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September 29, 26
スライド概要
研修医総合ガイドラインとい名前のガイドライン風同人誌です。
研修医向けの(どちらかと言えば)心構え的なまとめです。
以下をベースにClaude Opus5.5を用いて作成
https://kokuren333.github.io/BookOrderWebUI/
医学生。AIや業務・学習効率化に興味あり。
研修医総合ガイドライン 2026 年 9 月 初版
本書の位置づけと使い方 本書の位置づけ ◾︎ 本書は診療ガイドラインではありません。初期研修で必要になる基本的な考え方と動き方を、公開資 料をもとに整理した学習用の実用書です。 ◾︎ 本書の内容は、各施設の手順・院内規程や、指導医・上級医の判断に代わるものではありません。実 際の対応は、所属施設の手順と指導医の指示に従ってください。 ◾︎ 制度・研修関連の記述は、本文に示した各資料の版・時点に基づきます。 想定読者 初期研修医 1〜2 年目、これから初期研修を始める医学生。医学部卒業程度の基礎医学・臨床医学知識を 前提とし、病棟・救急・当直などの実務経験は少ない読者を想定しています。 使い方 ◾︎ 通読する:第 1 章で安全の原則(相談する・院内手順を確かめる・未確認を残さない・再評価する・ 次の確認者につなぐ)を押さえ、以降の章はその原則を場面ごとに具体化しています。 ◾︎ 引いて使う:各章の「QUICK REFERENCE」カードは、現場で確認したい要点を短くまとめた早見で す。詳細と根拠は本文と参考文献で確認してください。 ◾︎ 枠囲みの「注意」はつまずきやすい点、 「チェックリスト」は行動前後の確認項目、ケースは典型的 な場面の例です。 研修医総合ガイドライン ii 2026 年 9 月 初版
目次 第 1 章 研修の土台と最初の一歩 1 1.1 「一人前らしさ」より安全を選ぶ . . . . . . . . . . . . . 1 1.2 初日・初週に確かめること . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 2 1.3 分からないことを扱う . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4 1.4 責任を持ち、抱え込まない . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 5 8.1 ローテーション初日に目標を小さく決める . . . 49 第 2 章 病棟の一日を回す 7 2.1 出勤して最初に作る患者地図 . . . . . . . . . . . . . . . . . . 7 2.2 患者ごとの朝の確認 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 8 2.3 診察・依頼・再評価をつなぐ . . . . . . . . . . . . . . . . . . 9 2.4 引継ぎ前の未完了リスト . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 10 2.5 急な割り込みが来たら . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 11 参考文献 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 54 8.2 担当患者の経過を追う . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 50 8.3 フィードバックを次の行動に変える . . . . . . . . . . 50 8.4 勤務後の短い省察 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 51 8.5 制度の到達目標と現場の経験をつなぐ . . . . . . . . 52 第 3 章 記録・プレゼン・説明 14 3.1 記録が次の行動を支える . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 14 3.2 事実・解釈・方針を分けて書く . . . . . . . . . . . . . . 15 3.3 短い症例提示の組み立て . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 16 3.4 患者・家族への説明と記録 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 17 第 4 章 報告・相談・チームで動く 19 4.1 報告か相談かを決める . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 19 4.2 要点を並べて依頼する . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 20 4.3 他科コンサルトの会話例 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 21 4.4 チーム内で閉ループをつくる . . . . . . . . . . . . . . . . . 22 4.5 伝わらない時にもう一段動く . . . . . . . . . . . . . . . . . 23 第 5 章 救急・急変・敗血症 25 5.1 「様子を見る」で止めない . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 25 5.2 最初の数分のチーム行動 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 26 5.3 状態が悪化する患者を繰り返し評価する . . . . . . 27 5.4 敗血症の可能性を見たら . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 28 5.5 培養・治療・感染源を並行して考える . . . . . . . . 30 5.6 集中治療へつなぐ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 31 第 6 章 輸液・輸血・腎機能 34 6.1 何のために液体を入れるのか . . . . . . . . . . . . . . . . . 34 6.2 投与前後に確かめる循環反応 . . . . . . . . . . . . . . . . . 34 6.3 輸血を安全に行うための確認 . . . . . . . . . . . . . . . . . 36 6.4 腎機能値をそのまま薬の量に置き換えない . . . 37 6.5 腎機能推算値の読み分け . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 37 6.6 一律な指示を避ける場面 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 38 第 7 章 処方・抗菌薬・医療安全 40 7.1 処方の前に患者と薬歴を確かめる . . . . . . . . . . . . 40 7.2 薬を開始する理由とモニタリングを一行にす る . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 41 7.3 感染症らしさと重症度から抗菌薬を選ぶ . . . . . . 42 7.4 培養と経過で処方を見直す . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 44 7.5 腎機能・相互作用・要注意薬を確かめる . . . . . . 46 7.6 誤り・疑義・有害事象に気づいたとき . . . . . . . . 46 第 8 章 ローテーションで学びを残す 49 iii
第 1 章 研修の土台と最初の一歩 第1章 研修の土台と最初の一歩 初めて担当患者の前に立つとき、最初から完璧な 答えを持っている必要はない。大切なのは、分かっ ていることと分からないことを区別し、患者の安全 につながる次の行動を選ぶことだ。研修医としての 「一人前らしさ」は、何でも一人で決める姿ではな く、自分の力が届く範囲を知り、必要な支援を適切 な時点で使うところから形になる。 1.1 「一人前らしさ」より安全を選ぶ 初期臨床研修は、特定の専門領域を早く完成させ るためだけの期間ではない。専門分野にかかわらず 頻度の高い傷病に対応する基本的な診療能力を身 につけ、患者を尊重する姿勢や、医療チームの一員 として働く力を養うことが目的に含まれる。日本の 到達目標は、基本的価値観、資質・能力、基本的診 療業務を複数の領域に分け、研修修了時に目指す水 準を示している。そこには、患者中心の診療、臨床 推論、記録と説明、安全管理、報告・相談、チーム 連携が並ぶ。[1, 2] この枠組みを「すべてを自分だけでできるように なる期限」と読むと、研修の意味を取り違える。目 標には到達度を段階的に確認する評価があり、実際 の診療は指導医や他職種と協働できる環境のなか で経験を積む。研修医が担う仕事は、患者を診て考 え、必要な情報を集め、計画を言葉にし、適切な指 導や協働へつなぐことだ。自分の判断だけで安全に 進められないと分かったときに、いったん立ち止ま ることも診療の一部である。[1, 2] 「基本的」とは簡単という意味ではない。よくある 症状でも、患者の価値観や併存する問題、生活背景 によって、確認すべきことや支援の形は異なる。基 本を繰り返し使えるようにするには、何を観察し、 どの情報を根拠に考え、どこに不確実性が残るかを 意識する必要がある。目の前の患者に必要な手順を 一つずつ踏み、経験した判断を指導のもとで振り返 ることが研修の仕事になる。 到達目標には、知識や技能だけでなく、患者を尊 重する姿勢、安全への配慮、他者との連携、継続し て学ぶ態度も含まれている。評価されるのは診療の 結果だけではない。情報の集め方や相談のタイミン グ、患者への説明、記録など、過程を含めて学ぶ必 要がある。これは結果責任を曖昧にすることではな い。自分の行為を説明し、分からない点を明らかに し、次の診療をより安全にするための学習責任を持 つということだ。[1, 2] 臨床研修の到達目標では、医師としての基本的価 値観を「プロフェッショナリズム」として最初に置 いている。研修医に求められる専門職性は、白 衣や肩書きで示すものではなく、患者の利益を優先 し、誠実に情報を扱い、自分の行為を説明できると いう日々の振る舞いに表れる。所見を取り忘れたな ら取り忘れたと伝え、確認していない値を確認済み のように書かない。こうした小さな正確さの積み重 ねが、患者とチームからの信頼の土台になる。到達 目標は自らの健康管理に努めることも資質・能力の 一つに含めており、無理を隠して働き続けることは 専門職性の証明にならない。[1, 2] 4 月、病室で初めて「先生」と呼ばれて、返事に詰 まる。自分はまだ何もできないのに、と感じる研修 医は少なくない。けれども患者にとっては、目の前 の研修医も医師である。肩書きに見合う知識は一晩 では増えないが、できることを丁寧に行い、分から ないことは「確認して戻ります」と言って本当に戻 ることは、初日からできる。 自分の限界を知ることは、能力の低さを認める後 ろ向きの作業ではない。「この処置は見学したが一 人では行っていない」「この説明は内容を理解して いるが、家族の質問に答えきれる自信がない」と具 体的に言えれば、指導者は任せる範囲と立ち会う範 囲を決めやすい。限界は固定されたものではなく、 指導のもとで経験を重ねるごとに広がる。だから こそ、今日の時点でどこまでが一人でできる範囲か を、ローテーションや場面ごとに更新して伝える。 専門職倫理を考えるとき、海外の職業倫理資料も 論点を整理する参照枠にはなる。米国医師会の倫理 規範は、医師の倫理的実践や専門職としての行為を 扱う米国の方針であり、日本の法律や臨床研修の制 度要件ではない。その射程を区別したうえで、患者 の利益を考え、迷いを隠さず、責任のある相手に共 有する姿勢を考える補助資料として読む。[3] 1
研修医総合ガイドライン 着任前 初日 初週 ローテーション中 ・終了時 研修プログラムの 案内を読む 指導医・上級医と 代替連絡先 受け持ち患者で 申し送りをたどる 評価と形成的 フィードバック 勤務条件の 明示内容を確認 院内急変コール 回診・検査締切の 流れを確かめる できたことを共有 不明点を控える 記録・指示の権限 未完了業務の 残し方を確かめる 次に練習することを 共有する 実際に操作して確かめる 図 1.1 着任前・初日・初週・ローテーション中に確かめること。連絡先・手順は院内の案内で確認する。 1.1.1 安全な診療には助けを 求める力も含まれる 「分からない」と感じたら、まず何が分からない のかを小さく分ける。患者の状態が把握できていな いのか、所見の意味づけに迷うのか、選択肢は分か るが患者に適用できるか決められないのか。記録や 手順が不明なのか。曖昧さの種類が分かれば、相談 相手に伝える情報と求める助けを具体化しやすい。 相談は「答えを教えてください」と委ねることだ けではない。確認できた事実、まだ確かでない点、 自分が考えた次の一手、判断を急ぐ理由を短く共有 し、どこを一緒に確認すべきかを尋ねる。仮に、診察 後に患者の訴えと記録上の経過が一致しないと気 づいたなら、その食い違いをそのまま報告し、追加 で確認すべき情報を相談する。事実を都合よく整え て「問題なし」としてしまうより、未確定な点を明 示するほうが、チームが安全に判断を進められる。 相談の深さは、状況に合わせる。急いでいる場面 では、患者の場所、いま起きている変化、必要な応援 を先に伝える。時間に余裕のある症例検討なら、こ れまでの経過と鑑別、考えた計画を整理してから議 論できる。緊急性の高い場面で完璧な経過説明を準 備してから連絡しようとすると、支援につながるの が遅れる。まず安全確保に必要な情報を伝え、追加 情報は相手の質問に応じて補う。 助けを求める目安を「自分で何分考えたか」にし ない。悪化している、緊急性を否定できない、実施 をためらう指示がある、必要な情報にアクセスでき ない、手順が分からない。どれか一つでも当てはま れば早めに相談する。反対に、急がない疑問なら、確 認できる情報を集めて自分の問いを一つ作ってか ら持っていくほうが、相談が学びになる。 相談しても担当は終わらない。頼まれた確認を済 ませたか、患者は変わっていないか、次の担当者に 2 渡すものはないかを見届けて、はじめて仕事が閉じ る。 1.2 初日・初週に確かめること 配属先が変わるたび、同じ医師でも仕事の流れ、 担当の境界、連絡経路は変わる。前の診療科でで きたことをそのまま持ち込まず、患者を受け持つ前 に、誰がどの判断を指導するのか、どの状況で上級 医に連絡するのかを確認しておく。研修目標は全国 で定められていても、具体的な呼び出し先や記録シ ステム、夜間の役割分担は施設・診療科ごとの手順 に従う。 初日は、指導医と上級医、研修の相談窓口、連絡 がつかない場合の代替先を、名前または役割と連 絡方法で確かめる。急変時に誰へ知らせ、どの院内 コールを使い、誰が現場へ向かうかも、実際の手順 で確認する。患者を担当したあとに探し始めると遅 れることがあるため、電話番号や内線、電子カルテ 上の連絡方法を使える状態にしておく。曖昧な略称 や「いつもの場所」だけで理解したつもりにならず、 必要なら現地で動線を確認する。 同じ日に、記録の確定方法、指示を入力・実施す る範囲、処置や検査の申込み方、結果を誰が見るか を確認する。患者への説明や同意、家族への連絡な ど、単独で進めてよいか判断に迷う場面も、施設の ルールを先に尋ねる。これは能力を低く見積もるた めではない。誤解しやすい境界を予測して、患者の 前で曖昧な約束をしないための準備である。 初日の確認では「説明を聞いた」で終えず、自分 が実際に操作・連絡できるかを確かめる。電子カル テの閲覧・記録・確定に権限の違いがあるなら、ど の状態の記録を誰が確認するのかを確認する。検査 や処置の依頼も、入力した内容がどの部署に届くの
第 1 章 研修の土台と最初の一歩 か、緊急時の連絡が別に必要なのかを聞く。説明だ けでは分かりにくい手順は、指導者の立ち会いのも とで練習する。 医療安全に関わる情報は、患者の個人情報と同様 に適切に扱う。連絡先のメモや未完了リストを作る 場合には、施設の認めた端末・様式を使い、必要な 人だけが見られる場所に記録する。個人所有端末や 私的なクラウドへの患者情報転記はしない。まず院 内の情報管理方針と手順を知り、その範囲で仕事を 見えるようにする。 初週は、実際に受け持った患者の流れに沿って、 申し送りの時刻、回診、検査・処置の締切、未完了 業務の残し方をたどる(病棟の動き方は第 2 章) 。一 度聞いただけで覚えられなくて当然である。二度目 は先輩の横で一緒に操作する。 初日・初週の確認リスト 指導医・上級医の名前(または役割)と連絡 方法、つながらないときの代替先 急変時に使う院内コール、誰へ知らせ、誰が 現場へ来るか(院内手順で確認) 夜間・休日の窓口と、緊急連絡・通常連絡の 使い分け 電子カルテの閲覧・記録・確定の権限と、記 録を誰が確認するか 指示を入力・実施してよい範囲、検査・処置 の申込み先、結果を見る人 患者への説明・同意・家族への連絡を単独で 進めてよい範囲 連絡先メモや未完了リストに使ってよい端 末・様式 申し送りの時刻、回診・カンファレンス、検 査・処置の締切 勤務時間・休息・健康相談の窓口と、確認し た文書名・日付 初週のうちに、自分の研修を支える指導体制の全 体像もつかんでおく。2024 年度版の医師臨床研修 指導ガイドラインは、研修管理委員会、プログラム 責任者、指導医、上級医、医師以外の指導者、メン ターといった役割を分けて説明している。指導医の 指導監督のもとで、臨床経験の長い上級医が研修医 を直接指導する、いわゆる屋根瓦方式も想定されて いる。看護師や薬剤師など医師以外の職種も研修医 の評価と指導に関わる。つまり、病棟で日々助言を くれる人と、評価をまとめる人、研修全体を管理す る人は同じとは限らない。[1] メンターは、診療科の枠を超えて研修生活やキャ リア、精神面の相談に継続的に応じる支援者として 位置づけられ、評価者とは別の医師が担うことが望 ましいとされる。ただし、メンター制度は省令施行 通知に定めのある必須の仕組みではなく、採用の有 無や形はプログラムによって違う。なお、この指導 ガイドラインは 2024 年度版であり、研修制度の要件 そのものは厚生労働省の省令施行通知で定められ、 令和 8 年(2026 年)3 月 31 日にも一部改正されてい る。制度上の細かな要件で迷ったら、ガイドライン の記述だけで判断せず、最新の通知と所属プログラ ムの説明を研修管理の窓口で確かめる。[1] 1.2.1 施設の連絡経路と勤務ルールを確かめる 勤務時間や休息、健康相談についても、配属先の 説明を受け、就業規則や研修プログラムの案内を確 認する。医師の働き方に関する制度は 2024 年 4 月に 新たな仕組みが始まり、厚生労働省の情報ページに は勤務時間、勤務間インターバルや面接指導などの 関連資料が案内されている。ただし、個々の勤務実 態にどう適用されるかは雇用条件や医療機関の管 理方法によって異なる。一般向けのウェブ案内だけ で、自分の勤務上の扱いを決めつけない。[1, 4] 確認先は一つとは限らない。勤務表や実際の業務 分担は所属診療科、研修内容や評価はプログラムの 責任者・研修管理の窓口、体調や長時間勤務の相談 は施設が定める健康管理・労務管理の窓口という ように、相談内容で担当を分けて考える。どこに連 絡すべきか不明な場合は、研修担当者やメンターに 「この種類の相談は誰が窓口か」と尋ねてよい。相談 先が分からないという問題を、個人の我慢で解決し ない。 研修は予定表どおり進むとは限らない。全部を暗 記しようとせず、必要なときに見返せる場所に連絡 先と手順を置く。勤務ルールについて確認した日付 や文書名も控えておけば、配置替えや改訂後に見直 しやすい。ローテーション終了時の評価や定期的な 形成的フィードバック(受け方は第 8 章)は、できた ことと次に練習することを共有し、研修方法を調整 する機会でもある。評価の面談前に自分の疑問を整 理しておくと、助言を具体的な行動に変えやすい。 [1, 2] フィードバックは、評価される側が困りごとを隠 さないほど具体的になる。最近うまくできたと感じ る場面、迷って時間がかかった場面、次のローテー ションで経験したい業務を短く振り返る。助言を受 けたら「次に似た状況で何を試すか」を決め、実際 に使って再び指導者へ確認する。評価票の記載や面 談時期はプログラムで異なりうるため、回数や書式 は所属先の案内に従う。[1, 2] 3
研修医総合ガイドライン 1.3 分からないことを扱う 研修では、知識が足りない場面だけでなく、情報 がまだそろっていない場面、複数の合理的な選択 肢がある場面、時間が限られる場面に繰り返し出会 う。すぐ正答にたどり着けるかだけを自分の物差し にすると、必要な情報収集や相談の機会を逃す。ま ず、今分かること、確認が必要なこと、判断を待て ない理由を分ける。 たとえば、これは仮想の複合例である。病棟で患 者の様子を見た研修医が、本人の訴えと朝の記録の 間に食い違いを感じた。診断名を急がず、いつから 何が変わったのか、観察できた事実は何か、未確認 の情報は何かを整理する。緊急性が疑われるなら、 詳しい鑑別を一人で完成させる前に、院内の急変手 順に沿って応援を要請する。差し迫った危険が見え ない場合も、記録を確認して上級医へ相談する時点 を先延ばしにしない。 仮想例:本人の訴えと記録が食い違う 朝の記録には「夜間著変なし」とある。ところ が訪室すると、患者は「夜中から少し息がしに くい」と話した。研修医は診断名を当てはめる 前に、手元の情報を三つに分けた。 ◾︎ 確認できた事実:本人の訴えの内容、訪室時 に測り直したバイタルサインと診察所見、記 録が書かれた時刻 ◾︎ まだ確認していないこと:訴えが始まった時 刻、夜勤看護師が見た様子、前日との違い ◾︎ 急ぐ理由:状態が悪化している、あるいは緊 急性を否定できないなら、鑑別を一人で完成 させる前に院内の急変手順で応援を求める 差し迫った危険は見えなかったため、研修医は 上級医に「記録と本人の訴えが食い違っていま す。確認した事実はここまでで、未確認はこれで す。一緒に診ていただけますか」と伝えた。食い 違いを「問題なし」に整えず、そのまま共有した ことで、追加で確かめる項目と次に診る時刻が その場で決まった。 1.3.1 迷いを相談に変える 相談の入り口では、相手に長い経過を一度に話す より、患者の識別に必要な情報、今起きている問題、 急ぐ理由を先に置く。次に、確認した事実と自分の 評価を分け、すでに行った対応、結果、まだ決められ ない点を伝える。最後に「何を確認したいか」を明確 にする。たとえば診察を一緒にしてほしいのか、方 針を相談したいのか、今すぐ現場へ来てほしいのか では、相手に求める行動が異なる。 4 相手が忙しそうに見えても、緊急性があるときに 遠慮して待つことは安全な代替にならない。院内で 決められた緊急連絡経路を使い、伝わったことを確 認する。つながらなければ、代替先へ連絡する。反 対に、急がない相談なら、相手が応答できる時刻や 方法を確認し、患者の状態が変わった場合には待た ずに連絡する条件を決める。どちらの場合も「相談 した」という事実より、次の行動と責任者が明らか になったかが大切である。 Before/After:相談の最初の一文 Before 「すみません、○号室の方なんですが、 昨日入院されて、既往に……(1 分経過)……どう したらいいでしょうか」 After 「○号室の○○さんについて、一緒に診 察していただきたくて連絡しました。朝の記録 と本人の訴えが食い違っていて、息苦しさが夜 中からあるそうです」 変えたのは順番だけである。何を頼みたいかが 先に来ると、相手は聞きながら準備できる。 説明を受けた後は、理解した方針を自分の言葉で 短く言い返し、認識が一致しているか確かめる。実 施する人、行う時刻、結果を確認する人、状態が変 わったときの連絡先が分かれば、相談は具体的な診 療計画になる。ここで扱う報告の構造を、緊急連絡 や複雑なコンサルトの完成形だとは考えない。状況 に応じた報告・相談の詳しい方法は第 4 章で扱う。 1.3.2 迷ったときの基本動作 ここまでの内容を、本書全体で繰り返し使う五つ の動作にまとめておく。以降の章では「第 1 章の基 本動作」として参照し、同じ説明は繰り返さない。 QUICK REFERENCE 迷ったときの基本動作 (1) 危ないかも → 先に呼ぶ:診断より応援。院 内の緊急経路を使う (2) 分けて渡す:確認できた事実/未確認/自 分の考え/頼みたいこと (3) 未確認は未確認と書く・言う: 「見ていな い」を「問題なし」にしない (4) やった後に見に戻る:誰が・いつ・何を見 て再評価するか決める (5) 次の確認者を決めてから離れる:担当・期 限・連絡条件を読み合わせる 施設の手順(呼出し先・様式・権限)は初日に確 認し、迷えば上級医へ。
第 1 章 研修の土台と最初の一歩 表 1.1 相談内容に応じて確認先を選ぶための一般的な整理。役割名・連絡方法は施設ごとの案内で確認する。 相談したいこと 最初に確認する相手の例 相談時に伝える焦点 患者の状態、診療判断、直近の処置 当番の指導医・上級医 現在の変化、緊急性、確認した事実 研修目標、ローテーション、評価 プログラム責任者・研修管理窓口 できたこと、困っている場面、必要な経験 勤務負担、体調、休息の調整 施設の労務・健康管理窓口 勤務の状況、体調への影響、安全な交代 の必要性 日常的な迷い、相談先の確認 メンター等、施設が定める支援者 何を誰に相談すべきかという迷い 注意|ありがちな勘違い ◾︎「もう少し調べてから相談しよう」→ 悪化し ているなら、調べるのは呼んだ後でよい ◾︎「相談した=自分の仕事は終わり」→ 決まっ たことを実行し、結果を見届けるまでが担当 ◾︎「忙しそうだから明日にしよう」→ 相手の忙 しさより患者の変化を基準にする 1.3.3 疑問を学びに変えて残す その場で解決しなかった疑問は、放置すると同じ 場面で同じように迷う。診療中に浮かんだ問いを短 く書き留め、その日のうちに教科書や指針で調べ、 必要なら翌日に指導医へ確認する、という小さな循 環をつくる。メモには患者を特定できる情報を入れ ず、 「この所見の意味は何か」 「この薬を選んだ理由 は何か」のように問いの形で残す。調べた答えが施 設の運用と食い違うときは、自己判断で運用を変え ず、指導医に確認してから扱う。 研修では、経験すべき症候と疾病・病態が定めら れ 、日常診療で作成する病歴要約などで経験を 確認する。担当した症例を振り返るとき、どの症候 を経験したか、どこで迷い誰に相談したかを記録し ておくと、病歴要約をまとめる作業が単なる事務で はなく学習の整理になる。経験の偏りに早く気づけ ば、ローテーション中や面談で必要な経験を相談で きる。[1, 2] 知識不足に落ち込む日は誰にでもある。そのとき 「分からなかった」で終えず、 「次に同じ場面で何を 確認するか」を一つ決めれば、迷いは次の診療の手 順に変わる。 1.4 責任を持ち、抱え込まない 研修医にも、患者の状態を確認し、担当した情報 を正確に伝え、決められた業務を行い、残った仕事 を明示して渡す責任がある。その責任は、支援なし にすべてを自分で遂行するという意味ではない。患 者の安全に必要な助言を受け、役割の境界を確認 し、仕事量や体調の問題を適切な管理窓口につなぐ ことも、研修を安全に続ける条件である。厚生労働 省の研修資料は研修医の健康確保と指導・管理体制 を扱い、働き方改革の案内は勤務時間や健康確保に 関する情報への入口を示している。[1, 4] 相談先の役割を、施設の組織図の代わりに一般化 することはできない。それでも、相談内容に応じて 確認先を分けて考える助けにはなる。患者の臨床判 断についてはその場の指導医・上級医、研修の進め 方や評価についてはプログラム責任者や研修管 理委員会、勤務・健康上の調整については施設が指 定する管理・健康窓口へつなぐ。メンターや医師以 外の指導者は、日常の困りごとを整理する支援者に なりうるが、緊急時の臨床指揮者と同一とは限らな い。役職名と実際の担当は着任先で確認する。[1] 1.4.1 担当を安全につなぎ、次の人へ渡す 疲労や体調不良に気づいたら、まず現在の勤務や 患者対応にどのような影響が出ているかを言葉に し、施設の管理窓口へ伝える。長時間勤務や勤務間 の休息に関する制度情報は公的ページから確認で きるが、個別の適用関係や手続きは医療機関の管理 者・担当窓口に確認する。自分で法律上の結論を急 いだり、対応を一人で決めたりせず、健康管理の手 順に接続する。[1, 4] 勤務と健康は、個人の心がけだけの問題ではな い。2024 年度版の指導ガイドラインは、臨床研修医 が労働者として労働法規の適用を受けることを明 記し、2024 年 4 月から医師に適用された時間外労働 の上限規制、長時間労働となる医師への面接指導、 勤務間インターバルの確保などを説明している。研 修医に適用される水準や上限時間の扱いは研修プ ログラムごとに示されているため、自分の条件は数 字の噂ではなく、所属先の明示内容で確認する。面 接指導の対象になった場合も、それは罰則ではなく 健康を守るための仕組みとして受ける。[1, 4] 睡眠不足や連続勤務のあとほど、基本動作を省か ない。気分の落ち込みや不眠が続くときも、同期や 家族に話すだけで終わらせず、メンターや施設の健 康相談の窓口を使ってよい。自分の健康を管理する ことは、患者の安全を守る仕事の一部である。[1] 5
