西洋美術史ゼミ第九回:北方ルネサンス美術

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April 07, 22

スライド概要

隔週程度で行っている、世界史と西洋美術史の勉強会のスライドです。私は理系の学生なので厳密な考証は行っていませんが、可能な限り正確に書くことを心掛けたつもりです。今回は北方ルネサンス美術について扱っています。以下のURLからスライドと補足資料をダウンロードできます。
https://github.com/amazuun/Art_of_Europe

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理系の大学生です。近代以降の美術史や思想史、現代美術について興味があります。厳密な考証は行っていませんが、可能な限り正確に書くことを心掛けています。後の物の方が出来が良いので、最新のものを最初に読むことをお勧めします。githubからはスライドと補足資料をダウンロードできます。参考文献は補足資料に記載しています。

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各ページのテキスト
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西洋美術史ゼミ 第9回 北方ルネサンス美術 発表者 あまずん 1

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発表者について あまずん Twitter : @quii_w (メイン) @amazuunsc(サブ) 理系の大学生(数学専攻)をやっています。 近代以降の美術史や思想史、現代美術について 興味があります。 2

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ゼミについて • 週1回程度で美術出版社「増補新装 カラー版 西洋美術史」を一章ずつ 読み進め、内容をまとめ発表します。 • また、高校世界史に沿う形で当時の 出来事についても説明します。 • そのため、世界史と美術史を同時に 学ぶことができるため、歴史が好き な方も美術が好きな方も学びを深め ることができます。 3

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前回の内容 • 1490~1520の盛期ルネサンス美術で はレオナルド・ダ・ヴィンチやミケ ランジェロ、ラファエロ、ヴェネ ツィア派が活躍し、その死後に新た な美術潮流であるマニエリスムが 興った。 • 北方では油彩技法が急速に発展し、 ヤン・ファン・エイクやカンピン、 ロヒールなどの画家が活躍した。 ミケランジェロ《最後の審判》

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本日の内容 歴史について • 宗教改革 美術について • 北方ルネサンス美術 5

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全体の概略 • 今回は、前回に引き続き16世紀ネーデルラント美術について学 んだあと、ドイツにおけるルネサンスについて学びます。 • ネーデルラントでは、イタリア=ルネサンスの影響を受けたマ セイスや、 謎めいた絵画で知られるヒエロニムス・ボス、風景 画や風俗画を描いたブリューゲルなどが活躍しました。 • ドイツではゴシック美術から継承された国際ゴシックの様式の のち、古典復興を志したデューラーが活動し、その後宗教改革 のなかで絵画表現が変動しました。 6

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本日の内容 • 美術史:16世紀のネーデルラント美術 • 世界史:宗教改革 • 美術史:デューラーとドイツ美術 • 美術史:版画と彫刻 • 美術史:宮廷美術 7

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16世紀のネーデルラント美術(1) 以下について学びます。 ① クエンティン・マサイス ② ヒエロニムス・ボス ③ ピーテル・ブリューゲル 8

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クェンティン・マサイス • 16世紀に入ると、ポルトガルがアジ ア貿易の拠点として利用したアント ワープ(ベルギー)が美術の中心と して発展した。 • アントワープにおける中心的な画家 はクェンティン・マサイスであった。 彼はダ・ヴィンチの影響を受けた優 美な宗教画や、グロテスクな肖像画 を描いた。 • 代表作は『醜女の肖像』『不釣り合 いなカップル』である。 マサイス《不釣り合いなカップル》

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ヒエロニムス・ボス(1) • この時代、歴史的位置づけが難しい 画家として、数々の幻想的、非現実 的絵画で知られるヒエロニムス・ボ スがいる。 • 彼は宗教画を描いたが、当時の本流 とはかけ離れている奇矯で異端的な 絵画であった。しかし、当時の王侯 貴族には好まれていたようである。 • 代表作は『快楽の園』『最後の審 判』である。 ボス《最後の審判(中央パネル)》

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ヒエロニムス・ボス(2) ボス《快楽の園》

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ピーテル・ブリューゲル(1) • 宗教改革の進行により、美術製作が 下火になった新教圏だが、ピーテ ル・ブリューゲルはプロテスタント の禁忌に抵触しない教訓主題や、風 俗画の先駆けともいえる農村風俗主 題の作品を数多く描き、数世代にわ たり画家一族として栄えた。 • 代表作は『バベルの塔』『農民のダ ンス』『雪中の狩人』である。 ブリューゲル《農民のダンス》

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ピーテル・ブリューゲル(2) ブリューゲル《バベルの塔》

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本日の内容 • 美術史:16世紀のネーデルラント美術 • 世界史:宗教改革 • 美術史:デューラーとドイツ美術 • 美術史:版画と彫刻 • 美術史:宮廷美術 14

