医療DX入門講座3アーキテクチャ

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May 08, 25

スライド概要

Dr.'s Prime Academiaで講演した医療DX入門講座の第3回目。アーキテクチャ編です。
第1回では医療DXの背景について紹介しました。第2回ではガバナンスは目的を示すことであると解説しました。
第3回では目的までどのようにして到達するのかをTOGAFを紹介しながら解説します。アーキテクチャというとハードウェアやソフトウェアなどの技術的な内容が中心となりがちですが、主体は業務を変革することです。

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1970年生まれ。マイコン少年として育ち、1995年に医師免許取得。以後、血液内科で修練すると同時にインターネット、情報システムに興味を持ち医療情報学の研究を始める。 医療分野のオープンソースソフトウェア、医療情報標準規格について研究、医療DX教育にも携わってきた。

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各ページのテキスト
1.

医療DX入門講座3 アーキテクチャ 小林 慎治

2.

今回の講義で学ぶこと • ガバナンスおさらい • アーキテクチャとは何か? • TOGAF標準 • 実践のためのステップ • 例題:外来業務のDX:アーキテクチャ編

3.

ガバナンスとは • 主体 • 経営陣 • 手順 • DXの「目的」を定める。 • 目的とする理由や根拠を示す。 • 目的を達成することで得られる成 果について説明する。 • 経営者 成果 • 効果の実現(組織価値向上) • リスク最小化。 • 資源の最適化。

4.

アーキテクチャとは • 主体 • 情報部門、診療部門 • 手順 • DXの「目的」までの工程を定める。 • 業務設計 • システム設計 • 技術構成 • 移行計画 • 成果 • 業務の最適化 • DX計画の可視化・合意形 成

5.

TOGAF標準 Open Group Japan, TOGAF標準とは,https://www.opengroup.or.jp/togaf.html

6.

アーキテクチャ実践のためのステップ • 方針設定(ビジョニング) • 現状(ベースライン)確認 • 目標(ターゲット)設計 • 業務設計 • 情報システム設計 • 技術コンポーネント設計 • 移行計画の策定 • 要件変更管理

7.

方針策定(ビジョ ニング) • 目的と目標 • ガバナンスで定めた目的のため に達成すべき目標を設定 • 例:外来受付の80%を自動化 • 課題 • ガバナンスで示された課題 • 範囲と深さ • 影響の及ぶ部門 • 業務内容の変化

8.

現状(ベースライン)確認 • 「現在地」の確認 • 行程を定めるためには、まず現在地を知る必要がある。 • 業務手順 • 現行の業務手順 • 関連する部署、書類 • 情報システム • データ:現在の業務で取り扱っているデータ • アプリケーション:構成する技術とそれぞれの依存関係や通信規格 • 技術コンポーネント • 端末やサーバの配置 • ネットワーク構成

9.

目標(ターゲット)設計 • 「目的地」の確認 • 目的の到達地点とはどこか、現在地からの距離、方向など。 • 業務設計 • DX後の業務手順を設計する • 情報システム設計 • 設計した業務手順を実施するためのシステムの要件を定める • 必要となるデータが記録され、利用することができるか • 技術コンポーネント設計 • 情報システムを導入するために必要となる技術コンポーネントを設計する • ネットワーク構成、端末台数、必要となる電源容量

10.

目標設計:業務 • ECRS原則 • Eliminate(排除) • 無駄な手順を省く。 • Combine(結合) • 業務を組み合わせて手間を省く。 • Rearrange(入れ替え) • 業務手順を入れ替えたり、配置を換えることで効率が良くなることがある。 • Simplify(簡素化) • 複雑な業務手順を簡素化する。

11.

目標設計:情報システムアーキテクチャ • データ • DXのために必要となるデータを網羅する • アプリケーション • DXのために必要な機能を備えている。 • 技術コンポーネント • 情報システムを活用するために必要となるインフラ • 電源容量、ネットワーク構成、物理的配置 • パフォーマンス、保守性、可用性

12.

移行計画の策定 • 現在地から目的地までの案内図 • 現行業務からDX後の業務に移行するまでのプロセスを策定 • マネジメント方法について • 次の講義で解説 • 使用方法伝達期間 • トレーニングに必要な期間、場所、人員配置 • 並行運用期間

13.

要件変更管理 • 文書管理 • 業務設計、情報システム設計 • 工程表 • 変更管理 • 要望、追加機能、追加ハードウェア • 保険改訂、法令変更などの外部要因 • マネジメント・ガバナンス • 関係者への周知はDXを進める上で重要 • 例外処理、予算追加 • 次回解説

14.

まとめ • アーキテクチャとは • DXの目的を達成するまでの工程を明らかにすること • アーキテクチャ策定のためのステップ(TOGAF) • 方針設定(ビジョニング) • 現状(ベースライン)確認 • 目標(ターゲット)設計 • 業務設計 • 情報システム設計 • 技術コンポーネント設計 • 移行計画の策定 • 要件変更管理

15.

