医療DX入門講座5標準と相互運用性

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May 08, 25

スライド概要

Dr.'s Prime Academiaで講義した医療DX入門講座第5回「標準と相互運用性」編です。
医療情報標準規格についての課題と導入時のポイントについて解説しています。

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1970年生まれ。マイコン少年として育ち、1995年に医師免許取得。以後、血液内科で修練すると同時にインターネット、情報システムに興味を持ち医療情報学の研究を始める。 医療分野のオープンソースソフトウェア、医療情報標準規格について研究、医療DX教育にも携わってきた。

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関連スライド

各ページのテキスト
1.

医療DX入門講座5 標準と相互運用性 Standard and Interoperability 小林 慎治

2.

今回の講義で学ぶこと • これまでのおさらい • ガバナンス • アーキテクチャ設計 • マネジメント • 医療情報標準規格とは • 形式と用語 • 現状の課題 • 標準規格についてのGAP • 例題:外来業務のDX:標準規格導入と運用 • 医療DX入門講座のまとめ

3.

これまでのおさらい

4.

ガバナンスとは • 主体 • 経営陣 • 手順 • DXの「目的」を定める。 • 目的とする理由や根拠を示す。 • 目的を達成することで得られる成 果について説明する。 • 経営者 成果 • 効果の実現(組織価値向上) • リスク最小化。 • 資源の最適化。

5.

アーキテクチャとは • 主体 • 情報部門、診療部門 • 手順 • DXの「目的」までの工程を定める。 • 業務設計(ECRS原則) • システム設計 • 技術構成 • 移行計画 • 成果 • 業務の最適化 • DX計画の可視化・合意形 成

6.

マネジメントとは • 主体 • 情報部門、診療部門 • 手順 • DXの「目的」を達成させる。 • 成果物を決める • 課題を分割して実施する • 成果 • DXを成功に導く

7.

標準と相互運用性とは • 主体 • 情報システム • 手順 • 異なるシステム間でも同じ手段でデータ を連携できること。 • 目的 • データを連係し、活用するコストを低減 させる • データを活用する

8.

相互運用できないと…

9.

DXを加速させるために • 医療情報標準規格 • 異なるシステム間での情報連携を 可能にする • 再入力の手間を減らす • システム接続コストの削減 • データ活用 • 大規模データを集める • データを正しく解釈するために

10.

医療情報標準規格と相互運用性

11.

医療情報標準規格とは • 対象 • 医療で扱われるデータ • 対象外 • 「医療の標準化」「業務手順」「クリニカルパス」など • 目的 • 医療データを異なるシステムの間で連携して、1)幅広く診療に役立て、2)デー タを活用していくため。 • 手法 • 標準規格:データや通信に使う形式(フォーマット)や用語を統一化すること • 相互運用性:異なるシステムの間でもデータを同じ意味で使うことができるように すること。

12.

HIMSS相互運用性の4段階 • Foundation(Level 1): • 通信手順が確立されている。 • Structural (Level 2): • データ交換の形式や構造が標準化 されて送受信することができる。 • Semantic (Level 3): • 交換されるデータの用語が標準化さ れている。 • Organizational (Level 4): • 病院間でのデータ連係のために組 織的な体制ができている。

13.

医療情報標準規格 • 形式(HIMSS Level 2) • HL7 V2, SS-MIX, FHIR, MML, openEHR • 用語(HIMSS Level 3) • ICD10(病名)、JLAC10(検査項目)、YJコード(医薬品)

14.

標準形式の例(HL7 V2) OBX|1|NM|2A010^白血球数^JC10||5.3|10*3/μl|||||F|||2024012912345600|||| OBX|2|NM|2A020^赤血球数^JC10||420|10*4/μl|||||F|||2024012912345600|||| OBX|3|NM|2A030^血色素^JC10||13.4|g/dl|||||F|||2024012912345600|||| OBX|4|NM|2A040^ヘマトクリット^JC10||40.2|%|||||F|||2024012912345600|||||||| OBX|5|NM|2A050^血小板数^JC10||21.8|10*4/μl|||||F|||2024012912345600||||||||

15.

標準用語集(JLAC10) • 用語のブレ(非標準用語) • 白血球 • White blood cell • WBC • Leukocyte • ロイコ • ワイセ 検査項目名 コード 白血球数 2A010 赤血球数 2A020 血色素 2A030 ヘマトクリット 2A040 血小板数 2A050 日本臨床検査医学会、臨床検査コード集JLAC 10

16.