研修医総合ガイドライン 体調が患者対応に響きそうなとき 勤務を続けるか離れるかを一人で決めない。施 設の指導体制・健康管理の窓口へ伝え、担当患 者、実施済みの対応、未完了の業務を明示して、 安全に交代できることを確かめる。 勤務調整を相談するときは、担当患者を曖昧なま まにしない。誰が引き継ぐのか、待っている検査結 果や説明は何か、どの時点で再確認するかを相手と 確かめる。すぐに代わりの担当者が決まらない場合 も、その事実を責任者に伝え、優先順位と追加の支 援を相談する。体調を伝えることと患者を引き継ぐ ことを別々の問題にせず、一つの安全な移行として 扱う。 当直明けに「先に帰ります」と言い出しにくい。多 くの研修医が一度は感じる気まずさである。けれど も休息は患者を放り出すことではなく、引き継ぎを 整えたうえで取るものだ。未完了事項を明示して渡 し、次の担当者が動ける状態をつくってから帰るほ うが、残り続けるより患者にとっても自分にとって も安全である。 ガイドラインは、研修医が事務作業や患者移動、 他の職種が実施可能な処置を担いがちだった慣習 を見直し、労働そのものを減らす工夫や、医師の業 務を他職種へ移すタスク・シフティングを研修病院 の課題として挙げている。あわせて、研修医の健康 を守る相談窓口や、産業医・衛生委員会による支援 の充実も求めている。研修医にとっては、他職種に 任せられる業務と医師が行うべき業務の境界を知 ることが、負担の軽減と学習時間の確保の両方につ ながる。ただし、何をどの職種が担うかは施設ごと に定められているため、自分で分担を決めず、病棟 の運用として確認する。[1] 今日からできること 体調や負担が患者対応に影響しそうだと感 じたら、早めに言葉にして伝える 勤務調整は施設の窓口に相談し、自分だけで 結論を出さない 交代するときは、担当患者・未完了事項・次 の確認時刻を引き継ぎ先と読み合わせる 次の第 2 章では、こうした心構えを病棟の一日の 動き方に落とし込む。 6
第 2 章 病棟の一日を回す 第2章 病棟の一日を回す 急変が疑われたら:地図の更新を止め、院内急変手順で応援要請 → 対応後に地図へ戻る 新しい情報で組み直す 新しい訴え・変化 地図を更新する 本人を診察し 指導医へ伝える 結果・新しい情報で地図を更新 優先順を見直す(更新時刻を記す) 朝の起点 時刻の決まった予定 担当患者リスト 夜間の出来事と その後を追う 検査・処置・説明の 準備と依頼を確認 通常予定 勤務終了前 保留欄を閉じるか、 担当・期限を付けて引継ぎへ 予定と保留欄を進める 図 2.1 朝の患者地図を 3 種類に振り分け、新しい情報で組み直す。急変が疑われたら更新を止めて院内急変手順へ。 病棟の一日は予定表どおりには進まない。病棟業 務の中心は、担当患者の状態を把握し、必要な診療 を依頼し、結果を見て再評価し、次の担当者へ渡す 循環にある。患者の状態、時間制約、未完了の仕事を 一つの見取り図に置き、変化のたびに優先順位を更 新する。出勤直後に全員分の情報を暗記しようとす るより、患者ごとに「今どうか」 「今日何をするか」 「何が残っているか」を見える形にする。研修の基本 的診療業務には病棟診療が含まれ、診療は指導・連 携ができる環境を前提に経験を積むものとされる。 ここで示す患者地図やリストは、施設の正式な記 録・申し送り様式を置き換えるものではない。[1, 2] 2.1 出勤して最初に作る患者地図 最初に担当患者の患者リストを確かめたら、単な る名前の列を今日の仕事が分かる地図へ変える。患 者ごとに、夜間や前回確認以降の変化、診療上の懸 念、時間の決まった検査・処置・説明、相談先、保 留中の項目を一か所に整理する。詳しい経過は電子 カルテを読み(記録の書き方は第 3 章) 、地図には次 の行動に必要な見出しだけを置く。個人情報の持ち 出しや、施設で認められていない記録媒体への転記 は行わず、院内の安全な方法を使う。 一覧を作るときは、全患者を同じ順番で扱うので はなく、状態変化の有無と時間制約を分ける。新し い訴えや変化がある人、決められた時刻に対応が必 要な人、通常予定を進める人という具合に見通しを つける。これは仕事の整理法であって緊急度判定で はない。急変が疑われたら地図づくりは中断し、第 1 章の基本動作どおり先に応援を呼ぶ。 夜間の申し送りを読むときは、出来事の有無だけ でなく「その後どうなったか」を追う。連絡があっ た、検査を依頼した、追加の観察を始めたという記 録があれば、次の記載や担当者の確認と照らし、対 応が完了しているか、続いているかを確かめる。背 景が短く省かれている場合には元の記録に戻り、時 刻や患者の状態を合わせて理解する。 ありがちなのは、カルテを丸ごと書き写した「厚 すぎる地図」である。欄は「状態の変化」 「予定」 「保 留」 「相談先」の四つで足りる。書き写すほど大事な 変化が埋もれ、更新も追いつかなくなる。 2.1.1 予定と急ぐ患者を分ける 予定表には、検査や処置だけでなく、患者への説 明、他職種との相談、退院に向けた調整なども書き 込む。時刻が決まっている予定には、前提となる準 備や依頼が済んでいるかを確かめる。検査を予約し 7
研修医総合ガイドライン ただけで患者の準備が整っているとは限らず、説明 や確認が必要なものは担当者と期限を明確にする。 急ぐ順番は朝に固定して終わりではない。患者か ら新しい訴えがあれば、本人に会って状態を確認 し、担当の指導医へ必要な情報を伝える。予定され た処置を抱えていても、優先度の高い変化があれば 順番を見直す。一方、連絡や依頼が来るたびに現在 の仕事を無言で放棄すると、途中まで行った作業が 消えてしまう。中断する時点で、どこまで済んだか、 次に何をするかを地図か施設の記録へ残しておく。 初日に確認した連絡先(第 1 章)は、地図の「相 談先」欄に書き込んでおく。自分の一覧に載ってい ない患者でも、緊急事態に気づいたら担当境界を理 由に見過ごさない。 予定を一つの時刻表として固めるより、前後関係 も書いておく。たとえば、診察後に指示を確認して 検査へつなぐ、結果が返ったら患者を再評価する、 といった依存関係である。先行する作業が遅れたと きに後続の予定へ影響することが見えると、関係者 への連絡や再調整がしやすい。予定が変更になった ら、古い時刻を残したままにせず、現在の状態が分 かるように更新する。 手元の地図を更新しても、正式な記録が更新され たことにはならない。チームで共有するのは施設の 申し送り様式か電子カルテであり、地図は自分の仕 事を追う補助である。 2.1.2 初日・初週に病棟の流れをつかむ 新しい病棟での初日・初週は、患者を覚える前 に、病棟業務の流れを覚える期間と考える。朝の申 し送りはどこで誰から受けるのか、回診やカンファ レンスで何を報告するのか、検査や処置の依頼はど の画面から出し、締切はいつか、夕方の申し送りは 誰に渡すのか。これらは病棟ごとに異なるため、前 のローテーションの感覚で動かず、上級医や病棟ス タッフに一度ずつ確かめる(第 1 章) 。 最初の数日は、担当患者の数を少なく始めること も多い。その間に、患者リストの形式、正式な記録 の場所、看護記録や他職種の記録の読み方を確 認し、自分の患者地図の欄をその病棟に合わせて作 り直す。分からない略語や運用に出会ったら、推測 で進めずにその場で尋ね、答えを見返せる場所に残 す。初週の終わりに、つまずいた場面を上級医と振 り返れば、翌週からの動き方が具体的になる。 2.2 患者ごとの朝の確認 カルテを開く前から診断を決めつけず、まず夜間 の出来事や患者の現在の訴えを追う。記録上の出来 事だけでなく、患者がどう感じているか、前日から 8 何が変わったかを診察で確かめる。バイタルサイン や検査値は、時系列と治療経過に並べ、単独の数値 を取り出して結論にしない。測定条件や過去の値、 患者の症状と照らして、確認が要る変化を探す。 確認した情報は、観察事実と自分の解釈を区別す る。 「食事量が半分だった」という記録と、 「脱水が 進んでいるのではないか」という考えは同じ種類の 情報ではない。検査値の変化も、その値を患者の状 態と合わせて検討する問いの出発点であり、単独で 処置を決める根拠ではない。迷う数値や所見があれ ば、測定の再確認、患者の診察、既往や治療との照 合を行い、必要に応じて指導医へ相談する。[1, 2] 注意|朝にありがちな勘違い ◾︎「看護記録に『著変なし』とある」→ 本人に聞 くと「夜中に息苦しかった」ことがある ◾︎「採血結果が並んでいない=異常なし」→ ま だ出ていない、あるいは出ていないことに誰 も気づいていない ◾︎「回診に間に合わせるため全員を 5 分ずつ」→ 夜間に変化があった人から先に、長めに 患者に会う前に過去記録を読むことは重要だが、 記録が現在の状態を完全に表すとは限らない。患者 本人や周囲のスタッフから新しい情報を得たら、記 録上の見立てと一致するか確かめる。本人が話しに くそうな場合や意思疎通に支援が必要な場合には、 適切な補助者やチームメンバーと相談しながら、患 者の希望と理解を確認する。見た目だけで「変わり ない」と判断せず、具体的な症状や生活上の困りご とを尋ねる。 異常がなくても「問題なし」とまとめず、何をい つ確認したかを残す。検査中で診察できなかった患 者は、第 1 章のとおり未確認として地図に残し、誰 がいつ見るかを書いておく。 朝の確認では、夜勤の看護師から直接話を聞ける 機会を大切にする。記録には残りにくい「夜中に何 度も起きていた」 「いつもより返事が遅い気がした」 といった観察は、患者を診察する際の問いを具体的 にする。聞いた内容は、誰がいつ観察したかと合わ せて扱い、自分の診察で確かめてから計画に反映す る。忙しい朝に全員分を聞けないときは、夜間に変 化があった患者から優先して尋ねる。
第 2 章 病棟の一日を回す QUICK REFERENCE 朝の患者確認 表 2.1 は、評価・計画・実施・評価の循環を途中で切らな いことが要点になる。[1, 2] 診察し計画を立てる 見るもの 一言で 本人 昨日から何が変わった? 夜間 記録+夜勤看護師。その後ど うなった? バイタル 点でなく線で 検査 誰の・いつの? 未返却は? 診察 記録の見立てと合う? 今日 予定・担当・期限 見られなかった所 「未確認」として残す 依頼:目的・担当・ 期限・完了の条件 実施を確認 遅れたら状況を尋ね指導医と判断 結果・返答を読む 未完了 2.2.1 検査値を経過と症状に重ねる たとえば、前日の値と比べて一つの検査項目が変 化していたとする。それだけでは、患者が悪化した のか、測定条件や治療の影響か、臨床的に重要な変 化かは決まらない。本人の訴え、診察所見、同じ時 間帯の他の情報、治療後の反応を並べ、 「この変化で 何を確かめるべきか」という問いにする。必要な検 査や対応は、患者固有の状況と指導体制のもとで決 める。 検査が未実施だったり、結果がまだ返っていな かったりする場合は、一覧の空欄を完了と見なさな い。依頼の状態を確認し、実施見込みと結果を見る 人を明らかにする。結果が返った後は、数値を記録 するだけでなく、患者の状態や当初の見立てに影響 するかを再評価する。経過を読んだら患者のもとへ 行く、診察後に記録を更新するという往復をつくる と、情報を現場の状態から切り離しにくい。 取り違えが疑われる値や、互いに矛盾する値を前 提に判断を進めない。都合のよい値だけを拾わず、 測定時点を並べて指導医に示す。 一つ役に立つ習慣がある。検査を出す前に「この 結果が○○なら、何を変えるのか」と自分に一文で 問うことだ。答えが出ない検査は、目的を指導医と 確かめてから出す。 2.3 診察・依頼・再評価をつなぐ 診察をして計画を立てたら、計画を実行可能な依 頼にする。誰が対応するのか、いつまでに必要なの か、何をもって完了とするのかを確認する。検査、 処置、他職種への相談など、内容が違っても、依頼 を送信した時点では仕事は終わっていない。実施さ れたかを確認し、結果や返答を読み、患者の状態に 戻って確かめる。患者の診療計画を安全に進めるに 患者のもとへ戻り再評価 計画を更新 未完了なら担当と期限を 付け直して一覧へ戻す 図 2.2 依頼は患者の再評価で一区切り。未完了なら担当と 期限を付け直して一覧へ戻す。 依頼の言葉は、相手が次の動きを選べる程度に具 体的にする。 「確認をお願いします」だけでは、何を、 どの時点で、どんな条件で知らせるのかが不明な場 合がある。依頼の目的、患者に関係する背景、求め る行動と時期を伝え、緊急度が変わったときの連絡 方法を確認する。詳細な報告・相談の型は後の章で 扱うが、病棟の仕事では依頼の入口から結果確認ま でを自分の一覧に残す。 診察のあとに立てる計画は、患者の希望や理解と も照らし合わせる。処置や検査が予定されたなら、 患者への説明が済んでいるか、質問や不安が残って いないかを確認する。研修医自身が説明の範囲や方 法を判断できないと感じたら、指導医へ相談し、誰 がどの内容を説明するか調整する。説明を依頼した 場合も、実施の有無や患者の受け止めを確認し、診 療計画に反映する。 他職種に依頼するときは、相手の専門性を尊重 し、患者の目標や相談したい点を伝える。依頼内容 の背景が共有されないと、実施方法や優先度の解釈 が食い違うことがある。相手から提案や質問が返っ てきたら、それは業務の割り振りではなく、患者に 必要なことを一緒に詰めるやり取りである。 9
研修医総合ガイドライン 2.3.1 依頼を結果確認まで追う 依頼した後は、少なくとも三つの問いを自分に返 す。実際に実施する担当者は決まったか。必要な時 刻までに行われる見通しか。結果を確認し、患者の 状態を見直すのは誰か。担当が不明なら、依頼先へ 確認して責任の所在をはっきりさせる。期限に間に 合わない可能性があれば、患者への影響を考え、指 導医や関係職種へ早めに伝えて代案を相談する。 結果が返らないときには、ただ待ち続けない。予 定の時刻が過ぎたことを確認したら、施設の連絡手 順に従い実施状況を尋ね、遅延が患者の対応に影響 するかを指導医と判断する。反対に、すぐ返ってき た結果でも、患者の状態を見ずに値だけで仕事を閉 じない。予定していた問いへの答えになったか、症 状や診察所見に変化がないか、新しい対応が必要か を評価する。 一つの依頼に複数の段階がある場合は、途中の状 態を記録する。 「依頼済み」 「実施待ち」 「結果確認待 ち」 「結果を踏まえた再評価済み」を区別すれば、口 頭の記憶に頼らず、どの段階に誰が関わっているか が見える。依頼を出した本人が勤務を終えるなら、 その進捗を次の担当者と照合する。引継ぎの方法は 次節で扱う。 依頼を受ける側から確認を求められたときは、急 がせる表現だけを繰り返すのでなく、目的と期限を 共有し直す。依頼先に別の優先業務があるなら、実 施見込みを尋ね、患者への影響を含めて指導医と調 整する。依頼した側の予定だけを基準に相手を責め ることは、必要な情報共有を妨げる。予定が変更に なった場合には、患者や関係者への説明が必要かも 合わせて判断する。 2.4 引継ぎ前の未完了リスト 勤務の終わりに、今日の仕事を思い出せるかだけ で完了を判断しない。返っていない結果、未実施の 依頼、患者への再説明、他職種との調整などを患者 ごとに見直す。各項目には、現在の状態、次に行う こと、担当者、期限または再確認時刻、遅れた場合 の連絡条件を添える。施設で決められた記録方法に 残し、口頭で伝える必要があるものは受け手が理解 したことを確かめる。[1, 2] 未完了業務を洗い出すときは、勤務の終わりにま とめて思い出そうとせず、日中から患者地図の「保 留」欄に書き足しておく。夕方の見直しは、その欄 を一行ずつ閉じるか、担当と期限を付けて残すかを 決める作業になる。完了させられるものは勤務時間 内に済ませ、残すものは理由を添える。 「時間がなく て終わらなかった」ことを隠す必要はない。終わら 10 なかった事実と次の行動が見えていれば、受け手は 安全に引き継げる。 研修の到達目標には、診療記録や情報共有、チー ムでの連携、医療安全が含まれ、ローテーションの 評価では医師以外の職種も研修医を評価する。未完 了業務を明示して渡す習慣は、こうした目標を日々 の病棟で具体化したものといえる。申し送りの様式 や口頭で伝える範囲は病棟ごとに決まっているの で、初週のうちに確認しておく。[1, 2] 未完了リストは、書いた時点で終わりではない。 たとえば夕方、ある患者の検査結果がまだ返ってい ないとする。リストには「結果待ち」と書くだけでな く、結果を誰が確認するか、いつまでに返る見込み か、遅れたら誰に連絡するかを添える。自分が勤務 を終えるなら、その行を次の担当者と一緒に読み、 担当欄を書き換えたことを双方で確かめる。担当者 の名前が空欄のまま残る行は、誰の仕事でもない行 になりやすい。 QUICK REFERENCE 引き継ぎ (1) 患者ごとに:今の状態 → 残っている行動 (2) 残す行ごとに:何を/誰が/いつまでに/ 遅れたら誰へ (3) 急ぐ順:安全に関わる → 時刻が決まってい る → 通常 (4) 保留中の説明:何を・いつ・誰が話すか (5) 他部署に渡した依頼:病棟側の追跡担当 (6) 受け手に言い返してもらう (7) 担当欄が空の行を残さない 注意|未完了業務が宙に浮く典型 ◾︎ 記憶だけに置いて、どこにも書いていない ◾︎ 結果を誰が確認するのかが決まっていない ◾︎ 期限や再確認の時刻がない ◾︎ 遅れたときや状態が変わったときの連絡先 がない ◾︎ 引継ぎ先が決まらないまま勤務が終わる 2.4.1 次の担当者と未完了項目を照合する 引継ぎでは、患者の現在の状態と、まだ終わって いない行動を同じ順序で伝える。たとえば「検査結 果待ち」とだけ言うのではなく、何の結果か、いつ 頃確認する見込みか、結果を受けて誰が患者を再評 価するのかを明らかにする。患者の状態が変わった 場合や結果が遅れた場合、どこへ再連絡するかも確 かめる。引き継ぐ人が話し終えたら、受け手に次の 行動と時刻を言い返してもらい、双方の理解を揃え る。
第 2 章 病棟の一日を回す 保留欄の一行 (未完了) 勤務内に 完了できる? YES 完了させる:結果を確認し、患者を 再評価して記録で閉じる NO 残す理由・状態・ 次の行動を書く YES 担当者が 決まる? NO 期限・再確認時刻と 連絡先を添える 確定後 責任者へ「誰の仕事 でもない行」と伝える NO 受け手と読み合わせ 言い返しは一致? YES 担当欄の書き換えを 双方で確認し 正式な記録へ反映 図 2.3 未完了項目を閉じるか、担当・期限・連絡条件を付けて明示的に引き継ぐ。申し送りの様式は院内手順で確認する。 項目が多いときは、全部を同じ重さで読み上げな い。重要な保留が埋もれる。引継ぎ先が決まらない なら、責任者に担当を決めてもらう。 患者や家族への説明が保留中なら、何を伝える予 定だったか、説明を待つ理由、いつ再確認するかを 申し送る。検査結果が返った後に説明する予定な ら、結果の確認者と説明する担当を分けて記す。説 明の内容や時期は患者の状況に応じて調整し、引継 ぎだけで患者への説明責任が消えると考えない。担 当が変わることを患者に伝える必要がある場合は、 施設の手順と指導医の助言に沿って行う。 他部署に依頼した項目は、依頼先に知らせたこと で病棟の追跡責任が消えるわけではない。結果と患 者の変化を誰が見るかまで決めて渡す。 2.5 急な割り込みが来たら 予定された診察や記録の途中に電話が鳴り、新し い依頼が入ることはある。内容を聞いた瞬間に、す べての作業を捨てて走るか、反対に「今の仕事が終 わってから」と保留するかの二択にしない。まず何 が起きているのか、患者の安全に関係する変化か、 対応に時間の制約があるかを確かめる。急変の疑い があるなら院内の緊急手順を使い、必要な応援を要 請する。一般的な仕事整理の図で重症度を判定して はならない。[1, 2] 仮想例:退院書類の途中にかかってきた電話 午前、研修医は退院予定の患者の書類を入力し ていた。そこへ看護師から、別の担当患者につ いて「さっきから呼びかけへの反応がいつもよ り鈍い」と電話が入る。 (1) 誰が何を見たか、いま誰が患者のそばにい るかを短く確かめた。 (2) 緊急性を否定できないため、院内手順で応 援を要請し、上級医へ連絡した。 (3) 書類の中断点を施設のメモ機能に残した ( 「処方欄まで入力、未確定」 )。同僚には書 類を保留したことを伝えた。 (4) 上級医の到着後、自分が続けて担う部分と 引き渡す部分を確認した。 (5) 対応後、担当医と患者地図を更新した。書 類に戻る前に一覧を見直すと、別の患者の 検査結果が返っていたため、先に確認して から書類を再開した。 この例で見てほしいのは診断ではなく、仕事の組 み替え方である。書類を「あとで思い出せる」と信じ て走り出すと、戻ったときにどこまで入力したか分 からない。10 秒でよいので中断点を書く。どの患者 のどの作業で止めたのか、必要な入力や確認のうち どこまで済んだのかを残す。患者情報を手元の付箋 などへ無造作に書き写すのではなく、施設の安全な メモ方法を用いる。可能なら同僚へ中断した業務を 11
研修医総合ガイドライン 連絡を受ける:誰が何を見たか いま誰が患者を見ているか 図 2.4 連絡の種類 最初にすること 誰と何を決める 安全に直結する 変化 院内急変手順で 応援要請 上級医へ連絡 手元の仕事は別担当へ 時間を逃すと 影響がある 影響を指導医・ 関係者と共有 担当と対応時刻を 決める どちらでもない (通常予定) 患者リストへ追加 依頼元に 対応時刻を伝える 戻る前に 状態と返っていない 結果を見直し 地図を更新 一覧を見直してから 中断業務へ戻る 割り込み連絡の種類ごとの最初の行動と復帰前の確認。院内トリアージ・急変基準に代わるものではない。 伝え、優先順位の調整が必要か相談する。急変対応 に向かう一人へ通常業務もすべて残さないよう、周 囲の役割分担を確かめる。 急がない依頼なら「○時に行きます」と相手に返 し、地図に登録する。黙って保留にした依頼は、相 手から見れば無視と区別がつかない。 急変が疑われるときは院内手順が先 次の振り分け図の一般的な分類で患者を評価 しない。施設の急変対応手順と緊急連絡先を使 い、上級医や応援を要請する。 2.5.1 割り込みの優先順を決める 割り込みを受けたら、まず患者の安全に直結する 変化かを問う。そうであれば院内の急変手順で応援 を要請し、手元の仕事は必要に応じて別の担当者へ 移す。次に、時間を逃すと患者対応に影響する依頼 かを確かめ、期限と影響を指導医や関係者と共有し て、担当と対応時刻を決める。どちらでもなければ 通常の予定として患者リストに追加する。いずれの 場合も、もとの作業の中断点を記録してから動く。 優先度を変えたときは、影響を受ける予定の担当 者へ知らせる。検査前の準備や他部署の枠が不要に なった場合には、予約や依頼を放置せず、施設の手 続きに従って変更を伝える。患者にも予定変更の説 明が必要なら、誰が伝えるか決めておく。業務を並 べ替えた結果、新しい期限ができた場合には患者地 図に記録し、もとの計画と混同しない。 2.5.2 中断した仕事に戻 り、優先順を更新する 新しい対応の後は、割り込みそのものが終わった かだけでなく、患者の状態、実施した対応、返ってい 12 もとの作業の中断点を記録する ない結果を見直す。担当医と確認し、患者地図に追 加すべき変化があれば更新する。そのうえで、割り 込みの直前に何をしていたかを患者一覧・未完了リ ストから拾い直す。診療録を途中まで書いた、検査 依頼を準備していた、他職種への連絡を保留した、 といった作業を記憶だけで復元しない。 割り込みが片付いても、元の順番に戻れるとは限 らない。その間に別の結果が返り、別の患者が変 わっている。再開前に一度だけ一覧を見直す。 午後 3 時、まだ午前の仕事が半分残っている。そ う気づいたら、昼休みを削って黙って埋め合わせる より、指導医に「残りはこれで、この順でやるつも りです。間に合わないのはこれです」と見せる。確 認を省く、記録を後回しにする、休息を削るといっ た帳尻合わせは、夕方の見落としにつながる。 診療チーム内で地図を見直す機会があれば、変化 した患者と予定変更を中心に共有する。各自の業務 を順番に報告するだけでなく、誰に追加の支援が必 要か、どの期限が迫っているかを確かめると、チー ム全体で優先順位を調整できる。自分の一覧だけで は見えなかった他職種の予定や患者の希望が分か ることもある。会話で合意した担当や期限は、忘れ ないうちに施設の記録へ反映する。 対応後の振り返り(勤務後の短い省察のやり方は ローテーションの章で扱う)は、失敗探しではなく 次に使える改善点を見つける機会にする。どの時点 で優先順位を見直したか、連絡に必要な情報はそ ろっていたか、中断した仕事を見失わずに戻れたか を確認する。個人の記憶だけでなく、記録や申し送 りを見て実際の流れを確かめる。手順上の曖昧さが
第 2 章 病棟の一日を回す 見つかった場合は、個人ルールを増やすより、病棟 チームや指導者に共有して正式な運用を確認する。 帰る前の最後の問いは一つでよい。「自分の頭の 中にだけある仕事は、残っていないか」 。 病棟で集めた情報を記録と症例提示にどうまと めるかは、次の第 3 章で扱う。 13
