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May 24, 24
スライド概要
2024年5月28日-31日
第38回 人工知能学会全国大会
市場急落時におけるレバレッジドETFと先物市場の相互作用
-人工市場を用いた分析-
スパークス・アセット・マネジメント株式会社
運用調査本部 ファンドマネージャー 兼 上席研究員
水田孝信
本発表資料は所属組織の公式見解を表すものではありません.
すべては個人的見解であります.
本研究では[丸山 2020], [Yagi 2020]の人工市場モデルに,レバレッジドETF自身が取引される取引所を実装し,誤発注も取り入れ,レバレッジドETFと先物の市場のどちらかで急落が起きたときに,他方の市場にどのような影響を与えるか,そして,リバランス取引がどのように影響を与えるか調べた.
その結果,レバレッジドETFに誤発注があった場合,裁定取引のおかげでレバレッジドETFは先物の流動性を使うことができ,下落幅が縮小した.レバレッジドETFへのノーマルエージェントの売り注文は,裁定エージェントの買い注文と成立し,裁定エージェントは先物へ売り注文を出すため,消費されるのは先物の買い注文である.裁定エージェントのレバレッジドETFへの買い注文のおかげで下落を減らしており,この注文を出せるのは先物の買い注文を消費できるからである.つまり,レバレッジドETFの下落を先物の流動性を使うことによって減らすことができているのである.これは,レバレッジドETFの隠れた流動性として先物の流動性が使われることを示している.
先物に誤発注があった場合も裁定取引のおかげで先物はレバレッジドETFの流動性を使うことができ,下落幅が縮小したが,縮小幅はレバレッジドETFに誤発注があった場合より小さい.先物から見ると少ない流動性のレバレッジドETFからもらえる流動性は比較的少ないからである.レバレッジドETFを取引している投資家からみると,先物の高い流動性の恩恵は大きいが,先物を取引している投資家からすると,レバレッジドETFの流動性から受けられる恩恵は大きくないことが分かった.
一方で,レバレッジドETFのリバランス取引により下落幅が大きくなることも分かった.特にS0 >100000では下落が大きすぎてシミュレーションが動かなかった.これは市場が破壊されていると言えよう.先物が下落するとレバレッジドETFは先物を売る.このときレバレッジドETFが大きいと売るべき先物の数量も大きくなる.すると,この売りにより先物の価格が下落してしまい先物はさらに下落し,追加でリバランスの売りが必要となる.これがループして止まらなくなり,市場の下落が続き,市場破壊となった.
[八木 2017], [Yagi 2016]は,リバランス時にボラティリティより大きいマーケットインパクトを与えると,そのインパクトによる価格変動で追加のリバランスが必要となり,そのリバランスがまた次のリバランスを必要としループが止まらなくなることを示したが,これと整合的である.
実際の金融市場の裁定取引は非常に複雑であり,本研究のモデルのように単純ではないし,価格の追随もここまで精度よく行われない.現実的な裁定取引によって引き起こされる現象も考えられ,これらは今後の課題である.
2024年5月28日-31日 第38回 人工知能学会全国大会 https://www.ai-gakkai.or.jp/jsai2024/ 市場急落時におけるレバレッジドETFと先物市場の相互作用 -人工市場を用いた分析水田 孝信 スパークス・アセット・マネジメント株式会社 mizutata[at]gmail.com https://mizutatakanobu.com 八木 勲 工学院大学 本資料は,スパークス・アセット・マネジメント株式会社の公式見解を表すものではありません.すべては個人的見解であります. こちらのスライドは以下からダウンロードできます https://mizutatakanobu.com/2024JSAI.pdf 1
(1) はじめに (2) モデル (3) シミュレーション結果 (4) まとめ こちらのスライドは以下からダウンロードできます https://mizutatakanobu.com/2024JSAI.pdf 2
(1) はじめに (2) モデル (3) シミュレーション結果 (4) まとめ こちらのスライドは以下からダウンロードできます https://mizutatakanobu.com/2024JSAI.pdf 3
レバレッジドETF(レバETF) ETF = Exchange Traded Funds 株式と同じように取引所で取引できるファンド 日経平均などの指数(先物)の数倍のリターンが得られるように設計されたETF 140 指数(先物) レバレッジドETF(2倍) 金額 120 100 80 60 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 営業日 レバETFはレバレッジ(2倍)を維持するために 指数(先物)を取引しなければならない リバランス 4