厚生労働省標準(HELICS標準) No 規格提案名 実装率/活 用率(%) 採択日 No 規格提案名 実装率/活 用率(%) 採択日 HS001 医薬品HOTコードマスター 49.5/21.0 2003/05/23 HS026 57.8/40.9 2016/02/19 HS005 ICD10対応標準病名マスター 92.0/86.6 2004/12/28 SS-MIX2ストレージ仕様書および構築ガイ ドライン HS007 患者診療情報提供書及び電子診療データ 提供書 8.6/5.9 2007/03/16 HS027 処方・注射オーダ標準用法規格 23.9/14.5 2016/09/09 HS028 7.8/6.2 2016/04/13 HS008 診療情報提供書(電子紹介状) 8.6/5.9 2008/09/01 ISO 22077-1:2022保健医療情報-医用波形 フォーマット-パート1:基本規格(MFER) HS009 IHE統合プロファイル「可搬型医用画 像」およびその運用指針 14.8/12.4 2008/12/01 HS030 データ入力用書式取得・提出に関する仕様 (RFD) 2.8/0.9 2019/05/09 HS011 医療におけるデジタル画像と通信 (DICOM) 22.6/20.4 2010/01/25 HS031 地域医療連携における情報連携基盤技術仕 様(IHE) 17.7/13.4 2017/02/10 HS012 JAHIS臨床検査データ交換規約(HL7 V2) 34.9/18.0 2010/02/10 HS032 HL7 CDAに基づく退院時サマリー規約 8.3/5.9 2019/06/20 HS013 標準歯科病名マスター 51.8/36.3 2010/09/20 HS033 標準歯式コード仕様 21.0/12.4 2018/10/02 HS014 臨床検査マスター 28.5/15.6 2011/01/31 HS034 口腔診査情報標準コード仕様 2019/12/19 HS016 JAHIS放射線データ交換規約 32.0/16.9 2011/09/29 HS035 医療放射線被ばく管理統合プロファイル 2020/05/7 HS017 HIS, RIS, PACS, モダリティ間予約, 会計, 照射録情報連携指針(JJ1017指針) 22.0/13.4 2011/12/16 HS036 処方情報HL7 FHIR記述仕様 2022/02/28 HS037 健康診断結果報告書HL7 FHIR記述仕様 2022/02/28 HS022 JAHIS処方データ交換規約(HL7 V2) 31.4/18.0 2014/12/16 HS038 診療情報提供書HL7 FHIR記述仕様 2022/02/28 HS024 看護実践用語標準マスター 32.8/22.3 2016/02/12 HS039 退院時サマリーHL7 FHIR記述仕様 2022/02/28 実装率/活用採用率は厚労省「日本における医療情報システムの標準化に係わる実態調査研究報告」2019年より病院でのデー タを抜粋https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/000685906.pdf

17.

医療情報標準規格の課題 • すべての医療情報を網羅しているわけではない • 期待されているHL7 FHIRでも全体の1-2割程度にしか対応しない • 標準規格への対応コスト • 標準規格に対応するためにシステムを改修するコストはそれなりにかかる。 • 数十万円から数千万円 • 規格は定期的にアップデートされるため、システムでもアップデートしたり、院内ローカルの コードのメンテナンスなど運用コストもそれなりにかかる • 採用しても得られるものがあまりない。 • そもそも厚生労働省標準規格で普及しているものはあまりなく、多くは20%前後である。 • 採用しても他のシステムとの接続コストを下げられるなどのメリットが現状ではあまりない。 • 採用しないという選択肢も十分に考慮すべき

18.

それでも医療情報標準化を勧める理由 • 未来への投資 • 将来のシステム投資コストを下げる • 国際標準規格導入のメリット • 海外で開発された医療機器の導入コストを下げることができる。 • データ活用の幅を広げる • 標準化によってデータの量と質を上げることができる

19.

医療情報標準規格のGAP • ガバナンス • 標準規格を採用する目的を明確にする。 • システム導入コスト、システム接続コストの低減、データ活用 • 加算のため。 • 規格運用のコスト見積もり • アーキテクチャ(技術構成) • 連携すべきデータは何か • 現在のシステムが備えている標準規格は何か • システムに追加や改修が必要か。 • マネジメント(計画運用) • 標準規格・マスタ類の運用をどのように継続していくか • まずは小規模導入から始める。

20.

