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March 15, 26
スライド概要
https://www.jera.jp/20260225-2/ (東北教育学会)
公教育保障としての日本語教育をめぐる課題を、外国人児童生徒教育の視点から検討する。外国人受け入れ政策が「就労・入国としての統治」から「教育としての統治」へと転換するなか、日本語教育を個別支援にとどめず、ことばと文化の包摂を通して、すべての子どもの学びと共生を支える教育として再構想する方途を論じる。
ことばや文化の多様な背景をもつ学び手(例:外国につながる子どもなど)を手がかりに、教育学の基本問題である「教育の目的」「カリキュラム」「評価」を捉え直しています。近年は「何ができるようになったか」を到達的に示すことが求められがちですが、その中で学びが「標準への適応」や「不足の補い」として語られやすくなる点にも目を向け、人格の形成や関係、場への参加といった教育の価値を、カリキュラムと評価の視点で考え直します。
東北教育学会 東北地区研究活動公開シンポジウム「公教育保障としての日本語教育の検討」 2026.3.7 外国人児童生徒をめぐる分断のメカニズムと 公教育的統合の方途 ―「日本語教育」から「包摂の教育学」へ 南浦涼介(広島大学) ―
本日の展開 1 制度的背景 • 外国人受け入れについての統治の転換 • 学校の教育における「教育としての統治」の動向と検討課題 2 3 外国人児童生徒の補償・保障類型と教育学の位置 類型D 「ことばと文化の包摂教育」の方途と事例 • 事例① 応答的包摂の教育実現の装置行政 • 事例② 応答的包摂の教育の具体的内容例 • 事例③ 応答的包摂を担う教師の 教育 4 まとめと論点 本発表の目的 1. 外国人の受け入れの統治的発想の転換によって,どのような教育の発想が生まれているのか 2. とりわけ,外国人の子どもたちを視野にいれたとき,どのような教育の動向が生まれ,そこにどのような課 題があるのか? 3. 2 に対する方途としての「ことばと文化の包摂」の教育にはどのような可能性と論点があるか?
制度的背景:外国人受入れについての統治の転換 「就労・入国としての統治」から「教育としての統治」へ 2020 年代に入り,日本の外国人受入れ政策は統治の原理として 大きな転換が見られる 就労・入国管理としての統治 教育としての統治 • 基本的には「就労」と「入国」 を法務省として管理し,その上 で必要な教育を文部科学省に委 託する構造(日本語告示校の認 可など) • 入国した外国人に対して,どの ような教育を行うかを積極的に 検討する動向 • サイドドア政策を取ってきたこ ととの連動 基本的には留学生への日本語教育中心 • 登録日本語教員の制度,日本語 教育機関の認定,外国人児童生 徒教育の関連施策の動向 学び手の多様化への目線の拡大: 留学生,就労,地域,児童生徒など 南浦涼介・瀬尾匡輝・田嶋美砂子( 2025 )「 『 教育としての統治 』 時代の日本語教師教育―統治への対応か陶冶への応答か」 『 日本語教育』 190, 4 -18. 南浦涼介・三代純平・石井英真・中川祐治( 2021 )「民主化のエージェントとしての 日本語教育─国家公認化の中で『 国家と日本語 』 の結びつきを解きほぐせるか」 『 教育学年報』 11, 283 4 306., 神吉宇一( 2022 )「公的日本語教育を担う日本語教師に求められるもの」 『 日本語教育』 181, 4 -19., 是川夕( 2019 ) 『 移民受け入れと社会的統合のリアリティ ─現代日本における移 民の階層的地位と社会学的課題 』 勁草書房などを参考