レバレッジ維持のためのリバランス (例)指数(先物)のリターン:1日目 +10%,2日目 -10% 指数 日 0 1 2 (a) リターン レバETF(2倍) 求められる結果 (b) リターン (c) 金額 = 2x(a) ((b)により) +10% -10% +20% -20% +20% -20% $100 $120 $96 レバレッジ = 2倍 レバETF(2倍)が保有する 指数(先物)の金額 (d) 保有すべき (e) 実際の保有 (f) リバランス = 2x(c) ((a)により) = (d)-(e) x2 x2 x2 $200 +10% $200 $240 $220 $192 -10% $216 レバETFは 指数が上昇すると指数を買い 指数が下落すると指数を売る 順張り 取引 このリバランスは金融市場を不安定にしているのでは? +20 -24
実証分析は難しい 多くの実証研究があるが、結論が分かれており、決着がついていない 実証研究の難しさ 現実の金融市場では ・ さまざまな要因で市場が不安定になるので純粋なレバETFの効果だけを取り出すのが困難 ・ これ以上、レバETFが大きくなったときの影響を知ることができない ↑ある閾値までは問題ないがそれを超えると混乱する場合、あらかじめ分析できない 人工市場 6
人工市場とは?・・・金融市場のマルチエージェントモデルです 計算機上に人工的に作られた架空の市場 エージェント(架空の投資家) + 価格決定メカニズム(架空の取引所) 注文 エージェント (投資家) 価格決定 メカニズム (取引所) 取引価格の 決定 実データが全く必要ない完全なコンピュータシミュレーション レバETFの純粋な影響を議論できる まだ到達したことがない大きさのレバETFを議論できる ↑混乱を起こす大きさをあらかじめ議論できる 7
人工市場による先行研究 [八木 2017], [Yagi 2016] リバランス時のマーケットインパクトがボラティリティを超えると 市場を変動を非常に大きくする [丸山 2020], [Yagi 2020] 上記をザラバでシミュレーション。最適なリバランス方法を議論 レバレッジドETF自身が取引される取引所は実装されておらず、 レバレッジドETF市場の急落が先物市場にどのような影響を与えるかなどは 調べることができなかった そこで本研究は、 [丸山 2020], [Yagi 2020] + レバレッジドETF市場 および、裁定取引エージェントを実装 レバレッジドETFと先物の市場のどちらかで急落が起きたときに 他方の市場にどのような影響を与えるか、そして、 リバランス取引がどのように影響を与えるか調べた 8
(1) はじめに (2) モデル (3) シミュレーション結果 (4) まとめ こちらのスライドは以下からダウンロードできます https://mizutatakanobu.com/2024JSAI.pdf 9
モデル全体 ノーマル エージェント 1000体 先物のみを 取引 100%注文 取引 高流動性 ノーマル エージェント 1000体 レバETFのみを 取引 20%の確率で注文 低流動性 取引 先物が 取引されている取引所 裁定 エージェント リバランス 取引 1体のみ 先物を 保有 レバレッジドETF (レバETF) が取引される取引所 レバETF エージェント 1体のみ 取引されているレバETFが先 物を保有している 10
取引所 continuous double auction(ザラバ) ザラバ 売り 注文数量 10 30 50 130 最良買い価格 ここに売り注文を入れると 即座に売買成立 注文 価格 103 102 101 100 99 98 97 96 買い 注文数量 最良売り価格 ここに買い注文を入れると 150 即座に売買成立 70 対当する注文があると即座に売買成立 11
ノーマルエージェント 1000体 [Chiarella2002]を発展 ↑ ザラバかつstylized factを再現する中で 可能な限りシンプルなエージェントモデル 統計的性質を再現するために 最小限必要な項 テクニカル(順張り) j: エージェント番号(順番に注文) t: 時刻 予想リターン エージェントの パラメータ 𝑤𝑖,𝑗 𝜏𝑗 𝑡−1 𝑃 1 𝑃 𝑓 𝑡 𝑟𝑒,𝑗 = 𝑤1,𝑗 log 𝑡−1 + 𝑤2,𝑗 log 𝑡−𝜏𝑗 + 𝑤3,𝑗 𝜀𝑗𝑡 σ𝑖 𝑤𝑖,𝑗 𝑃 𝑃 一様乱数で決定 途中で変わらない 𝑤𝑖,𝑗 i=1,3: 0~1 i=2: 0~10 𝜏𝑗 0~1000 予想価格 𝑃𝑡 𝑒,𝑗 = 𝑃𝑡 exp( 𝑟 𝑡 𝑒,𝑗 ) ファンダメンタル 𝑃𝑓 ファンダメンタル価格 先物:10000 =定数 レバETF:5000 =定数 𝑃𝑡 現在の取引価格 取引価格帯を定めるために 便宜上加えた項 ノイズ 𝜀 𝑡𝑗 正規乱数 平均0 σ=3% エージェントの多様性確保と シミュレーションの安定性のため t=10000経過した注文はキャンセルする 12
