Onsager代数とその周辺

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September 17, 23

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第4回 | すうがく徒のつどい@オンライン
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すうがく徒のつどいでOnsager代数の話をしました #tsudoionline - usami-k 数学日記
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各ページのテキスト
1.

Onsager 代数とその周辺 宇佐見 公輔 第 4 回 すうがく徒のつどい 1/43 宇佐見 公輔 Onsager 代数とその周辺

2.

自己紹介 宇佐見 公輔(うさみ こうすけ) 本業はプログラマー 大学院で数学専攻、修士卒業後は趣味としてやっている Lie 代数やその周辺を好む 今回は一般枠の講演として応募しましたが、入門枠のほうが適切 だったかもしれません。 2/43 宇佐見 公輔 Onsager 代数とその周辺

3.

今日の話 背景 Lie 代数とその関連用語 Onsager 代数 Onsager 代数の拡張 3/43 宇佐見 公輔 Onsager 代数とその周辺

4.

背景 Onsager 代数は、統計力学の数理模型である 2 次元 Ising 模型の 厳密解を導く際に導入された代数構造です(Onsager 1944) 。これ は ℂ 上の無限次元 Lie 代数です。 その後、Chiral Potts 模型の解法でも利用される(1980〜1990)な ど、他にもいくつかの数理模型の研究で用いられています。 Onsager 代数の一般化もいくつか研究されており、Generalized Onsager 代数、q-Onsager 代数、などがあります。これらも数理 物理への応用が研究されています。 4/43 宇佐見 公輔 Onsager 代数とその周辺

5.

背景 2 次元 Ising 模型:𝑚 × 𝑛 の格子模型 配置 𝑠 = (𝑠𝑖𝑗 )(ここで、𝑠𝑖𝑗 = ±1) 周期境界条件 𝑠𝑖+𝑚,𝑗 = 𝑠𝑖𝑗 、𝑠𝑖,𝑗+𝑛 = 𝑠𝑖𝑗 エネルギー 𝐸(𝑠) = −𝐽1 ∑ 𝑠𝑖𝑗 𝑠𝑖+1,𝑗 − 𝐽2 ∑ 𝑠𝑖𝑗 𝑠𝑖,𝑗+1 𝑖,𝑗 𝑖,𝑗 分配関数 𝑍(𝑇) = ∑ exp(−𝛽𝐸(𝑠)) 𝑠 統計力学の模型を解くとは、𝑚, 𝑛 → ∞ のときの分配関数 𝑍(𝑇) を 求めることです。 5/43 宇佐見 公輔 Onsager 代数とその周辺

6.

背景 2 次元 Ising 模型の分配関数は、転送行列というものを導入するこ とで、 𝑍(𝑇) = tr(𝑉1 𝑉2 )𝑚 と書けます(ここで 𝑉1 、𝑉2 は 2𝑛 × 2𝑛 行列)。このため、2 次元 Ising 模型を解くことは、𝑉1 𝑉2 の固有値を求めることに帰着し ます。 転送行列は 𝑉1 と 𝑉2 は、ある行列 𝐴0 、𝐴1 を用いて 𝑉1 = exp(𝐾1 𝐴1 ), 𝑉2 = exp(−𝐾2∗ 𝐴0 ) と書けます。この 𝐴0 、𝐴1 で生成される Lie 代数を Onsager 代数 と呼びます。これを詳しく調べることで、2 次元 Ising 模型の厳密 解が得られます。 6/43 宇佐見 公輔 Onsager 代数とその周辺

7.

Lie 代数の定義 集合 𝐿 に、加法、スカラー倍、ブラケット積の 3 つの演算を考え ます。 𝐿×𝐿→𝐿 (𝑥, 𝑦) ↦ 𝑥 + 𝑦 ℂ×𝐿→𝐿 (𝛼, 𝑥) ↦ 𝛼𝑥 𝐿×𝐿→𝐿 (𝑥, 𝑦) ↦ [𝑥, 𝑦] 7/43 宇佐見 公輔 Onsager 代数とその周辺

8.