研修医総合ガイドライン 第3章 記録・プレゼン・説明 診療録を書くとき、患者の前で説明するとき、上 級医に症例を提示するとき、材料は同じでも相手が 知りたいことは違う。診療録はその場にいない次の 医療者へ経過と判断を渡す。症例提示は、聞き手が 今の判断を助けられるよう情報を選ぶ。患者・家族 への説明は、医療者の見立てを本人が理解し、質問 や希望を言える言葉に置き換える。この三つを一つ の文章に詰め込もうとすると、記録は冗長になり、 提示では依頼がぼやけ、説明では専門用語が残る。 目指すのは長い記載や流暢なプレゼンではない。 次に読む人が「何が分かっていて、何を考え、誰が 何をするのか」をたどれること、聞き手が必要な判 断を返せること、患者が自分に関係することを理解 して次の相談に参加できることだ。診療情報を患者 が理解しやすい形で提供し、記録を正確かつ最新に 保つことは、国の指針にも示されている。[5] 3.1 記録が次の行動を支える 夜間に呼ばれて初めて会う患者のカルテを開い た場面を想像するとよい。知りたいのは、入院理由 の長い説明より「今どんな問題を追っていて、どこ まで確かめ、何が起きたら誰に連絡する約束になっ ているか」である。自分が書く記録も、その読み手 に向けて書く。研修の到達目標でも、診療内容とそ の根拠を適切に記録することは、患者ケアに含まれ る基本的な能力として位置づけられている。[2] 3.1.1 読み手が次の行動を選べる記録 診療記録は、医療者が「やったこと」を後から並 べるためだけの書類ではない。患者の状態がどう変 わり、どの情報を根拠に判断し、何を実施し、その 後どうなったかを残す。次の担当者はその記録を手 掛かりに診療を続け、患者や家族への説明にもつな げる。診療録、処方せん、手術・看護記録、検査結 果、画像、紹介状、入院中の診療経過の要約など、診 療の過程で作成・保存される記録は幅広い。指針が いう「診療記録」は、文章のカルテだけを指すわけ ではない。[5] 勤務中に書いたメモや口頭の伝達だけでは、時間 がたつと誰が何を確認したか追えなくなる。記録に は、患者の識別、記載時刻、作成者が分かることに 14 加え、患者の状態、行った評価、判断、説明、実施 した対応、反応、これからの方針を必要な範囲で残 す。たとえば「発熱あり、経過観察」とだけ書くと、 誰がいつどの値を確認し、何を懸念し、次は誰がい つ再評価するのかが読めない。 「体温上昇を確認。呼 吸状態と意識に変化なし。感染症を含む原因を評価 中。担当医へ共有し、採血結果を○時に確認する」の ように書けば、事実・評価中の課題・次の行動をた どりやすい。 朝に立てた予定が夕方までに変わることは珍し くない。検査を予定したが、患者の状態が変わり順 番を前倒しした。家族から新しい既往情報を聞き、 当初の鑑別を見直した。相談した結果、治療を保留 し別の検査を追加した。こうした変化は、新しい記 録に結論だけを書くだけでなく、いつ、どの情報が 増え、何を理由に方針を変えたかを残す。前の計画 と新しい計画が並んでいても、更新時刻と理由が読 めれば、次の担当者は古い指示を誤って実施しにく い。 カルテの最後に「フォロー」と一語だけ置く。研 修医の記録で最もよく見る失敗の一つである。誰も 引き取っていない。「午後の画像結果を当番医が確 認し、所見があれば担当チームへ連絡する」と書け ば、確認漏れの手掛かりになる。 記載は正確かつ最新に保つ。誤りを直すときは、 施設の電子カルテの訂正手順に従い、訂正した人・ 内容・時刻が分かるようにする。以前の記載を消し て事実と異なる形に変えたり、後から都合よく書き 換えたりしない。これは書面を整えるためだけでは なく、患者の安全を守り、診療の経過を後から検証 できる状態にするためだ。制度上の細かな手続きや 電子カルテ操作は施設ごとに異なるため、初日に指 導医や医療情報担当へ確認しておく。[5] 診療録を読む人は、書き手と同じ情報を持ってい るとは限らない。略語だけで埋めず、施設内で意味 が共通していない略語は避ける。引用した患者の言 葉は、必要なところを本人の表現として示し、医療 者の解釈と混ざらないようにする。家族から得た情 報なら情報提供者を明記する。未確認の情報は「未 確認」として残し、推定を確定事項のように記さな い。共有先を誤らないことも記録の一部である。患
第 3 章 記録・プレゼン・説明 表 3.1 記載の書き方と、読み手が受け取る状態の違い。 書き方 読み手が受け取る状態 採血予定 まだ依頼していない可能性がある 採血依頼済み(担当・時刻) 検体が出たかは未確認 採血実施済み、結果待ち 誰が結果を見るかを決める必要がある 結果確認済み、担当医へ共有 次の判断が残っているかを確認する 者の同意や法令上の例外を確認し、診療に関係する (Objective)は診察・測定・検査で確認した所見、A 人へ必要な範囲で共有する。[5] (Assessment)はそれらから考えた評価、P(Plan) 忙しいときほど、後で書き足すつもりの情報が抜 は次の検査・治療・説明・再評価などの計画を置く。 けやすい。患者の診察後に記録するなら、時刻を実 SOAP は考えを並べる補助線であって、欄を埋めれ 際の確認時刻と混同しないよう施設ルールに従う。 ば記録が完成する魔法の型ではない。施設が定める 診療の後から記載する場合は、遅れて記載したこと 様式と記載ルールを優先し、読み手が経過と判断を が分かる方式を使い、思い出せない内容を推測で補 追えるように使う。[2] わない。検査値を転記するときは患者と採取時刻、 患者が「息苦しい」と話したなら S に本人の訴え 単位、前回値との違いを確認する。定型文やコピー を記す。呼吸数、酸素飽和度、聴診所見は O に置く。 した記録は便利だが、古い診断や予定が残っていな 「肺炎の可能性がある」は観察事実ではなく、所見や いか、患者の現在の状態に合っているかを送信前に 経過を踏まえた A である。胸部画像を依頼する、酸 読む。コピーの誤りは、正確さを保つための確認責 素投与を行う、上級医に相談するなどは P に記す。実 任をなくさない。 施後に呼吸状態がどう変わったかを追加し、当初の 評価や計画を更新する。同じ文章の中で「肺炎であ Before/After:一行の記録 る」と断定しながら根拠が示されていなければ、後 Before 血圧低下あり。経過観察。 の担当者は診断の確度を見誤るかもしれない。 After ○時 血圧低下(普段の値より低い) 。再検 記載の事実と解釈を分けるとは、見た・聞いた・ でも持続。担当医へ連絡済み、ベッドサイド再 測ったことと、そこから自分が考えたことを別の文 評価を依頼。○時に再測定し、結果を担当医へ。 として書くことである。記録で特に混ざりやすいの 増えたのは「いつ・何と比べて・誰に伝え・次 は、患者の訴えと医療者の評価、検査結果とその解 に誰が見るか」だけである。 釈、計画と実施済み事項である。 「採血する」と書い た後に採血が実施されたか分からなければ、次の担 経過記録の見本(仮想例) 当者は二重依頼や実施漏れに気づけない。「家族に S 「今朝から息が切れる」 。安静時にもある、 説明した」だけでは誰に何を伝え、どの質問が残っ と本人。 たか分からない。記載後に、動詞の時制を見直して O 呼吸数・酸素飽和度・会話の様子(測定時 「予定」 「依頼済み」 「実施済み」 「結果確認済み」を 刻を付ける) 。聴診:左右差なし、明らかな副雑 区別する。 音なし。胸部画像:結果待ち。 一語の違いで、次の担当者が取る行動は変わる。 A 前日にはなかった呼吸の訴えが出現。原因 事実を短く記す工夫も要る。 「胸部聴診異常なし」 は未確定。 〈考えている原因〉と〈見逃したくな は何を聞いたのか曖昧なことがある。 「左右差なし、 い可能性〉、それぞれの根拠となる所見を書く。 明らかな副雑音なし」のように、観察した内容を具 P 〈時刻〉担当医へ報告済み。画像結果は〈担 体化できる範囲で書く。一方で、詳細な所見をすべ 当者〉が〈時刻〉までに確認し、患者を再評価 て並べると、重要な変化が埋もれる。前回と比べて する。悪化時は〈連絡先〉へ。未評価: 〈項目〉 。 違うところ、今回の判断に影響する所見、治療後に 〈 〉は患者と施設に合わせて埋める欄。記録様 追うべき所見を選ぶ。数値を記載するなら単位と測 式は施設の規定に従う。 定時点を確認し、転記時の誤りを避けるため元デー タと照合する。 判断の確度も記録に表す。 「感染症を疑う」 「可能 3.2 事実・解釈・方針を分けて書く 性が低い」 「現時点で否定できない」は、それぞれ異 なる判断である。確度を弱めるために曖昧な言い回 3.2.1 SOAP で事実と判断を分ける 記載を整理する枠組みの一つが SOAP である。 しを重ねるのではなく、どの事実が判断を支え、ど S( Subjective) は 患 者 が 話 し た 症 状 や 経 過 、 O の情報が不足し、何が分かれば見直すのかを書く。 15
研修医総合ガイドライン 表 3.2 SOAP の各欄に書くこと・混ぜやすいこと・次の読み手に残すこと。記録様式と訂正方法は施設の規定に従う。 欄 置く情報 混ぜやすいこと 次の読み手に残すこと S 患者が話した症状と経過(いつか ら、どんな時に、本人が感じた変 化) 医療者の解釈を患者の言葉のよう に書く 本人の言葉で表された変化 O 診察・測定・検査で確認した所見。 何を見たか曖昧な「異常なし」、未 数値は単位と測定時点を付ける 確認の項目を空欄のまま残す 何をいつ確認したか、前回と違う 所見 A 前回との違い、考えている原因、見 逃したくない可能性とその根拠 判断の根拠と、まだ残る不確実性 P 相談した相手、決めた検査・対応、 「経過観察」だけで担当と時刻がな 誰が何をいつ見るか、 「未評価」 再評価の時刻 い 「結果待ち」の明示 一つの検査値だけで結論を書く、 事実の繰り返しで終える 判断が変わったら、前回の評価を消して置き換える のでなく、新しい情報と変更理由を追記する。時系 列で読むことで、後から患者の状態が急に変わった のか、情報が徐々に集まって判断が更新されたのか を区別できる。 問題が複数ある患者では、SOAP を一つにまとめ ず、問題ごとに A と P を分けると読みやすい。たとえ ば「#1 発熱」 「#2 食事摂取量の低下」 「#3 退院調整」と 見出しを立て、それぞれに評価と次の行動を書く。S や O は共通で書いてよいが、どの所見がどの問題の 判断に使われたのかが追えるようにする。その日に 動きがなかった問題も「変化なし、方針継続」と一行 残しておけば、見落としたのか、確認して変える必 要がなかったのかを読み手が区別できる。問題の立 て方や書式は診療科や施設で異なるので、ローテー トのはじめに指導医の記録を一例読んで合わせる。 3.3 短い症例提示の組み立て 3.3.1 相談目的から提示を組み立てる 症例提示は診療録の朗読ではない。聞き手に何を 判断してほしいのかを先に決め、その判断に必要な 情報を選んで伝える。患者の識別と相談目的を最初 に示し、今回の問題、いつからどう変わったか、判 断を変える背景、重要な所見、自分の評価、すでに 行った対応、求める助言や行動を続ける。順序は状 況に合わせてよいが、相手が聞き終えたときに「何 が起きていて、何を頼まれているか」が分かる必要 がある。[2] 提示の前に、聞き手と緊急度を考える。今すぐ ベッドサイドに来てほしいのか、数時間以内に方針 を相談したいのか、定例回診で共有すればよいのか では、最初に伝える情報が違う。危険が迫っている なら、背景説明を長くする前に緊急性と場所、必要 な支援を伝える。急変時の構造化報告は次章第 4 章 で扱う。ここでは、通常の症例提示を短く組み立て る考え方を確認する。 16 Before/After:回診での短い提示(仮想例) Before 「A さんは○年前に○○と診断され、 その後○○で入院歴があり、今回は○月○日 に……(入院時からの経過を順に 2 分)……で、今 朝熱が出ました。どうしましょうか」 After 「A さんの発熱について、今日の方針を 相談したいです。昨夜から食事が取れず、今朝新 たに発熱。免疫抑制治療中です。血圧と意識は保 たれていますが、腹部に圧痛があります。尿検査 は結果待ちです。腹部と尿路の感染を考えてい ます。血液培養を出し、画像の再検を相談したい です。午後の結果確認の担当も決めたいです」 After は短いのではなく、依頼が先・未確定が明 示・次の担当まで入っている。全履歴は聞かれ たら補えばよい。個別の検査適応を示す例では ない。 「何が心配か」 「自分ではどう考えたか」 「何をし てほしいか」をぼかさないことも大切だ。 「この患者 をどうしたらよいでしょうか」だけでは、聞き手は どの判断を求められたのか分からない。「感染症を 疑っていますが、感染源がまだ確定できません。抗 菌薬開始の要否と、画像検査の優先順位を相談した いです」と言えば、助言してほしい内容が伝わる。す でに行った対応、その結果、まだ得られていない情 報を分け、予定を実施済みのように話さない。 提示を始める前に「今日決めたいこと」を一文に する。 「抗菌薬の変更を相談したい」 「退院前に追加 評価が要るか相談したい」「未確認の結果を誰が 追うか決めたい」。問いが決まれば、選ぶ情報も決ま る。 「それ、いつの値?」と聞かれて答えに詰まる。そ こで推測で埋めるのが一番危ない。「確認して戻り ます」と言い、本当に戻る。決まったことはカルテ に残し、口頭でうまく話せたことと記録に残ったこ とを別々に確かめる。 提示が終わった後、上級医から「もっと短く」 「先 に結論を」と言われることがある。落ち込むより、何
第 3 章 記録・プレゼン・説明 が余分で何が足りなかったかを一つだけ聞き返す と次に生かしやすい。「最初の一文で依頼を言えて いましたか」「判断に要らなかった情報はどれで したか」と尋ねれば、評価ではなく具体的な修正点 が返ってくる。研修では到達目標に沿った形成的な フィードバックが予定されているが、日々の提示の たびに短く確かめる方が、型は早く身につく。[2] 短さは情報を隠すことではない。相手の判断を変 える情報を残し、それ以外を圧縮することであ る。患者の氏名や識別情報は施設のプライバシー手 順に沿って扱い、公共の場所や許可のない端末で不 要な個人情報を口にしない。患者の診療のため他の 医療者から情報を得る場合も、同意の確認など院内 手順を守る。[5] QUICK REFERENCE 症例提示の組み立て (1) 聞き手と相談目的を一文にする(何を判断 してほしいか) (2) 最初の一文:患者・急ぐ度合い・依頼 (3) 判断を変える経過・所見だけ選び、残りは 圧縮 (4) 評価と不確実性、求める判断・対応 (5) 答えられない質問 →「確認して戻ります」 、 確認者と時刻 (6) 合意を復唱し、カルテと申し送りへ 3.4 患者・家族への説明と記録 3.4.1 理解を確かめて記録へ戻す 患者への説明では、医療者同士で使う言葉をその まま並べない。 「炎症反応が高い」 「鑑別が必要」と 伝えるだけでは、何が分かっていて、何をこれから 確かめるのかが伝わりにくい。「熱の原因を調べ ています。今の検査だけでは原因を決められないの で、尿の検査と画像を追加し、結果を見て治療を相 談します」のように、分かったこと・まだ分からな いこと・次の行動を日常の言葉で説明する。診療情 報提供の指針は、患者等が理解しやすいよう懇切丁 寧に情報を伝えることを求めている。[5] 説明は、医療者が話し終えた時点では完了しな い。患者がどこまで理解したか、気になっているこ とは何か、本人が望むことは何かを確認する。 「ここ までで分かりにくかったところはありますか」「検 査を受ける前に心配なことはありますか」と尋ねる と、説明者の思い込みを減らせる。本人の理解を確 かめるために説明内容を自分の言葉で言い返して もらう方法を用いる場合も、試験のように問い詰め ず、説明の仕方を整えるための確認として行う。 同意が必要な検査・治療については、目的、見込 まれる利益、主なリスク、代替案、実施しない場合 に考えられることを、患者が判断できる範囲で説明 する。自分が答えられない質問や、判断を要する相 談が出たら、曖昧なまま約束せず指導医に確認して 一緒に説明する。説明した内容、同席者、患者の質 問・意向、同意や保留の状態、誰が次に説明するか を記録する。家族への共有では、患者本人の意思と 同意、法令や施設ルールを確認する。家族がそばに いることだけで、診療情報を共有してよいとは限ら ない。[5] 説明の言葉を選ぶときは、患者がすでに知ってい ることや、今日知りたいことから始める。医療者が 伝える情報をすべて一度に話すより、まず重要な点 を伝え、反応を見ながら補う方が理解を確かめやす い。予後や検査の意味に幅があるときは、確定して いないことをそのまま説明する。「まだ原因が分か らないので問題がない」と短絡しない。 「現時点で分 かった範囲」と「次に確かめること」を分ける。患 者が治療をすぐ決められない場合も、保留の理由や 再度話し合う時刻を確認し、本人が置き去りになら ないようにする。 家族から説明を求められたとき、患者本人が同席 を望むか、どの範囲を共有してよいかを確かめる。 本人が意思表示できない状況などは、指導医と施設 の規程に従い、誰に何を伝えるかを判断する。家族 から得た情報は、患者の発言や医療者の観察と区別 して記録する。説明内容に食い違いが生じた場合 は、前回の説明を確認し、どこが誤解・不足してい たかを整理してから改めて説明する。記録は責任を 回避するための証拠作りではなく、説明と診療を一 貫させるための記憶の共有である。 AHRQ の患者・家族エンゲージメントガイド概要 は、入院時からのコミュニケーション改善、患者・ 家族が参加する看護師のベッドサイド引継ぎ、退院 計画への参加などを病院の質・安全向上の戦略とし て挙げる。これは、説明を医師と患者だけの一回の 会話に閉じず、患者・家族が望む範囲でケアの継続 に関われるようにする視点である。概要ページに記 載された戦略の範囲を紹介し、リンク先にある個別 ツールの細部までこの章で推定しない。[6] 電子カルテの安全な扱いは、患者情報を正しく共 有するための前提でもある。厚生労働省は 2026 年 6 月に医療情報システム安全管理ガイドライン第 7.0 版と関連資料の公開を案内している。研修医は個別 要件をこの案内だけから推測せず、自施設の現行手 順とガイドライン本文を確認する。[7] 同じ所見を、記録では次の担当者が診療を続ける ために、プレゼンではチームの判断を助けるため 17
研修医総合ガイドライン に、患者説明では本人が理解し質問できるために表 現する。伝え方を変えても事実は変えない。説明の ために確度を誇張せず、プレゼンを短くするために 不確実性を消さず、記録を整えるために実施してい ない対応を書かない。この三つを分けながらつなぐ ことが、患者を中心にした診療の継続を支える。 面談の最後は、 「説明した」で閉じず、次に話す条 件を決める。検査結果が出たら説明するのか、治療 方針が決まる時点で指導医と再面談するのかを共 有する。患者が今すぐ答えを望んでいても、情報が 揃っていなければ、分かること・未確定なこと・いつ 誰が戻って説明するかを伝える。患者の理解や意向 は時間と状況で変わるため、長い入院では一度の同 意だけで十分と決めつけず、方針変更時に改めて確 認する。記録には、その時点での会話と合意を残す。 説明の場には、言葉以外の障壁もある。難聴、視力 低下、疲労、痛み、日本語以外を主に使う患者、強い 不安で話が頭に入らない家族。こうした場合は、説 明の時間や場所を変える、図や書面を併用する、通 訳や支援者の同席を施設の手順で手配するなど、理 解できる条件を先に整える。一度同意した患者が迷 い始めたときも、それを面倒な変化とみなさず、何 が心配になったのかを聞き直し、指導医と共有す る。誰の同席や書面同意が要るかは施設で決まって いるので、初日の確認事項に入れておく(第 1 章) 。 説明と記録をつなぐ仮想例 入院中の患者に新しい検査を提案する。医療者 向けの記録には「検査結果だけでは原因は確定 していない。症状の経過と診察所見を踏まえて 追加画像を提案。本人へ目的と主な負担を説明 し、質問を確認。患者は検査を希望。結果判明 後に担当医が説明する」と、根拠・未確定点・説 明・意向・次の担当を残す。患者には「今の結果 では原因を決められません。もう一つ画像を撮 ると、次の治療を選ぶ手掛かりになります。検査 の負担や心配な点を一緒に確認しましょう」と 伝える。本人が「結果が悪かった場合も今日分 かりますか」と尋ねたら、検査時刻と結果説明 の予定を確かめて答える。これは説明の形を考 えるための仮想場面で、個別検査の適応や説明 内容は実際の病状と指導医の判断に従う。 チェックリスト 患者本人に何が分かっていて、何が未確定か 説明したか。 次の検査・対応と、その目的を伝えたか。 質問・理解・本人の意向を確かめたか。 18 説明内容、同意・保留、共有範囲、次に説明 する担当を記録したか。
第 4 章 報告・相談・チームで動く 第4章 報告・相談・チームで動く 表 4.1 報告・相談・コンサルトで相手に返してほしいものと、最後に言う一文の例。 種類 相手に返してほしいもの 報告 状況の把握。必要なら指示 「以上、共有です。追加の指示はありますか」 最後に言う一文の例 相談 判断や方針への意見 コンサルト 専門的な助言・診察・対応 「本日中に診察いただけますか」 「○○で進めてよいか確認させてください」 患者の変化に気づいたら、まず「何を相手にして ほしいのか」を決める。状態を知らせるだけの報告 か、判断を一緒に考える相談か、専門的な助言や具 体的な対応を頼むコンサルトか。目的が曖昧なまま 連絡すると、相手は必要な緊急度を読み取れず、話 し終えても誰が次に動くのか決まらない。連絡の 形を整えるのは、話し上手になるためではない。患 者の安全に必要な支援が、必要な人へ届き、行動に なったことを確かめるためだ。 臨床研修の到達目標は、日常業務として報告・連 絡・相談を行い、チームの役割を理解して情報を共 有することを求めている。厚生労働省の「医師臨床 研修指導ガイドライン-2024 年度版-」も、研修医 が得た情報を指導医へ提示し、指導のもとで検査・ 治療・説明や他科への相談を行う過程を示す。[1, 2] この章ではカルテの書き方や急変患者の評価を繰 り返さず、口頭での連絡とチーム内の受け渡しに焦 点を当てる。なお、到達目標・方略・評価は 2026 年 3 月 31 日に改正されている。2024 年度版ガイドライ ンは指導の進め方を説明する資料として読み、制度 上の細かな要件は改正後の資料と所属する研修プ ログラムで確認する。記録の整理は第 3 章、悪化し た患者の初期対応は第 5 章で扱う。 4.1 報告か相談かを決める 三つの違いを、相手に返してほしいものの違いと して並べると次のようになる。 迷ったら「相談」として連絡してよい。報告のつ もりで話し始めても、相手が判断を求められている と気づかなければ、依頼が宙に浮く。逆に、相談の形 で連絡して「それは報告で十分」と言われても、患 者に不利益は生じない。 4.1.1 相手と連絡経路を選ぶ 一度の連絡に報告と相談が混ざってもかまわな い。ただし最後の一文で、相手に何をしてほしいか を言葉にする。差し迫った危険があるときは、この 区別より先に緊急経路を使う(第 1 章の基本動作)。 下の図は連絡目的を選ぶ補助であり、急変の判定基 準ではない。 連絡先は「誰がこの判断をできるか」と「今この 患者に対応できるのは誰か」の両方で選ぶ。二つが 別の人になることは珍しくない。 連絡の手段も選ぶ。院内 PHS や電話は即時の判 断を求めるとき、対面は患者を一緒に診てほしいと き、電子カルテのメッセージや院内チャットは急が ない共有に向く。文字の連絡は記録が残る一方、相 手がいつ読むか分からない。急ぐ内容を文字だけで 送って返事を待ち続けると、連絡したつもりで時間 が過ぎる。返事が必要な連絡には、既読や返信を確 認する時刻を自分で決め、過ぎたら電話に切り替え る。患者情報をどの手段で送ってよいかは施設の情 報管理の規程で決まっているため、院内手順を確認 する。 連絡は研修医から出すだけではない。看護師や薬 剤師から「この患者、何か変です」「この処方で 合っていますか」と連絡を受ける側にもなる。その ときは、まず相手が何を心配しているのかを聞き切 り、自分の言葉で要点を返す。 「呼吸数が上がってい て、本人もいつもと違うと言っているのですね。今 から診に行きます」のように、受け取った内容と自 分の次の行動を伝えると、相手は連絡が届いたと分 かる。すぐに行けないときは、到着の目安と、その間 にさらに変化したらどうするかを決める。判断に迷 う内容なら、受けたまま抱えず上級医につなぐ。研 修の到達目標でも、多職種の役割を理解して連携す ることが資質・能力の一つとされている。多職種連 19
研修医総合ガイドライン 施設の緊急呼出し・迅速対応経路で応援要請 つながらなければ代替先へ YES 差し迫った危険・ 急な悪化がある? 報告:変化や完了 した対応を共有 NO 相手に期待する 応答は? 応援到着後 最後に依頼を言い 相手・期限・次の 確認時刻を決める 相談:評価と迷いを 示し判断を求める コンサルト:他科・ 専門職へ目的を明示 図 4.1 報告・相談・コンサルトの選び方。緊急時の呼出し先と基準は院内手順で確認する。 I 識別 S 状況 B 背景 A 評価 R 依頼 名乗り、何の 連絡かを一文で いま起きている 変化と時刻 判断を変える 経過だけ 自分の考えと 懸念の程度 求める判断・行動 と必要な時刻 食い違い・追加の質問 → 言い直す 合意内容を記録する 未完了は担当と期限を残す 図 4.2 受け手の復唱:誰が・ 何を・いつまでに? ISBAR で伝え、受け手の復唱で閉じる。使用する様式(SBAR・ISBAR 等)は施設の規定に合わせる。 携は、会議の場より先に、こうした一本の連絡を受 け止めて返すところから始まる。[2] 4.2 要点を並べて依頼する 電話や対面での短い相談では、伝える順序を持っ ておくと、緊張していても要点が抜けにくい。 TeamSTEPPS 3.0 は、医療チームのコミュニケーショ ン、チームリーダーシップ、状況モニタリング、相 互支援、導入方法を扱う教育資源として AHRQ が提 供している。公開ページは枠組みと教材への案内で あり、個別研修資料のすべてを収載するものではな い。[8] 4.2.1 患者・状況・背景・評価・依頼 ISBAR は、Identify(患者・自分の識別) 、Situation (今の状況)、Background(判断に関係する背景)、 Assessment(自分の評価) 、Recommendation(相手 に求める提案・対応)を順に整理する枠組みである。 施設の規定や相手の役割に合わせて使い、頭文字を 一字ずつ読み上げること自体を目的にしない。はじ めに患者が誰かを安全に識別し、何について連絡し たのかを一文で示す。次に、今起きている変化と時 刻、今回の判断を変える背景、自分の評価を続ける。 20 一致 最後に、相手に求める判断や行動、必要な時刻を具 体的に述べる。[8] SBAR と ISBAR の違いは、先頭に識別(I)を明示 するかどうかである。電話では相手の顔が見えず、 同姓の患者や同じ病棟の別患者と取り違えやすい ので、I を独立させておく意味がある。施設によって SBAR、ISBAR、独自の様式のどれを使うかは異なる ため、院内で使われている型に合わせればよい。大 切なのは型の名前より、識別・状況・背景・評価・ 依頼が一度の連絡でそろうことである。急変時の報 告にも同じ骨格が使えるが、そこでは評価の中身と 招集の判断が優先になる。その部分は次章で扱う。 「ちょっと相談があります」だけでは、聞き手は 予定を空けるべきか、すぐに患者のもとへ行くべき か判断できない。 「病棟の患者について、今朝から新 しい症状が出ており、診察を一緒にお願いしたいで す」のように、話の入口で用件を置く。夜間に上級 医へ電話するなら、最初の十数秒で「誰の、何につ いて、どれくらい急ぐ、何を頼みたい」が伝わるか を意識する。連絡の最初に結論を伝えることは、背 景を省略することではない。聞き手が急ぐ度合いを 判断できるようにしてから、必要な情報を補う。
第 4 章 報告・相談・チームで動く 4.2.2 依頼と期限を具体的にする 評価を伝えるときは、観察事実、解釈、未確認事項 を区別する。 「血圧が下がった」はいつの測定か、 「脱 水かもしれない」はどの情報から考えたか、 「検査結 果待ち」は誰が確認する予定かを補う。まだ分から ないことは、分からないと明言する。確認できてい ない情報を推定で埋める必要はない。相手にお願い する内容は「診てもらえますか」 「方針を相談できま すか」 「この検査結果を確認していただけますか」の ように具体化し、返答が必要な期限も添える。 電話の前に紙や画面に数語だけメモしておく とよい。患者識別、現在の変化、関連する背景、自 分の評価、依頼、返答期限の六点である。長い台本 を作ると、相手の質問に応じて必要な情報を出せな くなる。メモは読み上げる原稿ではなく、抜けを防 ぐための足場にする。話し終えたら相手の返答を聞 き、認識した方針を自分の言葉で復唱する。 口頭相談の言い出し例 「○病棟の○○です。○号室の患者について、今 朝から○○が変化したため連絡しました。背景 に○○があり、確認できた所見は○○です。私は ○○を懸念しています。○○の判断/診察をお 願いできますか。○時までに方針を確認したい です。検査結果は○○が確認し、変化があれば 再度連絡します。」患者識別情報・施設の連絡手 順・緊急度は状況に応じて調整する。 「相手が分かってくれるはず」と期待するだけで なく、伝えた後に理解の一致を確かめる。相手の返 答を遮らず聞き、優先順位や見解が違うときはその 理由を尋ねる。対応を保留する判断なら、何を待っ ているのか、どの変化で再連絡するのかを明らかに する。依頼への返答が曖昧なら、「では○時に再評 価し、○○の場合は連絡するという理解でよいです か」と確認する。これは同意を迫るためではなく、患 者の前でそれぞれが別の計画を持つのを防ぐため である。 依頼を具体的にするための言い換えを並べてお く。 ◾︎「見ておいてください」→「○時までにベッドサイ ドで診察をお願いできますか」 ◾︎「結果が出たら教えてください」→「○時に私が結 果を確認し、異常があれば先生へ電話します」 ◾︎「様子を見ます」→「○時に再評価し、○○が続け ば再度相談します」 ◾︎「念のため連絡しました」→「方針の変更は不要と 考えていますが、よいか確認させてください」 言い換えると、誰が・いつ・何をするかが文の中 に入る。期限の目安や再評価の条件は患者の状態と 施設の運用で変わるので、自分で決めきれないとき は、その部分も含めて相談する。 4.3 他科コンサルトの会話例 コンサルトを依頼する前に、相談相手へ何を期待 するのかを整理する。鑑別について意見がほしいの か、検査や治療の候補を相談したいのか、専門的な 診察を依頼したいのか、診療を引き受けてもらう必 要があるのかで、必要な情報と伝える緊急度は異な る。依頼の目的を一文にし、相手が判断するために 必要な病歴・所見・検査・これまでの対応を選ぶ。現 在の担当医と患者の希望も共有し、専門科の助言を 受けた後に誰が主治療計画を調整するか確認する。 厚生労働省の到達目標は、コンサルテーションや医 療連携が可能な環境で基本診療を行うことを前提 としている。[2] 4.3.1 会話の準備は「何を頼むか」から 他科への電話で一番多い失敗は、話し終えてから 「で、何をしてほしいの?」と聞き返されることだ。 専門科の医師が電話の最初に知りたいのは、ほぼ次 の三つである。何を頼まれているのか(意見か、診 察か、処置か、転科か) 。どれくらい急ぐのか。自分 の科が答えられる問いなのか。経過の細部は、その 後でよい。院内の相談なら相手も同じカルテを見ら れるので要点に絞れるが、院外への紹介では相手は カルテを見られないため、経過と実施済みの対応を 文書で過不足なく渡す必要がある。 QUICK REFERENCE 他科コンサルト (1) 目的を一文で:意見/診察/処置/転科・ 外来フォロー (2) 急ぐ度合い:今すぐ/本日中/次の外来で (3) 自分の見立て:疑う病態と理由(外れてい てよい) (4) 判断に要る情報だけ:関連する経過・所 見・検査・実施済みの対応 (5) 未確認は未確認: 「確認して○時に折り返し ます」 (6) 締め:復唱、次の連絡時刻、主治療チーム の担当 (7) 記録:相手・時刻・助言・次の確認者 上級医の承認や依頼票の要否は診療科ごとに確 認。 準備に時間をかけすぎて連絡が遅れるのは避け る。連絡に必要な情報を手元に置き、まだ検査結果 が出ていなければその状態を伝える。相手が求めた 情報を確認してから、追加の診療録や検査結果を共 21