ノーマルエージェントのファンダメンタル戦略とテクニカル戦略 ファンダメンタル戦略 ファンダメンタル価格 > 市場価格 ⇒ 上がると予想 ファンダメンタル価格 < 市場価格 ⇒ 下がると予想 テクニカル戦略 過去リターン > 0 ⇒ 上がると予想 過去リターン < 0 ⇒ 下がると予想 テクニカル ファンダメンタル 価格 市場 価格 ファンダメンタル 13
誤発注(ノーマルエージェントによる) 誤発注期間 30000-60000 下落幅 時間 誤発注期間においては、各ノーマルエージェントの注文は8%の確率で 即時に成立するくらい安い価格の売り注文に変更 誤発注により大きく価格は大きく下落。 最も下落した時と通常時との価格差を今後、”下落幅”とよぶ 誤発注は、レバETFに発生した場合と先物に発生した場合とに分けて分析 14
レバETFと先物の価格の関係 レバレッジは2倍 レバETFのリターン = 2 × 先物のリターン 先物 レバETF ファンダメンタル価格 価格水準 価格変動幅 価格変動幅例 10000 10000くらい --+500 5000 5000くらい 先物と同じ +500 同じ リターン例 5% 10% つまり、 レバETF価格 = 先物価格 - 5000 2倍 両価格がこれを維持されるのは裁定取引が存在するため 裁定取引 本来は、、、 裁定取引両資産に価格差があるときに、安いほうを買い、交換を行い、 高いほうを売って、 価格差を利益とすることができる しかし実際の市場では、レバETFと先物の裁定取引は非常に複雑なプロセスを経るため 本研究では簡略化し、裁定エージェントは両価格の関係が維持されるような取引を行う 15
裁定エージェント 注文の頻度 裁定エージェント t=1 t=2 t=3 t=4 t=5 時間 ノーマル エージェント 裁定エージェントは、新規注文、キャンセル、変更をいつでもできる 16
レバ ETF 売り 価格 7 5030 10 5020 7 5010 12 5000 4990 最良売り価格 8 最良買い価格 4980 4970 4960 即座に裁定 買い 10 6 4 先物 売り 価格 買い 30 10400 44 10300 70 10200 134 10100 10000 120 9900 88 9800 52 9700 25 通常、最良売り価格 > 最良買い価格、だが、取引所が2つに分かれると、 分かれた注文を見ると、最良売り価格 < 最良買い価格、と逆転することがある このとき、最良売り価格で買い、最良買い価格で売ると、差額が儲かる もし、 レバETF最良売り価格 + 5000 < 先物最良買い価格 レバETFの買い、先物売り 先物最良売り価格 - 5000 < レバETF最良買い価格 先物の買い、レバETF売り もし、 条件を満たす注文がなくなるまで繰り返す(裁定できる機会は一瞬ですべて取る) 17
待って裁定 売り 7 10 レバ ETF 価格 5030 5020 5010 5000 4990 4980 4970 4960 先物 買い 売り 価格 買い 30 10400 44 10300 70 10200 ここで待つ 1 134 10100 10000 120 執行後 10 9900 88 6 即座に売る 9800 52 4 9700 25 即座にできる裁定が無くなった後、即座に裁定できるように自ら注文を入れておく もし、 レバETF最良買い価格 < 先物最良買い価格 - 5000 < レバETF最良売り価格 レバETFに、先物最良買い価格 – 5000、で買い注文 (この注文は対当する注文がなく即座には執行されない) 他のエージェントがこれらの注文と対当する注文を出せば、即座に先物最良買い価格で先物を売る レバETFへの売り注文、先物への売り買い注文も同様に行う 18
レバETFエージェント 注文の頻度:10回に1回 リバランスの必要性を判定 t=10 レバETF エージェント 先物を 保有 t=20 t=30 t=40 時間 ノーマル エージェント レバレッジが2倍であることを維持するためには、 S0(先物価格/10000) だけ保有しておく必要がある(S0は初期先物保有数量) ここから1%以上乖離したら売買を行う 先物価格が上昇すると買い、 下落すると売り、 となり上昇下落を増幅させる 19
(1) はじめに (2) モデル (3) シミュレーション結果 (4) まとめ こちらのスライドは以下からダウンロードできます https://mizutatakanobu.com/2024JSAI.pdf 20
