大学院進学が切り拓く情報系学生のキャリア

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November 21, 25

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本務先大学での大学院進学ガイダンス資料を編集して他大学にて講演した資料。

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お茶の水女子大学 共創工学部文化情報工学科/理学部情報科学科 教授

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各ページのテキスト
1.

Itoh Laboratory, Ochanomizu University 大学院進学が切り拓く 情報系学生のキャリア 伊藤貴之 お茶の水女子大学 理学部情報科学科 教授 http://itolab.is.ocha.ac.jp/ [email protected] 2021年7月8日 立命館大学情報理工学部 キャリア形成支援講演会

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講演者の経歴 Itoh Laboratory, Ochanomizu University • 1990年 早稲田大学理工学部卒業 • 1992年 早稲田大学大学院理工学研究科修士課程修了 日本IBM東京基礎研究所研究員 (2005年まで) • 研究と産業を結びつける多数の仕事 例1: 自動車会社との衝突事故シミュレーション 例2: 高速軽量通信の研究とIBM製品への導入 • 1997年 早稲田大学にて博士(工学) • 2005年 お茶の水女子大学理学部情報科学科助教授 • 2011年 同大学教授 • 企業共同研究、企業とのイベントなど 産学連携に積極的に取り組む 1

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お茶の水女子大学理学部情報科学科 Itoh Laboratory, Ochanomizu University • 理学部にある5学科の一つ (数学・物理・化学・生物・情報) • 1学年40人・13研究室 • 平均約70%が大学院に進学 70% 2

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お茶大のICT業界への高い就職力 ちょっと古い報道ですが… Itoh Laboratory, Ochanomizu University • ICT業界は女子の人材を 熱望している • お茶大のICT業界の就職力は 女子人材のニーズと 情報科学科の大学院進学者の 活躍に支えられている ※読売ウィークリー2008年2月17日号の特集 「12業種別56大学就職ランク」より抜粋 3

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お茶の水女子大学伊藤研究室 Itoh Laboratory, Ochanomizu University • お茶大情報科学科にある13個の研究室の一つ • 情報可視化を主たる研究分野とし、他にも幅広い研究分野に着手 – CG, 画像処理, 音楽情報処理, データ工学, インタラクションなど • 学部生86人中83人(96.5%)が大学院修士進学 • 学外から14人が大学院で伊藤研に加入 大学によっては女子の大学院進学者が少ないと言われているが お茶大伊藤研はむしろ大学院で女子学生が増える研究室となっている 4

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本日の講演内容 Itoh Laboratory, Ochanomizu University • 大学院に進学してどんな実力をつけるのか • 大学院進学は企業への就職活動にどう影響するのか • お茶大情報科学科での大学院修了者の声 • いざ進学!…その前に 5

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Itoh Laboratory, Ochanomizu University 大学院に進学して どんな実力をつけるのか? 6

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情報系学部での大学の研究は Itoh Laboratory, Ochanomizu University 端的に言うと、自分の選んだ分野において 新しい理論や技術を創出すること • どんなプロセスが必要なのか? – 選んだ研究分野を誰よりも勉強する – 新しい問題を発見し、それを解決する – 手を動かす(理論をたてる、モノを作る、実験結果を出す…) – 結果を考察し、未来につなげる • どのように研究成果を公表するのか? – 卒業論文/修士論文を書く – 学会で発表する 7

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社会に出る前の大事なステップ Itoh Laboratory, Ochanomizu University • 「習う」のではなく、「自分で深く考え、自分で解決する」 という経験が皆さんを自立させる • 『新しい技術やビジネスを産む』という業務のための能力 – 市場を調査し、問題を解決し、手を動かし、モノを社会に出す – 学生が体験する研究のプロセスもほぼ同じ • いままで習った理論や知識は研究の道具でもある – 研究生活こそが、大学生活の最終目標 • 研究生活を通して得られる一生モノのスキル – プログラミング、システム構築、文書作成、プレゼン、英語… 8

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継続して・発表して・認められる Itoh Laboratory, Ochanomizu University 皆さんのアイデンティティ 学外、さらには海外で発表 さらに結果を極める 卒業研究で初めての 結果を発表 研究テーマを決める 1~3年 講義・演習中心の生活 4年 研究室生活開始 大学院 結果を極めて学外に発表 本当の実力発揮の機会! 9