研修医総合ガイドライン 有する。患者が診察を受けることを知らない、また は相談内容を知らない場合には、緊急性と本人の状 態に応じて説明の機会をつくる。情報共有の範囲と 患者同意は施設手順に従う。 4.3.2 依頼と応答を会話でつなぐ コンサルトは、一方的に情報を渡して終わる手続 きではなく、相手の質問に答えながら依頼を磨いて いく会話である。専門科から質問が返ってきたら、 知らないことを取り繕わず、 「未確認です。確認して ○時までに折り返します」と答える。返答の中に自 分が知らない用語や手技が出てきたら、その場で聞 き返す。分かったふりをして電話を切ると、患者の もとで何をすればよいか分からなくなる。書面の依 頼票も必要なら、口頭で話した目的と同じ文言で書 き、両者がずれないようにする。 他科への相談例 研修医: 「内科病棟の患者について相談です。入 院後に新しい皮疹が出て、薬剤性も含めて評価 しています。薬疹と断定はできませんが、昨日か ら範囲が広がっています。皮膚科で本日中に診 察いただき、追加で確認すべき所見を相談でき ますか。」 専門科:「呼吸苦や粘膜病変、発熱はあります か。薬剤の開始時期と皮疹の写真も確認したい です。 」 研修医: 「呼吸状態は現在安定しています。口腔 内の病変は未評価なので、今から診察して結果 をお伝えします。薬剤開始日は一覧を確認しま す。○時までの診察が難しい場合は、どなたに再 度相談すればよいでしょうか。 」 専門科: 「まずその二点を確認して、○時に当科 当直へ連絡してください。急な呼吸症状や粘膜 病変があれば、待たずに直ちに連絡してくださ い。」 研修医: 「○時に当直へ連絡し、呼吸症状や粘膜 病変があればすぐに再連絡する、と理解しまし た。患者を診察し、担当医にも共有します。 」 この会話は連絡の構造を示す仮想例であり、皮 疹の診断基準や対応を示すものではない。実際 の緊急度と診療は患者の状態・院内手順に従 う。 会話が終わったら、相談相手の氏名・所属、相談 時刻、共有した情報、助言・依頼された対応、次の確 認担当を施設の方法で記録する。相談を受けた専門 科がすべてを引き受けたと思い込まず、主治療チー ムがその後の方針に責任を持つ範囲を確認する。患 者を診察した人が異なる評価を示したときは、診療 22 チームへ伝え、依頼内容を更新する。助言が実施で きない場合も、黙って依頼を終わらせず、理由と代 替案を相談する。 専門科の返答が「今日は診察できない」 「その検査 は不要」といった、期待と違う内容のこともある。そ の場で食い下がる前に、相手の判断の理由と、どの 変化があれば再度相談してよいかを聞く。そのうえ で、主治療チームの上級医に返答を伝え、方針を一 緒に決め直す。研修医が一人で専門科と主治療チー ムの間に立ち、両方の意見を調整しようとしなくて よい。 4.4 チーム内で閉ループをつくる 「頼んだ」 「聞いた」 「済んだ」の三つは、同じ状態 を意味しない。誰かへ伝えた時点では、依頼を受け た側が内容を理解し、実行できると確認したとは限 らない。依頼や指示を受けた人が要点を復唱し、送 り手が意図と合っているか確かめ、実施後に完了ま たは未完了を返す。この往復を閉じることで、仕事 が人の間で途切れにくくなる。TeamSTEPPS は、コ ミュニケーションだけでなく状況モニタリング、 チームリーダーシップ、相互支援も含むため、連絡を 一人の技術ではなくチームの仕事として考える助 けになる。[8] 4.4.1 復唱で内容を確かめる 検査を依頼された側なら、「○○の検査を今から 依頼し、結果を○時に確認します」と復唱する。依頼 した側は、患者、検査内容、期限、結果を確認する担 当が合っているかを確認する。依頼する側も「検査 をお願いします」だけでなく、何を知るためか、いつ までに必要か、異常時に誰へ連絡するかを示す。受 け手は実施できるか、他の緊急作業と重なっていな いか伝える。できないと分かった場合に早く共有す れば、依頼側は別の担当者を探せる。 閉ループが特に効くのは、口頭で指示を出す・受 ける場面である。研修医が看護師に「○○を始めて ください」と口頭で伝えたつもりでも、薬剤名や量、 開始時刻の聞き違いは起こりうる。口頭指示をどの 場面で認めるか、後からどう記録や入力で確定させ るかは施設ごとに決まっているので、院内手順を確 認する。そのうえで、受け手に復唱してもらい、自分 も復唱を最後まで聞いて一致を確かめる。薬剤師か ら処方について疑義照会を受けたときも同じで、何 が問題と指摘されたのかを復唱し、変更するなら何 をどう変えたかを返し、自分で判断できなければ上 級医に確認してから回答する。 「たぶん大丈夫です」 で電話を切らない。
第 4 章 報告・相談・チームで動く チームの中で一番経験の浅い立場でも、閉ループ を始めることはできる。上級医からの指示が曖昧に 感じたら、 「○○を○時までに、という理解でよいで すか」と自分から復唱すればよい。確認は相手を疑 う行為ではなく、患者の前で同じ計画を持つための 作業である。 依頼を閉じる (1) 依頼者は相手・内容・期限・完了条件を言 葉にする。 (2) 受け手は依頼の要点と担当範囲を復唱す る。 (3) 依頼者は意図との一致を確認し、ずれがあ れば修正する。 (4) 受け手は実施後に結果を返す。未完了なら 理由と次の担当・時刻を共有する。 返事がないまま時間が経つ依頼は、完了扱いにし ない。患者家族への説明、検査結果の確認、他科から の返答、転棟後の処置など、未完了になりやすい作 業をリストに残し、当日の担当と締切を明記する。 看護師・薬剤師など他職種が気づいた懸念も、内容 を確かめてチームに戻す。患者・家族も共有の受け 手である。AHRQ のガイドは、看護師のベッドサイ ド引継ぎに患者・家族が参加する戦略を紹介してお り(説明全般は第 3 章) 、患者がその場で情報を修正 できることもある。[6] 閉ループは医師どうしより、職種をまたぐ場面で 切れやすい。職種ごとに記録する場所、使う言葉、 勤務交代の時刻が違うからである。看護師は病棟で の観察と処置の実施、薬剤師は処方内容や相互作用 の確認、リハビリ職は動作や離床の状況、医療ソー シャルワーカーは退院後の生活や制度の調整を担 う。研修医が指示や依頼を出すときは、相手の職種 が何を知れば動けるかを考え、 「なぜ必要か」を一言 添える。逆に、他職種の記録や申し送りに目を通し てから回診に行くと、自分だけでは拾えない変化に 気づける。 4.4.2 完了・未完了を送り返す 閉ループの最後の一歩は、依頼した人へ結果を返 すことである。 「済みました」の一言でも、依頼者は 頭の中の未完了リストから一つ消せる。できなかっ たときほど早く返す。 「検査室が混んでいて、採血は ○時になる見込みです」 「家族に連絡がつかず、説明 は明日の午前に回します。担当は○○先生です」と、 未完了の理由と次の担当・時刻をそろえて伝える。 黙って遅れるより、遅れると分かった時点で返す方 が、依頼者は別の手を打てる。勤務交代の直前に気 づいた未完了は、自分の中で完結させず、申し送り の項目として相手が受け取ったことを確かめてか ら離れる。 受け渡しが切れた場面を振り返る 血液検査の再検を依頼したが、夕方の引継ぎに 担当者が書かれず、結果も確認されなかった という仮想場面を考える。依頼の相手、確認期 限、結果が異常だった場合の連絡先のどこが未 確定だったかを振り返る。誰か一人を責めるの ではなく、受け渡しを確かめる手順と未完了一 覧のどこを補えば次の勤務で防げるかを話し 合う。 4.5 伝わらない時にもう一段動く 相手が応答しない、意見が一致しない、話した後 も患者が良くならない。どれも起こる。応答がなけ れば別の連絡先へ進む時刻を決め、懸念が残るなら より経験のある医師や当直責任者へ再共有する。権 限争いではなく、未解決のリスクに支援をつなぐ動 きである。研修医は自身の判断の限界を伝え、患者 の変化を上級医と共有する責任を担う。[1, 2] 夜中に何度も電話することに気が引ける、前に連 絡したとき強い口調で返された、という経験は、次 の連絡をためらわせる。けれども連絡をためらう理 由が自分の気まずさであるなら、患者の安全より優 先する理由にはならない。遠慮を減らすには、連絡 の目的を最初にはっきり言うことが一番効く。「前 回の連絡から状態が変わったので再度連絡しまし た」 「判断に迷うので確認させてください」と始めれ ば、相手も何のための電話かすぐ分かる。強い口調 で返されたとしても、必要な指示を受け取れたかど うかを確かめることに集中し、つらさが続く場合は 指導医やメンターなど研修の相談窓口に話す。指導 ガイドライン(2024 年度版)は、指導医・上級医の ほか医師以外の指導者やメンターを含む指導体制 を示しており、連絡の悩みも相談してよい内容であ る。[1] 4.5.1 安全上の懸念を上へつなぐ 「もう少し様子を見よう」と言われても、自分が懸 念する変化を具体的に言葉にして確認する。「呼吸 数が前回より増えて、会話が途切れるようになりま した。私は悪化を心配しています。今すぐもう一度 診察していただけますか」のように、観察事実、自 分の懸念、求める行動を同じ会話に含める。状況が 変化したら、前に伝えた内容に固執せず、最新の患 者状態を伝え直す。相談相手の判断に疑問が残る場 合や、返答が得られない場合は、施設のエスカレー 23
研修医総合ガイドライン ション経路に従い別の支援者へつなぐ。急変対応で は、通常の相談順を踏むことより安全確保と緊急招 集を優先する。具体的な初期評価・対応は次章で扱 う。 もう一段動く場面を、短い会話で確かめておく。 懸念を伝え直す仮想例 研修医:「先ほどご相談した○号室の患者につ いて、再度の連絡です。30 分前より呼吸が速く なり、本人が息苦しさを訴えています。前回の方 針から状態が変わったと考えます。 」 上級医: 「朝から少し速かったのでは。もう少し 様子を見てもいいと思うけど。 」 研修医: 「朝の記録と比べても増えていて、会話 が途切れるようになりました。私は悪化を心配 しています。今、診察に来ていただけますか。難 しければ、当直責任者に連絡してよいでしょう か。」 上級医:「分かった、10 分で行く。それまでに ○○を確認しておいて。 」 研修医: 「10 分で来ていただけること、それまで に○○を確認することを了解しました。その間 に変化があれば、すぐに再度連絡します。 」 この会話は伝え直しの構造を示す仮想例で、数 値や評価の基準を示すものではない。 ここで研修医がしているのは、相手を言い負かす ことではない。前回から何が変わったかという事 実、自分の懸念、求める行動、それが難しい場合の 次の連絡先を、落ち着いて一度の会話に入れて いる。TeamSTEPPS のカリキュラムがコミュニケー ションと並んで状況モニタリングと相互支援を柱 に置いていることも、こうした声かけを個人の勇気 ではなくチームの仕組みとして考える手掛かりに なる。[8] 電話を切った後にもう一度だけ問う。「誰が、い つ、何をすることになったか」 。答えられなければ、 まだ連絡は終わっていない。 24
第 5 章 救急・急変・敗血症 第5章 救急・急変・敗血症 夜の病棟で「なんとなくおかしい」と感じた患者 を前に、最初に困るのは知識不足よりも「今、誰を 呼んでいいのか」 「もう少し見てからでいいのか」と いう迷いである。この章は、悪化に気づいてから応 援を呼び、チームで初期評価と安定化を並行し、反 応を見直し、必要なら集中治療へつなぐまでの動き 方を扱う。後半では、救急外来でも病棟でも出会う 敗血症を例に、培養・抗菌薬・感染源対応を同時に 考える順序を示す。 臨床研修の到達目標は、初期救急を基本的診療業 務の一つに挙げ、コンサルテーションや医療連携が できる環境のもとで対応できる力を求めている。研 修医に一人で蘇生を完結させることを求めている わけではない。[2] 心肺蘇生の具体的な手技や薬 剤の使い方は、院内の蘇生教育と最新版の蘇生ガイ ドラインで身につける。JRC 蘇生ガイドライン 2025 は、オンライン版の公開と意見募集を経て書籍版が 2026 年 7 月に刊行され、BLS・ALS から教育・チー ムまでを扱う。本書ではその内容を再現せず、そこ へ入る前後の行動に絞る。[9] 救急外来と病棟では、同じ「急変」でも出発点が 違う。救急外来では、診断のついていない患者が最 初から具合の悪い状態で来る。病棟では、ある程度 経過の分かっている患者が、予定外の方向へ変わっ ていく。前者では情報が少ないまま評価を始める力 が、後者では「いつもと違う」に早く気づく力が問 われる。ただ、応援を呼ぶ、並行して評価する、反応 を見直す、引き継ぐという骨格は共通しており、こ の章はその骨格を中心に書いている。 JRC は蘇生ガイドラインを 5 年ごとに改訂し、そ の間は国際的なエビデンス要約を翻訳・解釈して公 開する方針を示している。[9] 院内の蘇生教育の教材 が古い版に基づいていないか、受講した年度も含め て確認しておくとよい。 5.1 「様子を見る」で止めない ぶことを二者択一にしない。呼んだうえで観察と評 価を続ければよい。 多くの施設では、バイタルサインの変化を点数化 する早期警告スコアや、院内の急変対応チーム (Rapid Response System、RRS)の起動基準を定めて いる。国際的な敗血症ガイドラインも、急性疾患で 重症化リスクの高い患者をスクリーニングし、標準 化した対応手順につなげる仕組みを強く推奨して いる。ただし、スクリーニング法はどれか一つを万 能とせず、qSOFA を単独のスクリーニング手段とし て SIRS、NEWS、MEWS より優先して使わないよう 勧めている。[10] つまり、点数は「呼ぶきっかけ」に はなっても、 「呼ばなくてよい理由」にはならない。 日本集中治療医学会は、RRS の運用指針を他のガ イドライン・指針とともに公開している。一方で、起 動基準、呼ぶ番号、誰が来るか、研修医が直接起動 してよいかは施設ごとに違う。[11] 配属初日に聞い ておくことは三つでいい。 「何番に電話するか」 「研 修医が自分で起動してよいか」 「来るのは誰か」 。答 えを院内 PHS の横に貼っておく。 研修医が呼ぶのをためらう理由は、たいてい似て いる。 「大げさだったら恥ずかしい」 「上級医は忙し そう」 「自分で判断できないと思われたくない」 。し かし、呼んで何もなければ「良かった」で終わる。 呼ばずに悪化すれば、取り返しがつかないことがあ る。この非対称を覚えておくと、迷ったときの判断 が少し楽になる。看護師から「いつもと違う」と言 われたときも同じである。数値に出る前の変化を最 初に拾うのは、ベッドサイドにいる時間が長い看護 師であることが多い。その懸念を「バイタルは大丈 夫そうです」で打ち消さず、自分の目で患者を見に 行く。 見に行ったあとも、 「様子を見る」と決めるなら中 身を具体的にする。何を、何分後に、誰が測り、ど うなっていたら誰に連絡するのか。これを看護師と 共有し、記録に残す。そこまで決めて初めて、様子 を見ることは計画になる。 「様子を見る」は、何を・いつまでに・どうなったら 次に動くかが決まっていれば立派な計画になる。決 まっていなければ、判断の先送りにすぎない。悪化 が疑われる患者では、観察を続けることと応援を呼 25
研修医総合ガイドライン 最初に確かめるのは、患者と自分たちの安全であ る。周囲の環境、感染対策、ベッド周りの危険を見 スコアが基準未満でも、臨床的な懸念があれば て、手を出してよい状況かを一瞬で判断する。次に、 院内手順で応援を呼んでよい。点数は判断の補 声を出して人を集める。反応がない、呼吸がおかし 助であり、呼ばない理由にはならない。 いなど心停止が疑われる場合は、院内の蘇生手順と 訓練で学んだ流れに切り替える。そこから先の手技 5.1.1 懸念を言葉にして応援を呼ぶ と薬剤は、施設の蘇生教育と最新版ガイドラインに 応援要請の時点で、診断がついている必要はな 従う。[9] い。起動基準や連絡先は施設ごとに違うため、院内 心停止ではないが悪化している患者では、気道 手順に沿って呼ぶ。[11] 必要なのは「誰が、今どう (A) ・呼吸(B) ・循環(C)の順に、生命に直結する問 で、何が心配で、何をしてほしいか」である。報告 題がないかを短時間で見る。ABC は「全部を詳しく の型は第 4 章で扱った ISBAR を使えばよい。急変の 診察する」枠組みではなく、 「今すぐ手を打たないと 場面では、最後の依頼を先に言うくらいでちょうど 危ない問題を見落とさない」ための順番である。意 いい。 識の変化、体温、血糖など、見落とすと危ない項目 も併せて確かめる。評価の途中で危険な所見を見つ 研修医「5 階東の○○さん、術後 2 日目です。 けたら、その場で対応を依頼し、評価は続ける。 呼吸が速くなり、30 分前より明らかに反応が鈍 並行して、原因を探す情報も集め始める。いつか いです。今すぐ来ていただけますか。RRS を呼ぶ ら、どう変わったのか。直前に何があったか。新し べきか判断してください」 く始めた薬、処置、検査、食事、転倒はないか。点 上級医「分かった、すぐ行く。モニターをつけ 滴やドレーン、カテーテルの状態はどうか。看護記 て、看護師さんとバイタルを取り直しておいて」 録と看護師の話は、この時間帯の最良の情報源にな 研修医「モニター装着、バイタル再測定です る。ここで集めた手がかりは、安定化と同時に原因 ね。了解です」 検索を進めるための材料であり、診断を急いで一つ に絞るためのものではない。 最後の復唱が閉ループコミュニケーションであ 最初の数分で研修医が陥りやすいのは、目の前の る。 「すぐ来てほしい」 「判断してほしい」という依 一つの作業に没頭してしまうことである。ルート確 頼をはっきり言うと、相手は優先度を誤りにくい。 保に手間取っている間に、誰も呼吸を見ていなかっ 電話をかける前に、手元にそろえておきたいもの た。検査の指示を入れている間に、上級医への連絡 は多くない。直近のバイタルサインとその推移、い が遅れた。手を動かしながらも、ときどき顔を上げ つから何が変わったか、既往と今回の入院理由、今 て患者全体と部屋全体を見る。それが難しいと感じ 出ている指示、そして蘇生処置に関する患者の意向 たら、手技は他の人に任せ、自分は全体を見る側に が記録されているかどうか。全部そろわなくても、 回る判断も正しい。 電話は先にかけてよい。そろっていない項目は「ま 感染が疑われる場面では、日本版敗血症診療ガイ だ確認できていません」と言えば足りる。情報を ドライン 2024(J-SSCG2024)のバンドルが、迅速評 集め終わるまで連絡を遅らせるほうが、よほど危な 価として呼吸数、体温、意識、収縮期血圧、心拍数の い。 確認を挙げている。[12] 急変の初期評価で見る項目 相手が電話に出ない、すぐに来られないときの経 と大きく重なるため、 「急変対応」と「敗血症評価」 路も、施設ごとに決まっているはずである。主治医、 を別々の仕事と考えず、同じ評価の中で感染の可能 当直上級医、RRS、院内緊急コールなど、次に誰を呼 性も頭に置いておく。 ぶかを事前に知っておく。「つながらなかったので 5.2.1 役割を分けて初期評価する 様子を見ていた」は、どの施設でも通らない言い訳 人が集まったら、誰がリーダーかを最初に決め になる。 る。上級医が到着するまでは研修医が仮のリーダー になることもある。その場合、リーダーの仕事は手 5.2 最初の数分のチーム行動 を動かすことより、全体を見て指示を出し、記録と 時間を管理することだと割り切る。 急変の場に最初に着いた一人がやることは、全部 注意|点数を呼ばない理由にしない を自分で片づけることではない。安全を確保し、人 を集め、評価を始め、集まった人に仕事を配る。こ の四つは順番ではなく、ほぼ同時に走る。 26
第 5 章 救急・急変・敗血症 最初の 一人 ① 気づいて呼ぶ ② 安全と役割 懸念を言葉にする 患者と自分たちの 安全を確認 応援を呼ぶ 診断がつく前でよい 心停止疑い→ 院内蘇生手順へ (到着前) 情報・ 記録 直近バイタルと推移 入院理由・今の指示 ④ 再評価してつなぐ A→B→Cの順に 命に直結する 問題を見る 介入後に再評価 改善・不変・悪化・ 新しい問題 新しい問題 リーダーを決め 役割を名指しで配る 集まった チーム ③ ABCを見る 評価・処置・ 連絡・記録 危険な所見への 対応を依頼し 評価は続ける 改善しない: 上級医・ 集中治療へ相談 原因の手がかり: 経過・新しい薬や 処置・看護記録 改善 担当と次の再評価 予定を引き継ぐ 図 5.1 悪化に気づいてからの最初の数分:誰が何を並行して行うか。呼出し基準・連絡先・蘇生手順は院内手順で確認する。 表 5.1 急変対応での役割と主な仕事、研修医が担うときの注意。 役割 主な仕事 研修医が担うときの注意 リーダー 全体の把握、指示、優先順位の更新 指示は名指しで出し、復唱を待つ 評価係 ABC を中心とした観察、所見の報告 所見は「いつ・何が」で伝える 処置係 モニター装着、ルート確保、検体採取など 施設で許された範囲にとどめる 記録係 時刻、所見、実施内容の記録 後の再評価と引継ぎの土台になる 連絡係 上級医・主治医・他部門への連絡 誰に何を伝えたかも記録に残す QUICK REFERENCE 急変時の最初の数分 (1) 安全確認・声を出して人を集める (2) 心停止疑い → 院内蘇生手順へ切替 (3) A・B・C、意識・体温・血糖 (4) リーダーを決める(仮でも) (5) 指示は名指し+復唱 (6) いつから・何が変わったか/新しい薬・処 置 (7) 顔を上げて全体を見る (8) 時刻と数字だけでもメモ 根拠:[9, 12] 人数が少なければ一人が複数の役割を兼ねる。大 事なのは、全員が「今、誰が何をしているか」を知っ ている状態を保つことである。誰も担っていない仕 事があれば、リーダーが気づいて割り当てる。 指示は「誰か採血して」ではなく、 「A さん、血液 培養 2 セットをお願いします」のように名前と内容 をそろえて出す。受けた側は復唱し、終わったら「採 血終わりました」と報告する。騒がしい場では、こ の一往復があるだけで、やったつもり・頼んだつも りの抜けが大きく減る。上級医が到着したら、それ までの経過を短く伝えてリーダーを交代し、自分は 割り当てられた役割に移る。 部屋にいる患者本人や家族のことも忘れない。意 識があれば、何が起きていて、これから何をするか を短く伝える。家族が付き添っていれば、誰か一人 が状況を説明する役を担うか、落ち着いたら説明の 時間を設けると伝える。慌ただしい処置の最中に、 患者が「放っておかれている」と感じないようにす ることも、チームの仕事の一部である。 5.3 状態が悪化する患者 を繰り返し評価する 急変対応でいちばん抜けやすいのは、処置をした あとの「で、どうなった?」である。酸素を上げた、 輸液を始めた、薬を入れた。その結果、呼吸は楽に 27
研修医総合ガイドライン なったか、血圧や意識はどう変わったか。これを見 ある。介入前と後の値を同じ表に並べ、時刻を添え に行かないと、効かなかった治療を続けたり、効い て記録すると、上級医に伝えるときも「〇時に始め ていない事実に気づくのが遅れたりする。 て、〇時の時点でこう変わった」と言える。 敗血症の国際ガイドラインも、初期蘇生のあとの 改善していないのに、報告のたびに「少し良 評価を重視している。乳酸値が高い場合は乳酸の低 くなっています」と言ってしまうことがある。良い 下を目安の一つに蘇生を進めることを提案しつつ、 知らせを伝えたい気持ちは自然だが、上級医が必要 状況や他の原因も考慮するよう添えている。毛細血 としているのは正確な変化である。 「変わりません」 管再充満時間は、ほかの循環評価の補助として使う 「むしろ呼吸数が増えています」と言いにくいこと ことを提案している。[10] J-SSCG2024 のバンドル ほど、早く伝える。その一言が、次の手を打つ時間 も、乳酸値の再測定と心エコーの反復を初期治療に を生む。 悪化が続く、改善が乏しい、新しい問題が出てき 含めている。[12] どちらも「一度測って終わり」で た。こうした場合は、最初の見立てが違う可能性を はなく、経時的に追うことを前提にしている。 具体的な再評価の間隔や目標値は、患者の状態と 考える。感染と思っていたが出血だった、心不全が 施設の方針、指導医の指示で決まる。研修医が決め 隠れていた、薬の副作用だった。国際ガイドライン ておくべきなのは、 「次にいつ、何を見て、どうなっ は、感染が確定していない場合は他の原因を継続的 ていたら誰に連絡するか」を言葉にしておくことで に再評価し、別の原因が示されるか強く疑われる場 ある。 合は経験的抗菌薬を中止するよう勧めている。[10] 再評価のときに見る場所は、最初の評価と同じで 再評価は、治療の効果判定であると同時に、診断の よい。呼吸の様子、循環の指標、意識、尿量、皮膚 見直しの機会でもある。 の色や温かさ。前回と同じ項目を同じ方法で見るか ら、変化が比べられる。測る人が変わったり、測定 5.4 敗血症の可能性を見たら 条件が違ったりすると、見かけの変化に振り回され 敗血症は、感染に対する宿主反応の調節不全に る。可能なら同じ人が続けて見る、あるいは測定条 よって生命を脅かす臓器障害が生じた状態である。 件を記録に添える。 臨床では「感染がありそう」と「臓器障害が起きてい 記録は、後から読んだ人が経過を再現できるよう そう」の二つがそろったときに疑い、迅速に評価と に書く。 「〇時 呼吸数、酸素投与量、意識の状態」 「〇 対応を始める。国際ガイドラインは、敗血症と敗血 時 輸液開始」 「〇時 再評価で呼吸数と意識がこう変 症性ショックを緊急事態とし、治療と蘇生を直ちに 化」 。この時系列があれば、上級医や ICU のチームに 始めることをベストプラクティスとしている。[10] 状況を伝えるときにそのまま使える。忙しい最中に 「直ちに始める」は、診断を確定させてから動くと 完璧な記録は難しいので、記録係がいれば任せ、い いう意味ではない。敗血症かもしれないと思った時 なければ手元のメモに時刻と数字だけでも残し、落 点で、評価と初期対応を並行して進め、その後の情 ち着いてから正式な記録に起こす。 報で見立てを修正していく。最初の判断が外れてい 介入後の再評価 たら、それは再評価がうまく働いた証拠であって、 (1) 介入の前に、何が変われば効いたと判断す 失敗ではない。 るか、次にいつ見るかを決める。 日本では、日本集中治療医学会と日本救急医学会 (2) 介入後に反応を確かめる:呼吸・循環・意 の合同委員会が J-SSCG2024 の正式版を公開してお 識・尿量など。 り、本編と付録、CQ ごとの補足資料、バンドル (3) 改善:次の評価時刻と、どうなったら誰に PDF が入手できる。[13] 学会のガイドライン目録に 連絡するかを看護師と共有する。 は新旧の版が並ぶため、使う前に版と日付を確かめ (4) 不変:上級医へ再相談し、原因の見立てを る。[11] 本書の記述は、成人を対象とする 2 つのガイ 見直す。 ドライン(J-SSCG2024 と Surviving Sepsis Campaign (5) 悪化:再評価の予定を待たず、上級医・院 2021)に基づく。小児や妊産婦には別の配慮がある 内の急変経路へ連絡する。 (6) 評価した時刻と所見を時系列で記録する。 ため、ここでの記述をそのまま当てはめない。 J-SSCG2024 の付録は、CQ ごとに臨床疑問、比較す 5.3.1 反応と悪化徴候を追う る介入、アウトカム、採用したエビデンス、確実性、 再評価で「少し良くなった」と感じたときほど注 推奨の理由を示している。[14] バンドルは要点を一 意がいる。一つの数値が改善しても、別の項目が悪 枚にまとめたものなので、「なぜそう推奨されるの 化していることがある。見るべきは点ではなく線で か」 「どこまで確かなのか」を知りたくなったら、付 28
