Unreal Engine to 漫画【UNREAL FEST 2023 TOKYO】

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June 03, 23

スライド概要

講演アーカイブ:
https://youtu.be/gF3d0eMCQcg

講演内容:
「MUJINA IN TO THE DEEP」は、Unreal Engineで構築された街の3DCGを利用して制作されている漫画作品です。漫画家個人でアセットを製作し、街を構築するまでのワークフローや、レンダリングされた画像を漫画原稿に落とし込む作業などを解説させていただきます。

講演者:
浅野 いにお(漫画家・イラストレーター)

MUJINA IN TO THE DEEPについてはこちら:
https://bigcomicbros.net/work/78146/

UNREAL FEST 2023 TOKYO 公式サイト:
https://unrealengine.jp/unrealfest/2023/

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Unreal Engineを開発・提供しているエピック ゲームズ ジャパンによる公式アカウントです。 勉強会や配信などで行った講演資料を公開しています。 公式サイトはこちら https://www.unrealengine.com/ja/

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関連スライド

各ページのテキスト
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Unreal Engine to 漫画 浅野いにお(漫画家)

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自己紹介 ● 浅野いにお ● 1980年生まれ。漫画家。1998年デビュー。代表作に「ソラニン」 「おやすみプンプン」「零落」などがあり、実写映画化多数。2014年 からは2022年2月まで週刊ビッグコミックスピリッツ(小学館)にて 「デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション」を連載し、第 66回小学館漫画賞の一般向け部門と、第25回文化庁メディア芸術祭の マンガ部門・優秀賞を受賞。なお同作はアニメ化が決定している。 現在はビッグコミックスペリオールにて「MUJINA IN TO THE DEEP」を連載中。 ©️浅野いにお/小学館 2

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●1 ●2 ●3 ●4 ●5 ●6 ●7 ●8 ●9 ● 10 ©️浅野いにお/小学館 これまでと現在の漫画製作実例 3Dモデルの製作 Unreal Engineの使用理由 Unreal Engineプロジェクトの概要 街のシーンの制作 室内3Dシーンの制作 アクションシーンの制作 レンダリングと画像の準備 レンダリング画像の加工と編集 3DCGを漫画に利用するメリット 3

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1 ©️浅野いにお/小学館 これまでと現在の漫画制作実例 4

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1 これまでと現在の漫画制作実例 ● 漫画完成までの流れ ● テキストでのプロット考案 ↓ ● ネーム作成(大まかなコマ割り、セリフの位置を決めたも の) ↓ ● 背景等の作画素材準備(レンダリング画像or写真) ↓ ● 原稿準備 ↓ ● 作画素材の画像を加工編集 ↓ ● キャラクター、背景等のペン入れ ↓ ● スクリーントーンなどで仕上げ ↓ ● 原稿完成 ©️浅野いにお/小学館 今回解説するのは主に ココとココになります。 5

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1 これまでと現在の漫画制作実例 ● 2000年代前半からアナログとデジタルを併用して漫画を製作。特に背景に関しては写真を加工 し手描きの描画も加えることで、ハイディテールでありつつ漫画的な絵を模索。 ©️浅野いにお/小学館 6

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1 これまでと現在の漫画制作実例 ● 近年では3DCGも使用し、屋内シーンやメカなどで使用。 ©️浅野いにお/小学館 7

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©️浅野いにお/小学館 8

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1 これまでと現在の漫画制作実例 ● 現在連載中の「MUJINA IN TO THE DEEP」では街全体をUE5で制作 ● 制作のポイント ・可能な限り一人で製作する ・難しい機能は使わない ・制作期間は半年程度 etc... ©️浅野いにお/小学館 9

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©️浅野いにお/小学館

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1 これまでと現在の漫画制作実例 ● 制作期間 街のベースになる部分の制作期間は半年 ● 7月 建物モジュラーパーツのレギュレーション マテリアルの仕様の決定 ↓ 8月 建物モジュラーパーツの製作 建物のテスト組み立て ↓ 9月 道路、自動販売機など固有プロップの製作 ↓ 10月 看板等のテクスチャー製作 ランドスケープで土地の製作 ↓ 11月 モジュラー建物の量産 道路の設置、区画の作成 ↓ 12月 モジュラー建物、屋外プロップの設置 室内シーンの制作 ● ● ● ● ● 基本的なワークフロー ● Blenderでの3Dモデル作成 ↓ ● Substance Painterでのテクスチャ製作 ↓ ● FBXでUE5にインポート後、3Dモデルの配置 ↓ ● 高解像度スクリーンショットで画像の書き出 し ↓ ● Photo Shopの原稿データに貼り付け後、フィ ルターで漫画調に加工後、適宜ペン入れ ● ©️浅野いにお/小学館 11

