学者の思考と生き方を言語の外から読み取る:ライティング研究とその周辺で

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June 25, 23

スライド概要

公開シンポジウム「認知科学のこれまでとこれから」@東京大学福武ホール福武ラーニングシアター(2023-06-24)
https://gshi.si.aoyama.ac.jp/hiblog/suzuki/?p=746

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「学問しながら生きるには」は永遠のテーマです。

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各ページのテキスト
1.

学者の思考と生き方を 言語の外から汲み取る: ライティング研究とその周辺で 鈴木 聡 SUZUKI Satoshi V. 大阪経済法科大学 経営学部 [email protected] / @svslab

2.

学習とは 「いつの間にかできている」 の「波に乗る」こと

3.

創造はサーフィンに似ている。 天才的なサーフィン技術を持っ ていたとしても,琵琶湖にしか いなければその人は誰にも認め られない。一方,サーフィン初 心者が,素晴らしい波に偶然出 会えても単に大怪我をするだけ だ。この熟練とチャンスの出会 いが創造を生み出すのだ。 生田・北村 (2011) 鈴木宏昭 (2020a)

4.

消化不良の 初心者 適応的熟達者 ①「波に乗る」ために 無意識下に働きかけて 学習者を革新性の方向に 意識を向けさせる 革 新 性 ②新しい「波に乗ら」 ない学習者への苛立ち ③「波に乗った」後の 学習者の認知過程に着目する 定型的熟達者 Bransford et al. (2005) 効率性

5.

消化不良の 初心者 適応的熟達者 ①「波に乗る」ために 無意識下に働きかけて 学習者を革新性の方向に 意識を向けさせる 革 新 性 定型的熟達者 Bransford et al. (2005) 効率性

6.

鈴木・福田・鈴木・田中・山田 (2013) 思えば最初に接点ができたきっかけも こういう研究の発表だった@JCSS2004

7.

ライティングの認知過程 問題設定 論述 1. 問いの候補への気 づき 2. 問いの選択と洗練 3. 問いの明確化・普 遍化・相対化 論証モデルの 使用 ピアフィード バック 鈴木宏昭 (2014) 「波に乗る」ために 無意識下への働きかけ プランニング 翻訳 推敲 文章の構想を立て,骨組みをつくる 文章化する 見直す Hayes & Flower (1980) まっすぐ右に,ではなく 行きつ戻りつしながら進む

8.

消化不良の 初心者 適応的熟達者 直感的・感情的に 考える方向に誘発し, 学習者を革新性の方向に 意識を向けさせる 革 新 性 最初から論理的に 考えようとすると 知識を効率的に 吸収しようという 意識を持ってしまう 定型的熟達者 Bransford et al. (2005) 効率性

9.

鈴木・鈴木 (2011a)

10.

戸田山 (2022); 鈴木・鈴木 (2011a) 感情の強さ(arousal) 強い 鈴木先生が価値を置いていたリ アクション? ハゲパツ ムカッ メウロコ へぇ 感情の正負 ポジティブ (valence) ネガティブ よいレポートを書いた学生で最 も多かった参考文献へのリアク ション ナツイカ ?? ハゲドウ そうそう 弱い

11.

学者たるもの「感情の強さ」を • 大学授業のレポートで求められる問いであれば感情 の強さが伴わない「違和感」 で十分 • ただ,学者として「波に乗りたい」ならば,研究に 対して強い感情を求める必要がある • 「おもしろい研究」への強い驚き • 「闘う対象」への強い怒り • (ただし感情を向ける対象を間違えるな,とも)

12.

消化不良の 初心者 適応的熟達者 革 新 性 ②新しい「波に乗ら」 ない学習者への苛立ち 定型的熟達者 Bransford et al. (2005) 効率性

13.

ライティングの認知過程 問題設定 論述 1. 問いの候補への気 づき 2. 問いの選択と洗練 3. 問いの明確化・普 遍化・相対化 論証モデルの 使用 ピアフィード バック 鈴木宏昭 (2014) 問いの客観的価値や 論理性について 基準が必要 プランニング 翻訳 推敲 文章の構想を立て,骨組みをつくる 文章化する 見直す Hayes & Flower (1980) まっすぐ右に,ではなく 行きつ戻りつしながら進む

14.

学習者が進む方向・目標と 到達度の呈示も必要 • 正解信仰からの脱却と問題の定式化 (鈴木・杉谷, 2012) • • 明確化・普遍化・相対化 Toulminモデルに基づくレポートの説得性・論理性の評価 (鈴木・舘野・杉谷・長田・小田, 2007; 白石・鈴木, 2009) 根拠 限定 論拠 裏付け 主張 反論 Toulmin (1958)

15.

その一方で…… 「波」ドリブンで学ぶ vs. 与えられた目標ドリブンで学ぶ 到達目標や評価基準(論証モデルなど)が 学習者に与えられると…… • 目標に到達しただけで満足 • 自発的に目標設定しなくなる

16.