Lie 代数の定義 Definition (Lie 代数) 集合 𝐿 が ℂ 上の Lie 代数であるとは、以下を満たすことです。 𝐿 は加法とスカラー倍で ℂ 上のベクトル空間になる。 (双線型性)∀𝑥, 𝑦, 𝑧 ∈ 𝐿、∀𝛼 ∈ ℂ について [𝑥 + 𝑦, 𝑧] = [𝑥, 𝑧] + [𝑦, 𝑧], [𝛼𝑥, 𝑧] = 𝛼[𝑥, 𝑧] [𝑧, 𝑥 + 𝑦] = [𝑧, 𝑥] + [𝑧, 𝑦], [𝑧, 𝛼𝑥] = 𝛼[𝑧, 𝑥] (交代性)∀𝑥 ∈ 𝐿 について [𝑥, 𝑥] = 0 (Jacobi 恒等式)∀𝑥, 𝑦, 𝑧 ∈ 𝐿 について [𝑥, [𝑦, 𝑧]] + [𝑦, [𝑧, 𝑥]] + [𝑧, [𝑥, 𝑦]] = 0 8/43 宇佐見 公輔 Onsager 代数とその周辺

9.

Lie 代数の定義 なお、[𝑥, 𝑥] = 0 から [𝑥, 𝑦] = −[𝑦, 𝑥] が導けます。 また、ブラケット積は結合法則 [𝑥, [𝑦, 𝑧]] = [[𝑥, 𝑦], 𝑧] を満たさず、 代わりに [𝑥, [𝑦, 𝑧]] = [[𝑥, 𝑦], 𝑧] + [𝑦, [𝑥, 𝑧]] という関係が成り立ちます。 9/43 宇佐見 公輔 Onsager 代数とその周辺

10.

関連用語の定義 Definition (準同型写像) 𝐿 と 𝑀 を Lie 代数とします。写像 𝜙 ∶ 𝐿 → 𝑀 が Lie 代数の準同型 写像であるとは、𝜙 が線型写像であり、∀𝑥, 𝑦 ∈ 𝐿 について 𝜙([𝑥, 𝑦]) = [𝜙(𝑥), 𝜙(𝑦)] を満たすことです。 Definition (同型) Lie 代数の準同型写像 𝜙 ∶ 𝐿 → 𝑀 が線型同型写像であるとき、𝜙 を Lie 代数の同型写像と呼びます。𝐿 から 𝑀 への Lie 代数の同型 写像が存在するとき、𝐿 と 𝑀 は同型であるといいます。 10/43 宇佐見 公輔 Onsager 代数とその周辺

11.

関連用語の定義 Definition (部分 Lie 代数) 𝐿 を Lie 代数とします。𝐿 の部分集合 𝑆 が部分 Lie 代数であると は、𝑆 が部分ベクトル空間であり、∀𝑥, 𝑦 ∈ 𝑆 について [𝑥, 𝑦] ∈ 𝑆 を満たすことです。 Definition (イデアル) 𝐿 を Lie 代数とします。𝐿 の部分集合 𝐼 がイデアルであるとは、𝐼 が部分ベクトル空間であり、∀𝑥 ∈ 𝐿、∀𝑦 ∈ 𝐼 について [𝑥, 𝑦] ∈ 𝐼 を満たすことです。 11/43 宇佐見 公輔 Onsager 代数とその周辺

12.

関連用語の定義 Definition (商 Lie 代数) 𝐿 を Lie 代数、𝐼 をイデアルとします。商ベクトル空間 𝐿/𝐼 にブラ ケット積を [𝑥, 𝑦] ∶= [𝑥, 𝑦] で定めると、𝐿/𝐼 は Lie 代数となりま す。これを商 Lie 代数と呼びます。 補足:𝐼 が単に部分 Lie 代数だとブラケット積が well-defined でな いことに注意してください。 12/43 宇佐見 公輔 Onsager 代数とその周辺

13.

結合代数 Definition (結合代数) 集合 𝐴 が ℂ 上の結合代数であるとは、加法、スカラー倍、乗法の 3 つの演算が定義されていて、以下の条件を満たすことです。 𝐴 は加法とスカラー倍で ℂ 上のベクトル空間になる。 乗法 𝐴 × 𝐴 → 𝐴 は双線型写像となる。 𝐴 は加法と乗法で環になる。すなわち、乗法は結合法則を満 たし単位元を持つ(なお、交換法則は仮定しない) 。 「結合代数」という言葉を使いましたが、通常はわざわざ「結合」 と言わずに「代数」「多元環」と呼ばれることが多いです。今は Lie 代数の話をしていて結合法則を満たすことが当たり前ではな いので、あえて「結合代数」と呼んでいます。 13/43 宇佐見 公輔 Onsager 代数とその周辺

14.