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2 ©️浅野いにお/小学館 3Dモデルの製作 12

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2 3Dモデルの製作 ● 3Dモデル製作 ・建物は一棟ごとのモデリングではな く、モジュラー構造のものをUE5上で組 み立てるため、壁・窓・屋根、その他細 かいプロップなどをバラバラで作成。 モジュラーパーツの汎用性を高めるた め、壁の高さは一階分を便宜的に2.8m に統一、横幅や奥行きも10cm単位で製 作。 ©️浅野いにお/小学館 13

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2 3Dモデルの製作 製作中のモデル ● その他、非モジュラーの単体プロップ である信号、看板、自動販売機など日本 固有のものに関しては可能な限り自分で 制作。 ● 刀や靴などの漫画内オリジナルのアセ ットも制作。 ● 靴は簡単なボーンとアニメーションも 付けてUE5で動かせるように制作。 UE5での表示 ©️浅野いにお/小学館 14

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2 3Dモデルの製作 一般的なPBRマテリアル用テクスチャ ● テクスチャ制作は主に二種類 ・通常のPBRマテリアル用のテクスチャ。 baseColor、roughness、metallic、 AmbientOcclusion、normal、必要があれ ばEmissiveなど ・UE5のMaterial Layerで使うためのマス クテクスチャ。IDMap画像、汚れと AmbientOcclusionをRGBにまとめた画像 のふたつのマスクを書き出す。 Material Layer 用のマスクテクスチ ャ ●壁や屋根などは固有のマテリアルは使わ ずに汎用マテリアルを適用。2kのテクス チャが2mになると考えてUV展開 ©️浅野いにお/小学館 15

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3 ©️浅野いにお/小学館 Unreal Engineの使用理由 16

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3 Unreal Engineの使用理由 ● オープンワールドのゲーム背景をそのまま漫画の背景に使 えたらと考えていた ● アカウントのみで無料で使え、漫画・イラスト用途の使用 であれば収益があってもライセンス料が発生しないため実質 導入コストがゼロ ● ランドスケープやフォリッジ等の大型マップ向きの機能が 充実。公式チュートリアルも多い。 ● リアルタイムレンダリングのスピード感 ● UE5でさらにライティングが綺麗、設定も容易に ● アセットの配置などの簡単な操作であれば、3DCG未経験者 でも操作可能 ©️浅野いにお/小学館 17

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4 ©️浅野いにお/小学館 Unreal Engineプロジェクトの概要 18

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4 Unreal Engineプロジェクトの概要 ● 主に屋外、室内、アセット確認およびモジュラー建物製作用、3つのレベルにて制作 ● 配列用のプラグイン以外、特別なプラグイン等は使用せず、基本機能のみで制作 ©️浅野いにお/小学館 19

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4 Unreal Engineプロジェクトの概要 ● ある程度の広さの街並みをUE5上で構築するのが目 標。 ● 鳥瞰だけでなく、人間の目線でも耐えうるディテール が望ましい。 ● 製作期間内に全てを完成させることは難しいので、ま ずは街の中心となる駅前から作り始め、その他は漫画 の連載を続けながら必要になったロケーションを適宜 追加してディテールアップする。 ● 自作アセットは大きく分けて、建物用のモジュラービ ルディングパーツと、自販機や信号などの日本固有の デザイン等の理由で自作が必要なアセット。 ● その他、一般的なプロップ(植生、車、人物なども含 む)に関しては、UEのマーケットプレイスやその他の サイトから購入した市販3Dモデルを使用。 ● 漆喰やレンガ等、汎用的なマテリアルのテクスチャは 全てQuixelのもの。 ● あくまで漫画の背景素材としての3DCGなので、そこ までハイクオリティにこだわる必要はないが、汎用性 を考えてフォトリアルなルックが理想。 ©️浅野いにお/小学館 20