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宗教改革 • 以下について学びます。 ① ルターの宗教改革 ② カルヴァンの宗教改革 ③ イギリスの宗教改革 ④ 対抗宗教改革

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宗教改革とは • 十字軍の失敗以降、ローマ教皇の権 威は衰え、ローマ教会の俗化・信仰 の形式化への批判が高まっていた。 • その中で宗教改革が起こり、聖書へ の回帰を目指してローマ教会の批判 が行われた。 • 教会の支配からの解放は主権国家の 形成を促進させることにもなった。 《95か条の論題》

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ルター(1) • 16世紀前半、ドイツにおいて、教皇 レオ10世がサン=ピエトロ大聖堂建 設の資金調達のために、教会に貢献 すれば過去におかした罪も赦される と説き、ドイツで贖宥状(免罪符) を乱発していた。 • 1517年、マルティン=ルターが「九 十五か条の論題」でこれを批判し、 信仰義認説を説いた。この出来事が 宗教改革の始まりとされる。 クラーナハ《マルティン・ルター》

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ルター(2) • ルターは教皇に破門され、皇帝にも自説 の撤回を求められたが応じなかった。 • しかしルターは教皇庁に反発する諸侯や 市民から広範な支持を受け、保護されて いた。 • 1555年にアウクスブルク宗教和議で新旧 両派が妥協し、諸侯はカトリック派とル ター派を選択して信仰することが認めら れるようになった。(しかし領民個人に は信仰の自由はなかった。) 《ルター聖書》

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カルヴァン • スイスでは、人文主義者のカルヴァ ン(1509~1564)が独自の宗教改革 を行った。 • 彼は魂が救われるかどうかは予め神 に決定されているという予定説を唱 え、禁欲と勤勉を重視した。 • 禁欲と勤勉の成果としての蓄財を肯 定する思想は商工業者の支持を得た。 ホルバイン《ジャン・カルヴァン》

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イギリス • イギリスにおいては、王妃との離婚 を教皇に反対されたヘンリ8世が国王 を教会の首⾧とするイギリス国教会 を創設した。 • イギリス国教会ではルターやカル ヴァンの説を取り入れた教義を用い ていたが、儀式はカトリックのもの を受け継いでいた。 ホルバイン《ヘンリ8世》

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対抗宗教改革 • 宗教改革の進展を前に、カトリック 教会は教義の明確化と内部革新を通 じて教会を立て直そうとした。 • 1534年にイグナティウス=ロヨラや フランシスコ=ザビエルらによって イエスズ会が結成された。この会は 教皇の許可を受け、海外でも積極的 な宣教を行っている。 • また、この時代は新旧教徒の対立の 激化から魔女狩りも行われた。 フランシスコ=ザビエル

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本日の内容 • 美術史:16世紀のネーデルラント美術 • 世界史:宗教改革 • 美術史:デューラーとドイツ美術 • 美術史:版画と彫刻 • 美術史:宮廷美術 22

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デューラーとドイツ美術 以下について学びます。 ① デューラー以前のドイツ美術 ② デューラー時代のドイツ美術 ③ デューラー以降のドイツ美術 23

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デューラー以前のドイツ美術(1) • 15世紀ドイツの美術は後期ゴシック 美術として分類され、国際ゴシック 美術の流れをうけた宗教画が中心で あった。 • ゴシック美術について軽く復習して おこう。ゴシック美術はルネサンス 前の中世美術であり、その前段階の ロマネスクとは対照的に人間的、写 実的なものであった。 聖ヴェロニカの画家《聖ヴェロニカ》

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デューラー以前のドイツ美術(2) • この時代の美術は宗教画が中心では あったが、ネーデルラント絵画の影 響を受けて、古典的な写実主義の萌 芽が見られた。 • 中部ドイツのケルンが一大中心地と なり、ロッホナーをはじめとする画 家が活動したが、その多くは作品名 にちなむ便宜上の名が与えられた 「逸名画家」であった。 ロッホナー《薔薇垣の聖母》

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デューラー時代のドイツ美術(1) • ドイツにおいて真にルネサンスを体 現した画家はデューラーである。彼 は古代ギリシア・ローマ美術の「再 生」を志し、ドイツ美術に絶大な影 響を与えた。 • この時代の代表的な画家は、デュー ラーに加えてグリューネヴァルトと クラーナハが挙げられる。 デューラー《四人の使徒》

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デューラー時代のドイツ美術(2) • デューラーはイタリア旅行の経験を 通じてイタリア美術から多くを吸収 した。 • しかし、ドイツ特有の醜さをいとわ ない宗教画製作の伝統から、理想美 を追求するイタリアの美術理論に違 和感を禁じえず、やがて自らの美術 理論の構築を志した。 デューラー《自画像》