制度的背景:学校の教育における「教育としての統治」の動向 外国人児童生徒教育の施策の変化 国際法に則った人道的支援 教育施策としての対応 • 子どもの権利条約上の国際法に則った 人道的支援の範囲内 • 国よりは,該当自治体行政による対応 • 初等教育中心の対応 • 学習指導要領への記載(総則)やそこ に至る過程における言及 • 国としての指針と施策(言語アセスメ ントツール,高等学校教育への展望) • 担当教師・支援者の人事,教職地位保 障への言及など 荒牧重人・榎井縁ほか編( 2017 ) 『 外国人の子ども白書 第2 版─権利・貧困・教育・文化・国籍と共生の視点から 』 明石書店. 南浦涼介( 2025a )「教師教育の実践研究とポリティクス —外国人児童生徒をめぐる 〈 教育〉 装置の力学のジレンマから —」 『 日本教師教育学会年報』 34, 71 −83 . 5
外国人児童生徒施策の方向性とその課題 「外国につながっているかどうか」と「日本語指導が必要な子どもかどうか」 は一緒ではない だから大切なのは「外国につながっているかどうか」より,「日 本語指導が必要な子ども」にどう対応するかだ。 対応的支援の教育・欠損的視点との親和性 「日本語指導が必要な子ども」だけを見ることにより以下に焦点化 • 日本語指導の支援者の人事配置・労働保障論 • 日本語指導の方法・言語アセスメントの充実による質保障 だから大切なのは「日本語指導が必要な子ども」だけでなく「外 国につながる子ども」も一緒に学べる学校をどうつくるかだ。 応答的包摂の教育・資本的視点との親和性 南浦涼介( 2025b )「多文化・多言語の子どもを包摂する学校と教師」 『 教育展望』 71(4)47 -53. 6
外国人児童生徒の補償・保障類型と教育学の位置 軸線② 外国人児童生徒の教育原理 応答的包摂の教育 対応的支援の教育 学校教育の中心課題化 B ~2010 年代半ば 草の根の教育実践 主体機関:学校・自治体 教育者 :加配支援者中心 教育対象:外国人児童生徒 教育目的:当該の外国人児童 の成長保障・学力保障 D 未到達 ことばと文化の包摂教育 主体機関:? 教育者 :学校の教師? 教育対象:子どもたち全体 教育目的:全体の成長保障・ 学力保障の中に入り込む A ~2010 年代半ば 公的な対応はなし 主体機関:学校・自治体 教育者 :加配支援者中心 教育対象:外国人児童生徒 教育目的:適応・補償 C 2010 年代半ば~ 国による制度・施策整備 主体機関:学校・自治体 (+ 国) 教育者:加配支援者中心 教育対象:外国人児童生徒 教育目的:適応・補償 学校教育の周縁領域化 就労・入国としての統治 軸線① 教育としての統治 外国人受入れに関する統治の原理 ここの具体はどのようなものか? それをなすには誰がなすべきか? どのような教育学であるべきか? 教育原理的専門性 カリキュラム的専門性 文化的応答性 言語的応答性 教育保障のための 学校教育学の領域 当事者補償のための 日本語教育学の領域 応用言語学的専門性 多文化共生的態度
類型D 事例① 応答的包摂の教育実現の装置 ―行政-学校のカリキュラムマネジメント的 南浦涼介( 2024 )「言語と文化の多様な子どもが共に生きる学校と授業 践と授業づくり 』 図書文化, p.113 ―学校全体で引き受けるための 4 つの視点」 『 教育方法53 実装― 学校内外で教師の成長を支える教育実 8
類型D 事例① 応答的包摂の教育実現の装置 ―行政-学校のカリキュラムマネジメント的実装 ― 研修の場や教育行政との対話で 用いて得られること • 4 つのアプローチと,ステイクホ ルダーをマトリックスで示すこと によって,マネジメントとペダゴ ジーの双方を分離することなく捉 え,それぞれができるマネジメン トとペダゴジーに貢献ができる。 • マトリックスを埋める形で「何が 出来るか」を研修の場,あるいは 教育行政(教育委員会事務局)と 相互に検討したりするなど,役割 をめぐる対話的研修やシステム構 築を促すことができる。 南浦涼介( 2024 )「言語と文化の多様な子どもが共に生きる学校と授業 授業づくり 』 図書文化, .120 -121 , ―学校全体で引き受けるための 4 つの視点」 『 教育方法53 学校内外で教師の成長を支える教育実践と 9