第 5 章 救急・急変・敗血症 並行して進めるバンドル 成人で感染を疑い 臓器障害も疑う 再評価 SOFAの算出 乳酸の測定 乳酸の再検・患者の反応・ 培養結果 迅速評価 抗菌薬開始前の培養 困難なら上級医と判断・記録 呼吸数・体温・意識 収縮期血圧・心拍数 当てはまらなくても 懸念があれば指導医 と評価を続ける 感染巣の検索と コントロール(可及的速やかに) 抗菌薬の開始判断 ショックの有無と敗血症らしさで 改善しない → 集中治療へ相談 ショック・可能性が高い: 上級医と速やかに開始 可能性低くショックなし: 観察しつつ保留も選択肢 再検討の条件を決める 全員一律の時間目標にしない 図 5.2 成人で敗血症を疑ったときに並行して進めること(J-SSCG2024 バンドルと SSC 2021 に基づく)。抗菌薬開始は ショックの有無と敗血症らしさで判断し、全例一律の時間目標にしない。 表 5.2 感染と臓器障害の手がかりを見る軸と、よくある落とし穴。 見る軸 手がかりの例 よくある落とし穴 感染の可能性 発熱・悪寒、局所症状、カテーテルや創部、最近の手術・ 処置 発熱がないことで感染を否定する 臓器障害の可能性 意識の変化、呼吸数の増加、血圧低下、尿量減少、検査値 の変化 一つの数値の正常化で安心する 重症度 ショックの有無、乳酸値、SOFA の変化、介入への反応 最初の評価を最後まで使い続ける 別の原因 出血、心原性、薬剤性、肺塞栓など感染以外の病態 敗血症と決めて見直さない 録の CQ に戻るとよい。推奨の強さと確実性を知っ ておくと、指導医と方針を話し合うときに、自分の 意見の根拠を示しやすくなる。 J-SSCG2024 のバンドルは、感染と臓器障害を疑っ たら迅速評価と初期治療バンドルを行うとしてい る。迅速評価の目安として、呼吸数 22 回/分以上、体 温 36℃未満または 38℃超、意識 GCS 15 未満、収縮期 血圧 100 mmHg 以下、心拍数 90 回/分超が示されて いる。敗血症・敗血症性ショックの診断には、SOFA スコアの算出と乳酸値の測定を行う。[12] 国際ガイ ドラインも、敗血症が疑われる成人で血中乳酸値を 測定することを提案している。[10] この目安を「当てはまらなければ敗血症ではな い」と読んではいけない。前節で述べたとおり、単 一の点数だけで除外しない。高齢者や免疫抑制中の 患者、解熱薬や降圧薬を使っている患者では、数値 が典型的に動かないこともある。臨床的に懸念があ れば、指導医と一緒に評価を進める。 敗血症を疑う場面は救急外来だけではない。入院 中の患者が、術後数日たって、カテーテルを入れて 数日たって、あるいは誤嚥のあとに、静かに悪 くなっていくことがある。病棟では「入院の原因に なった病気」に目が向きがちで、新しい感染を見落 としやすい。発熱や頻呼吸、意識の変化に気づいた ら、元の病気の悪化だけでなく、入院中に起きた新 しい感染の可能性も並べて考える。 感染源の手がかりは、病歴と診察の中にある。咳 や痰、排尿時の症状、腹痛、創部やカテーテル刺入 部の発赤、下痢、皮膚の変化。本人が話せない場合 は、家族や看護師、過去の記録から拾う。手がかり が乏しいときは、全身を上から順に見ていく。背中 や殿部、下肢など、ふだん見ない場所に原因が隠れ ていることもある。 5.4.1 感染と臓器障害を合わせて見る 実際の現場では、 「熱がある」だけでも「血圧が低 い」だけでも敗血症とは言えない。感染の手がかり と、臓器障害の手がかりを別々に集め、重ねて考え る。 SOFA スコアは複数の臓器系の障害を評価する枠 組みであり、ガイドライン上の評価の一部として使 う。点数が出るのを待って対応を遅らせるものでは 29
研修医総合ガイドライン ない。検査を出したら、結果を待つ間にも観察と相 できる部位が限られる、人手が足りない。こうした 談を続ける。 ときに、培養を優先するか抗菌薬を優先するかを研 臓器障害の手がかりは、検査値より先にベッドサ 修医一人で決めない。患者の状態を伝えて上級医に イドに現れることが多い。受け答えが昨日よりかみ 判断を仰ぎ、決めた内容と理由を記録する。培養を 合わない、会話の途中で息継ぎが増えた、手足が冷 取らずに抗菌薬を始めた場合は、その事実を申し送 たくまだらに見える、尿がほとんど出ていない。こ りに明記しておくと、あとで結果を解釈する人が迷 うした変化は数値化しにくいぶん、記録や報告から わない。 抜け落ちやすい。見たままを具体的な言葉で書き、 逆に、抗菌薬を急ぐ必要が高くないと判断された 伝える。 「なんとなく悪い」を「昨日は自分で食事を 場面もある。感染の可能性が低くショックがなけれ とれたが、今日は呼びかけへの返事が遅い」に言い ば、国際ガイドラインは注意深い観察のもとで抗菌 換えるだけで、受け手の判断材料は大きく増える。 薬を保留する選択肢も示している。[10] その場合も 上級医への報告では、 「敗血症だと思います」と結 「保留」は放置ではない。何をどの間隔で観察し、ど 論だけ言うより、 「感染の手がかりはこれ、臓器障害 うなったら抗菌薬を再検討するかを決め、看護師と を疑う所見はこれ、ショックかどうかはこう見てい 共有しておく。開始する場合と同じく、保留した理 る」と分けて伝えるほうが、相手は判断しやすい。自 由と次の判断点を記録に残す。 分の見立てに自信がなくても、並べた材料が正確な 抗菌薬の開始時期は、ガイドラインの表現を条件 ら、上級医は同じ材料から判断を組み立てられる。 ごと正確に読む必要がある。国際ガイドラインは、 感染以外の病態が敗血症に似て見えることも多 敗血症性ショックの可能性がある場合、または敗血 い。消化管出血、心筋梗塞や心不全、肺塞栓、薬剤の 症の可能性が高い場合には抗菌薬を直ちに、理想的 副作用、脱水、内分泌の異常など、発熱や頻脈、血 には認知から 1 時間以内に投与することを強く推 圧低下、意識の変化を起こす原因は幅広い。国際ガ 奨している(エビデンスの確実性はショックありで イドラインも、ショックのない敗血症の可能性例で 低、ショックなしで非常に低) 。ショックのない敗血 は、感染性か非感染性かを迅速に評価し、急性の類 症の可能性例では、病歴・診察・検査で感染性か非 似病態に対処することを求めている。[10] 「敗血症 感染性かを迅速に評価し、可能なら 3 時間以内に済 かもしれない」と「敗血症以外かもしれない」を同 ませることをベストプラクティスとし、感染の懸念 時に持っておくと、検査の出し方も、上級医への相 が残る場合は認知から 3 時間以内に抗菌薬を投与す 談の仕方も変わる。 ることを提案している。感染の可能性が低くショッ クがない場合は、注意深く観察しながら抗菌薬を保 留することも提案している。[10] 5.5 培養・治療・感染源 J-SSCG2024 は、敗血症あるいは敗血症性ショック を並行して考える と認知した後、抗菌薬は可及的早期に開始するが、 敗血症を疑ったとき、 「培養を取る」 「抗菌薬を始 必ずしも 1 時間以内という目標は用いないことを弱 める」「感染源を探す」は、どれかが終わってから く推奨している(GRADE 2C) 。理由として、早期投与 次へ進む手順ではない。患者の状態を見ながら、同 の効果がわずかでエビデンスの確実性が低いこと、 時に進める束である。J-SSCG2024 のバンドルは、血 1 時間に固執することで原因微生物の推定が不十分 液培養 2 セットと感染が疑われる部位からの検体採 になり、不要な広域・多剤投与が増える潜在的な害 取、適切な経験的抗菌薬の投与、感染巣の検索とコ を挙げている。[14] 二つのガイドラインは「早く始 ントロールを並べて示している。[12] める」点では一致しているが、時間目標の扱いは違 血液培養について、厚生労働省の「抗微生物薬適 う。どちらも「全員に一律 1 時間」とは言っていな 正使用の手引き 第四版 医科・入院編」は、抗菌薬投 い。ショックの有無、敗血症らしさ、培養採取との 与開始前と、すでに投与中で広域抗菌薬に変更する 兼ね合いを、指導医と一緒に判断する。 前には必ず血液培養を採取するとし、原則 2 セット 経験的抗菌薬を使うかどうか、使うなら何を選ぶ 以上の採取を示している。感染臓器が特定できない かは、重症度、感染症らしさ、感染臓器、想定され 場合も血液培養 2 セットの採取を挙げ、感染が疑わ る病原体、患者背景、施設の耐性状況を踏まえて決 れる臓器に応じた検体を抗菌薬投与前に可能な限 める。[15] 薬剤群ごとの考え方は第 7 章で扱う。 り採取するよう求めている。[15] 採取の手技や清潔 手引きは、抗菌薬の適正使用を、適応、薬剤選択、 操作は院内の手順と指導に従う。 用量、期間を評価して患者の転帰を改善し、有害事 現場では、採取に手間取って抗菌薬の開始が遅れ 象を最小限にする取り組みとして位置づけてい るという問題が起きる。ルートが取りにくい、採血 る。[15] 急変の夜は「とりあえず広く」と考えがち 30
第 5 章 救急・急変・敗血症 だが、その判断もあとで見直されることを前提にし ている。夜間に選んだ理由を一行でも記録しておけ ば、翌朝のチームが見直しやすくなる。 QUICK REFERENCE 敗血症を疑ったら(成人) (1) 感染の手がかり+臓器障害の手がかりを 別々に (2) 迅速評価:呼吸数・体温・意識・収縮期血 圧・心拍数 (3) SOFA 算出・乳酸測定 (4) 血液培養 2 セット+感染部位の検体 (5) 経験的抗菌薬:ショックの有無と感染らし さで急ぎ方が変わる (6) 感染巣の検索とコントロール (7) 低血圧 → 初期輸液と昇圧薬を上級医と (8) 乳酸・心エコーで再評価、感染以外も並べ る 根拠:[10, 12, 14]。目安に当てはまらないことは 除外の理由にならない。 感染源コントロールも、抗菌薬と同時に考え る。J-SSCG2024 のバンドルは、感染巣の検索とコン トロールを「可及的速やかに」行う項目として示し ている。[12] 国際ガイドラインは、感染源の可能性 がある血管内デバイスを、代わりのアクセスを確保 したうえで速やかに抜去することをベストプラク ティスとしている。[10] 膿瘍、閉塞、壊死組織など処 置が要る感染巣が疑われれば、早めに上級医と相談 し、必要な診療科へコンサルトする。研修医は「抗 菌薬を入れたから一段落」と考えず、 「この感染は抗 菌薬だけで治るか」を問いとして持っておく。 中心静脈カテーテルや尿道カテーテル、ドレーン など、入院中に入れたデバイスはとくに見落としや すい。 「このデバイスは今も必要か」 「刺入部や排液 に変化はないか」を感染源検索の定番の問いにして おく。画像検査で膿瘍や閉塞が見つかれば、処置の 適否とタイミングは担当診療科と相談して決まる。 研修医の役割は、その可能性に気づき、早めに相談 の場をつくることである。 5.5.1 治療開始後の見直しを決める 抗菌薬を始めた時点で、見直しの予定も一緒に決 める。手引きは、治療開始後に臨床経過と培養結果 をもとに患者状態と抗菌薬を再評価し、狭域化、経 口化、中止などを検討するよう示している。[15] 国 際ガイドラインも、固定した期間で漫然と続けるよ り、毎日デエスカレーション(培養結果や経過に合 わせた狭域化・中止。詳しくは処方・抗菌薬の章)を 評価することを提案し、感染源コントロールが十分 なら短い治療期間を支持している。[10] J-SSCG2024 の付録にも、培養に基づくデエスカレーションや治 療期間に関する CQ がまとめられている。[14] ◾︎ 培養結果はいつ出る見込みか、誰が確認するか ◾︎ 感染源の評価・処置はどこまで進んだか ◾︎ 翌日以降、何を見て抗菌薬を続ける・変える・止 めるか ◾︎ 感染以外の原因が見つかった場合、誰に相談す るか この四つを記録と申し送りに残しておくと、夜間 に始めた治療が翌朝きちんと見直される。 見直しは、抗菌薬を「止める」方向だけではない。 培養で想定外の菌が見つかる、感染源が別の場所だ と分かる、治療に反応しない。こうした場合には、 薬剤の変更や感染源の再検索が必要になる。いずれ の方向でも、判断は培養結果と患者の経過をあわせ て、指導医と一緒に行う。 5.6 集中治療へつなぐ 初期対応をしても改善しない、または集中的な監 視と治療が必要と判断したら、集中治療への移行を 検討する。J-SSCG2024 のバンドルは、集中治療を安 全に提供できる場所への移行を検討する項目を挙 げている。[12] 国際ガイドラインも、ICU 入室が必要 な敗血症・敗血症性ショックの成人では、6 時間以内 の ICU 入室を提案している。[10] ただし、ICU に相 談する基準、相談の窓口、誰が入室を決めるかは施 設の体制で異なる。研修医が直接 ICU へ連絡してよ いかも含めて、院内手順を確認し、指導医・上級医 と一緒に動く。 ICU の空床がない、入室の適応について意見が分 かれるといった理由で、すぐには移れないこともあ る。その間も患者は病棟にいて、治療と観察は続く。 移行を待つ時間の担当者、観察の間隔、再相談の条 件を上級医と決め、 「ICU に相談したから一段落」と 考えない。待っている間に悪化した場合の連絡先も 確認しておく。 初期輸液や昇圧薬について、両ガイドラインは晶 質液を初期蘇生の第一選択とし、ノルアドレナリン を第一選択の昇圧薬としている。J-SSCG2024 のバン ドルは、低血圧がある場合は初期輸液と並行してノ ルアドレナリンを早期に開始することを示してい る。[10, 12] 具体的な投与量、速度、投与経路は、患 者の状態と指導医の判断で決まる。輸液の量や腎機 能への配慮は第 6 章で扱う。 J-SSCG2024 のバンドルは、ICU での急性期介入と して、初期輸液後もショックが改善しない場合の追 加薬剤の検討、血糖管理、微生物学的検査、抗菌薬の デエスカレーションと適切な中止、DIC の鑑別と対 応、早期リハビリテーションなどを挙げている。呼 31
研修医総合ガイドライン 吸管理、栄養療法、鎮痛・鎮静は、それぞれ別のガイ ドラインに従うよう案内している。[12] 研修医がこ れらをすべて覚えておく必要はないが、ICU に移っ たあとも治療が続き、病棟で始めた評価や治療が そこへ引き継がれていくことは知っておきたい。日 本集中治療医学会のサイトには、重症患者の搬送や ICU 入退室に関する指針も掲載されている。[11] ICU や上級医に相談するときは、次の様式に沿っ て要点をまとめると伝わりやすい。 れでも、気づく、呼ぶ、集める、伝えるという部分 では大きな役割を果たしている。 仮想複合例:夜間の術後患者 表 5.3 仮想複合例の各段階で、研修医が担ったことと 上級医と決めたこと。 段階 研修医が担った こと 上級医と決めた こと 気づく 看護師の連絡で 訪室し、呼吸・ 循環・意識を確 認 — 呼ぶ その場で当直上 級医へ連絡 — 集める モニター装着、 看護師とバイタ ルサインの取り 直し、創部・ド レーン・カテー テルの確認 採取する検体 治療を始める 指示のもとで培 養採取と初期輸 液を進める 経験的抗菌薬の 開始 見直す 介入後の反応を 再評価し、改善 が乏しいことを 共有 ICU への相談 伝える 様式に沿って経 過をまとめ、担 当と次の評価予 定を引き継ぐ 引継ぎ先と連絡 の条件 集中治療に相談するときの要点 ◾︎ 患者識別:氏名・病棟、自分の名前と立場 ◾︎ 今の状態と経時変化:いつから、何が、どう 変わったか ◾︎ 実施した介入と反応:何をいつ行い、どう変 わったか(変わらなかったか) ◾︎ 疑う原因と感染源への対応 ◾︎ 培養・抗菌薬の状況:採取の有無と時刻、開 始の有無と時刻 ◾︎ 依頼内容と希望時刻:診察、転棟の相談など ◾︎ 患者・家族の意向:記録の有無。不明なら「未 確認」と書く 分からない欄は空けずに「未確認」 「未実施」と 書く。 様式は埋めること自体が目的ではない。空欄は 「未確認」 「まだ実施していない」と正直に書くこと で、受け手が次に何をすべきか分かる。 相談の前に、患者と家族の治療に関する意向が記 録されているかを確認する。集中治療の適応は、医 学的な判断だけでなく、患者の価値観や事前に話し 合われた方針とも関わる。国際ガイドラインは、患 者・家族と予後や治療目標を話し合うことをベスト プラクティスとしている。[10] 意向がはっきりしな い場合、急変の場で研修医が単独で話し合いを進め るのではなく、上級医・主治医に確認し、必要な話 し合いにつなげる。 仮想の例で流れを追ってみる。術後の患者で、夜 間に看護師から「呼吸が速く、ぼんやりしている」と 連絡があった。研修医は訪室して呼吸と循環、意識 を確認し、その場で当直上級医に連絡した。上級医 の到着までに、モニターを装着し、看護師とバイタ ルサインを取り直し、創部とドレーン、カテーテルを 確認した。上級医と相談して血液培養 2 セットと疑 わしい部位の検体を採取し、経験的抗菌薬の開始と 初期輸液を指示のもとで進めた。その後の再評価で 改善が乏しかったため、上級医が ICU に相談し、研 修医は様式に沿って経過をまとめた。この流れの中 で、研修医は一度も「一人で決めて」はいない。そ 32 誰が何を担ったか 5.6.1 担当と再評価予定を引き渡す 急変対応の最後は引継ぎで終わる。ICU へ移る場 合でも、病棟にとどまる場合でも、「誰が担当する か」と「次にいつ何を見るか」が引き継がれていなけ れば、それまでの対応が途切れる。国際ガイドライ ンは、ケアの移行時に重要な情報を伝える引継ぎの 仕組みを使うことを提案しているが、特定の構造化 ツールが通常の方法より優れるとは示していない。 [10] 引継ぎの様式は施設のものを使う。 引継ぎで最低限伝えたいのは、今の状態、ここま でにやったこととその反応、まだ結果が出ていない 検査、次の評価予定と連絡の条件である。とくに培 養の結果待ち、画像の読影待ち、コンサルトの返事 待ちといった「宙に浮いた仕事」は、担当者と確認時 刻を添えて渡す。病棟に残る場合は、夜間の担当者 に「どうなったら誰を呼ぶか」を具体的に伝え、看 護師とも共有する。 逆に引継ぎを受ける側になったときは、分からな い点をその場で聞く。「この培養は誰が確認します か」 「悪化したら最初に誰に連絡しますか」。遠慮し
第 5 章 救急・急変・敗血症 て聞かずに受け取ると、受け取った瞬間から自分が 責任を持つ仕事の中身が分からないままになる。急 変の対応は、引継ぎを受けた人が次の再評価を実行 したところで、ようやく一つの区切りを迎える。 ICU から病棟に戻る場面や退院時にも、薬剤照合 (入院前後・転棟前後の薬を突き合わせること。処 方・抗菌薬の章で扱う)と、患者・家族への診断・ 治療・その後の経過の説明が求められる。[10] JSSCG2024 も、患者・家族中心のケアと情報提供を ICU での介入に含めている。[12] 急変の夜に関わっ た研修医が、その後の経過を追うことで得られる学 びは大きい。翌日、患者のもとを訪ねて、自分の判 断がどうだったかを振り返ってみてほしい。 振り返るときは、結果の良し悪しより、判断の過 程を見る。いつ気づけたか、もっと早く気づける手 がかりはあったか、呼ぶまでにためらった時間はな かったか、再評価の予定は守れたか。指導医に経過 を話し、意見をもらうと、次の急変で使える自分な りの型が少しずつできていく。 33
研修医総合ガイドライン 第6章 輸液・輸血・腎機能 輸液も輸血も、指示を出して終わる処置ではな い。何を改善するために行うのか、実施前の状態は どうか、行った後に何が変わったかを確かめる。腎 機能も、検査票の数値をそのまま薬の量に置き換え ることはできない。数値の種類、薬剤の添付文書、患 者の体格や病態を合わせて読む。 この章は、具体的な維持輸液量、電解質補正式、 輸血の閾値や速度を一覧にしない。相談の原則は第 1 章 のとおり。この章では、指示を書く前に一文で 言える目的、投与前に残しておく所見、投与後に見 る順番を扱う。 6.1 何のために液体を入れるのか 輸液指示を書く前に、まず「何を変えるためか」を 一文にする。循環が保てない患者に初期蘇生を行う のか、経口摂取が難しい患者の水分・電解質の必要 を補うのか、継続する喪失を補うのか。同じ「点滴 が必要そう」という印象から出発しても、目的が違 えば確認する情報も、期待する変化も異なる。 目的を立てるときは、摂取と喪失を含む経過を確 認する。食事や飲水がどの程度できているか、嘔吐・ 下痢・出血・ドレーン排液などの喪失があるか、尿 量や体重がどう推移したか、循環と呼吸にどのよう な変化があるか。心臓・腎臓の病気、妊娠、年齢、発 熱や感染、使っている薬も判断に関わる。これらを 一度に完璧に集める必要はないが、分かっている事 実と不明点を分け、急ぐ情報から確認する。 オーダーには、液体の種類、経路、予定量・速さ、 投与する期間、見直し条件が含まれる。どれか一つ を慣例で決めるのではなく、目的と患者の現状に照 らして組み合わせる。点滴以外にも、薬剤の溶解液、 経管栄養、経口摂取などから水分が入る。指示欄の 輸液だけを見て全体量を判断しない。看護師と実際 の投与内容を確かめ、入っている量と出ている量を できる範囲で突き合わせる。 患者の水分状態を評価する時は、一つの所見を決 め手にしない。口腔の乾燥、血圧、脈拍、尿量、体 重、浮腫などはそれぞれ病態や治療、測定条件の影 響を受ける。時間経過と患者の訴え、診察、検査値 を組み合わせ、急に変化した所見があればその変化 34 に応じて対応する。飲水制限や利尿薬が指示されて いる患者では、安易な水分追加が治療目標と衝突し ないかを確認する。 経口摂取が回復すれば静脈輸液を減らす、あるい は止める判断が必要になることもある。栄養や水分 摂取が改善したか、継続する喪失はあるか、必要な 薬剤投与のために点滴が要るかを見直す。点滴を継 続する理由がなくなっているのに、オーダーだけが 残らないよう、回診や申し送りで終了条件を共有す る。患者や家族にも、飲水量の目安など具体的な退 院指示が必要なら担当医と確認し、自己判断で一律 の制限や補給を勧めない。 特に、「維持」という言葉だけで慣例量を選ば ない。経口摂取ができないからといって、患者の状 態や治療中の水分出納を見ずに同じ量を続けるこ とはできない。すでに他の輸液や薬剤投与に伴う水 分が入っていないか、浮腫や呼吸状態の悪化がない か、腎機能や循環の変化がないかを合わせて見る。 必要量の計算や電解質補正は、患者の条件と現行の 院内手順・根拠に沿って指導医と確認する。 開始時の目的が消えたり、状態が変わったりすれ ば、輸液もいったん見直す。絶食が解除されて食事 が始まった、発熱や下痢が落ち着いた、利尿薬が追 加された、あるいは新たな心不全や腎障害が疑わ れるなど、指示の前提を変える出来事は病棟で起こ る。オーダーの終了時刻だけで安全を担保するので はなく、担当者が患者を確認する機会を決め、継続 の理由が失われていないかを確かめる。 敗血症性ショックなど急性の循環不全では、蘇生 の目標を全身状態や灌流の所見と合わせて扱い、必 要な処置を並行して進める。ガイドラインの介入 も、病態と根拠の確実性を離れて一般の維持輸液に 読み替えるものではない。急性期の対応をさらに確 認する場合は、急変時の初期対応を参照する。[10, 12, 14] 6.2 投与前後に確かめる循環反応 介入後の反応を判断するには、介入前の状態を残 しておく。血圧や脈拍だけでなく、意識、皮膚の状 態、呼吸、末梢灌流、尿量、検査値など、患者の病
第 6 章 輸液・輸血・腎機能 表 6.1 輸液の目的と、目的ごとに確かめる変化・見直しの問い。量・組成・速さは患者の条件と院内手順に沿って指導医と確 認する。 目的 期待する変化 確かめる所見 見直しの問い 初期蘇生(循環が保てな い) 循環・灌流の改善 全身状態と灌流の所見、呼 吸状態を投与前後で比べる 反応はあるか。呼吸は悪化 していないか。並行すべき 処置や原因への治療はない か 維持(経口摂取が難しい) 水分・電解質の必要を補う 摂取量、尿量、体重、浮 腫、ほかの輸液や薬剤の溶 解液から入る水分 経口摂取は戻ったか。継続 する理由は残っているか。 終了条件は共有されている か 喪失の補充(喪失が続いて いる) 続いている喪失を補う 嘔吐・下痢・出血・ドレー ン排液の量と経過 喪失は続いているか。原因 への対応は進んでいるか 態に合った所見を選ぶ。何をどの時点で見直すのか も決め、可能なら上級医と共有する。記録には「輸 液後に観察」だけではなく、確認する所見と担当者、 予定時刻を具体的に書く。 「反応したか」は、点滴後に数値が一つ上がった かだけでは判定できない。患者が楽になったか、循 環が改善したか、酸素化や呼吸仕事量が悪化してい ないか、期待した変化が続いているかを複数の情報 で確認する。体液を追加することで害が生じる可能 性も意識する。浮腫、呼吸困難、酸素需要の増加、尿 量や腎機能の悪化が見られる場合は、単に「まだ血 圧が低いから」と次の輸液を重ねず、患者を再評価 して上級医へ伝える。 病棟では、バイタルサインの時間経過、尿量、摂 取・排出、体重、末梢所見、呼吸状態を患者の元で 確認する。評価間隔は一律の時刻表ではなく、重症 度や治療への反応に合わせる。状態が不安定なら 定時回診を待たず、看護師の報告やモニターの変化 を受けてベッドサイドで再評価し、上級医へ連絡す る。安定している患者でも、開始後いつ再確認する かが決まっていないと、投与の継続だけが慣例化し やすい。 再評価には患者本人の訴えも欠かせない。「息苦 しさが出ていないか」 「口渇やめまいは変わったか」 「排尿や食事はどうか」など、開始時の症状と対応 する問いを尋ねる。意識障害などで本人から情報を 得にくい場合には、看護師や家族が見た変化も参考 にする。本人の訴えと客観的な所見が一致しない時 も、その食い違いを記録して指導医と解釈する。 敗血症性ショックの推奨資料は、循環の評価・初 期輸液・昇圧薬などを一連の急性期対応として記述 し、個々の介入の根拠や確実性も扱う。乳酸値の変 化だけを治療成功の判定にせず、全身の灌流と経過 を合わせて読む。個々の状況で何を選ぶかは、推奨 の条件と患者の反応を照合して決める。[10, 12, 14] 各資料の要点も条件付きで読む。日本版敗血症診 療ガイドライン 2024 のバンドル図は、初期輸液に 調整晶質液を用い、低血圧があれば輸液と並行して ノルアドレナリンを早期に始める方針と、乳酸の再 検や心エコーによる再評価を示す。Surviving Sepsis Campaign 2021 も、敗血症性ショックの初期蘇生で 晶質液を、昇圧薬ではノルエピネフリンを第一選択 としている。どちらも「敗血症・敗血症性ショック の初期蘇生」という場面の推奨であり、病棟の脱水 や維持輸液の量をここから決めるものではない。 [10, 12] たとえば、輸液のあとに血圧は少し上がった一方 で呼吸が苦しくなり、酸素投与が増えたとする。目 標の一つだけが動いたことを根拠に輸液を続ける のではなく、呼吸と循環の変化、投与前後の所見、考 えられる別の原因を整理して、すぐに上級医と方針 を相談する。処置が済んだことより、患者の状態が どう変わったかが次の判断の出発点になる。 QUICK REFERENCE 輸液の再評価 (1) 目的を一文で(蘇生/維持/喪失の補充) (2) 投与前の所見を残す (3) 投与後:循環・灌流、呼吸・酸素需要、意 識、尿量 (4) 害の徴候:浮腫・呼吸困難・酸素需要増 (5) 他の輸液・溶解液・経口から入る水分 (6) 前提が変わった? (食事再開・心不全・腎障 害) (7) 次に誰がいつ見るか、終了条件 敗血症の初期蘇生の推奨を維持輸液に流用しない [10, 12] 別の例として、血圧が大きく変わらない場合も、 それだけで「輸液が効かなかった」と決めない。患 者の全身状態や検査、出血や感染など原因に対する 治療が必要か、測定や体位、使用中の薬が影響して いないかを確認する。研修医ができるのは、患者を 見直して重要な変化を見つけ、指導医に明確な問い を持って相談することだ。異常な変化を見落とす可 35