結合代数 結合代数が与えられたとき、ブラケット積を [𝑥, 𝑦] ∶= 𝑥𝑦 − 𝑦𝑥 で 定義すると、結合代数としての乗法を忘れて、加法とスカラー倍 とブラケット積で Lie 代数となります。 Example (行列の Lie 代数) M(𝑛, ℂ) を ℂ 上の 𝑛 次正方行列全体の集合とします。これは通常 の加法、スカラー倍、乗法で結合代数です。 M(𝑛, ℂ) にブラケット積を [𝑋, 𝑌 ] ∶= 𝑋𝑌 − 𝑌 𝑋 で定めると Lie 代 数となります。これは 𝔤𝔩(𝑛, ℂ) と呼ばれます。 補足:このような結合代数と Lie 代数の関係から、[𝑥, 𝑦] = 0 とな ることを「𝑥 と 𝑦 が可換である」という言い方をします。 14/43 宇佐見 公輔 Onsager 代数とその周辺

15.

基底を使った Lie 代数の表示 ℂ 上のベクトル空間 𝐿 が与えられたとして、この 𝐿 が Lie 代数と なるようにブラケット積を定めることを考えます。 𝐿 の基底 {𝑒𝑖 }𝑖∈𝐼 をひとつ取ります。基底同士のブラケット積 [𝑒𝑖 , 𝑒𝑗 ] をすべて定めれば、𝐿 の元は基底の線型結合で書けますので、ブ ラケット積の双線型性から 𝐿 全体のブラケット積が定まります。 この際、ブラケット積が交代性を満たすためには [𝑒𝑖 , 𝑒𝑖 ] = 0、 [𝑒𝑗 , 𝑒𝑖 ] = −[𝑒𝑖 , 𝑒𝑗 ] が必要です。また、Jacobi 恒等式を満たすために は [𝑒𝑖 , [𝑒𝑗 , 𝑒𝑘 ]] + [𝑒𝑗 , [𝑒𝑘 , 𝑒𝑖 ]] + [𝑒𝑘 , [𝑒𝑖 , 𝑒𝑗 ]] = 0 が必要です。これらの 条件を満たすようにブラケット積を定めることができれば、𝐿 は Lie 代数となります。 この考え方で、いくつかの Lie 代数の具体例を挙げます。 15/43 宇佐見 公輔 Onsager 代数とその周辺

16.

基底を使った Lie 代数の表示 Example (𝐴1 型の単純 Lie 代数) 𝐿 を ℂ 上の 3 次元ベクトル空間とします。基底 {ℎ, 𝑒, 𝑓} に対して ブラケット積を [ℎ, ℎ] = 0, [ℎ, 𝑒] = 2𝑒, [ℎ, 𝑓] = −2𝑓, [𝑒, ℎ] = −2𝑒, [𝑒, 𝑒] = 0, [𝑒, 𝑓] = ℎ, [𝑓, ℎ] = 2𝑓, [𝑓, 𝑒] = −ℎ, [𝑓, 𝑓] = 0 と定めると、𝐿 は Lie 代数となります。 これは 𝐴1 型の単純 Lie 代数として知られています。行列の Lie 代 数 𝔰𝔩(2, ℂ) ∶= {𝑋 ∈ 𝔤𝔩(2, ℂ) ∣ tr(𝑋) = 0} と同型です。 16/43 宇佐見 公輔 Onsager 代数とその周辺

17.

基底を使った Lie 代数の表示 [ℎ, 𝑒], [ℎ, 𝑓], [𝑒, 𝑓] だけ定めれば、残りは交代性を満たす必要から 定まります。 Jacobi 恒等式を満たすことは別途確認します。たとえば [ℎ, [𝑒, 𝑓]] + [𝑒, [𝑓, ℎ]] + [𝑓, [ℎ, 𝑒]] = 0 は、[ℎ, [𝑒, 𝑓]] = 0、[𝑒, [𝑓, ℎ]] = 2ℎ、[𝑓, [ℎ, 𝑒]] = −2ℎ から成り立 ちます。 17/43 宇佐見 公輔 Onsager 代数とその周辺

18.