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研究の経験は研究者だけのものではない Itoh Laboratory, Ochanomizu University • 研究プロセスと企業プロセスには多くの類似点 研究プロセス 文献調査 技術開拓 実装・実験 口頭発表 企業プロセス ⇔ 市場調査 ⇔ 商品企画 ⇔ 開発・テスト ⇔ 展示・プレゼン • 「研究者にならなくても役に立つ経験」を学生生活で 身につけよう – 主要他国に大学院進学者が多いのは 「将来研究職に就かないけど実力をつけたい」人が多いからでもある 10

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T字型の人材 Itoh Laboratory, Ochanomizu University • 企業採用人事がよく口にする「欲しい人材のモデル」 幅広い知識や経験 誰よりも深く掘り下げて 問題を解決した実績 11

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T字型の能力:大学ではどう身につける Itoh Laboratory, Ochanomizu University • 広く勉強し、深く研究する 幅広い履修科目 4年生以降の研究経験 12

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研究で専門性だけでなく方法論を学ぶ Itoh Laboratory, Ochanomizu University • 研究の経験で得た方法論は分野を移っても転用できる この分野が好きで 一生懸命研究した →問題解決の 方法論を身につけた 就職したらこっちの 分野に配属したけど 方法論は転用できる! 深く掘り下げて 問題を解決した経験 13

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研究生活の「有形財産」と「無形財産」 Itoh Laboratory, Ochanomizu University • 有形財産: 経歴や収入になる成果 – 例1: 学会発表の業績・表彰 – 例2: それ以外の表彰や賞金 – 例3: 奨学金返済免除 • 無形財産: 定量化されないスキルや知識 – 例1: 専門知識 – 例2: プログラミング・文書作成・プレゼンなどのスキル – 例3: 論理思考力・問題発見力・問題解決力 – 学会等で培った人脈なども含む 多くの就活において無形財産が重視される ◼ 無形財産は専門性が変わっても再利用できる ◼ 14

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Itoh Laboratory, Ochanomizu University 大学院進学は企業への就職活動に どう影響するのか? 15

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専門性のPRが自己の未来につながる Itoh Laboratory, Ochanomizu University • 専門性を見られる主な機会 – スキル・経験・実績などを重視した採用選考 – エントリーシート提出者のウェブ検索による専門性調査 • 専門性のある自己PRの例 – 作品をつくって公開する – ハッカソンやプログラミングコンテストで名前を売る – インターンシップなどで見識と面識を拡げる – 大学で研究を発表する 大学院は優秀な学生が進学するだけの場所ではなく 専門性を自己PRしたい普通の学生が進学する場所でもある 16

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就職活動の典型的なスケジュール Itoh Laboratory, Ochanomizu University • 学部生の就職活動時には研究成果が【ない】 ※3年生までに研究成果をあげる超例外は除く 大学院生の就職活動時には研究成果が【ある】 ↓ • ステップアップした就職活動をしたい人こそ進学すべし B3 研究室配属 B4 卒業研究発表 M1 学会発表 M2 修士論文発表 インターンシップ等 セミナー エントリーシート 面接 (ES) 提出 内々定 17

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学部と院で就職活動が違う企業も Itoh Laboratory, Ochanomizu University • 学部生の就活 – 3年生までの学業で個性は出せない – バイトやサークルの話は誰でもできる(人事も飽きてる?) – 多くの場合において他学科の学生との一括採用 → 情報系学部の専門性が尊重されない配属になる場合も • 大学院生の就活 – 研究に関する設問がエントリーシートにある場合が多い – 『ジョブ・マッチング』が適用される場合も多い – その人にしかない研究成果で、面接官を納得させる – 能力や専門性を尊重した配属がかなう場合も多い 18

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人生は新卒時の配属で大きく変わることもある Itoh Laboratory, Ochanomizu University • • • • 最先端の専門を磨く職種 ステップアップを続けられる職種 お客様に尊敬される職種 あなたの代わりはいない職種 • • • ステップアップ! 専門性の不要な職種 ステップアップの難しい職種 誰にでも代われてしまう職種 • 「希望の会社に入社」だけでなく「希望の職種に配属」を • 内定時・入社時の実力が配属を左右するかもしれない • 研究を通して専門性や実力をつけるための進学と考えよう 19