レバETF:価格時系列 5200 市場価格 5000 4800 4600 4400 誤発注なし リバランスなし 140000 130000 120000 110000 90000 100000 時刻 80000 70000 60000 50000 40000 30000 20000 10000 0 4200 裁定なし リバランスあり(S0=50000) 誤発注なし、誤発注あり・裁定エージェントなし、 誤発注あり・裁定エージェントあり・リバランスなし、誤発注あり・裁定エージェントあり・リバランスあり 裁定取引によって先物の買い注文と裁定され下落をおさえる リバランスによって下落幅が増えている 21
即座に裁定 売り 7 10 7 12 8 レバ ETF 価格 5030 5020 5010 5000 4990 4980 4970 4960 買い 10 6 4 先物 売り 価格 買い 30 10400 44 10300 70 10200 134 10100 10000 120 9900 88 9800 52 9700 25 レバETFの売り注文は裁定により先物買い注文により消費 レバETFの下落を先物の流動性で減らすことができている レバETFの隠れた流動性として 先物の流動性が使われる 22
10200 5000 10000 4800 9800 4600 9600 4400 9400 4200 9200 先物市場価格 5200 0 10000 20000 30000 40000 50000 60000 70000 80000 90000 100000 110000 120000 130000 140000 レバETF市場価格 レバETFと先物:価格時系列 時刻 レバETF(左軸) 先物(右軸) 誤発注あり・裁定エージェントあり・リバランスあり 裁定取引によって両価格は追随するようになった 23
500 0 0 リバランス売り数量 200 50000 1000 20000 400 10000 1500 5000 600 2000 2000 0 800 裁定なし 最大下落幅 レバETFに誤発注:先物初期保有数量ごとのレバETFの最大下落幅 S0(レバETFの先物初期保有数量) 最大下落幅(レバETF)(左軸) 最大下落幅(先物)(左軸) リバランス売り数量(右軸) 隠れた流動性の恩恵は大きい:先物の方が高流動性のため レバETFが大きくなるほど下落幅が増加 (初期保有数量≧100000では下落が大きすぎてシミュレーション動かず) 24
リバランス売り数量 50000 20000 10000 5000 2000 1600 1400 1200 1000 800 600 400 200 0 0 800 700 600 500 400 300 200 100 0 裁定なし 最大下落幅 先物に誤発注:先物初期保有数量ごとの先物の最大下落幅 S0(レバETFの先物初期保有数量) 最大下落幅(レバETF)(左軸) 最大下落幅(先物)(左軸) リバランス売り数量(右軸) 隠れた流動性の恩恵は大きくない:レバETFが低流動性のため レバETFが大きいと隠れた流動性の恩恵以上に下落 裁定なしよりも下落している場合がある 25
初期保有数量≧100000での市場破壊のメカニズム 先物が下落 リバランス 先物を売る リバランス 先物を売る 追加でリバランスが 必要となる 先物が さらに下落 マーケットインパクト大きい 自身の売りで価格が動く リバランス時にボラティリティより大きいマーケットインパクトを与えると そのインパクトによる価格変動で追加のリバランスが必要となる そのリバランスがまた次のリバランスを必要としループが止まらなくなる [八木 2017], [Yagi 2016]と整合的 26
(1) はじめに (2) モデル (3) シミュレーション結果 (4) まとめ こちらのスライドは以下からダウンロードできます https://mizutatakanobu.com/2024JSAI.pdf 27
まとめと課題(1/3) ✓ 本研究では[丸山 2020], [Yagi 2020]の人工市場モデルに,レバレッジドETF自身が取 引される取引所を実装し,誤発注も取り入れ,レバレッジドETFと先物の市場のどちらかで急 落が起きたときに,他方の市場にどのような影響を与えるか,そして,リバランス取引がどのよう に影響を与えるか調べた. ✓ その結果,レバレッジドETFに誤発注があった場合,裁定取引のおかげでレバレッジドETFは 先物の流動性を使うことができ,下落幅が縮小した.レバレッジドETFへのノーマルエージェン トの売り注文は,裁定エージェントの買い注文と成立し,裁定エージェントは先物へ売り注文 を出すため,消費されるのは先物の買い注文である.裁定エージェントのレバレッジドETFへの 買い注文のおかげで下落を減らしており,この注文を出せるのは先物の買い注文を消費でき るからである.つまり,レバレッジドETFの下落を先物の流動性を使うことによって減らすことが できているのである.これは,レバレッジドETFの隠れた流動性として先物の流動性が使われ ることを示している. こちらのスライドは以下からダウンロードできます https://mizutatakanobu.com/2024JSAI.pdf 28