類型D 事例① 応答的包摂の教育実現の装置 ―行政-学校のカリキュラムマネジメント的実装 ― 研修の場や教育行政との対話で 用いて得られること • 4 つのアプローチと,ステイクホ ルダーをマトリックスで示すこと によって,マネジメントとペダゴ ジーの双方を分離することなく捉 え,それぞれができるマネジメン トとペダゴジーに貢献ができる。 • マトリックスを埋める形で「何が 出来るか」を研修の場,あるいは 教育行政(教育委員会事務局)と 相互に検討したりするなど,役割 をめぐる対話的研修やシステム構 築を促すことができる。 南浦涼介( 2024 ) 「言語と文化の多様な子どもが共に生きる学校と授業 授業づくり 』 図書文化, .120 -121 , ―学校全体で引き受けるための 4 つの視点」 『 教育方法53 学校内外で教師の成長を支える教育実践と 10
類型D 事例② 応答的包摂の教育の具体的内容例 ―包摂のペダゴジーの構築と実装 ― 広域オンライン授業多文化共生授業の実践 2024 年度から継続的に実施 小学校同士,および不登校支援スペースをつないで実施 • 社会言語学的視点(国際化との接点として,リンガフランカや 多言語社会における教育と言語の接点)をもとに立案 テーマ ① 「 外国のことばが上手 」 とは 外国語コミュニケーショ どういうこと ? ンにおける態度 正確性<適切性 テーマ ② 「 やさしい日本語 」 のほんと うの 「 やさしさ 」 とは ? やさしい日本語 言葉と寛容性 地域の多文化化 テーマ ③ わたしたちのことば ─あなた 多言語の言語景観 の町にはいくつの言葉が必要 公共における優先性 だろう ? 本事業は内閣府の「戦略的イノベーション創造プログラム( SIP )」 の一環として,「デジタル・シティズンシップ・シティ:公共的対話のための学校」事業(草原和博代表)の一環として 行っている https://sip -dcc.hiroshima -u.ac.jp/about/ 11 E.. 多文化共生授業の発想は,大山万容( 2016 ) 『 言語への目覚め活動─複言語主義に基づく教授法 』 くろしお出版,小栁亜季( 2022 )「多言語共生に向けた言語教育の構想 ─英国における ホーキンズの言語教育の理論と実践」 『 教育学研究』 89, 65 -77. などが発想の類似性を持つ
類型D 事例② 応答的包摂の教育の具体的内容例 ―包摂のペダゴジーの構築と実装 ― 2026 年2 月実施「わたしたちのことば ─あなたの町にはいくつの言葉が必要だろう?」の場合 導入:外国人市民の困りごと バスに乗るときに,「日本語表記」だけだと不安が多い 英語があってもわからない人も,どうしたらいい? 展開①:バスの案内に何語を載せる? この町にはどんな人が住んでいるんだろう? バス会社はどう考えている? (中継:載せたいけど難しい わかる! 日本語しかないの不安だよ (来日半年くらいの子ども) ) 展開②:多言語表記の事例に触れる あえて多言語にしている場所は,なぜそうしている? (中継:学校,町の外国人サポートの場の多言語表記) 終結:新たなバス表示のアイデアを提案しよう! 制限があるけれど,バスの困りごとを無くすアイデア バス会社,町のセンターからのコメント →他のバス事例 参加校の中には外国につながる子ども たちも多い学校や 少数だけど在籍する学級もある デジタルシティズンシップシティ ─公共的対話のための学校─ https://sip -dcc.hiroshima -u.ac.jp/class_practice/20260204/ 授業の様子→ 12
類型D 事例③ 応答的包摂を担う教師の教育 ―地域協働による学生の探究・共生プログラム運営 ― 2026 年1 月〜 3 月実施 探究×共生フレンドシップ: ジギョウダンのふしぎ発見! 東広島スクープハンターズ! 初等教育学プログラムの学生たちが,フレンドシッ プ事業のアドバンスとして 東広島市内の小学生たち(日本ルーツの子ども 9 人 と外国ルーツの子ども 9 人)に対して 探究型の学習活動を企画・実施 2026 年度:東広島市教育文化振興事業団と共催し タウンウェブマガジン「東広島まるひねっと」(合 弁会社「ひとむすび」)との協働で 子どもたちが上記事業団の社会活動を取材し,その 意義を市民に伝える記事を協働で書く 本事業は本研究はJSPS 科研費 JP12345678 「子どもの探究的な学びを支援できる実践 的指導力を育成する教員養成プログラムの開発」(米沢崇研究代表)の一貫として行っ ています。 13