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デューラー時代のドイツ美術(3) • デューラーは主に油彩画と版画を通 して、生前のみならず死後の名声を 意識した。 • 代表作は『メランコリアI』『四人の 使徒』であるが、彼は自画像を挿入 するなど、絵画に内面性を盛り込ん だ点でも特徴的であった。 デューラー《メランコリアI》

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デューラー時代のドイツ美術(4) • デューラーと同年に世を去った画家 にグリューネヴァルトがいる。 • 彼はデューラーとは対照的に、ゴ シック美術の色彩主義に、激しい色 彩のコントラストによる表現主義的 な要素を加えた独特な様式の絵画を 描いた。 • 代表作は『イーゼンハイム祭壇画』 であり、後期ゴシックの爛熟を示し た。 グリューネヴァルト《イーゼンハイム祭壇画》

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デューラー時代のドイツ美術(5) • 最後に、クラーナハについて述べる。 • 彼は宮廷画家であり、宗教改革の荒 波にも絵画主題を変更することで対 応し、新旧両教の君主からの大量の 注文をこなした。 • そのため、彼は「企業家」と呼ばれ、 きわめて裕福な生活を送った。代表 作は『アダムとイヴ』で、マニエリ スム的で官能的な女性像を量産した。 クラーナハ《アダムとイヴ》

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デューラー以降のドイツ美術(1) • デューラーの死後のドイツ美術にお いて名を成したのは、ホルバイン父 子とバルドゥングである。 • ホルバイン父はデューラーより一世 代上の画家で、後期ゴシック風の宗 教画と肖像画を得意としたが、息子 はその方向性を推し進め、当時に当 たっては破格に写実的な人物表現を 達成した。 ホルバイン(子)《大使たち》

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デューラー以降のドイツ美術(2) • バルドゥングはデューラーの一番弟 子で、木版画や絵画を描いた。 • 華やかな色彩の扱いにおいては支障 を凌駕し、むしろグリューネヴァル トの表現主義的傾向がある。 • 代表作は『聖セバスティアン三連 画』である。 バルドゥング《聖セバスティアン三連画(中央)》

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本日の内容 • 美術史:16世紀のネーデルラント美術 • 世界史:宗教改革 • 美術史:デューラーとドイツ美術 • 美術史:版画と彫刻 • 美術史:宮廷美術 33

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版画と彫刻(1) • 複製技術が発展する要因はえてして 宗教的なものであるが、版画も巡礼 記念や護符の需要の高さから発展し ていった。 • 当初は聖人一人のみの簡素な木版画 であったが、やがて聖書や聖人伝の 複雑な物語場面をも主題とするよう になり、銅版画の技術が発達した。 • その結果、デューラーやショーンガ ウアーが大作を描くこととなった。 ショーンガウアー《大天使ミカエル》

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版画と彫刻(2) • 木彫祭壇衝立もまた、アルプス以北 で生まれ発展したジャンルであった。 • 聖遺物収納のための衝立から派生し、 やがて祭壇画へと発展した。 • 中には聖遺物の他に丸彫り彫像や浮 彫が配置され、聖書等の物語場面が 表現されていた。 リーメンシュナイダー《聖血祭壇衝立》

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本日の内容 • 美術史:16世紀のネーデルラント美術 • 世界史:宗教改革 • 美術史:デューラーとドイツ美術 • 美術史:版画と彫刻 • 美術史:宮廷美術 36

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宮廷美術 • 15,16世紀アルプス以北の美術の発 展にとって、大きな役割を果たした のは各地の宮廷における美術への興 味関心の増大であった。 • 宮廷で厚遇された画家として著名な のはアルチンボルドであり、事物を 並べて人物を描くという風変わりな 作品で知られる。 アルチンボルド《春》

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本日のまとめ • 16世紀のネーデルラント美術では、 アントワープを中心としてマサイス、 ボス、ブリューゲルが活動した。 • ルターやカルヴァンによって宗教改 革が起こり、主権国家の形成を促進 した。 • ドイツではデューラーによりルネサ ンスが興り、絵画と版画が盛んに制 作された。 ブリューゲル《バベルの塔》

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次回の内容 • 次回はバロック・ロココ美術について学び ます。 • バロック美術はカラヴァッジョの誕生から 幕を開ける。ルネサンスの理想主義とも、 マニエリスムの人工的な誇張とも異なる彼 の明暗表現はローマ画壇に強い衝撃を与え た。 • 関連ワード 1. カラヴァッジョ《聖マタイの召命》 2. ベラスケス《インノケンティウス10世》 カラヴァッジョ《聖マタイの召命》