まとめと課題(2/3) ✓ 先物に誤発注があった場合も裁定取引のおかげで先物はレバレッジドETFの流動性を使うこと ができ,下落幅が縮小したが,縮小幅はレバレッジドETFに誤発注があった場合より小さい. 先物から見ると少ない流動性のレバレッジドETFからもらえる流動性は比較的少ないからであ る.レバレッジドETFを取引している投資家からみると,先物の高い流動性の恩恵は大きいが, 先物を取引している投資家からすると,レバレッジドETFの流動性から受けられる恩恵は大きく ないことが分かった. ✓ 一方で,レバレッジドETFのリバランス取引により下落幅が大きくなることも分かった. 特にS0 >100000では下落が大きすぎてシミュレーションが動かなかった.これは市場が破壊 されていると言えよう.先物が下落するとレバレッジドETFは先物を売る.このときレバレッジド ETFが大きいと売るべき先物の数量も大きくなる.すると,この売りにより先物の価格が下落 してしまい先物はさらに下落し,追加でリバランスの売りが必要となる.これがループして止まら なくなり,市場の下落が続き,市場破壊となった. こちらのスライドは以下からダウンロードできます https://mizutatakanobu.com/2024JSAI.pdf 29
まとめと課題(3/3) ✓ [八木 2017], [Yagi 2016]は,リバランス時にボラティリティより大きいマーケットインパクトを 与えると,そのインパクトによる価格変動で追加のリバランスが必要となり,そのリバランスがま た次のリバランスを必要としループが止まらなくなることを示したが,これと整合的である. ✓ 実際の金融市場の裁定取引は非常に複雑であり,本研究のモデルのように単純ではないし, 価格の追随もここまで精度よく行われない.現実的な裁定取引によって引き起こされる現象 も考えられ,これらは今後の課題である. こちらのスライドは以下からダウンロードできます https://mizutatakanobu.com/2024JSAI.pdf 30
参考文献 ⚫ [八木 2017] 八木勲, 水田孝信, “人工市場シミュレーションを用いたレバレッジドETFが原資産価格変動に与える影響分析”, 人工知能学会 金融情報学研究会, 2017 https://sigfin.org/?SIG-FIN-018-02 ⚫ [Yagi 2016] Yagi, I., Mizuta, T., “Analysis of the Impact of Leveraged ETF Rebalancing Trades on the Underlying Asset Market Using Artificial Market Simulation”, 12th Artificial Economics Conference, September 20-21, 2016 http://ae2016.it/public/ae2016/files/ssc2016_Mizuta.pdf ⚫ [丸山 2020] 丸山隼矢, 水田孝信, 八木勲, “人工市場を用いたレバレッジドETFがザラ場市場に与える影響分析”, 電子情報通信学会論文誌D, Vol.J103-D, No.11, pp.755-763, 2020 https://doi.org/10.14923/transinfj.2019SGP0002 ⚫ [Yagi 2020] Yagi, I., Maruyama, S., Mizuta, T., “Trading strategies of a leveraged ETF in a continuous double auction market using an agent-based simulation”, Complexity, 2020 https://doi.org/10.1155/2020/3497689 こちらのスライドは以下からダウンロードできます https://mizutatakanobu.com/2024JSAI.pdf 31
差し迫った課題を議論しなければならない実務家に浸透 規制当局(金融庁)、中央銀行(日本銀行)、証券取引所(東証,JPX) JPXワーキングペーパー 東京証券取引所の親会社、日本取引所グループ(JPX)が発行 41本中、実に12本が人工市場を用いた研究(2023年末現在) 呼値、高速取引の影響、取引所の高速化、バッチオークション、 自己資本規制やVaRの影響など https://www.jpx.co.jp/corporate/research-study/working-paper/index.html その他にも、空売り規制、値幅制限、ダークプール、信用分散規制、水平株式保有、などが調べられている (次,次々ページ参照) 予測や細かい再現を目的としていない これまでにない制度によってどういうことが”起こりえるか”を調べる “あり得る”メカニズムを見つけておく、”あり得る”副作用を見つけておく 32