まとめと論点:日本語教育か? 軸線② 応答的包摂の教育 外国人児童生徒の教育原理 学校教育の周辺領域化 対応的支援の教育 包摂の教育学か? 学校教育の中心課題化 B ~2010 年代半ば 草の根の教育実践 主体機関:学校・自治体 教育者 :加配支援者中心 教育対象:外国人児童生徒 教育目的:当該の外国人児童 の成長保障・学力保障 D 未到達 ことばと文化の包摂教育 主体機関:? 教育者 :学校の教師? 教育対象:子どもたち全体 教育目的:全体の成長保障・ 学力保障の中に入り込む A ~2010 年代半ば 公的な対応はなし 主体機関:学校・自治体 教育者 :加配支援者中心 教育対象:外国人児童生徒 教育目的:適応・補償 C 2010 年代半ば~ 国による制度・施策整備 主体機関:学校・自治体 (+ 国) 教育者:加配支援者中心 教育対象:外国人児童生徒 教育目的:適応・補償 学校教育の周縁領域化 就労・入国としての統治 教育としての統治 軸線① 外国人受入れに関する統治の原理 教育原理的専門性 カリキュラム的専門性 文化的応答性 言語的応答性 教育保障のための 学校教育学の領域 当事者補償のための 日本語教育学の領域 応用言語学的専門性 多文化共生的態度
まとめと論点:日本語教育か? 学校教育の中心課題化 包摂の教育学か? 事例①応答的包摂の教育実現の装置 行政-学校のカリキュラムマネジメント的実装 事例②応答的包摂の教育の具体的内容例 包摂のペダゴジーの構築と実装 事例③応答的包摂を担う教師の教育 地域協働による学生の探究・共生 プログラム 論点1 教育の方向性はどこか? 対応的支援か? 応答的包摂か? 論点2 後者の場合その担い手は誰か? 制度か? 外部連携か? 教師か? 論点3 学術領域の担い手はどこか? 日本語教育か? 包摂の教育学か?
参考文献 • 荒牧重人・榎井縁・江原裕美・小島祥美・志水宏吉・南野奈津子・宮島喬・山野良一編( 2017 ) 『 外国人の 子ども白書 第2 版─権利・貧困・教育・文化・国籍と共生の視点から 』 明石書店. • 大山万容( 2016 ) 『 言語への目覚め活動─複言語主義に基づく教授法 』 くろしお出版 • 神吉宇一( 2022 )「公的日本語教育を担う日本語教師に求められるもの」 『 日本語教育』 181, 4 -19. • 小栁亜季( 2022 )「多言語共生に向けた言語教育の構想 ─英国における E.. ホーキンズの言語教育の理論と実 践」 『 教育学研究』 89, 65 -77. • 是川夕( 2019 ) 『 移民受け入れと社会的統合のリアリティ ─現代日本における移民の階層的地位と社会学的 課題』 勁草書房. • 南浦涼介・三代純平・石井英真・中川祐治( 2021 )「民主化のエージェントとしての日本語教育 ─国家公認 化の中で『 国家と日本語 』 の結びつきを解きほぐせるか」 『 教育学年報』 11, 283 -306. • 南浦涼介( 2024 )「言語と文化の多様な子どもが共に生きる学校と授業 ―学校全体で引き受けるための 4 つの 視点」 『 教育方法53 学校内外で教師の成長を支える教育実践と授業づくり 』 ( pp.112 -125 )図書文化 . • 南浦涼介( 2025a )「教師教育の実践研究とポリティクス —外国人児童生徒をめぐる 〈 教育〉 装置の力学のジ レンマから —」 『 日本教師教育学会年報』 34, 71 −83 . • 南浦涼介( 2025b )「多文化・多言語の子どもを包摂する学校と教師」 『 教育展望』 71(4)47 -53. • 南浦涼介・瀬尾匡輝・田嶋美砂子( 2025 )「 『 教育としての統治 』 時代の日本語教師教育―統治への対応か 陶冶への応答か」 『 日本語教育』 190, 4 -18. 16