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5 街の3Dシーンの制作 ©️浅野いにお/小学館 21

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5 街の3Dシーンの制作 ● 屋外レベルは訳1km四方のランドスケープで地面 を制作。 ● 実在の街の地図を下敷きに、ランドスケープスプ ラインで道路を敷き、UE内のモデリングモードで 大まかな区画の土地を作成。 ©️浅野いにお/小学館 22

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5 街の3Dシーンの制作 ● モジュラー建物とは ● モジュラー構造の建物は、複数の独立したパーツやモジュールから構成される 建物です。各パーツは互換性があり、組み合わせることで様々な建物を作るこ とができます。3DCGにおいて、モジュラー構造の建物は効率的で柔軟な方法 として広く利用されています。(ChatGPTより) ©️浅野いにお/小学館 23

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5 街の3Dシーンの制作 ● 準備したモジュラーパーツは数百〜千ピース程度。それらを住宅、商業 ビルなどのジャンルを決めて組み立てる。(積み木やブロック玩具のよ うなイメージです) ● マテリアルは後から差し替え可能。ベースとなる建物からさらにバリエ ーションを増やしてゆく。 ©️浅野いにお/小学館 24

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5 街の3Dシーンの制作 ● モジュラー構造の建物の主な利点は次のとおりです: ●再利用性と効率性:各パーツは再利用可能であり、同じパーツを組み 合わせることで異なる建物を作ることができます。このため、建物の制 作時間や労力を大幅に節約することができます。 ●カスタマイズ性:モジュールは個別に作成され、必要に応じて追加、 変更、削除することができます。これにより、建物の形状やサイズを容 易に調整することができます。 ●レベルデザインの柔軟性:モジュラー構造の建物は、ゲームやアニメ ーションなどのリアルタイムのコンテンツ制作において特に有用です。 シーンやレベルのデザインをより迅速かつ柔軟に行うことができます。 ●メモリ効率:モジュラー構造では、必要なパーツのみを読み込んで配 置することができます。これにより、シーンのメモリ使用量を最適化 し、パフォーマンスを向上させることができます。(以上、ChatGPTよ り) そしてなにより ↓ アセットの配置作業であれば非3DCGスタッフでも可能 ©️浅野いにお/小学館 25

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5 街の3Dシーンの制作 ● モジュラー建物は一棟ごとにPacked Level Actorでまとめる。 ● Packed Level Actorとは ● 配置したスタティックメッシュを新規のレベルにアクタとして結合 し、単体のアクタのように再利用するための機能。 ● 建物内の同じスタティクメッシュとマテリアルを持つアクタはインス タンスに変換されるので、負荷軽減になる。 ©️浅野いにお/小学館 26

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5 街の3Dシーンの制作 ● Packed Level Actorは実質レベル扱い。地形の大レベルの中 に、建物の小レベルが配置されているイメージなのでアウトラ イナー上のアクタの数が減り管理がしやすい。 ● 製作した建物を区画に並べた後、管理しやすくするためにそ の区画を丸ごとPackd Level Actorにまとめることも可能。 モジュラー構造で 製作した建物 (含まれるもの:壁、屋 根、窓のモジュラーパーツ とテレビアンテナ、室外機 などのプロップ) Paced Level Actor Paced Level Actor 基礎となるStatic Mesh 区画 (建物と電柱やフェンスな どの屋外プロップ) Level 街全体 ©️浅野いにお/小学館 27

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5 街の3Dシーンの制作 ● 建物のバリエーションを制作する際は、すでにPacked Level Actorにまとめた建物のレベルを分割し、再度Packed Level Actorとして別名保存してから編集。 ● 建物の制作時間は規模にもよるが一棟数時間〜1日程度。 ● マテリアル変更程度のバリエーション作成なら数十分 ©️浅野いにお/小学館 28

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5 街の3Dシーンの制作 ● 区画に建物を配置した後は看板や標識、植物 などの屋外プロップを配置して完成 ● デカール等Packed Level Actorに対応してい ないものを含む際はLevel Instanceでまとめる ことも ● ライティングはベーシックな機能を 数値を調整したのみでそのまま使用 ©️浅野いにお/小学館 29