その他に調べられたこと(1/2) 空売り規制と値幅制限 空売りが完全に禁止された場合だけでなく、日本では2013年に廃止に なった空売りの際の価格規制も、市場を非効率なものとし、価格を引き上 げ、場合によってはバブルを誘発することが分かりました。 ダークプール ダークプールは市場を安定化させ、マーケットインパクトを低減させる効果を もつことが示唆示されました。しかし、ダークプールでの取引が多くなりすぎる と、つまり普及しすぎると市場の効率性が著しく低下することを示しました。 暴落後の反発やボラティリティクラスタリングのメカニズムの解明 ファンダメンタルが急激に悪化してその企業の株価が暴落した直後に、反 発がよくあることが知られています。これはオーバリアクションのためだと考えら れていることもありますが、人工市場で分析すると、投資家の予想株価にば らつきがあり、需給に偏りがあれば、この反発は起こることが分かりました。 高速取引の影響 高速取引の多くはマーケットメイク戦略と言われていますが、このマーケット メイク戦略が存在する取引所と存在しない取引所を人工市場内に用意し て取引量の変化を調べました。その結果、この戦略が存在する取引所の取 引が増えました。 取引所の高速化 どれくらいレイテンシーが短ければ良いのかを人工市場を用いて調べました。 その結果、平均的な注文の到着間隔よりもレイテンシーが短ければ、市場 効率性やボラティリティなどに影響を与えないことが分かりました。 バッチオークション ザラバとバッチオークションのどちらが売買量が多くなるか調べたところ、ザラバ の方が売買量が多くなりました。 忍耐強いアクティブ運用の市場効率化への貢献 忍耐強いアクティブ運用はまれに起こる、市場価格が企業価値に即した 適正な価格から大きく乖離して市場が不安定になり、市場がさらに非効率 になりそうなときのみに多く売買を行い、市場を効率化することに寄与してい ることが示されました。 水田孝信 「金融市場の制度設計に使われ始めた人工市場」, 2021, スパークス・アセット・マネジメント https://www.sparx.co.jp/report/detail/305.html 水平株式保有 パッシブ運用の増加が企業間競争と市場価格へ与える影響を分析しまし た。その結果、パッシブ運用の割合がさほど大きくなくても、競争を阻害する 可能性を示しました。 見せ玉 板上に平均的に存在する最良気配付近の指値注文数より多くの株数の 見せ玉を見せれば、不公正な利益が得られるだけでなく、価格形成に悪影 響を与え、株価変動が大きくなり、市場が非効率となることが分かりました。 新しい投資戦略が既存の投資戦略の利益を奪い取るか? CTA・短期順張りともに、お互いがいたほうが戦略を実行するチャンスが多 くなり、むしろ利益を獲得していることが分かりました。 分散投資規制 何らかの理由でファンダメンタル価格が急上昇した銘柄を投資信託が上限 近くまで持っていた場合に、時価の上昇で上限を越さないように売る必要が 生じ、ファンダメンタル価格への収束を妨げる場合があることを示しました。 レバレッジドETF リバランス取引の市場価格へ与える影響を調べました。その結果、レバレッ ジドETFの規模が大きいほど影響は大きく、通常時のボラティリティよりも大 きいマーケットインパクトを与えるまでになると、市場価格への影響が特に顕 著になることが分かりました。 流動性への影響 取引量と板の厚さは関係のない指標であり、流動性の量を示す取引量、 質を示す板の厚さといった、流動性にもいくつか種類があることが示されまし た。 取引手数料のメイカー・テイカー制(リベート制) メイカーとなるマーケットメイク戦略が注文する指値の売り買い価格差が、 平均的な最良売り・買い気配の差より小さくできるくらいリベートを提供すれ ば、テイカーの執行コストは低下する一方、それ以下のリベートの場合はか えって執行コストは上昇してしまうことが分かりました。 33