基底を使った Lie 代数の表示 Example (𝐴2 型の単純 Lie 代数の部分 Lie 代数) 𝐿 を ℂ 上の 3 次元ベクトル空間とします。基底 {𝑒1 , 𝑒2 , 𝑒3 } に対し てブラケット積を [𝑒1 , 𝑒1 ] = 0, [𝑒1 , 𝑒2 ] = 𝑒3 , [𝑒1 , 𝑒3 ] = 0, [𝑒2 , 𝑒1 ] = −𝑒3 , [𝑒2 , 𝑒2 ] = 0, [𝑒2 , 𝑒3 ] = 0, [𝑒3 , 𝑒1 ] = 0, [𝑒3 , 𝑒2 ] = 0, [𝑒3 , 𝑒3 ] = 0 と定めると、𝐿 は Lie 代数となります。 これは 𝐴2 型の単純 Lie 代数の部分 Lie 代数です。𝐴2 型の単純 Lie 代数は 8 次元であり、基底 {ℎ1 , 𝑒1 , 𝑓1 } からなる 𝐴1 型と基底 {ℎ2 , 𝑒2 , 𝑓2 } からなる 𝐴1 型に 𝑒3 と 𝑓3 を加えることで得られます。 18/43 宇佐見 公輔 Onsager 代数とその周辺

19.

生成元と関係式から定まる Lie 代数 ここまでは基底に対してブラケット積を定めることで Lie 代数を 構成しました。 別の方法として、生成元と関係式によって Lie 代数を構成する方 法を述べます。これは、他の代数構造の場合でもよく使われる方 法です。 19/43 宇佐見 公輔 Onsager 代数とその周辺

20.

生成元と関係式から定まる Lie 代数 Definition (自由 Lie 代数) 集合 𝑋 を考えます。𝑋 上の自由 Lie 代数 𝐿(𝑋) とは、𝑋 を含む Lie 代数であって次の条件を満たすもののことです。 Lie 代数 𝑀 と写像 𝜃 ∶ 𝑋 → 𝑀 が与えられたとき、次の図式を可換 にするような Lie 代数の準同型 𝜙 ∶ 𝐿(𝑋) → 𝑀 がただひとつ存在 する。 𝑋 id 𝐿(𝑋) 𝜃 ∃𝜙 𝑀 20/43 宇佐見 公輔 Onsager 代数とその周辺

21.

生成元と関係式から定まる Lie 代数 Theorem (自由 Lie 代数の存在と一意性) 集合 𝑋 上の自由 Lie 代数 𝐿(𝑋) は同型を除いて一意に存在します。 自由 Lie 代数が存在すれば一意であることは、圏の言葉でいう普 遍性で、証明は難しくありません。 自由 Lie 代数が存在することは実際に構成することで示せます。 たとえば次のようになります。 1 𝑋 を基底とするベクトル空間 𝑉 を考えます。 2 ベクトル空間 𝑉 からテンソル代数 𝑇(𝑉 ) を考えます。これは テンソル積 ⊗ を乗法演算とする結合代数です。 3 テンソル代数 𝑇(𝑉 ) にブラケット積を [𝑥, 𝑦] ∶= 𝑥 ⊗ 𝑦 − 𝑦 ⊗ 𝑥 で定めると Lie 代数となります。 4 Lie 代数 𝑇(𝑉) の部分 Lie 代数で 𝑋 で生成されるものを 𝐿 とし ます。𝐿 が自由 Lie 代数となります。 21/43 宇佐見 公輔 Onsager 代数とその周辺

22.

生成元と関係式から定まる Lie 代数 Definition (生成元と関係式から定まる Lie 代数) 集合 𝑋 上の自由 Lie 代数 𝐿(𝑋) を考えます。𝐿(𝑋) の部分集合 {𝑟𝑖 }𝑖∈𝐼 から生成されるイデアルを 𝑅 とするとき、𝐿(𝑋)/𝑅 を生成元 𝑋 と 関係式 {𝑟𝑖 = 0}𝑖∈𝐼 で定まる Lie 代数と呼びます。 この考え方で、いくつかの Lie 代数の具体例を挙げます。 22/43 宇佐見 公輔 Onsager 代数とその周辺

23.