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6 室内3Dシーンの制作 ©️浅野いにお/小学館 30

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6 室内の3Dシーンの制作 ● 映画の撮影スタジオのように部屋単位でPacked Level Actorにまとめて制作 ● 壁や窓等は自作のモジュラーパーツを流用している が、家具の多くは市販アセットを使用 ● 窓のマテリアルはnaniteで利用するためには Translucentを使えないため不透明 ● そのためライティングは室内に太陽光が入り込まない 仕様になっているが、窓や室内照明のマテリアルに Emissiveが入っているのでそれを光源に使う ● 光源が足りない場合は適宜ポイントライトなどを追加 ©️浅野いにお/小学館 31

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7 アクションシーンの制作 ©️浅野いにお/小学館 32

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7 アクションシーンの制作 ● 通常、漫画内でのキャラクターは手描きだが、動きの 激しいアクションシーン等では3Dモデルを使って作画 する場合もある ● キャラクターのモデルはUEマネキンを改造したものを 利用 ● 刀や靴などの付属物はSkeletal Meshにアタッチして 使用 ● 靴にはボーンが入って いるので、足首の微妙な ニュアンスが欲しい時は 体とは別にアニメーショ ンを指定できる ©️浅野いにお/小学館 33

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7 アクションシーンの制作 ● 作画の際にマネキン部分は 全てマスクで消してしまう が、複雑なポーズを下敷き に利用して作画ができるの で時短になる ● 動的なカメラアングルを積 極的に探れるので、印象的 なレイアウトを作りやすい ©️浅野いにお/小学館 34

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8 レンダリングと画像の準備 ©️浅野いにお/小学館 35

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8 レンダリングと画像の準備 ● 事前に大まかなコマ割りとセリフ位置を決めたネームを準備 ● 適宜太陽の位置や時間帯を設定し、一コマずつレイアウトを考えながらカメラアングル探る ● 高解像度スクリーンショットでレンダリング ● 原稿サイズは訳6000pixel*8500pixelなので画像の横幅は6000pixel程度が望ましいが、実際は4000pixleあれば問題ない ©️浅野いにお/小学館 36

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8 レンダリングと画像の準備 ● この時点で漫画調のアウトラインが欲しい場合は、ポストプロセスマ テリアルなどでアウトラインの描画やトゥーン調への調整もあり。 (このサンプル画像はalweiさんのPPCelShaderを使用させていただきました) ©️浅野いにお/小学館 37

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9 レンダリング画像の加工と編集 ©️浅野いにお/小学館 38

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9 レンダリング画像の加工と編集 ● 画像の加工編集、原稿の作画はすべてPhotoShop ● これまでの実写の写真画像と加工のプロセスは全く同じ ● 「アンシャープマスク」フィルターで色と色の境界線の濃度を上げ、その 後に二階調化することでアウトラインを抽出。 ● 適宜必要な部分を手描き部分を追加 ● 元画像を「明るさコントラスト」等で調整し乗算で重ね、そのままスクリ ーントーンとして使用することも可能 原稿に配置したレンダリング画像 アンシャープマスク ©️浅野いにお/小学館 二階調化 線画描き足し 完成 39

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9 レンダリング画像の加工と編集 ● カラーイラストの場合はレタッチ作業のみで手描きの追加は不要の場合も ©️浅野いにお/小学館 40

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10 3DCGを漫画に利用するメリット ©️浅野いにお/小学館 41

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10 3DCGを漫画に利用するメリット ● メリット ● リアリティのある描写はもちろん、写真とは違いディテー ルの量を調整できる ● 作画スピードの高速化、それによる人的コストの削減 ● スタッフの作画レベルに左右されないのでクオリティコン トロールが容易 ● 実写の写真資料を使用していた頃よりも圧倒的にカメラ位 置の自由度が高い ● 地形も含め街並みをカスタマイズできるので納得のいくロ ケーションが使える ● デメリット ● 3DCGを準備するための膨大な時間(週刊連載のペースな らば、数ヶ月前から事前の準備が必要) ● データ管理が煩雑 ● それなりの3Dスキルが必要 ©️浅野いにお/小学館 42

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10 3DCGを漫画に利用するメリット ● 今後の展望と懸念点 ● 手作業では物量に限界があるので、プロシージャルに 街を生成できる仕組みが欲しい(自分一人では無理そ うでした) ● 街を他作家とシェアして、マルチバース的な漫画作品 を作る ● 多人数で同時に街づくりの作業を進めれば、一気に街 を拡張できる ● 漫画の連載は10年以上続くケースもあるので、それ までこのデータが使えるのかどうか etc… ©️浅野いにお/小学館 43

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本日はありがとうございました 44

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