その他に調べられたこと(2/2) 調査対象 サーキットブレイカー 注文付け合わせの 即時執行 ネイキッドショートセル 呼値 空売り規制 値幅制限 高速取引 取引所の高速化 ダークプール バッチオークション 取引時間延長 レバレッジドETF アクティブ運用 水平株式保有 分散投資規制 流動性の種類 取引手数料の リベート制 値幅制限と サーキットブレイカー 文献 水田孝信 「人工市場:金融市場のコンピュータ・シミュレーション」, 2024, SBI金融経済研究所 https://sbiferi.co.jp/review/report_review_2024Mar.html 人工市場研究が示唆したこと サーキットブレイカーを終了させるのは、投資家の予想価格の下落速度が 清水・村永(1999) 十分に小さくなってからでなければならない 副島(2001) 価格変動を大きくする恐れ 大井(2012) 水田他(2013) オーバーシュートを防ぐことができる一方、平時は割高に 短期のボラティリティより小さい呼値でなければボラティリティを引き上げる 空売りが完全に禁止された場合だけでなく、価格規制だけでも、 水田(2014) 市場を非効率なものとし、価格を引き上げ、場合によってはバブルを誘発する 水田(2014) 下落の時間スケールはさまざまなので、複数の時間スケールのものを用意すべき 草田他(2015) 高速取引の多くはマーケットメイク戦略であり、この戦略が存在する取引所のほうが取引が多い 水田他(2015) 取引所は平均的な注文の到着間隔よりも低遅延(高速)であるべき 市場を安定化させ、マーケットインパクトを低減させる効果をもつ 水田他(2016) しかし、普及しすぎると市場の価格発見機能が著しく低下 水田・和泉(2016) ザラバよりも取引は少なくなる 三輪・植田(2016) 延長された時間帯の取引参加者が少ないと市場効率性が低下 八木・水田(2017) リバランス取引がボラティリティよりも大きいマーケットインパクトを与えると市場を荒らす 水田・堀江(2017) 忍耐強いアクティブ運用は市場がさらに非効率になりそうなときのみ多く売買し市場を効率化 水田(2018) 競合企業をいずれも持つファンドが増えると企業間競争を阻害する 丸山他(2019) 時価の上昇で上限を越えないように売る必要が生じファンダメンタル価格への収束を妨げる場合がある 取引量と板の厚さは関係のない指標であり、流動性の量を示す取引量、質を示す板の厚さなど、 益田他(2019) 流動性にもいくつか種類がある 星野他(2021) 水田・八木(2023) 中途半端なリベートはかえって執行コストを上昇させる 値幅制限は制限価格付近に指値注文がたまり、反発を防ぐことがある ただし、サーキットブレイカーには取引を焦らせる副作用が報告されているがこれはまだ未調査 34
その他文献(人工市場全般) 解説資料(人工市場は後半から) 水田孝信,「金融業界における人工知能、高速取引、人工市場による市場制度の設計」 https://mizutatakanobu.com/2024.pdf 解説動画 YouTube: https://youtu.be/iw35lKAMicQ 教科書的な本 高安美佐子ほか,マルチエージェントによる金融市場のシミュレーション, コロナ社, 2020, 和泉潔,水田孝信,第5章「エージェントモデルによる金融市場の制度設計」 https://www.coronasha.co.jp/np/isbn/9784339028225/ 人工知能学会誌の特集記事 水田孝信,八木勲 「人工市場による金融市場の設計と広がる活用分野」 人工知能学会誌 人工知能 2021年5月号 https://doi.org/10.11517/jjsai.36.3_262 一般向け解説記事 水田孝信 「金融市場の制度設計に使われ始めた人工市場」, 2021, スパークス・アセット・マネジメント https://www.sparx.co.jp/report/detail/305.html 水田孝信 「人工市場:金融市場のコンピュータ・シミュレーション」,2024, SBI金融経済研究所 https://sbiferi.co.jp/review/report_review_2024Mar.html 35
レビュー論文英語版 Mizuta (2020) An agent-based model for designing a financial market that works well, 査読付き国際会議論文 https://doi.org/10.1109/SSCI47803.2020.9308376 arXiv https://arxiv.org/abs/1906.06000 Slide: https://mizutatakanobu.com/2021kyushu.pdf YouTube: https://youtu.be/rmlb72ykmlE 先行研究をひたすら紹介した英文レビュー論文 Mizuta (2016) A Brief Review of Recent Artificial Market Simulation Studies for Financial Market Regulations And/Or Rules, SSRN Working Paper Series https://ssrn.com/abstract=2710495 36