鈴木宏昭 (2022) 次何やるんですか?

17.

消化不良の 初心者 適応的熟達者 革 新 性 ③「波に乗った」後の 学習者の認知過程に着目する 定型的熟達者 Bransford et al. (2005) 効率性

18.

ライティングの認知過程 問題設定 1. 問いの候補への気 づき 2. 問いの選択と洗練 3. 問いの明確化・普 遍化・相対化 論述 論証モデルの 使用 ピアフィード バック 鈴木宏昭 (2014) 他者の目を通して 説得力のある, 認められる意見に 仕上げてゆく プランニング 翻訳 推敲 文章の構想を立て,骨組みをつくる 文章化する 見直す Hayes & Flower (1980) まっすぐ右に,ではなく 行きつ戻りつしながら進む

19.

「波に乗せる」要因としての他者の目 • ジグソー法による問題発見支援 (長田, 2009) • 学習者同士のレビューを通したレポートの説得性・論理性向上の 試み (鈴木・舘野・杉谷・長田・小田, 2007; 白石・鈴木, 2009) • 参考文献に付した下線・コメントの学習者間共有と相互レビュー (鈴木・鈴木, 2011b) 他者の目は「波に乗る」ための 必要条件になりうるかは議論の余地あり ただ他者の存在が学習の鍵になることは間違いない

20.

鈴木宏昭 (2014) 遠心的越境:自己の外の世界との境界を見つけ, 越境することを通して世界を理解する 過去の 自己 現在の 自己 未来の 自己 特定の他者 不特定の 他者 歴史・文化 求心的越境:外の世界に自己を位置づける ライティングの場合,自分独自の意見を述べる

21.

鈴木宏昭 (2014, 2020b, 2022) 近接項 遠隔項 プロジェクション・ サイエンスにつながる 過渡期的なアイデア? 過去の 自己 現在の 自己 未来の 自己 特定の他者 不特定の 他者 歴史・文化 「波に乗り続ける」ことを通じて「遠い」遠隔項へアクセス する認知過程を追い求めるのが,鈴木先生の目指す場所

22.

参考文献 • Bransford, J. D., Derry, S., Berliner, D., & Hammerness, K. (2005). Theories of learning and their roles in teaching. In L. DarlingHammond & J. Bransford (Eds.), Preparing teachers for a changing world: What teachers should learn and be able to do (pp. 40-87). San Francisco, CA: Jossey-Bass. • 生田久美子・北村勝朗(編)(2011). わざ言語:感覚の共有を通しての「学び」へ • 長田尚子 (2009). ジグソー法を活用した問題発見の支援 試み 丸善プラネット • 白石藍子・鈴木宏昭 (2009). 相互レビューによる論証スキルの獲得 ング教育の試み 丸善プラネット • 鈴木宏昭 (2014). ライティング:問題設定と論述のメカニズムとその支援 ナカニシヤ出版 • 鈴木宏昭 (2020a). 認知バイアス:心に潜むふしぎな働き • 鈴木宏昭 (2020b). プロジェクション・サイエンスの目指すもの 世代の認知科学 近代科学社 • 鈴木宏昭 (2022). 私たちはどう学んでいるのか:創発から見る認知の変化 • 鈴木宏昭・福田玄明・鈴木 1J3-OS-22a-6. • 鈴木宏昭・杉谷祐美子 (2012). レポートライティングにおける問題設定支援 • 鈴木宏昭・舘野泰一・杉谷祐美子・長田尚子・小田光宏 (2007). Toulminモデルに準拠したレポートライティングのための協調学習環境. 京都大学 高等教育研究, 13, 13-24. • 鈴木 聡・鈴木宏昭 (2011a). マーキング・感情タグの付与を活用したライティング活動における問題構築的読解 341. • 鈴木 • 戸田山和久 (2022). 最新版 論文の教室:レポートから卒論まで • Toulmin, S. (1958). The Uses of Argument. Cambridge University Press. (戸田山和久・福澤一吉(訳) (2011). 議論の技法 聡・田中克明・山田 鈴木宏昭(編) 慶應義塾大学出版会 学びあいが生みだす書く力:大学におけるレポートライティング教育の 鈴木宏昭(編) 学びあいが生みだす書く力:大学におけるレポートライティ 富田英司・田島充士(編) 大学教育:越境の説明をはぐくむ心理学 講談社 鈴木宏昭(編) プロジェクション・サイエンス:心と身体を世界につなぐ第三 筑摩書房 歩 (2013). 無意識的情報を用いたモチベーション向上 人工知能学会第27回全国大会論文集, 教育心理学年報, 51, 154-166. 聡・鈴木宏昭 (2011b) ピアコメントの産出・閲覧による大学生のレポートの改善の試み 日本教育工学会論文誌, 34, 331‒ 情報処理学会論文誌, 52(12), 3150-3158. NHK出版 東京図書)