研修医総合ガイドライン 能性がある時は、再評価の予定時刻を待たず応援を 要請する。 投与前 目的と、効果を判断 する指標を決める 投与 投与後 呼吸・循環・全身状態を 投与前と比べる 改善 目的が続くかを確かめ 次の見直し時点を決める 不明 測定条件・別の原因・ 原因への治療を確認し相談 悪化 同じ投与を繰り返さず すぐ上級医と相談 見落としが心配な変化: 予定時刻を待たず応援要請 図 6.1 輸液の前に判断指標を決め、投与後の反応で次を決 める。同じ介入を自動的に繰り返さない。 6.3 輸血を安全に行うための確認 輸血の相談を受けたら、まず適応と目的を確認す る。診断、出血や症状の経過、検査値、患者の全身 状態、予定している処置を指示医と照合し、何を改 善するための輸血かを理解する。判断に必要な情報 が足りなければ、独自に補って進めず、上級医へ確 認する。閾値や速度は疾患・製剤・患者の状況と推 奨の改訂に依存するため、古い一覧表や他患者の慣 例を一般的指示として流用しない。 実施前には患者・製剤照合を行い、本人確認、製剤 情報、指示、検査・適合情報が一致しているかを院内 の手順書に沿って確かめる。表示の違い、患者識別 の不一致、検体の取り違えが疑われる場合は、その 場でいったん止め、輸血部門と指示医へ連絡する。 輸血には、免疫性・感染性その他の合併症や不適 合輸血など、完全にはなくせない危険がある。厚生 労働省の指針は、適応を最新の知見で判断するこ と、十分な知識を持つ医師の管理下で行うこと、異 常時に緊急処置ができる準備を求めている。ただ し、同指針は 2005 年改定版である。実際の手順や検 36 査条件は、現行の院内手順・輸血部門の指示で確認 する。[16] 開始前に患者の状態を把握し、開始後は院内手順 で定める方法に従って観察する。新しい発熱、発疹、 呼吸苦、血圧変化など気になる変化があれば、輸血 との関連を決めつけず、投与中の事実として直ちに 指示医へ報告する。手順に従い投与の停止など必要 な対応を行い、輸血部門へ連絡する。終了後も経過 観察を続け、実施した製剤、患者の反応、必要な検 査と報告を記録する。副作用を疑う事象は、原因究 明と再発予防に必要なため、施設の報告経路に沿っ て共有する。[16] 輸血前の確認は、製剤のラベルだけを見る作業で はない。患者本人を識別し、指示書、患者情報、製 剤情報、適合確認がそろっているかを施設の手順に 沿って照合する。検体を採取する時点の本人確認や ラベル貼付にも施設手順がある。誰が何を確認する か、バーコードや電子認証をどう使うかは配属先で 確認しておく。確認者同士で情報が食い違う、識別 が曖昧になる、予定と異なる製剤が届くなどの疑問 があれば、そこで作業を止めて責任者へつなぐ。急 いでいる時ほど、 「誰が何を確認したか」をチーム内 で共有する。 輸血の前後には、予定した目的に対して患者の症 状や臨床状態がどう変わったかも評価する。数値の 変化のみを追うのではなく、治療目標、他の介入、 出血や基礎疾患の経過を合わせて記録する。望む効 果がなかったり予想外の症状が出たりしたら、製剤 の追加を独断で決めず、指示医・輸血部門へ相談す る。指針は有効性と安全性の双方を評価して診療録 に記載するよう求めるが、具体的な観察項目や対応 手順は施設の最新手順を優先する。[16] 輸血に関する記録では、どの製剤をいつ使用した か、どの患者に誰が実施したか、開始時と終了後の 状態、反応や報告の有無が追えることが重要に なる。異常を疑った際は、患者の症状が始まった時 刻、投与中だったこと、観察できた所見、既に行っ た対応を時系列でまとめる。原因が決められなくて も、疑われる副作用や照合上の不一致は輸血部門に 伝える。早期に一緒に状況を確認することで、患者 対応と必要な調査を進めやすくなる。[16] 血液の準備そのものにも考え方がある。同指 針は、直ちに輸血する可能性が低い待機手術などで は、血液を無駄にせず準備を効率化する方法として タイプ・アンド・スクリーン(T&S)や最大手術血液準 備量(MSBOS)の採用が望ましいとしている。また、 特定生物由来製品である血液製剤の使用記録は、使 用日から少なくとも 20 年保存する旨を記している。 どの手術でどの方式を使うか、記録をどの様式で残
第 6 章 輸液・輸血・腎機能 すかは、2005 年当時の記載ではなく現行の院内規程 と輸血部門の運用で確かめる。[16] 輸血前・中・後の確認 前:目的・指示・患者識別・製剤・適合情報 を照合し、観察方法と連絡先を確認する。 中:患者の状態を施設の手順に従って観察 し、変化を認めたら速やかに指示医・輸血部 門へ連絡する。 後:終了後の経過と効果・有害事象の評価を 記録し、必要な報告を行う。 判断や情報に不一致があれば、先へ進めず確 認する。 6.4 腎機能値をそのまま薬 の量に置き換えない 腎機能が低下すると、腎臓から排泄される薬剤の 血中濃度が高くなり、薬効が強まりすぎたり副作用 が増えたりすることがある。対応には、一回量を減 らす、投与間隔を延ばす、別の薬を選ぶなど複数の方 法があり、どれが適切かは薬剤ごとに異なる。薬名 を見て「腎機能が悪いから半量」と一律に決めるこ とはできない。薬剤量の調整は、添付文書の基準と 患者の腎機能を照らし合わせ、薬剤師と確認して決 める。[17] 処方前に確認するのは、最新の腎機能値だけでは ない。どの式から得た値か、単位が何か、添付文書は どの指標を基準にしているかを確認する。腎機能は 急性疾患や脱水、治療経過に伴い変わるため、過去 の値がそのまま現在の状態を表すとは限らない。薬 剤の排泄経路や併用薬、治療期間、予想する効果と 有害事象も含め、指導医・薬剤師と照合する。 腎機能を悪化させ得る薬にも目を配る。CKD 診療 ガイド 2024 は、NSAIDs など腎障害のリスクがある 薬剤を含め、CKD 患者では薬剤性急性腎障害(AKI) の危険を評価し、処方後も腎機能を追うよう求めて いる。 「用量を合わせたから終わり」ではなく、開始 後の腎機能と尿量、体液状態の変化を観察計画に入 れる。さらに、発熱・嘔吐・下痢などで食べられない 「シックデイ」について、同章は CKD での定義や一律 の休薬ルールは確立していないとし、脱水や病態を 評価したうえで医療機関が一時休薬や減量を判断 するとしている。退院時に患者へ伝える内容は、薬 ごとに担当医・薬剤師と決め、研修医が独自の中止 ルールを作らない。[17] また、腎臓から排泄されない薬なら常に安全とい うわけでもない。CKD 診療ガイド 2024 の薬物療法章 は、肝排泄型薬剤でも腎障害患者で血中濃度が上が る薬があること、併用薬間の相互作用が治療効果を 弱めたり有害事象を増やしたりすることを説明し ている。たとえば、特定のリン吸着薬と一部の抗菌 薬ではキレート形成によって吸収が妨げられ得る。 具体的な組合せと対処は必ず添付文書・院内薬剤情 報で確かめ、薬剤師に相談する。[17] 薬剤の指示を確認するときは、薬剤名、製剤・規 格、投与経路、用量、間隔、期間を一つずつ見る。とく に入院時や病状変化時には、持参薬の継続・中断と 新規処方を区別し、重複や相互作用を確認する。投 与後に期待する効果が得られない場合や腎機能・電 解質などに変化が現れた場合は、処方時の前提に戻 る。処方の安全確認の流れは、処方・抗菌薬の章で も扱う。 腎機能は入院中にも変わる。脱水、感染症、循環 不全、手術、薬剤の追加などが重なれば、安定期に 確認した値をそのまま現在の処方に当てはめられ ないことがある。採血時刻と処方時刻、尿量、体液 状態、最近の治療変更を合わせて確認する。推算値 を相談する時は「eGFR が低い」とだけ伝えず、値、 単位、採血時点、患者の体格、薬剤名、添付文書が 参照する指標をまとめる。こうすれば、相談を受け る側も確認する条件を特定しやすい。 患者本人が腎機能値や薬の変更について尋ねる こともある。研修医は、なぜ用量の確認が必要なの かを「薬が体に残りやすくなることがあり、薬ごと に見方が違うため、薬剤師・上級医と一緒に確認し ています」と伝えられる。検査値から何が確定した か、どの薬をどれだけ変えるべきかを未確認のまま 断言しない。患者の不安や希望は担当チームと共有 し、説明はその施設の役割分担に沿って行う。 6.5 腎機能推算値の読み分け 腎機能を示す値には、推算クレアチニンクリアラ ンス(推算 Ccr)、クレアチニン由来の eGFR、シス タチン C 由来の eGFR などがある。名称が似ていて も、使う式や単位が異なる。標準化 eGFR は体表面積 1.73 m²に換算した値で、単位は通常 mL/分/1.73 m²。 薬剤投与のために体格を反映する個別化 GFR は、体 表面積補正を解除した mL/分で示す。数字だけを取 り出して別の指標と比べたり、同じ単位とみなした りしない。[17] ある薬は推算 Ccr、別の薬は eGFR を前提に用量を 記載し、eGFR を用いる場合にも標準化値か個別化 値かが異なることがある。処方支援ツールの表示や 検査票の eGFR が、添付文書の方法と同じとは限ら ない。迷ったら、薬剤名と添付文書の記載、患者の 37
研修医総合ガイドライン 表 6.2 腎機能推算値の単位と照合点。クレアチニン由来の値は筋肉量などの影響を受けるため、迷ったら薬剤師・上級医と 指標を決める。 指標 単位 何を表す値か 処方で照合すること 推算 Ccr mL/分 推算式で求めたクレアチニンクリアラン ス 添付文書が Ccr で用量区分を示している か。使った式と入力した体重 標準化 eGFR mL/分/1.73 m² 体表面積 1.73 m²に換算した推算 GFR 薬剤に使う前に、添付文書が標準化値と 個別化値のどちらを前提にしているか 個別化 GFR mL/分 体表面積補正を解除し、患者の体格を反 映させた値 入力した身長・体重、採血時点。標準化 値と取り違えていないか 身長・体重・採血値をそろえて薬剤師または上級医 に確認する。[17] 血 清 ク レ ア チニ ン は 腎 機 能 以 外 に 筋 肉 量 や 食 事などの影響も受ける。筋肉量が少ない患者では腎 機能を実際より良く見積もり、筋肉量が多い患者で は悪く見積もることがある。高齢で痩せた人、長期 臥床、切断、著しいるいそうなどではクレアチニン 由来の値だけでは判断しづらい場合がある。状況に よってはシスタチン C による推算などを検討する が、こちらも患者背景を踏まえて解釈する。式の選 択や検査の追加を研修医だけで決めず、疑問を言葉 にして相談する。[17] 血清クレアチニンは、腎機能が変わらなくても動 くことがある。同章は、クレアチニンの尿細管分泌 を抑える薬(例としてシメチジン、ST 合剤中のトリ メトプリム、ドルテグラビル)では、血清クレアチ ニンが上がってクレアチニン由来の eGFR は下がっ ても、実際の腎機能は変わっていない場合があると 述べる。逆向きの注意として、GFR や Ccr が高い値 でも原則として投与量を増やす必要はないとして いる。推算値の変化を見たら、新しく始めた薬と採 血時点を並べ、 「腎機能が悪化したのか、値だけが動 いたのか」を相談の論点にする。[17] 推算値には誤差があり、境界付近の値を丸めや切 り捨てだけで区分しない。治療域の狭い薬、重い副 作用が起き得る薬、腎機能が短期間で動く患者では とくに慎重に扱い、必要なら TDM も含めて薬剤師 と投与後の確認計画まで点検する。薬ごとの確認手 順と相互作用は第 7 章で扱う。[17] 参照する資料の性格も確かめておきたい。日本腎 臓学会は、かかりつけ医や医療スタッフ向けの実践 的な「CKD 診療ガイド」と、Minds の方法に沿って 作る学術的な「エビデンスに基づく CKD 診療ガイド ライン」を別の出版物として位置づけている。医療 者向けの診療ガイド 2024 は 2024 年 7 月 10 日に発行 され、学会は刷ごとの正誤表を公表している。手元 で使う時は、最新の刷と正誤表を確かめたうえで該 当章を直接読む。[17–19] 38 6.6 一律な指示を避ける場面 患者の経過が変わる、腎機能が動く、投与後に想 定外の症状が出る、指示と添付文書の前提が一致し ない。こうした場面では、昨日の処方やいつもの量 を自動的に繰り返さない。分かっている情報、疑問 点、患者への影響、これから確認する人を整理し、上 級医や薬剤師へ早めに相談する。相談の際は「腎機 能が悪いです」だけでなく、値と単位、測定時点、式、 薬剤、具体的な懸念を伝える。 「その量、昨日の前提のままですか?」――こ の一言を自分に向けるだけで、慣例の継続はかなり 減る。 相談を始める時は、まず時間的な切迫度を伝え る。たとえば「次の投与までに確認したい」 「すでに 投与済みで患者の症状が変化した」「腎機能が急に 動き、定時処方を保留すべきか迷う」と具体的に述 べる。その上で、指示内容と患者の実際の状態、見 た資料、まだ分からない点を順に共有する。相手か ら返答を受けたら要点を復唱し、誰が実施するの か、いつ再評価するのかを確認する。判断を引き継 いだつもりでも、担当と期限が曖昧なら未完了のま ま残る。 輸液や輸血の数値は、対象疾患、患者の循環・呼 吸状態、併存症、根拠が想定する状況を離れて適用 できない。輸血の閾値・速度を 2005 年改定指針から 現行の一般ルールとして断定しない。敗血症の蘇生 に関する推奨は、一般病棟の維持輸液やあらゆる患 者の個別指示を代替しない。ここで大切なのは、数 値を覚えることではなく、どの推奨をどの条件の患 者へ使おうとしているかを確かめることだ。[10, 14, 16] 注意|数値をそのまま転用しない 維持輸液量、電解質補正式、輸血の閾値や速度 を、患者条件と現行の根拠・院内手順を確認せ ずに一般化しない。古い資料や別の病態の推奨 を個別患者の指示に置き換えず、迷えば実施前 に上級医・薬剤師・輸血部門へ相談する。
第 6 章 輸液・輸血・腎機能 表 6.3 迷ったときに立ち止まり、照合し、相談する先。数値の基準は本書で一覧にせず、現行の資料と院内手順で確認する。 場面 立ち止まる合図 照合するもの 相談先 輸液 開始時の目的が消えた・前提が 変わった(食事の再開、心不全 や腎障害の疑い)、投与後に呼 吸が苦しくなった 実際に入っている水分(ほかの 輸液・溶解液を含む) 、投与前 後の所見、終了条件 上級医。投与内容は看護師と確 認 腎機能と処方 腎機能が急に動いた、指示と添 付文書の前提が一致しない 値・単位・採血時点・式・体 格、添付文書が参照する指標 薬剤師・上級医 輸血 適応や目的が分からない、照合 で不一致がある、投与中に新し い症状が出た 院内手順書に沿った患者・製剤 の照合、指示内容、現行の指針 指示医。輸血の担当部署は院内 手順で確認 6.6.1 相談・記録・再評価につなぐ 相談した後は、誰が次の判断を担うのか、いつ何 を見直すのかを記録する。処方の調整や輸液の変更 だけでなく、変更の理由と確認した情報、患者の反 応、残っている懸念も共有する。申し送りを受ける 側が「何を待ち、どの変化があれば再度連絡するか」 を理解できる形にする。 たとえば、薬剤師から「添付文書の腎機能指標と 検査票の表示が異なる」と指摘されたとする。その 場で数字を読み替えて処方を確定せず、上級医と薬 剤師に患者の状態、使用中の薬、採血時点を示して 確認する。変更が決まったら、担当者と次の採血・ 観察時点、効果や有害事象を再確認する条件を診療 録と申し送りに残す。こうして初めて、処方は患者 の経過に結び付いた仕事になる。[16, 17] 薬剤師への相談は、たとえば次のように組み立て る。 「〇〇さんの抗菌薬の用量について確認させて ください。今朝の採血でクレアチニン由来の eGFR が前回より下がっています。単位は mL/ 分/1.73 m²で、身長・体重は記録のとおり小柄で す。添付文書が推算 Ccr を基準にしているよう なので、どの指標で区分を読むべきか、次回投与 前に一緒に見ていただけますか。 」 値・単位・時点・体格・薬剤・期限をそろえると、 相手は何を確認すればよいかをすぐ判断できる。 この章で扱った輸液の目的と再評価、輸血の照 合、腎機能指標の読み分けは、処方全般の確認手順 とつながっている。続く章では、薬歴・アレルギー の確認から抗菌薬の再評価、投薬上の疑問や誤りへ の対応へ進む。 39
研修医総合ガイドライン 第7章 処方・抗菌薬・医療安全 処方は、薬剤名を選んで入力した時点では終わら ない。患者と薬歴を確かめ、なぜ使うか、何を確かめ るかを決め、実際の投与後に効果と有害事象を見直 すところまでが一連の仕事だ。抗菌薬では感染巣、 重症度、検体、患者背景を初期判断に組み込み、得 られた情報に合わせて治療を続けるか、狭域化する か、中止するかを考える。 処方に迷った時の相談の仕方は第 1 章 の原則 どおりでよい。この章で足すのは、処方ならではの 「持っていく材料」だ。薬剤名と規格、経路、回数、 薬歴のどこが食い違っているか、腎機能の値と単位 と採血時点、アレルギー歴の中身。 「この薬でいいで すか」ではなく「ここが一致しません」と言えれば、 相手は数分で答えられる。 7.1 処方の前に患者と薬歴を確かめる 処方入力に進む前に、患者本人、記録、薬剤情報 が同じ人の情報を指しているか確かめる。入院時は 本人が持参した薬袋、お薬手帳、紹介状、診療録、本 人・家族からの聴取など、複数の情報源が一致する とは限らない。薬剤名や規格、飲み方、最終服用時 刻、処方元、実際に継続していたかを一つずつ確認 し、食い違いは「確認中」として残す。処方箋に記 載されていることと、患者が実際に使っていること は同じではない。 アレルギー欄に薬剤名だけが書かれている場合 には、どの症状がいつ起きたか、どの薬剤をどの状 況で使ったかを確認する。吐き気などの副作用と、 即時型の重い反応を同じものとして扱わない。とは いえ、研修医が一人で「アレルギーではない」と消 去したり、別の同系統薬を安全と断定したりもしな い。曖昧なら、過去の記録と患者の説明を示して上 級医・薬剤師へ相談し、確認した内容と残る不確実 性を記録する。 次に、今回の処方と既存薬を照合する。成分の重 複、同じ目的の薬の併用、相互作用、腎・肝機能、妊 娠可能性、年齢、体重、食事や嚥下の状況など、処 方に関係する条件を確認する。患者の状態によって 必要な項目は異なるため、決まり文句のチェックを 埋めるだけにしない。薬剤師による処方監査は研修 40 医の確認を代わりに担うものではなく、二重の確認 として働く。医薬品安全使用の手順書は、確認事項、 疑義照会、投与後の観察や情報共有を自施設の流れ に落とすために参照する。[20] 確認する情報源には限界もある。患者が持参した 薬袋は最近の処方変更を反映していないことがあ り、お薬手帳も市販薬や他院薬が抜けている場合が ある。電子カルテの「内服中」も、実際に服用した時 刻や中断理由までは示さないことがある。どれか一 つを絶対視せず、情報源ごとの記載日と確かさを確 認し、可能なら患者本人や家族、薬局、処方元に尋 ねる。確認できなかった点を「服用していない」と 記録しない。 処方内容は、名前だけでなく剤形・規格、経路、回 数、期間まで一続きで確認する。内服できない患者 に内服薬の継続を指示していないか、嚥下状態に合 わない剤形でないか、同じ成分の配合剤と単剤が重 なっていないか、頓用薬の使い方が明瞭かを患者の 状況に合わせて見る。薬剤の分割・粉砕や経管投与 の可否は、薬剤ごとの情報を薬剤師と確認する。入 力欄が埋まっていても、患者に実行できない指示な ら安全な処方とはいえない。[20] なお、ここで参照している医薬品安全使用の手順 書作成マニュアルは平成 30 年改訂版で、各施設が手 順書を見直す際の視点や例を示すものだと自ら述 べている。書かれた項目をそのまま一律に守る規則 ではなく、配属先で実際に何を誰が確認するかは、 その施設の現行の手順書で確かめる。[20] 処方を確定する前の照合 院内の方法で患者を識別した 持参薬の継続・中断と新規処方を区別した (入院時・病状変化時) 薬歴を複数の情報源で照合した(持参薬・お 薬手帳・電子カルテ・本人や家族) 。記載日と 確かさも見た アレルギー・副作用歴を、症状と状況まで確 認した 薬剤名・剤形・規格・経路・回数・期間を一 続きで確認した 重複(配合剤と単剤) ・相互作用を確認した
第 7 章 処方・抗菌薬・医療安全 腎・肝機能と、添付文書が参照する指標を確 認した 患者が実行できる指示か(嚥下・内服の可否・ 経管投与)を確認した 不一致・疑義は確定前に上級医・薬剤師・処 方元へ確認した 確認できなかった点は「未確認」と記録した ( 「服用なし」にしない) QUICK REFERENCE 処方時 (1) 患者・薬歴:薬袋/手帳/診療録/本人の 話が一致するか (2) 最終服用時刻、実際に飲んでいたか (3) アレルギー:何の薬で、どんな症状が、い つ (4) 重複・相互作用・腎肝機能・嚥下と剤形 (5) 剤形・規格・経路・回数・期間を一続きで (6) 目的/期待する変化/何で見るか/いつ誰 が見直すか (7) 不一致は「確認中」と記録、確定前に照会 根拠:[20] 注意|不一致を見つけたら確定前に確認する 患者の申告、薬剤情報、診療録、処方内容のいず れかが食い違う場合は、確認できた事実と不明 点を分ける。推測で薬歴を補正せず、処方前に上 級医または薬剤師へ具体的な確認を依頼する。 7.1.1 薬歴の食い違いを処方前に解く 「いつもの薬です」と説明されても、薬の種類や 量が分からないまま継続指示を出すことはできな い。薬袋がない、記録が古い、家族が別の用量を話 す、といった不一致は珍しくない。分かる範囲で薬 剤名、規格、服用状況、最終服用時刻を並べ、薬局 や処方元への照会が必要かを担当者に相談する。照 会中にどの薬を保留し、どの治療を先に進めるかは 患者の緊急度に応じて上級医と決める。 薬歴の照合は一度きりではない。入院時の情報が そろった時、手術や絶食が決まった時、腎機能や全 身状態が変わった時、退院処方を組む時にもう一度 確認する。中断した薬を再開するのか、入院中に追 加した薬を退院後も続けるのか、用量や期間は変わ るのかを説明し、患者が実際に使う薬の一覧に反映 する。変更理由と次の確認者が記録されていれば、 交代する診療チームも同じ計画を追いやすい。[20] 退院や転院の場面も照合の山場になる。Surviving Sepsis Campaign 2021 は、敗血症の患者のケア移行 時に、引継ぎと薬剤照合を行い、患者・家族に診断 や治療、起こり得る後遺症を説明することを実務項 目に含めている。敗血症に限らず、入院中に始めた 薬・止めた薬・量を変えた薬を退院処方と見比べ、そ の理由を次の医療者に渡す。[10] 7.2 薬を開始する理由とモニ タリングを一行にする 薬を開始する時は、処方内容と一緒に「何を治療 するのか」「何が改善すれば効果があったと言える か」 「どんな有害事象をいつ確かめるか」を言葉にす る。目的が決まっていれば、検査結果や患者の訴え を受けて継続・変更を相談しやすい。目的の記載が ないまま処方だけが残ると、退院や担当交代の後も 薬剤が自動的に継続されかねない。 観察項目は薬剤と患者に応じて決める。症状や身 体所見、検査値、血中濃度、食事状況、併用薬など が候補になる。監視の頻度・時点は全ての薬剤で共 通ではなく、用量、投与経路、病状、添付文書や院 内手順を確認する。何か異常が起きた時にだけ検査 するのではなく、開始前に基準となる状態と、次に 確認する時点を決めておく。 モニタリングは「採血をする」ことだけではない。 症状を尋ねる、投与が実際に行われたか確認する、 食事や排泄の変化を見る、薬を使った後の診察所見 を比べるなど、患者とチームから得られる情報を含 む。検査値を確認できない勤務帯や退院後にどうす るのかも計画に入れる。必要な確認を別の担当者に 依頼する時は、いつまでにどの結果を返してほしい かを具体的に伝える。見直し時点が決まっていない 処方は、継続の理由を後から再構成しにくい。 薬剤を中止・変更する場合も同じ考え方を使う。 副作用が疑われた時に、患者が実際に何を使ったか を確かめ、処方医へ連絡し、代替治療や観察計画を 相談する。効果が十分でないからと量を足す前に、 投与の実施状況、服薬・吸収、相互作用、診断の見 直しが必要かを確かめる。開始の根拠と同様に、続 けない判断にも理由と次の評価を記録する。[20] 一行の計画にするなら、「肺炎に対して経験的治 療を開始。酸素需要、発熱と培養結果を本日中に確 認し、明朝に継続・狭域化を上級医と再評価する」の ように、理由・見るもの・時点・担当を含める。これ は固定文型ではない。現場の記録様式に沿って、読 む人が処方の意図と未完了の確認を把握できる形 にする。処方後の効果や副作用を確認し、必要な情 報を診療チームで共有することは、薬剤安全手順に も含まれる。[20] 41
研修医総合ガイドライン 目的は何か。期待する変化は何か。有害事象や効 果を何で見るか。いつ誰が見直すか。この四つが曖 昧なままなら、確認してから処方を確定する。 7.3 感染症らしさと重症 度から抗菌薬を選ぶ 抗菌薬を考える前に、感染巣と患者の重症度を評 価する。発熱だけで感染症と決めたり、細菌感染が 疑われたことだけで広域薬を選んだりしない。発症 経過、症状、診察所見、画像・検査、免疫状態、基 礎疾患、最近の抗菌薬、過去の培養、デバイス、入 院歴など、患者について分かる情報を集める。感染 症以外の原因も考え、診断の確からしさと悪化の速 さを区別して共有する。 抗菌薬を始める場合、可能なら投与前に感染部位 に応じた適切な検体を採取する。血液培養、尿、喀 痰、創部など必要な検体は患者の状態と診断仮説に 合わせて選ぶ。採取の準備に時間がかかる、採取 が困難、または採取のために必要な治療が遅れると いった場合は、単独で抱えずに上級医へすぐ相談す る。検体を採ったかどうかだけではなく、採取部位・ 時刻・抗菌薬との前後関係、結果がいつ誰に届くか を確認する。 抗菌薬適正使用は、必要な患者に根拠のある選択 で始め、経過に応じて見直すことを指す。入院診療 向けの抗微生物薬適正使用の手引きは、感染臓器と 重症度、鑑別、検体採取、患者背景や既往培養、薬剤 歴、施設の耐性状況を踏まえた選択を示す。[15] 日 本版敗血症診療ガイドラインの各 CQ は、推奨の強 さやエビデンスの確実性、対象状況を区別して説明 している。[14] 開始の時間目標が条件付きであるこ とは、後の表で比べる。 検体のタイミングについて、手引きは抗菌薬投与 を始める前と、すでに抗菌薬を使っていて広域薬に 変更する前には血液培養を採取するとし、原則 2 セット以上を求めている。感染臓器が特定できない 場合も、血液培養 2 セットを採取するとしている。1 セットだけでは、後で検出された菌が汚染か原因菌 かを判断しにくくなる。[15] 薬剤の選択は、病巣・想定する病原体・重症度・患 者固有の耐性リスク・薬剤アレルギーや臓器機能・ 施設のアンチバイオグラムや院内指針を合わせて行 う。施設ごとに流行する耐性菌や推奨される初期治 療が異なるため、一般書の一覧をそのまま自施設の 処方に置き換えない。上級医に持っていくのは「何 を使いますか」ではなく、想定する感染巣、過去の 培養と最近の抗菌薬、アレルギーの中身、腎機能、そ 42 して自分が考えた候補薬とその理由だ。候補が外れ ていても、材料がそろっていれば相談は短く済む。 開始の速さについても、資料は条件を付けて述べ ている。手引きは、バイタルサインの異常から敗血 症、特に敗血症性ショックと判断した場合に可及的 速やかな抗菌薬投与を推奨する。Surviving Sepsis Campaign 2021 も、敗血症性ショックまたは敗血症 の可能性が高い場合には速やかに投与し、感染が確 かでない場合は感染性・非感染性の原因を迅速に再 評価し続けるよう求めている。つまり「発熱なら全 員すぐ」でも「培養が出るまで待つ」でもなく、 ショックの有無と感染の確からしさで判断の重み が変わる。[10, 15] 「念のため広く覆う」だけでは治療計画にならな い。広域薬を選ぶなら、何の病原体・耐性リスクを 想定しているのか、何を根拠にしたのか、データが 得られた後にどう見直すのかを説明できるように する。一方、重い感染が疑われる患者に必要な初期 対応を遅らせない。感染部位の評価や検体採取の準 備と、治療を急ぐ判断を並行させる。特定薬の網羅 範囲、組織移行性や投与設計の細部は、現在のガイ ドラインや院内資料を確認し、経験談だけから導か ない。[14, 15] 抗菌薬開始時は、患者・検体・薬剤が取り違えられ ないよう、採取ラベルとオーダーを確かめる。血液 培養など複数検体を採取する場合、採取の量や手技 は施設の採取手順で確かめる。培養採取を試みたが 難しかった、抗菌薬を先に投与した、検体の採取部 位に疑問があるなどの情報は、後で結果を読むチー ムにとって重要になる。検査依頼を出して終わりに せず、結果を誰が確認し、いつ診療に反映するかま で相談する。[15] 肺炎、尿路感染、皮膚・軟部組織感染などで必要 な検査と選択薬は異なる。成人肺炎診療ガイドライ ン 2024 の目次は、市中肺炎、医療・介護関連肺炎、 院内肺炎、人工呼吸器関連肺炎等の範囲や、検査・ 薬剤選択に関する臨床疑問を示す。本書では個々の 推奨には踏み込まない。具体的な肺炎治療を判断す る時は、ガイドライン本文の現行版と自施設の手順 を確認する。[21] 同ガイドラインの臨床疑問には、重症度評価のほ か、抗菌薬の選択・併用・投与期間・de-escalation も含まれる。肺炎でも「始める判断」と「見直す判 断」の両方が検討対象になっていることは覚えてお きたい。[21] 仮想場面:培養結果を待つ間の初期判断 入院中の患者に発熱と新しい呼吸状態の変化 があり、画像にも新たな陰影が見つかった。研
