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August 24, 24
スライド概要
8月24日(土)に学習院大学で開催された「宇沢弘文没後10年記念シンポジウム」で使用したスライド資料です。セッション2「宇沢弘文の数学」に小島寛之さん(帝京大学特定教授)と一緒に登壇させて頂きました。
https://uzawa20240824.peatix.com/view
宇沢弘文の数学 ― 報告用資料 ① 宇沢弘文のゲーム理論 • 宇沢経済学のゲーム理論への接近 ② 公共財と社会的共通資本 • 「社会的共通資本≒コモンズ」の再検討 ③ 宇沢の同値定理 (時間があれば…) • キャリア初期に示した数理経済学の限界? 安田洋祐 (大阪大学) HPは ☞ 2024年8月 大阪大学|安田洋祐 1
宇沢弘文のゲーム理論 宇沢経済学のゲーム理論への接近 2024年8月 大阪大学|安田洋祐 2
「宇沢経済学」の集大成? 日本語版(2003年7月) 2024年8月 英語版(2003年8月) 大阪大学|安田洋祐 3
『経済解析:展開編』の「はしがき」 • 本書は、 Cambridge University Press から出版される予定の Economic Theory and Global Warning の岩波版であるが、日本の読 者のための解説的な文章を数多く加えた。 • 本書では、『基礎編』で導入した経済解析の考え方と分析的手法をできるだけ 有効に使って、社会的共通資本、あるいはそれに関連する制度主義的な問 題を分析することを試みた。 • しかし、その成果は必ずしも満足できるものではない。著者のもつ問題意識を 理解していただける若い経済学者の手によって、実り多い発展をとげることを期 待するものである。 2024年8月 大阪大学|安田洋祐 4
『経済解析:展開編』 の「目次」 • 第1部:地球温暖化と経済理論 • 1:地球温暖化と動学的帰属理論 • 2:地球温暖化とリンダール均衡の安定性 • 3:地球温暖化とゲーム理論 • 4:地球温暖化と世代間の公正 • 第2部:経済分析の精緻化 ←有望な分析ツールの紹介? • 5:パレート最適、競争均衡、リンダール均衡 • 6:競争均衡とコアの理論 • 7:サミュエルソン的公共財とゲーム理論 • 8:クールノー均衡のゲーム理論的アプローチ:プレリュード • 9:オリゴポリーの経済分析 • 10:時間選好と資本蓄積にかんする動学的双対定理 • 11:内生的時間選好、ペンローズ効果、環境の質の動学的最適化 • 12:内生的時間選好にかんするクープマンス=宇沢=エプシタイン理論 2024年8月 大阪大学|安田洋祐 「ゲーム理論」やそれに関連する トピックが非常に多い! ⇓ 市場経済(完全競争市場) とは異なる経済のメカニズムに 目を向けていた ⇓ 最適解・最適経路といった規範 的分析と相性の良い 「協力ゲーム理論」中心 5
• 第3部:社会的共通資本の理論 ←ゲーム理論をまだ使っていない • 13:「コモンズの悲劇」と社会的共通資本の理論 • 14:社会的共通資本の一般理論 • 15:社会的共通資本の静学的、動学的学部性 • 16:社会的共通資本とリンダール均衡 • 17:社会的不安定性と社会的共通資本 “ゲーム理論の数学的な基礎につい ては、イスラエルの数学者ロバート・ オーマン教授が、1975-76年、アメ リカのスタンフォード大学でおこなった 名講義がしばしば引用される。 ” • 第4部:国際経済学にかんする若干の問題 • 18:経済統合と政策協調のゲーム理論的アプローチ • 19:資本蓄積と対外債務の最適なパターン • 20:インフレーション過程の国際的拡散 • 第5部:経済学の新しい展開を求めて • 21:20世紀の経済学を振り返って • 22:新しい経済学への展望 • 付論:ゲーム理論入門 • 付論1:ゲーム理論入門 • 付論2:オーマン・レクチャー ―― ゲーム理論の数学的基礎 2024年8月 大阪大学|安田洋祐 6
数学出身の二人の偉大な経済学者 宇沢弘文 ロバート・オーマン 似 て る 2024年8月 大阪大学|安田洋祐 2005年にノーベル経済学賞を受賞! 7
公共財と社会的共通資本 「社会的共通資本≒コモンズ」の再検討 2024年8月 大阪大学|安田洋祐 8
競合性 公共財の分類 競合する 競合しない 排除できる 私的財 クラブ財 排除できない コモンズ (純粋)公共財 排除性 (コモンプール財) • コモンズは広義の公共財(準公共財) • 消費が競合&利用者を排除できない ⇒ コモンズ(共有地)の悲劇が起こる… 2024年8月 大阪大学|安田洋祐 9
競合性 コモンズの“解決策” 排除できる 競合しない 私的財 クラブ財 ② ① 排除性 排除できない • 共有資源の乱獲 • 管理のただ乗り ⇨ 「コモンズの悲劇」 2024年8月 競合する コモンズ (コモンプール財) (純粋)公共財 教科書的な解決策 ① 私的所有権+民営化 (私的財) ② 国・自治体による管理 (クラブ財) 大阪大学|安田洋祐 10