生成元と関係式から定まる Lie 代数 Example (𝐴2 型の単純 Lie 代数の部分 Lie 代数) 生成元 {𝑒1 , 𝑒2 } と関係式 [𝑒1 , [𝑒1 , 𝑒2 ]] = 0 [𝑒2 , [𝑒2 , 𝑒1 ]] = 0 で定まる Lie 代数を考えます。これは先ほど基底を使った Lie 代 数の表示で挙げた例と同型です。 𝑒3 は 𝑒1 と 𝑒2 から生成されるので、生成元としては不要になって います。 23/43 宇佐見 公輔 Onsager 代数とその周辺

24.

生成元と関係式から定まる Lie 代数 Example (𝐴2 型の単純 Lie 代数) 生成元 {ℎ1 , ℎ2 , 𝑒1 , 𝑒2 , 𝑓1 , 𝑓2 } と関係式 [ℎ1 , ℎ2 ] = 0, [ℎ1 , 𝑒1 ] = 2𝑒1 , [ℎ1 , 𝑒2 ] = −𝑒2 , [ℎ2 , 𝑒1 ] = −𝑒1 , [ℎ2 , 𝑒2 ] = 2𝑒2 , [ℎ1 , 𝑓1 ] = −2𝑓1 , [ℎ1 , 𝑓2 ] = 𝑓2 , [ℎ2 , 𝑓1 ] = 𝑓1 , [ℎ2 , 𝑓2 ] = −2𝑓2 , [𝑒1 , 𝑓1 ] = ℎ1 , [𝑒1 , 𝑓2 ] = 0 [𝑒2 , 𝑓2 ] = ℎ2 , [𝑒2 , 𝑓1 ] = 0 [𝑒1 , [𝑒1 , 𝑒2 ]] = 0, [𝑒2 , [𝑒2 , 𝑒1 ]] = 0 [𝑓1 , [𝑓1 , 𝑓2 ]] = 0, [𝑓2 , [𝑓2 , 𝑓1 ]] = 0 で定まる Lie 代数を考えます。これは 𝐴2 型の単純 Lie 代数です。 これは 𝔰𝔩(3, ℂ) ∶= {𝑋 ∈ 𝔤𝔩(3, ℂ) ∣ tr(𝑋) = 0} と同型です。 宇佐見 公輔 Onsager 代数とその周辺 24/43

25.

Onsager 代数 Lie 代数の言葉を準備したところで、Onsager 代数の定義を述べ ます。Onsager 代数は、生成元と関係式で定義できます。 Definition (Onsager 代数(生成元と関係式)) 生成元 {𝐴0 , 𝐴1 } と以下の関係式で定まる Lie 代数を Onsager 代数 と呼びます。 [𝐴0 , [𝐴0 , [𝐴0 , 𝐴1 ]]] = 4[𝐴0 , 𝐴1 ] [𝐴1 , [𝐴1 , [𝐴1 , 𝐴0 ]]] = 4[𝐴1 , 𝐴0 ] この 2 つの関係式は Dolan-Grady 関係式と呼ばれています。 25/43 宇佐見 公輔 Onsager 代数とその周辺

26.

Onsager 代数 Onsager 代数は、基底とそのブラケット積を列挙できます。この 方法でも定義できます。 Definition (Onsager 代数(基底)) {𝐴𝑘 , 𝐺𝑚 }(𝑘 ∈ ℤ、𝑚 ∈ ℤ>0 )を基底とし、ブラケット積を以下で 定義した Lie 代数を Onsager 代数と呼びます。 [𝐴𝑘 , 𝐴𝑙 ] = 2𝐺𝑘−𝑙 [𝐺𝑚 , 𝐴𝑘 ] = 𝐴𝑘+𝑚 − 𝐴𝑘−𝑚 [𝐺𝑚 , 𝐺𝑛 ] = 0 ただし便宜上 𝐺−𝑚 ∶= −𝐺𝑚 、𝐺0 ∶= 0 とします。 この定義の場合、Jacobi 恒等式を満たすことは別途確認する必要 があります。 26/43 宇佐見 公輔 Onsager 代数とその周辺

27.

