。 2. GPTsの加速度的普及によって、各種のアプリケーションインタフェー スが生成AI機能利用の形態に変化(あるいは統一化)する。 3. 加えて、同一インタフェースの共有に支えられて、既存機能との連携 が容易化する(例:KAYAKなど)。 4. この流れはエンタープライズプラットフォームにも及ぶ。 5. このような状況によって、生成AI機能インタフェースの共有は拡張機 能の開発や普及をより促進させ「イノベーション」プラットフォーム への移行を後押しする。 47
イノベーションプラットフォームエコシステムへ移行時の課題 • 但し、生成AIの本質に関わる課題も含め、多くの課題が厳然と存在する。 1. 市場力の集中:強力なネットワーク効果により競合LLM数が減少し、クラ ウドサービスとも一体化して特定LLMに集中する可能性がある。 2. データ/コンテンツの所有権とプライバシー:トレーニング用に使用された ニュース記事を巡って訴訟が発生するなど、未解決の問題がある。 3. 「幻覚」と情報の正確性:LLMの応答は、無関係、事実上誤謬、倫理的に 欠陥、有害な可能性がある。 4. 規制と自己規制:主要な生成AIベンダーが市場を独占する傾向がある場合は 特に政府の規制が重要になる。 5. 経済的および社会的混乱:生成AI は業界だけでなく、個々の職業にも混乱 をもたらす。 6. 環境への影響:生成AIの処理に必要な莫大なコンピュータリソースおよびエ ネルギー量による影響が発生する。 7. 意図しない結果:生成AIが我々をどこに導いてゆくのかについては、現在誰 にもわからない状況にある。 48
「イノベーション」プラットフォームエコシステムとしての生成AI(中間まとめ) • 種々の課題に直面しているとは言え、生成AIの登場と普及は、プラット フォームエコシステムを「製品」プラットフォームエコシステムから 「イノベーション」プラットフォームエコシステムへと移行させる大き な圧力となっている。 • 基本的背景は、補完者が開発した機能の再利用頻度が加速度的に増加し、 多くの顧客/企業がその恩恵を享受したいとの期待である。 • しかし、各種課題に対応するための負担は極めて重く、1ユーザー/1 企業で対処しきれるものではない。 • そこで、大きなトレンドを意識しながら、「イノベーション」プラット フォームエコシステムベースで多くの企業/個人がメリットを享受でき るように、如何に適切に課題解決に向けた相互協力ができるかが強く期 待される状況になる。 49
最終まとめ 1. インフラストラクチャ層は、パソコンにおけるWintel(MicrosoftとIntel の2社連合)に相当するデファクト標準をNVIDIA1社で担う体制が暫く 続くと見られる。 2. 基礎モデル層は、OpenAIのChatGPTのブランド力とプラグイン/GPTs 早期投入で、LLMをプラットフォームエコシステムの中核とする動きが 登場している。オープンソースLLMも多数登場しており、LLMを中核 とするエコシステム形成は加速すると見られる。 3. アプリケーション層は、多様なアプリケーション分野で生成AI活用の取 組みが開始された。B2CでのGPTs活用だけでなく、B2BでもSAP, Salesforceなどエンタープライズ分野へも普及すると見られる。 4. このような中で、AIデータセンター増設ブームのような垂直的動きと生 成AIインタフェース統一による水平連携の拡大が同時発生しており、予 想出来ないほど広範なエコシステムが形成される可能性がある。 5. 総括すると、各種課題を抱えてはいるものの、ビジネスの中核であるエ ンタープライズプラットフォームまでも生成AI導入の方向に行けば、次 世代プラットフォーム登場の可能性は極めて大きいと言える。今こそ、 次の未来を慎重に考えるべき時である。 50
編集後記 • “生成AIは次の新たなプラットフォームか?”のようなテーマは時期尚早であり、 論文としては書き難いテーマである。 • トップを切って関連論文を公開していたのは、プラットフォーム理論で著名な M. Cusumano教授である。 Michael • ただ、この論文も「MIT による生成 AI の調査」というMIT内部資料の体裁で公 Cusumano MITスロー 開されており、学術論文誌には掲載されていない(MIT内部の独自資料か、授 ン経営大学 業テキストあるいは参考資料)。 院教授 • このような内容で早速授業が行われている?MITは流石と思わせる。 • その他の論文も、最近のシンポジウム向けに寄稿された論文が大半で、本稿で 採用した論文の引用件数も少なかった。 • また、ブログ(Nvidia Blogなど)や雑誌記事を論文が引用する傾向も強かった。 • 従って、今回の内容はまだ検証が不充分な論拠(例:かなり限定されたインタ ビュー数に基づく論考、など)に基づいている。しかし、現状では仕方がない。 • 本稿は、関連する雑誌記事、ニュース、Youtubeコンテンツなどが現在枚挙に 暇がないが、それらを多少はアカデミックな視点から整理し理解しようとする 際に有用になることを意図している。 51
文献 52