宇沢が語る「社会的共通資本≠公共財」 (以下は宇沢弘文『経済解析:展開編』の396~7頁からの抜粋) • 社会的共通資本の概念は、サミュエルソンの公共財と、次の2つの点 で異なる。 • 第1に、経済を構成する経済主体は、社会的共通資本のサービスをど れだけ使うかを、それぞれの主観的選好関係にもとづいて、最大の効用 が得られるように、主体的に決めることができる。このとき、各経済主体 は、社会的共通資本のサービスに対して、決められた価格にもとづいて 使用料金を支払う。 • 第2に、社会的共通資本のサービスにともなって、混雑がみられる。す なわち、各経済主体が、社会的共通資本のサービスを使ったときに得ら れる効用の水準は、その経済主体が使った社会的共通資本のサービス の量に依存するだけでなく、他の経済主体が、同じ社会的共通資本の サービスをどれだけ使っているかにも依存する。 ⇒ 社会的共通資本はある程度は排除可能&完全には競合しない! 2024年8月 大阪大学|安田洋祐 11
社会的共通資本 ≠ 従来のコモンズ 完全に競合する 完全に排除できる 私的財 アダム・スミス 部分的に排除可 (長期的関係) 排除できない 部分的に競合する (混雑・過剰利用) 競合しない クラブ財 ポール・ローマー シン・社会的共通資本 宇沢弘文(&オストロム?) “コモンズ” ハーディン 公共財 サミュエルソン 解決策③ 「コモンズの統治」 ⇨ 社会的共通資本の理論的土台では? 2024年8月 大阪大学|安田洋祐 12
共同体によるコモンズの統治 • Both state control and privatization of resources have been advocated, but neither the state nor the market have been uniformly successful in solving common pool resource problems. • In contrast to the proposition of the tragedy of the commons argument, common pool problems sometimes are solved by voluntary organizations rather than by a coercive state. エリノア・オストロム ・・・ 経済的なガバナンスに関する分析への 貢献で2009年にノーベル経済学賞を受賞(女性初!) 2024年8月 大阪大学|安田洋祐 13
シン・社会的共通資本の特徴 • 部分的に排除可能 • メンバーがある程度は固定されている • 金銭動機だけでなく互恵性・利他性が働く • 長期的関係を通じて協力することができる! ← 繰り返しゲームの理論 (非協力ゲーム理論) キーワードは ・長期的関係 ・負の外部性 実はゲーム理論が 貢献できるかも? • 部分的に競合する • 過剰利用が混雑などの負の外部性をもたらす • 参加者の厚み・混雑回避・安全性の3つの課題解決が必要! ← マーケットデザイン (協力&非協力ゲーム理論) 2024年8月 大阪大学|安田洋祐 14
分散型自律組織 資本主義・社会的共通資本・DAOの比較 資本主義 社会的共通資本 DAO 私的所有 (組織の境界が厳格) 共同所有 (メンバー資格が厳格) 誰も所有しない (組織の境界が緩い) 利潤、成長、利己 社会、持続、協力(互恵) トークン、協力(利己) 市場経済 地域共同体 ゆるい共同体 2024年8月 大阪大学|安田洋祐 15
宇沢の同値定理 キャリア初期に示した数理経済学の限界? 2024年8月 大阪大学|安田洋祐 16
宇沢の同値定理(1962年) • Walras's existence theorem and Brouwer's fixed-point theorem • The Economic Studies Quarterly, 13(1), 59-62, 1962. • 『基礎編』や論文集(☞)にも所収 A) 競争均衡(ワルラス均衡)の存在定理 • 一定の条件のもとで競争均衡が存在する B) Brouwerによる不動点の存在定理 • 一定の条件のもとで不動点が存在する ⇒ 本論文はAとBが同値であることを証明! 2024年8月 日本名は「季刊 理論経済学」 Japanese Economic Reviewの前身 大阪大学|安田洋祐 Chapter 11 17
Ross Starr 教授が語る革新性 • [The Uzawa Equivalence Theorem] says that use of the Brouwer Fixed-Point Theorem is not merely one way to prove the existence of equilibrium. In a fundamental sense, it is the only way. • Any alternative proof of existence will include, inter alia, an implicit proof of the Brouwer Theorem. Hence, this mathematical method is essential; one cannot pursue this branch of economics without the Brouwer Theorem. 2024年8月 大阪大学|安田洋祐 18