Onsager 代数 Jacobi 恒等式を満たすことを示します。 𝐺 が 3 つの場合、 [𝐺𝑙 , [𝐺𝑚 , 𝐺𝑛 ]] + [𝐺𝑚 , [𝐺𝑛 , 𝐺𝑙 ]] + [𝐺𝑛 , [𝐺𝑙 , 𝐺𝑚 ]] = 0 𝐺 が 2 つ、𝐴 が 1 つの場合、 [𝐺𝑚 , [𝐺𝑛 , 𝐴𝑘 ]] + [𝐺𝑛 , [𝐴𝑘 , 𝐺𝑚 ]] + [𝐴𝑘 , [𝐺𝑚 , 𝐺𝑛 ]] = [𝐺𝑚 , 𝐴𝑘+𝑛 − 𝐴𝑘−𝑛 ] − [𝐺𝑛 , 𝐴𝑘+𝑚 − 𝐴𝑘−𝑚 ] + 0 = 𝐴𝑘+𝑛+𝑚 − 𝐴𝑘+𝑛−𝑚 − 𝐴𝑘−𝑛+𝑚 + 𝐴𝑘−𝑛−𝑚 − 𝐴𝑘+𝑚+𝑛 + 𝐴𝑘+𝑚−𝑛 + 𝐴𝑘−𝑚+𝑛 − 𝐴𝑘−𝑚−𝑛 =0 27/43 宇佐見 公輔 Onsager 代数とその周辺

28.

Onsager 代数 𝐺 が 1 つ、𝐴 が 2 つの場合、 [𝐺𝑚 , [𝐴𝑗 , 𝐴𝑘 ]] + [𝐴𝑗 , [𝐴𝑘 , 𝐺𝑚 ]] + [𝐴𝑘 , [𝐺𝑚 , 𝐴𝑗 ]] = [𝐺𝑚 , 2𝐺𝑗−𝑘 ] − [𝐴𝑗 , 𝐴𝑘+𝑚 − 𝐴𝑘−𝑚 ] + [𝐴𝑘 , 𝐴𝑗+𝑚 − 𝐴𝑗−𝑚 ] = 0 − 2𝐺𝑗−𝑘−𝑚 + 2𝐺𝑗−𝑘+𝑚 + 2𝐺𝑘−𝑗−𝑚 − 2𝐺𝑘−𝑗+𝑚 = − 2𝐺𝑗−𝑘−𝑚 + 2𝐺𝑗−𝑘+𝑚 − 2𝐺−𝑘+𝑗+𝑚 + 2𝐺−𝑘+𝑗−𝑚 =0 𝐴 が 3 つの場合、[𝐴𝑖 , [𝐴𝑗 , 𝐴𝑘 ]] = [𝐴𝑖 , 2𝐺𝑗−𝑘 ] = 2𝐴𝑖−𝑗+𝑘 − 2𝐴𝑖+𝑗−𝑘 より、 [𝐴𝑖 , [𝐴𝑗 , 𝐴𝑘 ]] + [𝐴𝑗 , [𝐴𝑘 , 𝐴𝑖 ]] + [𝐴𝑘 , [𝐴𝑖 , 𝐴𝑗 ]] = 2𝐴𝑖−𝑗+𝑘 − 2𝐴𝑖+𝑗−𝑘 + 2𝐴𝑗−𝑘+𝑖 − 2𝐴𝑗+𝑘−𝑖 + 2𝐴𝑘−𝑖+𝑗 − 2𝐴𝑘+𝑖−𝑗 =0 28/43 宇佐見 公輔 Onsager 代数とその周辺

29.

Onsager 代数 Theorem (Onsager 代数の同型) 2 つの生成元と Dolan-Grady 関係式で定まる Onsager 代数と、基 底で定義した Onsager 代数は同型になります。 29/43 宇佐見 公輔 Onsager 代数とその周辺

30.