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Itoh Laboratory, Ochanomizu University お茶大情報科学科での大学院修了者の声 ※ウェブ上でのアンケート結果 20

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進学が企業就職活動に与えた影響 Itoh Laboratory, Ochanomizu University • • • • ほぼ院卒しかいない希望企業や希望部署に就けた (12人) 面接では研究についての質問のほうが回答しやすい (12人) 院卒のほうが早く昇給・昇進する (5人) 研究の経験とスキルが就活に有用だった (4人) – 深く考える経験、論文執筆、プレゼン • • • • • エントリーシートの設問が学部卒と院卒とで異なる (3人) 入社時の等級の違いで入社後に差がつく (2人) 「学部卒も院卒も関係ない」という企業発言は建前 (2人) 資格を取りやすい事例がある (2人) 「他国では院卒が常識」という企業だと学位は必要 (1人) ※回答者27名 21

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進学がもたらすスキルアップ Itoh Laboratory, Ochanomizu University • • • • プレゼン作成力・人前での講演能力 (14人) 英語論文の読解・英語での講演や議論など (8人) 情報収集やサーベイの能力 (4人) その他 (8人) – 人脈形成力, 理解力, 論理的思考力, 集中力 – プログラミングなどのスキル – 論文投稿のプロセス体験, 専門職への配属を意識した研究生活 単にスキルアップできただけでなく、そのスキルのおかげで 「希望の職種に就けた」「他の社員に差をつけた」という声が多数 ※回答者27名 22

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2年長く学生を続けるメリット • • • • • • • Itoh Laboratory, Ochanomizu University 研究を通した国際体験 (研究留学、国際会議など) (13人) 好きな勉強や研究に長い時間をかけられる (7人) 大学院生限定のインターンシップや就業体験 (7人) 研究室配属後の人脈形成 (5人) 進路を考える時間・自分と向き合う時間 (4人) 能力がついた (2人) 学生団体の活動を続けられた (2人) 学問や研究の面だけでなく、就業体験、人脈形成、 その他の多くの面で2年間の学生生活に貴重な価値がある ※回答者26名 23

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研究分野とキャリアの関係 Itoh Laboratory, Ochanomizu University • • • • 研究テーマに関係ある業務に就いている (7人) 研究分野で用いる知識を活かしている (7人) 研究過程で身についたITスキルを活かしている (3人) 研究分野が職場での日常会話に出てくる (2人) たとえ研究テーマと同一の業務に就かなくても 研究体験自体は多くの形でキャリアに活きる可能性がある ※回答者16名 24

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その他のコメント Itoh Laboratory, Ochanomizu University • やりたいことを考えて進学すると2年間を有益に過ごせる • 「社会に出てやりたいこと」を学部生のうちに選べないから こそ進学して知識と学歴を得るべき • 学会先で企業との接点を得たことが参考になった • 企業によっては大学院の学位が信頼を呼ぶ機会が多い • 文系職(営業など)でも研究経験が知識習得に活きる • 大学院で初めて「正解のない問題」へのスキルを身につけた • 社内発表タスクで研究室の先輩後輩の研究を紹介している ※回答者6名 25

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女子学生こそ大学院進学 Itoh Laboratory, Ochanomizu University • 職業選択に対する男性以上の重要性 – 出産前後の職業選択 – ライフワークバランスのための職業選択 • 職業を選択できる人になるための学生生活 – 高い専門性を身につける – ステップアップできる職場で活躍できるスキルを身につける 26

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Itoh Laboratory, Ochanomizu University いざ進学!その前に… 27

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準備と調査を進めよう (1) Itoh Laboratory, Ochanomizu University • 出費 – 大手私立大学での大学院生への多彩なサポート • 学費を学部よりも安く設定 • 成績優秀者の学費の免減 (国立大学と大差ない学費になる事例も) • 研究発表活動への支援金 • 就職後の収入 立命館の場合: 上位25%は年間45万円給付 学費負担は国立大とほぼ同等に – 院卒と学部卒で給与体系の異なる企業もある – 理系院卒の生涯収入は学部卒より5000万円近く大きいという調査も (学部卒2.9億円, 修士卒3.4億円… 大学院卒の賃金プレミアム, 2014年) 28

