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February 09, 24
スライド概要
観念史の研究とは何か? 哲学史や思想史ではなく、そうした哲学や思想をさらに切り分けた、単位観念を抽出してその影響を分析したい。思想や宗教は実は、そうした小数の観念の組み合わせでしかないのかもしれない。
これまでの「何とかイズム」「何とか主義」「何とか論」は、実はいろんなものの寄せ集めでしかない。単位観念に注目した観念史の対象には、時代や人に作用する無意識の精神的習慣、唯名論、有機主義、形而上学的な情感に対する弱さなどがある。また、観念史は、心理的な受容も取り上げる。
特になし
『存在の大いなる連鎖』 第1講:観念史の研究とは アーサー・O・ラヴジョイ をもとに 山形浩生が作成 クリエイティブコモンズ:表示 4.0 国際 https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/deed.ja
観念史って何? • 哲学史や思想史とは、似ているけれどちがう。 • ちがいは、扱うものの単位、または粒度にあるんだよ。 • というのも「何とかイズム」「何とか主義」「何とか論」と言われるものっ て、実はいろんなものの寄せ集めでしかないんだよね。 • しかもその「いろんなもの」は結構決まっていて、何とか主義というのは、 その組み合わせや焼き直しでしかない。 • それを分解すると、各種哲学や主義を構成する「単位観念」みたいなものが ありそう! • 観念史はその単位観念に注目する。 クリエイティブコモンズ:表示 4.0 国際 https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/deed.ja
たとえば? • たとえば西洋思想では「キリスト教」とか「神」とかいうのが 出てくる。でもこれは、単位観念なんかじゃない。 • だって「キリスト教」って、まず宗派ごとに言ってること全然 ちがうよね。「神」ってのもちがうよね。そして同じ宗派や教 義の中でも、全然矛盾すること言ってる。でもそれが1つのま とまった「キリスト教」とか「神」だとされてる。 • その大枠の下にあるものを見て、それがどんな動きを経て、ど うまとまって現状になったかを見たいよね。 クリエイティブコモンズ:表示 4.0 国際 https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/deed.ja
その「単位観念」/一次的観念の例 • 単位観念/一次的観念は、いろんな水準がある: 1. 2. 3. 4. 時代や人に作用する無意識の精神的習慣 唯名論 (具体的なものへの還元)/有機主義 (複雑性重視) 形而上学的な情感に対する弱さ 哲学的意味論 (これだとわかんないよね。次に個別に説明する) クリエイティブコモンズ:表示 4.0 国際 https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/deed.ja
「時代や人に作用する無意識の精神的習慣」 • たとえば、すべての本質は単純なんだ、よって何にでも単純な 解決策があるんだ、と考えてしまう習慣 • 啓蒙主義はこういう発想の権化だよね。 • それは「宇宙や神さまは複雑だけど、人間が扱える範囲は単純なん だ」という形で出てくることもあった (ポープやジョン・ロック) • ロマン主義になると、こうした単純さはむしろ眉ツバだとされるよう になっていた。 クリエイティブコモンズ:表示 4.0 国際 https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/deed.ja
「唯名論 (具体的なものへの還元)/有機主 義 (複雑性重視)」 • 唯名論的な動機は、抽象一般概念を、具体事例の羅列に還元し ようとする。 • プラグマティズム (の一部) はこの権化 • 有機主義的動機 • なんでも複雑だー、単純なものに還元してはいけないー、という一派。 • 要素を切り出してはだめですべては関係性の中にあるんだ、という発 想 クリエイティブコモンズ:表示 4.0 国際 https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/deed.ja
形而上学的な情感に対する弱さ • 哲学や観念は、ある種の感情のツボを押されると弱い。 • わかりにくいと、それが深遠な証拠と思ってみんなひれふす。 • 秘教的なもの——論理の積み重ねより、悟りで真理に到達する ような話が大好き (ヘーゲルとかベルグソンとか!) • 永遠主義:何とかは不変だ永遠だと言われると、くらっとする • 一元論:すべては一つ、万物は一体とか、根拠なしにみんな喜 ぶよね。 • 主意主義:世界にたった1人で立ち向かう、みたいな話にすぐ流 される。みんな闘気が好きなんだよな! • これは哲学や観念の中身とは関係ないけど、その受容においてはき わめて重要! だからこれも観念史の対象になる。 クリエイティブコモンズ:表示 4.0 国際 https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/deed.ja
哲学的意味論 • キャッチフレーズや用語は、いろんな意味や連想を持つ。 • その一つの意味のために流行ったものが、やがて別の意味のほ うが重視されるようになってきたために、まったくちがった意 味合いや影響を持つようになる。 • そういう意味の広がりの影響も考えたいよね。 • ……ただこの講義では、そこまでとらえどころのないものは扱 わず、もっと定義しやすい概念を扱おう。 クリエイティブコモンズ:表示 4.0 国際 https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/deed.ja
観念史の研究は必然的に学際的になる • ある観念が、いろんな分野、いろんな時代に登場するというのが醍 醐味。それを調べるなら、当然学際的になるしかない。 • 修景・造園での流行 (幾何学庭園からもっと自然な庭園へ)が、宇宙 論や哲学などにもつながっているのがその例 • それは学部タコツボ化を防ぐのにも貢献できるかも。 • 特に、観念の最も優れた表現は哲学ではなく文学、それも二流文学 なのだ (だから文学部の学生は、二流作家を研究しろと言われても、 あまりブーたれないでね) クリエイティブコモンズ:表示 4.0 国際 https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/deed.ja
課題やリスク • 学際的ということは、各分野については半可通になりかねない • ある観念に注目するのは、その時代や思想のごく一部に注目するこ と。それがすべてだと思わないで! • 専門特化のため、こうした学際アプローチを嫌う人もいる • 過去の観念やその解釈は、いまの基準で見れば異様で明らかにまち がっている。でも、そのまちがいかたにも (いやそこにこそ) 観念の 作用がある。だからそれで投げ出すようではダメ。 クリエイティブコモンズ:表示 4.0 国際 https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/deed.ja