Onsager 代数 Onsager 代数の基底は生成元 𝐴0 、𝐴1 から次のように生成され ます。 1 𝐺1 ∶= [𝐴1 , 𝐴0 ] 2 𝐴2 ∶= 𝐴0 + [𝐺1 , 𝐴1 ] 𝐴−1 ∶= 𝐴1 − [𝐺1 , 𝐴0 ] 1 𝐺2 ∶= [𝐴2 , 𝐴0 ] 2 𝐴3 ∶= 𝐴0 + [𝐺1 , 𝐴2 ] 𝐴−2 ∶= 𝐴0 − [𝐺1 , 𝐴−1 ] 1 𝐺3 ∶= [𝐴3 , 𝐴0 ] 2 𝐴4 ∶= 𝐴0 + [𝐺1 , 𝐴3 ] 𝐴−3 ∶= 𝐴0 − [𝐺1 , 𝐴−2 ] 30/43 宇佐見 公輔 Onsager 代数とその周辺

31.

Onsager 代数 同型の証明は計算量が多いので省略しますが、Dolan-Grady 関係 式が効いてくる例を挙げます。 Lemma [𝐴1 , 𝐴2 ] = [𝐴0 , 𝐴1 ] 31/43 宇佐見 公輔 Onsager 代数とその周辺

32.

Onsager 代数 [𝐴1 , 𝐴2 ] = [𝐴1 , 𝐴0 + [𝐺1 , 𝐴1 ]] = [𝐴1 , 𝐴0 ] + [𝐴1 , [𝐺1 , 𝐴1 ]] [𝐴1 , [𝐺1 , 𝐴1 ]] = −[𝐴1 , [𝐴1 , 𝐺1 ]] 1 = − [𝐴1 , [𝐴1 , [𝐴1 , 𝐴0 ]]] 2 = −2[𝐴1 , 𝐴0 ] したがって [𝐴1 , 𝐴2 ] = [𝐴1 , 𝐴0 ] − 2[𝐴1 , 𝐴0 ] = −[𝐴1 , 𝐴0 ] = [𝐴0 , 𝐴1 ] 32/43 宇佐見 公輔 Onsager 代数とその周辺

33.

loop 代数 Onsager 代数の別の表示方法を述べます。 Definition (ローラン多項式) 多項式環 ℂ[𝑡, 𝑡−1 ] をローラン多項式環と呼びます。 別の言い方をすると、 ∑ 𝛼𝑖 𝑡𝑖 𝑖∈ℤ (ここで、𝛼𝑖 ∈ ℂ、𝛼𝑖 ≠ 0 となる 𝑖 は有限個)という形の多項式を ローラン多項式と呼びます。 𝑡−1 、𝑡−2 など、負べきの項を許した多項式です。 33/43 宇佐見 公輔 Onsager 代数とその周辺

34.

loop 代数 Definition (loop 代数) 𝐿 を Lie 代数とします。ℂ[𝑡, 𝑡−1 ] ⊗ 𝐿 について、ブラケット積を [𝑝 ⊗ 𝑥, 𝑞 ⊗ 𝑦] ∶= 𝑝𝑞 ⊗ [𝑥, 𝑦] と定義すると Lie 代数になります。これを 𝐿 の loop 代数と呼び ます。 スカラーの部分をローラン多項式に置き換えた形のものです。 loop 代数は Kac-Moody Lie 代数の実現に使われます。アフィン Lie 代数は、有限次元単純 Lie 代数の loop 代数の中心拡大で実現 できます。 34/43 宇佐見 公輔 Onsager 代数とその周辺

35.

Onsager 代数と loop 代数 Onsager 代数は loop 代数を使って具体的に実現できます。 Definition (𝔰𝔩(2, ℂ) に対する Chevalley involution) 𝐴1 型単純 Lie 代数 𝔰𝔩(2, ℂ) を考えます。自己同型写像 𝜔 を 𝑒 ↦ 𝑓, 𝑓 ↦ 𝑒, ℎ ↦ −ℎ で定義します。 Definition (loop 代数に対する Chevalley involution) loop 代数 𝐿 ∶= ℂ[𝑡, 𝑡−1 ] ⊗ 𝔰𝔩(2, ℂ) を考えます。自己同型写像 𝜔 を 𝑝(𝑡) ⊗ 𝑥 ↦ 𝑝(𝑡−1 ) ⊗ 𝜔(𝑥) で定義します。 35/43 宇佐見 公輔 Onsager 代数とその周辺

36.