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準備と調査を進めよう (2) • 大学院入試 Itoh Laboratory, Ochanomizu University 立命館の場合: GPAが一定以上の学生は 筆記試験免除で進学 – 必要な提出物の確認 – 過去の出題傾向のチェック – 大学によっては成績優秀者の内部進学制度がある • 研究活動 – 自分が目指す研究分野と学会活動 – 大学院生ならではの活動 (例えば研究留学) • 修了後のキャリアプラン – 大学院進学によって拓かれる企業就職先 – 博士後期課程への進学の可能性 29

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内部進学のススメ ※入試と就職活動の観点から Itoh Laboratory, Ochanomizu University • 大学院入試 – 内部進学なら「見慣れた問題」が出題されることが多い (それ以前に優秀者の筆記試験免除を有する大学も多い) – 外部進学では出題傾向をよく観察しないといけない • 就職活動 – 同じ研究室に在籍すればM1までの一貫した成果で戦える ※外部進学すれば研究内容はリセットされることが多い • 総じて、進学後のプランや指向について強い理由が ない場合、いくつかの点で内部進学にメリットがある ※外部進学のメリットについては本資料では割愛します 30

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進学前から活躍の布石を打とう Itoh Laboratory, Ochanomizu University 時間軸 B4の年度末 研究作業 (発案・サーベイ・ プログラミング・論文執筆) B4での進捗 学会等での研究成果の発表 M1の年度末 M1での進捗 B4の研究を発表 M2の年度末 M2での進捗 M1の研究を発表 M2の研究を発表 B4の研究に対する業績や B4,M1での研究に対する業績が M1での進捗が就活で問われる 奨学金返済免除などに関わる 学部生のうちから研究の進捗を出せれば 進学の効果は倍増する 31

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M1での「就活と研究の両立」は特に重要 Itoh Laboratory, Ochanomizu University 時間軸 B4の年度末 研究作業 (発案・サーベイ・ プログラミング・論文執筆) B4での進捗 学会等での研究成果の発表 M1の年度末 M1での進捗 M2の年度末 M2での進捗 就活シーズン B4の研究を発表 M1の研究を発表 M2の研究を発表 M1の貴重な時間を就活に専念しすぎると… • B4での研究成果を業績にする機会がない • M1での研究内容を就活で問われても話せない • M2で業績を出せないので奨学金返済免除などのアピールができない 「複数の仕事を両立できること」は多くの社会人にとって重要なスキルであり (ポジティブに考えると) M1での就活と研究の両立はそのスキルをつける機会である 32

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学部からのスタートダッシュが大事 Itoh Laboratory, Ochanomizu University 皆さんのアイデンティティ 学外、さらには海外で発表 さらに結果を極める 卒業研究で初めての 結果を発表 研究テーマを決める 1~3年 講義・演習中心の生活 4年 研究室生活開始 大学院 結果を極めて学外に発表 本当の実力発揮の機会! 33

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こうならないように気をつけましょう Itoh Laboratory, Ochanomizu University 皆さんのアイデンティティ 学外、さらには海外で発表 さらに結果を極める 卒業研究で初めての 結果を発表 研究テーマを決める 1~3年 講義・演習中心の生活 4年 研究室生活開始 2年間 なにしてたの? 大学院 結果を極めて学外に発表 本当の実力発揮の機会! 34

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まとめのメッセージ Itoh Laboratory, Ochanomizu University • 内定時・入社時の実力が人生を変えるかもしれません • 大学院進学がその実力をつける機会になります – 企業プロセスにも共通する「専門性と方法論」を学ぶ機会 – 有形財産(業績)と無形財産(スキル・人脈)を同時につける機会 – 決して研究者になる人だけのための場所ではありません • 進学する人は進学前からのスタートダッシュが大事です 学生の皆様の活躍を期待しています! 35

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Itoh Laboratory, Ochanomizu University 本資料は「学生時代の研究体験が企業就職時の評価対象になりえる業界」 や、「採用方針や配属方針の点で学部生より大学院生が有利な企業が存在 する業界」を前提として作成されています。 これに該当しない環境では本資料は参考にならないかもしれません。 あくまでも一例ですが • ほとんど学部生しか採用しない企業への就職を希望する学生 • 学部生や修士学生に学会発表の機会がほとんどない分野に 属する学生 • 研究者を目指す人以外は大学院進学しないでほしいという 方針で運営されている研究室に属する学生 などには本資料は参考にならないであろう点をご容赦下さい。 36