第 7 章 処方・抗菌薬・医療安全 表 7.1 成人敗血症で抗菌薬開始の判断が変わる条件。SSC 2021 は国際ガイドライン(本書は学会掲載の推奨ページに拠る)、 J-SSCG2024 は「敗血症と認知した後」の推奨で、SSC の「可能性がある」段階とは対象の切り方が異なる。どちらも「全員 に一律 1 時間」とはしていない。国内の運用は施設の方針と上級医で確かめる。 臨床状況(成人) SSC 2021 敗血症性ショックの可能性 がある、または敗血症の可 能性が高い 直ちに、理想的には認知か 認知後は可及的早期に開 ら 1 時間以内の投与を強く 始。ただし必ずしも 1 時間 推奨(確実性:ショックあ 以内という目標は用いない りで低、なしで非常に低) (弱い推奨、GRADE 2C) [10] [14] すぐ上級医と開始を決め る。培養採取との兼ね合い を相談し、選んだ理由を記 録する ショックはなく、敗血症の 可能性がある 感染性か非感染性かを迅速 に評価し(可能なら 3 時間 以内)、懸念が残れば認知 から 3 時間以内の投与を提 案 [10] 敗血症と認知したら可及的 早期に開始(一律の時間目 標は用いない)[14] 評価を急ぎ、感染の懸念が 残るかを上級医と判断する 感染の可能性が低く、 ショックがない 注意深く観察しながら抗菌 薬を保留することを提案 [10] この条件に限った推奨は本 書では扱っていない 観察項目・間隔と再検討の 条件を決め、看護師と共有 して記録する 開始前:情報をそろえる 決める 結果と経過で見直す 患者情報:経過・所見・画像 免疫状態・基礎疾患・最近の 抗菌薬・過去の培養・デバイス 感染部位の検体を 投与前に採取 困難ならすぐ相談 培養結果と経過で 上級医と再評価 重症度と 悪化の速さ 診断の 確からしさ J-SSCG2024 開始:選んだ理由と 見直し時点を記録 研修医の次の行動 継続 狭域化 変更 中止 感染症以外の原因も並べる 上級医と相談:急ぐか、 何をどこまでカバーするか 開始しない・保留: 観察と再検討の 条件を記録 期間は薬剤名だけで 標準日数を当てはめない 図 7.1 抗菌薬の開始前・開始/保留・結果と経過による見直し。薬剤名・用量・期間は施設の指針と上級医で確認する。 修医は患者をベッドサイドで再評価し、経過、酸 素需要、既往歴、服用薬、過去の培養結果を確認 する。採取できる検体を上級医と相談し、治療 を急ぐ病状か、何を想定しどこまでカバーする 必要があるかを伝える。薬剤を選んだ後は、培 養の結果と患者の反応をいつ見直すかも同時 に決める。 Before: 「肺炎っぽいので抗菌薬どうしますか」 After: 「新しい陰影と酸素需要の増加がありま す。血圧と意識は保たれています。過去の培養は この結果、最近の抗菌薬はこれです。血液培養 2 セットと喀痰を先に出したいのですが、開始を 急ぐ状態かを見てください」 後者は、ショックの有無、検体、見直しの材料 を最初から含んでいる。 QUICK REFERENCE 抗菌薬開始時 (1) ショックの有無/敗血症らしさ → 開始の急 ぎ方が変わる(表参照) (2) 血液培養:投与前・広域へ変更前、原則 2 セット以上 (3) 感染臓器に応じた検体も投与前に (4) 採取部位・時刻・抗菌薬との前後をラベル と記録に (5) 採れなかった・先に投与した → 申し送りに 明記 (6) 選んだ理由(想定病原体・耐性リスク)を 一行で (7) 見直し時点と担当を開始時に決める 根拠:[10, 14, 15] 43
研修医総合ガイドライン 注意|施設の方針と患者情報を照合する 地域・施設の耐性状況、過去の培養と感受性、最 近の抗菌薬使用、アレルギー、臓器機能を確認す る。一般的な薬剤表は院内指針や上級医・薬剤 師への相談を置き換えない。 7.3.1 診断確度と緊急性を分けて考える 「感染症かどうかまだ分からない」ことと、 「治療 を急ぐ病態かどうか」は別々の問いだ。診断の情報 が限られていても、急速な循環・呼吸の悪化や新た な臓器障害があれば緊急に対応し、上級医を呼ぶ。 状態が比較的安定している場合には、抗菌薬を開始 する利益と不利益、検体や画像などで診断を深める 方法、短時間で再評価できる条件を相談する。疑い の強さだけで待機を決めたり、病名の候補だけで投 与を決めたりしない。 敗血症の抗菌薬開始時期に関する推奨は、対象集 団や確実性を踏まえて読む必要がある。ガイドライ ンの CQ は、患者を認識した時点からの一律時間目 標を単純な処方指示として与えるものではない。上 級医に伝える順番は、①ショックがあるか(血圧・ 意識・灌流) 、②感染を疑う根拠と感染巣の候補、③ 培養は採れたか・いつ採れるか、④感染以外の原因 として何を考えたか、でよい。忘れやすいのは③と ④だ。[10, 14] 7.4 培養と経過で処方を見直す 経験的治療を開始したら、処方時の仮説を患者の 経過で確かめる。検体の結果だけでなく、症状、循 環・呼吸、検査所見、感染巣への処置、投与実績や有 害事象を見直す。培養陰性だから直ちに感染症を否 定する、あるいは培養陽性だから常に治療する、と いう単純な判断はできない。検体の質、抗菌薬投与 との前後関係、菌の量や患者の状態を合わせて解釈 する。 再評価では、「昨日と比べて改善したか」に加 えて「当初の診断仮説はまだ妥当か」を尋ねる。解 熱しても感染巣が残ることがあり、発熱が続いても 抗菌薬の失敗とは限らない。培養結果が診療像に合 うか、別の感染巣が見つかっていないか、膿瘍・閉 塞・感染器具など感染源の処置が必要でないかを確 認する。薬剤を変更する前に、患者の変化を時系列 にし、上級医や必要な専門科へ相談する。[14, 15] 原因微生物や感受性が分かれば、薬剤の狭域 化(デエスカレーション) 、変更、中止を検討する。 臨床的に感染が否定的になった場合、検体から定着 や汚染が考えられる場合、想定した感染巣が変わっ た場合も、開始時の薬を続ける理由を改めて点検す 44 る。一方で、患者の不安定さや検体の限界などから、 狭域化を直ちに選べないこともある。診断と患者反 応を基に理由を記録し、いつ次に判断するかを決め る。 適正使用の手引きは、開始後の臨床経過・検査結 果による再評価、培養に基づく狭域化や中止、感染 源コントロール、専門家への相談を扱う。日本版敗 血症診療ガイドラインも、各 CQ の推奨と根拠の 確実性を示し、検査やバイオマーカーの結果だけで 全例の抗菌薬中止を決めるよう求めるものではな い。抗菌薬を始めた理由と続ける理由は別々に確認 する。[12, 14, 15] 期間を決める時も、薬剤名だけで「標準の日数」を 当てはめない。感染部位、感染源コントロールの状 況、病原体、患者の反応、免疫状態、治療ガイドラ インの対象範囲を確認する。処方開始時には暫定的 な見直し時点を決め、情報が増えたら継続理由と終 了条件を明確にする。退院後まで治療が続くなら、 残日数、服薬方法、有害事象時の連絡先、フォロー アップの担当を患者と次の医療者に伝える。根拠を 確認せずに短縮・延長することは、どちらも避けた い。[15] なぜ狭域化にこだわるのか。手引きは、広域薬で 経験的治療がうまくいっていても、狭域薬で治療で き根拠がある疾患なら狭域薬へ変えることが望ま しいとする。広域薬の継続は薬剤耐性菌の発生、副 作用、急性腎障害、クロストリディオイデス・ディ フィシル感染症(CDI)の増加などとの関連が指摘さ れており、疾患ごとの第 1 選択薬の多くは狭域薬で ある。狭域化は一般に安全に行えると報告されてい る。 「効いているから変えない」ではなく、 「狭い薬 で足りるか」を毎回問う。[15] 耐性菌対策は、抗菌薬を必要な時に適切な薬剤・ 量・期間で使うことと結び付いている。厚生労働省 の適正使用資料は、不必要な投与と、適応があって も薬剤・用量・期間が標準から外れる不適切使用を 区別している。広域薬を「念のため」に続けること は、個々の患者にも医療全体にも無害とは限らな い。治療の必要性を定期的に見直す。[15, 22] 7.4.1 検査・培養を受け取る 培養結果の連絡を受けたら、菌名だけで治療を決 めない。入院編の手引きは「培養結果=真の原因微 生物とは限らない」とし、検出された菌の種類と、ど の検体から出たかを合わせて見るよう求める。 評価の時期について、手引きは入院患者の経験的 治療の効果判定と適正化を治療開始 72 時間後に行 うことを推奨し、その時点で細菌感染症の証拠がな ければ中止を検討するとしている。ただし 72 時間 以内でも状態が悪化すれば、原因臓器・微生物・薬
第 7 章 処方・抗菌薬・医療安全 表 7.2 抗菌薬を始めた後の見直しで確かめること(手引き[15]と SSC 2021[10]に基づく)。どの行も「検討する」判断で、自 動的な規則ではない。始めた理由と続ける理由は別々に確認する。 判断 確かめる情報 注意すること 相談先 継続 臨床経過、感染源コントロール の状況、培養・感受性、有害事 象 「効いているから変えない」では なく、狭い薬で足りるかを毎回 問う 上級医 狭域化 培養で原因菌と感受性が分かり、 検出菌が定着や汚染でないかを、 上級医・院内の感染症相談窓口 狭域薬で治療できる根拠がある 検体の種類と合わせて見る (院内手順で確認) 変更 状態の悪化、新しい感染源、有 害事象 予定した見直し時点より前でも、 上級医 悪化すれば見直す 中止を検討 治療開始 72 時間の時点で細菌感 染症の証拠がない、別の原因が 示されるか強く疑われる 検査値やバイオマーカーだけで 決めない。期間は薬剤名だけで 標準日数を当てはめない 上級医 表 7.3 培養結果を受け取った時の読み方(手引き入院編[15]の記載に基づく)。どの行も菌種・検体・臨床所見を合わせた判 断の出発点で、単独で治療の要否を決める規則ではない。 受け取った情報 手引きが示す読み方 研修医の次の一手 喀痰・尿などから菌が検出 定着菌(保菌)の可能性があり、耐 性菌でも定着なら治療対象とは限ら ない 臨床所見・グラム染色と照合し、上 級医と治療対象か相談する 尿培養から黄色ブドウ球菌 尿路感染より血流感染を検討すべき 所見 発熱や炎症反応があれば血液培養を 相談する 血液培養で黄色ブドウ球菌、グラム 陰性桿菌、カンジダ、肺炎球菌、A 群 β 溶血性連鎖球菌など 1 セットでも真の原因菌と考える 汚染として片づけず、すぐ上級医へ 報告する 血液培養で汚染菌になりやすい菌 (CNS、コリネバクテリウム属など) が 2 セット中 1 セット 汚染の可能性を考える。2 セット以 上で検出されたら真の原因菌として 治療を検討 採取状況を確認し、判断に迷えば再 検を相談する。症状が改善しなけれ ば再検のうえ治療開始を検討 血液培養が 1 セットのみ 汚染か否かの判断が難しい 次回から原則 2 セット以上の採取を 計画する 剤選択を再検討する。早く同定できる検査がある施 設では、その時点で適正化してよい。日々の診察は 続けたうえで、 「72 時間時点で何を決めるか」をあら かじめチームで共有しておくと、見直しが漏れにく い。[15] 「効いているか確かめるために培養を取り直す」 という発想にも注意がいる。手引きは、原則として 治療効果の判定のために培養を再検しないとし、例 外として感染性心内膜炎などの血管内感染症や、血 液から黄色ブドウ球菌やカンジダが検出された 場合を挙げ、これらでは治療開始後に血液培養を再 検すべきとしている。肺炎の喀痰や尿路感染の尿で は、グラム染色で菌の減少や消失を見て効果を判断 できる場合もある。再検やグラム染色の運用は検査 部門・上級医と確認する。[15] QUICK REFERENCE 抗菌薬見直し (1) 毎日:臨床経過、悪化なら 72 時間を待たず 再検討 (2) 72 時間時点:効果判定と適正化、証拠なけ れば中止を検討 (3) 培養:菌種×検体の種類(定着・汚染・真の 原因菌) (4) 原因菌判明 → 狭域薬で足りるか (5) 感染源コントロールは済んだか (6) 効果判定のための培養再検は原則しない (例外あり) (7) 続ける理由・次の判断時点を記録 根拠:[15] こうした個々の判断は、国の AMR 対策とつな がっている。厚生労働省は 2023〜2027 年のアクショ ンプランのもと、必要な場合に限り適切な薬剤を適 切な量と期間で使う方針を掲げ、2026 年 1 月付で抗 微生物薬適正使用の手引き第 4 版を外来・入院など の編に分けて公表している。古い版の手引きや旧版 45
研修医総合ガイドライン を基にした院内資料を見かけたら、版と日付を確認 する。[22] 7.5 腎機能・相互作用・ 要注意薬を確かめる 腎機能が低下した時の薬剤調整は、薬剤ごとの排 泄経路と添付文書が想定する腎機能指標を確認す る。標準化 eGFR、個別化 GFR、推算 Ccr を互いに読 み替えてはいけない。薬剤によって基準にする数値 や単位が異なるため、検査票の値をそのままどの処 方にも当てはめない。体格・筋肉量・病状の変化で 推算値の精度が気になる場合は、薬剤師・上級医に 確認する。[17] 腎排泄型薬剤では、腎機能低下に応じて一回量や 投与間隔を調整することがあるが、その具体策は薬 ごとに添付文書で確かめる。クレアチニン値が薬剤 や筋肉量の変化で動く場合にも、数値の変化だけで 腎機能の実変化と決めつけない。投与後の効果と副 作用、必要時の血中濃度モニタリングを組み込み、 調整後にも患者の反応を確認する。抗菌薬も腎排泄 の寄与や治療域が異なるため、同じ換算ルールを一 律適用しない。[17] 相互作用は、併用薬のリストを眺めるだけでは見 逃すことがある。吸収が妨げられる組合せ、腎機能 への影響が重なる組合せ、出血や低血糖など同種の 有害作用が重なる組合せを確認する。CKD 診療ガイ ド 2024 は、リン吸着薬と一部の抗菌薬とのキレート 形成、腎障害時の薬剤蓄積、併用薬への注意を挙げ ている。どの薬をどの時間間隔で使うかなど個別の 指示は添付文書と院内薬剤情報を参照する。[17] 高齢者、糖尿病、腎疾患など特別な背景を持つ患 者では、一般的な薬剤一覧で安全性が決まらない。 『高齢者の安全な薬物療法ガイドライン 2025』や入 院糖尿病診療の基準など、対象に合う現行資料があ る。本書では個々の薬の具体的推奨や目標値は扱わ ないので、実際の判断時にガイドライン本文・添付 文書・施設の承認済み手順を確認する。[23, 24] 糖尿病の入院患者に関する基準は、外来通院中の 治療計画をそのまま続けることが常に適切とは限 らないことを示す領域の一例である。食事摂取、絶 食、手術、感染、ステロイド投与などによって治療や 観察の条件が変わるため、入院用の指示・オーダー セットと患者の状態を確認する。具体的な血糖目標 やインスリン量は診療状況と現行のガイドライン、 施設手順に照らして担当医に確認し、本章では一律 の数値を処方例として示さない。[24] 一方で、この基準自体は入院時の評価についての 推奨も含む。たとえば、直近 3 か月以内の結果がな 46 ければ、糖尿病または高血糖で入院した患者には HbA1c の測定を推奨している。持参薬の確認と同じ く、入院前の治療がどの程度コントロールされてい たかを把握することが、入院中の指示を考える出発 点になる。なお、これは米国糖尿病学会の 2026 年版 基準であり、国内の保険・施設運用は別に確かめる。 [24] 高齢者に処方する場合も、薬剤の一覧で機械的に 「止める」 「続ける」を決めない。治療目的、本人の 症状と価値観、既往歴、他の薬、腎機能、転倒や認 知機能などの状態を担当チームで検討する。処方判 断時にはガイドライン全文と患者個別の事情を直 接確認する。[23] 注意|腎機能値から単独で用量を決めない 薬剤の添付文書が参照する式・単位を確かめ、 体格、筋肉量、病態、併用薬、検査値の時間経 過と合わせる。曖昧なら処方を確定する前に上 級医・薬剤師へ照会する。 7.5.1 薬剤ごとの腎機能指標を確かめる 腎機能の読み分けは第 6 章 で扱った。処方の場面 では、次の順で確かめると迷いにくい。 (1) 薬剤の排泄経路:腎排泄の寄与が大きい薬か。 CKD 診療ガイド 2024 は、可能なら腎排泄型で ない代替薬や腎排泄の寄与が小さい薬を選ぶ ことが望ましいとしている。 (2) 添付文書の指標:推算 Ccr、標準化 eGFR、個別 化 GFR のどれで区分されているか。多くの添付 文書は Cockcroft–Gault 式の推算 Ccr で設定さ れているが、例外もある。 (3) 患者の条件:体格、筋肉量、腎機能の推移、ク レアチニンに影響する併用薬。 (4) 投与後の監視:腎機能別の用量は目安であり、 効果と副作用を見て必要なら見直す。治療域の 狭い抗菌薬では TDM を考慮する。 この順序のどこかで判断に迷えば、処方確定前に 薬剤師や腎臓専門医へ相談する。[17] 7.6 誤り・疑義・有害事 象に気づいたとき 処方・調剤・投与の誤りや有害事象に気づいた ら、最初に患者の状態と実際に起きたことを確かめ る。薬剤名、規格、投与量、経路、時刻、患者の症 状を整理し、処方を一人で書き換えて問題を閉じな い。上級医・薬剤師・看護師など必要な相手へ速や かに連絡し、患者に必要な観察や処置をチームで決 める。緊急性があれば、通常の記録作業より患者の 評価と応援要請を先に行う。
第 7 章 処方・抗菌薬・医療安全 処方の疑問を早く言葉にすることは、研修医に求 められる能力の一部でもある。現行の臨床研修の到 達目標は、患者の状態に合わせた最適な治療を安全 に実施すること、医療の質と患者安全の管理を資 質・能力として掲げている。[2] 疑義照会では「この処方は違うと思います」だけ でなく、何が不明か、添付文書・検査値・薬歴のどこ が一致しないか、患者にどのような懸念があるかを 伝える。返答を復唱し、処方変更や保留の内容、実 施者、次の確認時点を共有する。患者・家族への説 明が必要な場面でも、研修医一人で説明方針を決め ず、担当医と施設手順に従う。 誤りを報告することは、責任を他人に移すためで はない。患者に生じた影響を確かめ、再発防止に必 要な事実を集めるための診療上の対応だ。患者や家 族への説明、院内報告、記録の書き方やタイミング は、事案と制度、施設の規程によって異なる。事実と 推測を分け、記録を後から書き換えず、患者対応に 必要な情報を担当医と医療安全部門へつなぐ。事例 報告を懲罰や個人評価の場と決めつけて萎縮せず、 まず院内の相談先を確認する。[20, 25–27] 厚生労働省が説明する医療事故情報収集等事業 は、事故等事案やヒヤリハットを集めて分析・共有 する制度である。個々の職員が患者対応を優先し、 所属施設の規則に従って報告することと、制度上の 事例区分・報告対象を混同しない。院内のどの窓口 へいつ報告するか、どの記録様式を使うかは施設の 医療安全管理体制で確認する。[25–27] 制度上の報告の範囲も一律ではない。医療事故情 報収集等事業のページによれば、医療法施行規則に 基づき一定の病院には事故等事案の報告が義務づ けられ、その他の参加施設は任意参加である。ヒヤ リハットの報告も参加は任意で、件数のみか事例情 報まで出すかを選べる。自分の施設がどの立場にあ るかは医療安全管理部門に確かめる。[26] 感染予防も薬剤の安全使用と同じく、患者単位の 実務に組み込む。手指衛生、個人防護具、注射・薬 剤の取扱い、機器や環境の清潔、感染が疑われる患 者の配置や連絡は、病原体・処置・施設の手順に応 じて行う。CDC の基本実践は医療提供の複数の場に 共通する基礎をまとめ、WHO や厚生労働省の資料 は感染予防・管理と施設間の連携を扱っている。個 別の実施項目は、各資料の現行本文と院内規程で確 認する。[28–31] CDC の中核実践は、医療の種類や場所にかかわら ず、医療を提供するすべての環境に適用することを 意図し、患者や感染性物質に直接・間接に触れ得る 職員を有給・無給を問わず対象に含めている。研修 医も例外ではない。国際的にも、WHO の感染予防・ 管理の世界行動計画・モニタリング枠組み(2024〜 2030 年)が 2024 年の世界保健総会で承認され、各国 の改善に向けた行動と指標を示している。[30, 31] 研修医が日常的に遭遇する場面では、患者ごとに 必要な予防策を看護師や感染制御担当者へ確認し、 標準予防策を基礎に施設の掲示・手順を確認する。 新しい抗菌薬を始める時には、適応と培養だけでな く、投与経路や薬剤の準備が施設の注射安全手順に 沿っているかを見る。手順が分からない、隔離区分 や防護具が判断できない場合には、自己流で進めず 担当部署に確かめる。[28, 31] 投与後の誤りに気づいた時 患者を確認:患者の状態、実際に投与された 薬剤・量・時刻を確かめる。 連絡:上級医、薬剤師、看護師など必要な担 当者へ速やかに伝える。 計画:観察・処置、処方の保留や変更、患者 への説明方針をチームで決める。 記録・報告:施設手順に沿って事実と対応を 記録し、必要な医療安全報告を行う。 次に取る行動 患者に必要な初期対応を実行し、上級医・薬剤 師に報告する。投与内容と経過を記録し、施設 の報告窓口・手順を確認する。 7.6.1 誤りに気づいた直後の患者確認 誤りに気づいた瞬間は、報告の文面よりも患者が 先だ。ベッドサイドに行き、意識・呼吸・循環と、投 与された薬で起こり得る症状を確かめる。まだ投与 が続いていれば、止めるべきかをすぐ指示医に確認 する。次に、実際に使われた薬剤・量・経路・時刻 を、処方・投与記録・残った薬剤で照合する。 研修医「〇号室の〇〇さんですが、指示と異なる 規格の薬が投与された可能性があります。現在 の意識と呼吸・循環は安定しています。投与時刻 と量を看護師と確認中です。観察と対応の指示 をお願いします。」 事実が確定していない段階でも、分かっているこ とと確認中のことを分けて早く伝える。ヒヤリハッ トには、患者に実施される前に見つかった誤りや、 影響がなかった・軽微だった事例も含まれる。未然 に止められた誤りも、施設の手順に沿って共有する 価値がある。[26] こうした行動は個人の心がけにとどまらない。臨 床研修の到達目標は、医療の質と患者安全の重要性 47
研修医総合ガイドライン を理解して評価・改善に努めることや、日常業務の 一環として報告・連絡・相談を実践することを掲げ ている。WHO も、薬剤に関連する害を減らす取り組 み(Medication Without Harm)を患者安全の主要な 柱として示している。[2, 29] 医療安全や感染対策の公的ページには、通知や研 修資料、指針へのリンク集も多い。リンク先の中身 は、使う時に本文で確かめる。日本高血圧学会の 2025 年版や高齢者薬物療法のガイドラインも、対象 患者に関係する時は最新の全文を直接確認する。 [32] 参照先の性格を知っておくと、探すのが速くな る。たとえば日本高血圧学会の 2025 年版は、国民の 血圧管理、患者の管理・治療、特殊病態・二次性高血 圧の 3 部で構成され、実地医家やチーム医療者が具 体的な行動につなげやすい簡潔な推奨を作成方針 に挙げている。WHO の患者安全ページも、類似名称 薬、薬剤関連の有害事象、患者・家族の参加、インシ デントの報告と学習といった刊行物を一覧にして いる。取り違えやすい薬剤名への注意や、患者自身 に薬の変更を確かめてもらう工夫は、こうした資料 の本文と院内の取り組みを合わせて学ぶ。[29, 32] 薬剤の安全は、正しい薬を正しい量で処方するこ とにとどまらない。本人の薬歴を確かめ、処方の目 的と監視を明示し、投与後の反応を追って、誤りや 不明点を早く共有する。次章第 8 章では、こうした 経験をローテーション中の学習目標、患者の経過、 フィードバックへつなげる。 48
第 8 章 ローテーションで学びを残す 第8章 ローテーションで学びを残す この章は読み物ではなく、翌日から使う道具箱と して置く。初日の 5 分、毎日の数行、週に一度の見 返し、最終日の棚卸し。どれも紙 1 枚かメモ数行で 回せる形にした。 ローテーションで身につくのは、症例数より「次 にどう動くか」だ。忙しい日は、気づいたことを一 つの行動に変えるだけでよい。相談の仕方や未確認 を残さない原則は第 1 章の原則どおりで、ここでは 繰り返さない。 テンプレートや目安の時間は本書の提案であり、 特定施設の必須運用ではない。制度上の到達目標と 評価方法は、改正後の厚生労働省資料と自施設のプ ログラムで確認する。[1, 2, 33] 8.1 ローテーション初日に 目標を小さく決める 「循環器を学ぶ」では広すぎて、誰も観察できな い。 「胸痛患者で重要な病歴と初期評価を整理し、上 級医に自分の考えを説明する」なら、明日の診療で 試せて、助言ももらえる。学習目標は知識の量では なく、患者の前で見える行動にしておく。 題材は、その科で頻度の高い症候や頻度の高い疾 患から選ぶ。臨床研修の基本理念そのものが、将来 の専門にかかわらず、一般的な診療で頻繁に関わる 負傷や疾病に適切に対応できる基本的な診療能力 を求めている。珍しい疾患は出会えば学べばよく、 目標の中心には次の部署でも使える課題を置く。[2] QUICK REFERENCE ローテ初日 5 分テンプレート 表 8.1 聞く・書くこと メモ欄 主な担当患者層・よく出会う症候 病棟以外の機会(外来・救急・処置・カ ンファ) 評価者・時期・方法 手術中・外来中など、つながりにくい時 の連絡先 中間見直しの日 今回の目標(観察できる行動で 1〜2 個) 答えは科と施設で変わる。先輩の体験談は雰囲気 をつかむ手掛かりにとどめ、今の配属先の運用は指 導者と院内の案内で確かめる。すべての症例に出 会えるとは限らないので、代替の機会やシミュレー ションの有無もこの時に聞いておくと後で慌てな い。 8.1.1 初日に指導者へ伝える 3 行 目標は頭の中に置くより、短く言って共有した方 が観察してもらえる。挨拶の流れで言える長さにす る。 ◾︎ 伸ばしたいこと:例「入院時の問題リストを自分 で作り、優先順位の理由を説明する」 ◾︎ 今の状態:例「病歴は取れるが、検査の選び方の 理由づけが弱い」 ◾︎ 見てほしい場面:例「今週の新規入院 1 例のプレ ゼンで、鑑別の順番に助言がほしい」 よくあるつまずきは四つ。大きすぎる(「内科を一 通り」 )、数だけ(件数は残っても何ができるように なったかが残らない)、自分だけ(伝えていないので 観察されない)、固定したまま(担当が変わっても初 日の目標にしがみつく) 。どれも、中間見直しの日を 初日に決めておけば早めに気づける。見直しの時期 や方法は各プログラムの案内で確認する。 49