例題:外来業務のDXについて • 例題シナリオ • A市(人口30万人)の中核病院であるA市立病院では、外来待ち時間が長いというク レームが多く寄せられていた。 • そこで、医療DX加算の取得と外来待ち時間の短縮のため予約・受付管理システムを導 入することにした。 • 病院データ • 病床数:300 • 診療科:内科、外科、整形外科、眼科、耳鼻科 • 一日平均外来患者数:300人(新患30人) • 平均待ち時間:33分 • 平均診療時間:8分 • 外来総診療報酬: 7億円/年 • 電子カルテ導入済み、外来予約システムなし *架空設定です

16.

例題:課題整理 • 新患外来 • 外来は患者が受診を希望する診療科の診察日を案内する。 • 患者は希望の診療日に来院するが、混雑している日であるかどうかは病院に着く までわからない。 • 新患受付 • 電話予約だけでは新規患者IDを発行できないので、電子カルテで診療予約が 取れない。 • 問診票を渡して回答している間に患者IDを発行する。 • 問診票は外来看護師長が確認し、診療科・医師を振り分ける。 • 専門によっては混雑していることもあり、医師からの反発もありトラブルとなっている。 • 1週間に一度程度、新患が50人程度来る日には、外来が予定より3時間程度 超過する。

17.

業務分析

18.

例:外来業務の評価(Evaluation) • 外来時間超過でかかっているコスト • 収益:超過分20人(50-30)×診療単価7000円 = 14万円 • 支出:超過人件費(医師5名、看護師10名、事務10名):36万円 • 年間支出:22万円x50週 = 1100万円 • DXの達成目標と効果見積もり • 外来超過勤務を50%削減できると年間550万円の人件費削減効果がある • 外来総診療報酬が7億円であるので、外来業務効率を10%改善して、患 者受入数を5%増やせば、3500万円の診療報酬増が見込まれる。 • 「医療DX体制整備加算」 8点 ×10円 × 30人(一日) x 250診療日 = 60万円

19.

例:外来DXの指示(Direction) • 目的 • 外来業務を効率化し、超過勤務を削減すると同時に外来収益増を目指す。 • 体制 • 外来DX協議会(院長、各科外来医長、看護師長、事務長、情報部門) • DX推進チーム(情報部門、外来医師、看護主任、事務員、5名) • 予算 • 4000万円(収益見込み) • 期間 • 1年間

20.

例:外来DXのモニタ(Monitor) • 達成指標 • 外来勤務者超過勤務時間 50%削減 • 外来患者数(新患・再来)5%増 • 外来診療報酬 5%増 • 外来診療単価 新患1人8点増 • 外来待ち時間 5%短縮 • 外来新患予約件数 全体の80% • 外来診療実時間 5%短縮

21.

例題:業務フロー 新患 外来事務 問い合わせ 診療日案内 受診する 外来受付 問診票記入 問診票を渡す 外来師長 医師 患者登録 問診票渡す 問診票確認 外来振り分け 呼び出し 受診 当日外来集計・報告

22.

ECRSで検討 新患 外来事務 問い合わせ 診療日案内 受診する 外来受付 問診票記入 問診票を渡す 外来師長 医師 患者登録 問診票渡す 問診票確認 外来振り分け 呼び出し 受診 当日外来集計・報告

23.

DX後の業務フロー 新患 外来予約システム 外来事務 問い合わせ 診療枠表示 予約 予約登録 外来師長 医師 患者登録 Web問診票 問診記入 問診票登録 当日受付 受診 患者振り分け 事前確認 マイナ確認 患者呼び出し

24.

アプリケーション要件 • 外来予約管理システム機能要件 • Web上で各診療科の空き枠を表示する。 • 空き枠への診療予約を行うことができる • 患者情報をあらかじめ登録することができる • 問診票を提示し、受け付けることができる • 外来看護師長が予約を割り振ることができる • 電子カルテシステムに予約情報を登録することができる • 医事会計システムに患者情報を仮登録できる • データ要件 • 患者氏名、連絡先、希望診療科 • 症状などの問診項目

25.

技術コンポーネント • 外来用端末 • 各診療科1台 • インターネット接続可能(既存の病院内ネットワークより制限付きアクセス) • サーバ • クラウド環境で予約受付 • オンプレミス電子カルテとの接続回線 • 患者側予約・問診画面 • Webアクセス:PC、スマホ対応

26.

移行に向けた工程表 2025年1-3月 4-6月 7-9月 10-12月 2026年1-3月 耳鼻科導入 要望調査 各診療科外 来対象 眼科導入 病院HP掲示 医事会計シス テム接続 小児科導入 整形外科導入 電子カルテシ ステム接続 外科導入 導入研修 内科導入

27.

医療DX入門:アーキテクチャについてのNote 記事 https://note.com/skoba/n/n31076d39e75f