まとめ • 標準規格はDXを加速させる • 共通規格でシステム間連携を効率よく行うことができる • データの質と量を向上させることができ、活用につなげることができる • 課題 • 厚生労働省標準とされていても普及率が20%程度にとどまっているものが大半を 占めている。 • 標準規格の導入と運用にはそれなりのコストもかかるので、内容を十分に吟味し た上で採用を決めるべきではある。

21.

例題:外来業務のDXについて

22.

例題:外来業務のDXについて • 例題シナリオ • A市(人口30万人)の中核病院であるA市立病院では、外来待ち時間が長いというク レームが多く寄せられていた。 • そこで、医療DX加算の取得と外来待ち時間の短縮のため予約・受付管理システムを導 入することにした。 • 病院データ • 病床数:300 • 診療科:内科、外科、整形外科、眼科、耳鼻科 • 一日平均外来患者数:300人(新患30人) • 平均待ち時間:33分 • 平均診療時間:8分 • 外来総診療報酬: 7億円/年 • 電子カルテ導入済み、外来予約システムなし *架空設定です

23.

例題:課題整理 • 新患外来 • 外来は患者が受診を希望する診療科の診察日を案内する。 • 患者は希望の診療日に来院するが、混雑している日であるかどうかは病院に着く までわからない。 • 新患受付 • 電話予約だけでは新規患者IDを発行できないので、電子カルテで診療予約が 取れない。 • 問診票を渡して回答している間に患者IDを発行する。 • 問診票は外来看護師長が確認し、診療科・医師を振り分ける。 • 専門によっては混雑していることもあり、医師からの反発もありトラブルとなっている。 • 1週間に一度程度、新患が50人程度来る日には、外来が予定より3時間程度 超過する。

24.

例:外来DXの指示(Direction) • 目的 • 外来業務を効率化し、超過勤務を削減すると同時に外来収益増を目指す。 • 体制 • 外来DX協議会(院長、各科外来医長、看護師長、事務長、情報部門) • DX推進チーム(情報部門、外来医師、看護主任、事務員、5名) • 予算 • 4000万円(収益見込み) • 期間 • 1年間

25.

例題:業務フロー 新患 外来事務 問い合わせ 診療日案内 受診する 外来受付 問診票記入 問診票を渡す 外来師長 医師 患者登録 問診票渡す 問診票確認 外来振り分け 呼び出し 受診 当日外来集計・報告

26.

DX後の業務フロー 新患 外来予約システム 外来事務 問い合わせ 診療枠表示 予約 予約登録 外来師長 医師 患者登録 Web問診票 問診記入 問診票登録 当日受付 受診 患者振り分け 事前確認 マイナ確認 患者呼び出し

27.

連携されるデータ 問診情報 問診システム 予約枠照会 患者情報 予約登録 外来予約システム 患者仮ID発番 患者仮登録 医事会計シス テム 電子カルテシ ステム

28.

導入する標準規格 HL7 FHIR 問診システム 問診情報 予約枠照会 患者情報 外来予約システム 電子カルテシ ステム 予約登録 患者仮ID発番 患者仮登録 医事会計シス テム 医事会計システム独自API 外来患者予約で普及した規格は確立され てない。

29.

まとめ • 医療情報標準規格は適切に使うことでDXを加速させることができる。 • 医療情報標準規格には大きく分けて「形式」と「用語」がある。 • 医療情報標準規格の普及は政策的に行われているが、20%程度にとど まっているものが多く現在の課題の一つである。 • GAPを意識して医療情報標準規格の運用を院内で行っていく必要があ る。

30.

医療DX入門:標準と相互運用性についての Note記事 https://note.com/skoba/n/ndeb218545c82

31.

医療DX入門講座のまとめ • 医療DXはそもそも難しい • DXの対象としては困難な部類に入る • 医療DXを成功させるためのGAPSフレームワーク • Governance • 経営陣がDXの目的を明確に示す。EDMモデル • Architecture • 業務の課題を具体的に洗い出し、DX後の業務プロセスを設計し、移行までの計画を立案す る。 • People and Program Management • プロジェクトを段階的に分割し、具体的な成果物を定めて計画的に推進する。 • Standards and Interoperability • 将来のシステム構成やデータ活用を見越して医療情報標準規格を導入し運用する。

32.

DXを体系的に、そして現実的に進める • DXは一気に完璧を目指すのではなく、小さな成功を積み重ねていくこと が重要です。 • GAPSフレームワークを使って、DXを現場の課題に応じて具体的に進め てください。 • 医療DXは、理論と実践の両輪で推進していくことが成功への近道です。 この講座で得た知識を、現場でぜひ役立ててください。 • ご視聴ありがとうございました。