研修医総合ガイドライン 表 8.2 広い学習希望を、観察・助言・次の試行ができる小目標に書き換えた例。 広い願い 観察できる小目標 試す場面 指導者に頼む確認 「循環器を学ぶ」 胸痛患者で重要な病歴と初 期評価を整理し、上級医に 自分の考えを説明する 胸痛で受診・入院した担当 患者 抜けていた病歴や評価を一 つ指摘してもらう 「発表がうまくなりたい」 最初の一文で依頼を言い、 判断に要る情報だけで症例 を提示する 回診・カンファレンスでの 提示 「最初の一文で依頼を言えて いたか」 「要らなかった情報 はどれか」を尋ねる 「患者説明に慣れたい」 検査・治療の説明への同席 理解の確かめ方について具 体的な助言をもらう 説明に同席し、患者の理解 を確かめる言葉を一つ使っ てみる 入院時 情報の更新 治療の修正 退院準備 退院・申し送り 主な問題と 最初の見立て 検査結果と 経過 治療の修正と 再評価 生活背景と 家族への説明 次の担当者へ 申し送る 問い 問い 問い 問い 問い 何を根拠に 仮説を置いたか どの仮説を支持し 何を除外しないか 昨日の判断から 何が変わったか 退院後に 誰が何を見るか 次の担当者に 残す不確実性は 何か 図 8.1 仮想の入院経過に置く学習上の問い。診療上の判断は担当チームの指示に従う。 8.2 担当患者の経過を追う 一人の患者を入院から退院・転院まで追うと、診 断名より「情報が増えるたびに何が変わったか」が 残る。見学で終わらせないために、毎日一つだけ問 う。昨日の判断から何が変わったか。この結果はど の仮説を支持し、何を除外しないか。次の担当に残 す不確実性は何か。答えを思いついても自分だけで 方針を変えず、上級医へ持ち込む。 救急外来や一般外来で診た患者も、許可された範 囲で後から記録を見返すと、初診の見立てがどう扱 われたかが分かる。担当外の記録を開く時は施設の 閲覧ルールに従う。 次の図は治療アルゴリズムではなく、経過を追う 時の学習上の問いを並べた仮想例である。症状の評 価や治療の決定は担当チームの指示に従う。 患者経過が予想と違う方向へ進んだ時は、学びが 一番大きい。 「最初の見立てが誤りだった」と急いで 結論せず、下の型で時点ごとに並べる。個人の責任 探しではなく、チームの診療を振り返る目的で指導 者と話す。 QUICK REFERENCE 症例振り返りテンプレート (1) 入院時の見立て:最重要の問題と根拠 (2) その時手元にあった情報/なかった情報 (3) 変化点:見立て・計画が変わった日と、変 えた情報 (4) 別の判断ができたとしたら、何がいつあれ ば (5) 退院時の残課題:誰に何を引き継いだか (6) 次の患者で早めに確かめること(1 つ) 制度上も、経験すべき症候や疾病・病態は、日常 業務で作る病歴要約などで確認するとされる。要約 には病歴、身体所見、検査所見、アセスメント、プ ランなどを含め、患者を同定できない形で残す。上 の型の 1・3・5 は、そのまま要約の骨組みになる。様 式や提出方法、PG-EPOC など記録システムの使い方 は施設ごとに異なる。[1, 2] 記録の型や症例提示の組み立ては記録とプレゼ ンの章、未完了業務の追い方は病棟業務の章に任せ る。 8.3 フィードバックを次の行動に変える 「今日の発表はどうでしたか」と聞くと、 「よかっ たよ」で終わりやすい。見てほしい一つの行動を先 に言えば、指導者も答えやすい。自分の評価と指導 50
第 8 章 ローテーションで学びを残す 表 8.4 広い頼み方と、行動を示す頼み方の例。 広い頼み方 行動を示す頼み方 「何か改善点はありますか」「今朝の報告で、状態変化を先に言えていたか見てください」 「プレゼンどうでしたか」 「鑑別を 3 つに絞った理由が伝わったか教えてください」 「もっと勉強します」 「明日の新規入院で、検査を出す前に自分の問いを一文で伝えます」 者の観察が食い違ったら、どの発言や所見からそう 受け取ったかを尋ねる。理由が分かると、再現した い行動と変えたい行動を選べる。 制度の側では、研修医評価票によるローテーショ ンごとの評価と、プログラム責任者・研修管理委員 会委員による形成的評価(フィードバック)を少な くとも年 2 回行うことが定められている。これは 日々の助言を年 2 回に限るという意味ではない。研 修評価は評価票の記入で終わらせず、次の目標の材 料にする。[2] 評価票は医師だけでなく医師以外の医療職も記 載する仕組みである。看護師や薬剤師に「指示の出 し方で困ったことはなかったか」と聞くと、医師の 視点では見えない改善点が出てくる。[1, 2] QUICK REFERENCE 指導医へのフィードバック依頼 表 8.3 いつ 言い方の型 事前(朝・提示の前)「今日の○○で、△△がで きているか見ていただけ ますか」 直後(数分で) 「△△はどうでしたか。一 つ直すならどこですか」 次の機会の後 「前回の助言どおり□□に 変えました。変わってい ましたか」 職種を変えて 「指示や連絡で困ったこと はありませんでしたか」 見てほしい行動を 一つ指導者に伝える 次の患者で試し 再び確かめる 診療で行い 観察してもらう 1回に1つ 次の場面で試す ことを一つ決める 具体的な助言と 判断の理由を聞く 図 8.2 観察・助言・次の試行をつなぐ循環。評価の時期と 書式は所属プログラムの案内に従う。 8.3.1 次の患者で試し、もう一度助言を得る 助言は全部一度に直そうとしない。次の患者で試 す行動を一つに絞り、試したら同じ指導者にもう一 度見てもらう。うまくいかなければ、能力だけを責 めず、時間や情報の条件も見直す。記録するなら「よ かった」 「不十分」といった評価語ではなく、場面・ 観察された行動・次に試すことを短く残す。共有す る時は、患者を特定できる不要な情報を含めない。 [1, 2] 診た直後に短く振り返る型は、一般外来で特に回 しやすい。2024 年度版の指導ガイドラインは一般外 来研修の方略例として、研修医が診察した患者を指 導医に報告し、診療終了後に指導医と振り返り、指 導内容を診療録に記載する形を示している。この型 は病棟や救急でもそのまま使える。[1] 厳しい指摘に納得できない時は、その場で反論を 組み立てるより、観察された事実を確かめ、後で自 分の記録と照らす。受け止め方や指導の方法そのも のに困ったら、プログラム責任者やメンターなど別 の窓口を使ってよい。指導体制には、指導医・上級 医のほか、プログラム責任者、研修管理委員会、医 師以外の指導者、メンターなどの役割が整理されて いる。[1] 8.4 勤務後の短い省察 長い反省文は要らない。記憶が新しいうちに、事 実・判断・結果を分けて数行。後から知ったことを、 51
研修医総合ガイドライン 表 8.6 到達目標で扱われる領域と、病棟で観察しやすい行動の例(右列は本書の提案)。 到達目標で扱われる領域の例 病棟での観察しやすい行動の例 臨床推論・問題対応 新規入院で鑑別を挙げ、検査を選ぶ理由を説明する 診療記録 事実と解釈を分けて経過を書き、変化点を残す コミュニケーション 患者・家族への説明に同席し、理解を確かめる言葉を学ぶ チーム医療・安全管理 指示の意図を他職種に伝え、報告・連絡・相談を遅らせない 生涯学習 疑問を一つ調べ、次の患者で使えたか確かめる 当時知っていたかのように書き換えない。疲れ切っ た日は翌朝の相談事項を一行だけでよい。患者名や ID は書かず、施設が認める場所に残す。 場面:夕方の発熱の報告を受けた(事実) その 時の判断:感染を第一に考え、上級医へ相談し た(判断)その後:上級医は薬剤性も挙げた。自 分は薬歴を確認していなかった(結果) 次に試 すこと:発熱の報告を受けたら、相談前に直近の 投薬変更を確認する この例の医学的判断は仮想であり、実際の評価手 順は担当チームと各実務章に従う。 同じ種類のつまずきは、一回ごとのメモでは見え ない。そこで「弱点ログ」を一枚だけ別に持ち、省 察の中で繰り返しそうなものだけを移す。3 回目の 記入があった項目は、次の目標か指導者への頼みご との候補になる。 QUICK REFERENCE 自分の弱点ログ 表 8.5 列 書く内容(1 行) 日付・場面 例:夜の報告、新規入院 つまずき 例:薬歴を見ずに相談した 回数 正の字で足す 次の対策 行動で 1 つ 確かめた人 指導医・同期・他職種 8.4.1 週に一度、数分で見返す 毎日のメモは断片なので、週に一度だけ束ねる。 決まった曜日の短い時間に固定した方が続く。長時 間勤務の後に省察を積み増すより、勤務時間や体調 を優先し、負担が大きい時は相談する。[1] 52 QUICK REFERENCE 週 1 レビューシート (1) 目標に近い経験:今週 ___ 回(場面を 1 つ書 く) (2) 弱点ログで増えた項目 (3) もらった助言と、試した結果 (4) 目標を書き換えるか(大きすぎ/機会なし) (5) 来週、指導者に見てほしい場面を 1 つ (6) 経験したが未記録の項目はないか 目標は評価のための約束ではなく、学びの向きを 決める道具なので、合わなければ書き換えてよい。 8.5 制度の到達目標と現 場の経験をつなぐ 到達目標には、プロフェッショナリズム、医学知 識と問題対応、診療技能、コミュニケーション、チー ム医療、医療の質と安全、生涯学習などが含まれる。 評価は知識試験だけでなく、一般外来・病棟・初期 救急・地域医療など基本的診療業務の経験を含めて 行う。[1, 2] 版の区別が要る。医師臨床研修指導ガイドライン 2024 年度版(2024 年 12 月一部改訂)は、到達目標 の構成や評価の実務、PG-EPOC の概要を詳しく解説 しており、読み物として役立つ。一方、厚生労働省 の臨床研修制度のページには、2026 年 3 月 31 日に 一部改正された施行通知と、別添「臨床研修の到達 目標、方略及び評価」 、改正概要、新旧対照表が掲載 されている。制度要件はまず改正後の一次資料で確 かめ、ガイドラインの解説は食い違わない範囲で使 う。[1, 2, 33] 右の列は本書の提案で、公式の評価項目そのもの ではない。評価票の項目と水準は改正後の公式文書 と自施設の評価方法で確認する。[2] 必修分野の週数も版を分けて読む。旧版にあたる 2024 年度版指導ガイドラインは、研修期間を原則と して 2 年間以上とし、内科 24 週以上、救急 12 週以 上、外科・小児科・産婦人科・精神科・地域医療を各 4 週以上(これら 5 分野は 8 週以上が望ましい)、一 般外来 4 週以上(8 週以上が望ましい)と解説してい
第 8 章 ローテーションで学びを残す 表 8.7 制度上の到達目標・施設の研修計画・個人の短期目標の違いと確認先。施設ごとの運用は院内手順で確認する。 層 何を定めるか どこで確かめるか 相談先 制度上の到達目標 研修修了時に目指す水準と評 価の枠組み 厚生労働省の現行の施行通知 と到達目標(改正の時点を確 認) 研修管理部門・プログラム責 任者 施設の研修計画 ローテーションの順番、必須 経験の時期、評価の方法と書 式 自施設のプログラム案内・評 価システム プログラム責任者・研修管理 委員会 個人の短期目標 このローテーションで今週試 す、観察できる行動 日々の診療と指導者の観察 指導医・上級医、メンター る。[1] 2026 年 3 月 31 日改正後の別添でも、研修期間 は原則として 2 年間以上、必修分野の週数は同じ数 値で記載されており、地域医療は原則として 2 年次 に行うとされている。[2, 33] 各分野を何年次に、ど の順序で、どの施設で回るかはプログラムごとに異 なる。配属表を見る時は、 「必修を満たすか」だけで なく「その期間に何を学ぶか」を初日のテンプレー トにつなげる。 8.5.1 経験機会が足りないときは相談する 未経験に気づいたら、まず記録と評価システムで 本当に未経験かを確かめる。 「やったはず」 「まだ足 りない」を記憶で決めない。相談では「この症例が ありません」で止めず、どの到達目標に関係するか、 近い経験はあったか、残りの配属のどこで機会があ りそうかまで添える。代替の方法や時期は施設と指 導者が決める。特定施設のやり方を全国標準として 語らない。[1, 2, 33] 評価は、ローテーション終了時の評価、少なくと も年 2 回の形成的評価、2 年間の研修終了時の研 修管理委員会による評価という流れで定められて いる。未経験に早く気づけば、形成的評価の場で計 画を直せる。後半にまとめて探すより、各ローテー ションの最終日に一度確かめる方が負担は小さい。 選択期間を決める時も、この棚卸しと本人の関心を 並べてプログラム責任者と相談する。[2] 必須経験が足りないと気づいたら 仮想の場面:ローテーションの終わりに評価シ ステムを見返すと、ある症候の経験がまだ記録 されていなかった。 ◾︎ 事実:どの項目が未経験か。経験したが記録 していないだけではないか ◾︎ 目標:公式の到達目標ではその項目をどう表 しているか ◾︎ 相談先:指導医か研修管理の担当者。代替の 機会やシミュレーションがあるか ◾︎ 次の機会:残りの配属のうち、出会えそうな 部署と時期(院内の案内で確認) 8.5.2 次の部署へ持ち越す 最終日は、患者の引継ぎとは別に、自分の学習の 引継ぎを作る日だ。前の指導者のコメントで繰り返 し出た点は、そのまま次の目標にしてよい。科が変 わっても、報告の組み立て、経過の追い方、相談のタ イミングは持ち越せる。次の指導者への一言は、こ の程度の短さで足りる。 「前の科では、入院時の問題リストの優先順位づ けを練習しました。経過の変化点を報告で先に 言うことはまだ不安定です。ここでは、新規入院 の報告を一度聞いていただき、優先順位の説明 に助言をいただけますか」 ローテ最終日のチェックリスト 評価システムで経験済み項目を確かめ、未記 録分を入力した 未経験・不確かな項目を到達目標の言葉で書 き出し、相談先を決めた 病歴要約など提出物の期限を確かめた(様式 は院内の案内で) 評価票・コメントを読み返し、繰り返し指摘 された点を弱点ログへ移した できるようになったこと/まだ不確かなこ と/次に試すことを 1 つずつ書いた 次の指導者に観察してほしい場面を一文に した 未解決の疑問と、誰に聞くかを決めた 次の一歩 次の初日に、5 分テンプレートと 3 行の目標 を持って行く 担当患者 1 人を選び、症例振り返りテンプ レートで経過を追う 助言を一つ選んで次の患者で試し、同じ指導 者にもう一度確かめる 53
研修医総合ガイドライン 参考文献 引用文献 [1] 厚生労働省研究班, 厚生労働省医政局医事課医師臨床研修 推進室. 医師臨床研修指導ガイドライン-2024 年度版-. 医 師臨床研修指導ガイドライン, 厚生労働省, 2024 年 12 月. https://www.mhlw.go.jp/content/001364766.pdf (参照 2026 年 9 月 29 日). [2] 厚生労働省. 臨床研修の到達目標、方略及び評価. 厚生労働 省 医師臨床研修関連資料, 厚生労働省, 2026 年 3 月 31 日. https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001681348.pdf (参照 2026 年 9 月 29 日). [3] American Medical Association. AMA Code of Medical Ethics. AMA Code of Medical Ethics website, American Medical Association, 日付なし. https://www.ama-assn.org/ delivering-care/ethics/code-medical-ethics-overview (参照 2026 年 9 月 29 日). [4] 厚生労働省. 医師の働き方改革. 厚生労働省 健康・医療, 厚 生労働省, 日付なし. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunits uite/bunya/kenkou_iryou/iryou/ishi-hatarakikata_34355. html (参照 2026 年 9 月 29 日). [5] 厚生労働省. 診療情報の提供等に関する指針. 厚生労働省 医 療審議会資料, 厚生労働省, 日付なし. https://www.mhlw.go. jp/shingi/2004/06/s0623-15m.html (参照 2026 年 9 月 29 日). [6] Agency for Healthcare Research and Quality. Guide to Patient and Family Engagement in Hospital Quality and Safety. AHRQ Patient and Family Engagement, Agency for Healthcare Research and Quality, 日付なし. https://www. ahrq.gov/patient-safety/settings/hospital/resource/guide. html (参照 2026 年 9 月 29 日). [7] 厚生労働省. 医療情報システムの安全管理に関するガイドラ イン 第 7.0 版(令和 8 年 6 月). 厚生労働省 健康・医療・ 介護情報利活用検討会, 厚生労働省, 2026 年 6 月. https:// www.mhlw.go.jp/stf/shingi/0000516275_00006.html (参照 2026 年 9 月 29 日). [8] Agency for Healthcare Research and Quality. TeamSTEPPS 3.0. AHRQ TeamSTEPPS Program, Agency for Healthcare Research and Quality, 日付なし. https://www.ahrq.gov/ teamstepps/index.html (参照 2026 年 9 月 29 日). [9] 一般社団法人 日本蘇生協議会. JRC 蘇生ガイドライン 2025. JRC 日本蘇生協議会, 一般社団法人 日本蘇生協議会, 2025 年 10 月 22 日. https://www.jrc-cpr.org/jrc-guideline-2025/ (参 照 2026 年 9 月 29 日). [10] Laura Evans, Andrew Rhodes, Waleed Alhazzani, et al. Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock 2021. Critical Care Medicine, 49(11), e1063–e1143, Society of Critical Care Medicine, 2021 年 11 月. https://www.sccm.org/clinicalresources/surviving-sepsis-campaign-guidelines-2021 (参照 2026 年 9 月 29 日). [11] 一般社団法人 日本集中治療医学会. ガイドライン・指針等 |日本集中治療医学会. 日本集中治療医学会 機関誌・刊行 物, 日付なし. https://www.jsicm.org/publication/guideline. html (参照 2026 年 9 月 29 日). [12] 日本集中治療医学会, 日本救急医学会. 日本版敗血症診療 ガイドライン 2024 初期治療とケアバンドル. 日本版敗血症 診療ガイドライン 2024, 日本集中治療医学会・日本救急医 学会, 2024 年. https://www.jaam.jp/info/2024/files/bundle. pdf (参照 2026 年 9 月 29 日). [13] 日本集中治療医学会・日本救急医学会合同委員会. 「日本 版敗血症診療ガイドライン 2024 (J-SSCG2024)」正式版 公開 のお知らせ. 日本救急医学会 お知らせ, 日本救急医学会, 日 付なし. https://www.jaam.jp/info/2024/info-20241118.html (参照 2026 年 9 月 29 日). [14] 日本集中治療医学会, 日本救急医学会. 日本版敗血症診療 ガイドライン 2024 付録(CQ2-3 掲載 PDF;複数 CQ 収録). 日本版敗血症診療ガイドライン 2024 付録, 日本集中治療医 学会・日本救急医学会, 2024 年. https://pre.jaam.jp/info/ 2024/files/J-SSCG2024_CQ2-3.pdf?v=20240821 (参照 2026 年 9 月 29 日). 54 [15] 厚生労働省 健康・生活衛生局 感染症対策部 感染症対策課. 抗微生物薬適正使用の手引き 第四版 医科・入院編. 抗微生 物薬適正使用の手引き 第四版, 厚生労働省, 2026 年 1 月 16 日. https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001630904. pdf (参照 2026 年 9 月 29 日). [16] 厚生労働省医薬食品局血液対策課. 「輸血療法の実施に関 する指針」 (改定版). 厚生労働省 血液事業の情報ページ, 厚生労働省, 2005 年 9 月. https://www.mhlw.go.jp/newinfo/kobetu/iyaku/kenketsugo/5tekisei3a.html (参照 2026 年 9 月 29 日). [17] 日本腎臓学会. CKD 診療ガイド 2024 第 12 章「薬物療法の 注意」. CKD 診療ガイド 2024, 日本腎臓学会, 2024 年. https://cdn.jsn.or.jp/data/gl2024_ckd_ch12.pdf (参照 2026 年 9 月 29 日). [18] 日本腎臓学会. 「CKD 診療ガイド 2024」 「患者さんとご家 族のための CKD 療養ガイド 2024」刊行のお知らせ. 日本腎 臓学会 医療従事者向けニュース, 一般社団法人 日本腎臓学 会, 2024 年 12 月 2 日. https://jsn.or.jp/medic/newstopics/ formember/ckd2024ckd2024.php (参照 2026 年 9 月 29 日). [19] 日本腎臓学会. CKD 診療ガイド 2024. 日本腎臓学会, 日本 腎臓学会, 2024 年 7 月 10 日. https://cdn.jsn.or.jp/medic/ guideline/pdf/guide/viewer.html?file=1-178_v3.pdf (参照 2026 年 9 月 29 日). [20] 平成 29 年度厚生労働科学特別研究「医薬品の安全使用の ための業務に関する手順書の策定に関する研究」班, 研究 代表者:土屋文人. 「医薬品の安全使用のための業務手順 書」作成マニュアル(平成 30 年改訂版). 厚生労働科学特 別研究成果, 厚生労働省, 2018 年 5 月. https://www.mhlw. go.jp/content/10800000/000903657.pdf (参照 2026 年 9 月 29 日). [21] 日本呼吸器学会成人肺炎診療ガイドライン 2024 作成委員 会. 成人肺炎診療ガイドライン 2024. 日本呼吸器学会 ガイ ドライン, 株式会社メディカルレビュー社, 2024 年. https:// www.jrs.or.jp/publication/jrs_guidelines/20240319125656. html (参照 2026 年 9 月 29 日). [22] 厚生労働省. 薬剤耐性(AMR)対策. 厚生労働省 感染症情 報, 日付なし. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/ bunya/0000120172.html (参照 2026 年 9 月 29 日). [23] 日本老年医学会. 高齢者の安全な薬物療法ガイドライン 2025. 日本老年医学会 刊行物, 株式会社メジカルビュー社, 2025 年 7 月. https://jpn-geriat-soc.or.jp/publications/other/ guideline_koreisha_sdt_2025.html (参照 2026 年 9 月 29 日). [24] American Diabetes Association Professional Practice Committee for Diabetes. 16. Diabetes Care in the Hospital: Standards of Care in Diabetes—2026. Diabetes Care, 49(Supplement 1), S339–S355, American Diabetes Association, 2025 年 12 月 8 日. https://doi.org/10.2337/dc 26-S016 https://diabetesjournals.org/care/article/49/ Supplement_1/S339/163925/16-Diabetes-Care-in-theHospital-Standards-of-Care (参照 2026 年 9 月 29 日). [25] 厚生労働省. 医療安全施策にかかる説明資料. 厚生労働省 医療安全対策, 厚生労働省, 日付なし. https://www.mhlw.go. jp/stf/seisakunitsuite/bunya/newpage_75097.html (参照 2026 年 9 月 29 日). [26] 厚生労働省. 医療事故情報収集等事業について. 厚生労働 省 医療安全対策, 日付なし. https://www.mhlw.go.jp/stf/ newpage_22786.html (参照 2026 年 9 月 29 日). [27] 厚生労働省. 法令・通知等(医療安全対策). 厚生労働省 医療安全対策, 日付なし. https://www.mhlw.go.jp/stf/ newpage_03125.html (参照 2026 年 9 月 29 日). [28] 厚生労働省. 院内感染対策について. 厚生労働省 医療政策, 日付なし. https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_21747.html (参照 2026 年 9 月 29 日). [29] World Health Organization. Patient Safety. WHO Integrated Health Services / Patient Safety, World Health Organization, 日付なし. https://www.who.int/teams/integrated-healthservices/patient-safety (参照 2026 年 9 月 29 日). [30] World Health Organization. Infection prevention and control. WHO Integrated Health Services / Infection prevention and control, World Health Organization, 日付な し. https://www.who.int/teams/integrated-health-services/ infection-prevention-control (参照 2026 年 9 月 29 日).
第 8 章 ローテーションで学びを残す [31] Centers for Disease Control and Prevention. CDC’s Core Infection Prevention and Control Practices for Safe Healthcare Delivery in All Settings. CDC Infection Control, Centers for Disease Control and Prevention, 2025 年 6 月 23 日. https:// www.cdc.gov/infection-control/hcp/core-practices/index. html (参照 2026 年 9 月 29 日). [32] 日本高血圧学会高血圧管理・治療ガイドライン委員会. 高 血圧管理・治療ガイドライン 2025. 日本高血圧学会 出版物 案内, 特定非営利活動法人 日本高血圧学会, 2025 年. https:// jpnsh.jp/guideline.html (参照 2026 年 9 月 29 日). [33] 厚生労働省. 医師法第 16 条の 2 第 1 項に規定する臨床研 修に関する省令の施行について(令和 8 年 3 月 31 日一部 改正). 医師臨床研修制度のホームページ/関係法令・通 知等について, 厚生労働省, 2026 年 3 月 31 日. https://www. mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000081052_00019. html (参照 2026 年 9 月 29 日). 55