Onsager 代数と loop 代数 Definition (Chevalley involution による不変部分 Lie 代数) loop 代数 𝐿 ∶= ℂ[𝑡, 𝑡−1 ] ⊗ 𝔰𝔩(2, ℂ) に対して、𝐿𝜔 を 𝐿𝜔 ∶= {𝑥 ∈ 𝐿 ∣ 𝜔(𝑥) = 𝑥} で定義します。これは 𝐿 の部分 Lie 代数になります。 Theorem (Onsager 代数と loop 代数の同型) 𝐿𝜔 は Onsager 代数と同型になります。 36/43 宇佐見 公輔 Onsager 代数とその周辺

37.

Onsager 代数と loop 代数 {𝑎𝑘 , 𝑔𝑚 }(𝑘 ∈ ℤ、𝑚 ∈ ℤ>0 )を 𝑎𝑘 ∶= 𝑡𝑘 ⊗ 𝑒 + 𝑡−𝑘 ⊗ 𝑓 1 𝑔𝑚 ∶= (𝑡𝑚 − 𝑡−𝑚 ) ⊗ ℎ 2 で定義すると、𝐿𝜔 の基底になります。 そして、Onsager 代数の基底 {𝐴𝑘 , 𝐺𝑚 } と対応します。実際に 𝐿𝜔 の基底同士のブラケット積が Onsager 代数の基底同士のブラケッ ト積と一致することを確認します。 37/43 宇佐見 公輔 Onsager 代数とその周辺

38.

Onsager 代数と loop 代数 [𝑎𝑘 , 𝑎𝑙 ] = [𝑡𝑘 ⊗ 𝑒 + 𝑡−𝑘 ⊗ 𝑓, 𝑡𝑙 ⊗ 𝑒 + 𝑡−𝑙 ⊗ 𝑓] = 𝑡𝑘+𝑙 ⊗ [𝑒, 𝑒] + 𝑡𝑘−𝑙 ⊗ [𝑒, 𝑓] + 𝑡−𝑘+𝑙 ⊗ [𝑓, 𝑒] + 𝑡−𝑘−𝑙 ⊗ [𝑓, 𝑓] = 𝑡𝑘−𝑙 ⊗ ℎ − 𝑡−𝑘+𝑙 ⊗ ℎ = 2𝑔𝑘−𝑙 1 [𝑔𝑚 , 𝑎𝑘 ] = [ (𝑡𝑚 − 𝑡−𝑚 ) ⊗ ℎ, 𝑡𝑘 ⊗ 𝑒 + 𝑡−𝑘 ⊗ 𝑓] 2 1 𝑚+𝑘 1 = (𝑡 − 𝑡−𝑚+𝑘 ) ⊗ [ℎ, 𝑒] + (𝑡𝑚−𝑘 − 𝑡−𝑚−𝑘 ) ⊗ [ℎ, 𝑓] 2 2 = 𝑡𝑚+𝑘 ⊗ 𝑒 − 𝑡−𝑚+𝑘 ⊗ 𝑒 − 𝑡𝑚−𝑘 ⊗ 𝑓 + 𝑡−𝑚−𝑘 ⊗ 𝑓 = 𝑎𝑘+𝑚 − 𝑎𝑘−𝑚 38/43 宇佐見 公輔 Onsager 代数とその周辺

39.

Onsager 代数の拡張 Onsager 代数は ℂ[𝑡, 𝑡−1 ] ⊗ 𝔰𝔩(2, ℂ) の部分 Lie 代数でした。この 𝔰𝔩(2, ℂ) を他の単純 Lie 代数に置き換えることで、Onsager 代数の 拡張を考えることができます。 Uglov と Ivanov による A 型への拡張(1996) Date と Usami による D 型への拡張(2004) Stokman による一般の Kac-Moody algebra への拡張(2019) これらのそれぞれで、生成元と関係式による定義、基底による定 義、loop 代数による定義が可能であり互いに同型になります。 39/43 宇佐見 公輔 Onsager 代数とその周辺

40.

Onsager 代数の拡張 Definition (A 型 Onsager algebra) (1) 生成元 𝑒0 , … , 𝑒𝑛 と以下の関係式で生成される Lie 代数を 𝐴𝑛 型 Onsager 代数と呼びます。 [𝑒𝑖 , [𝑒𝑖 , 𝑒𝑗 ]] = 𝑒𝑗 Dynkin 図形上で頂点が隣のとき [𝑒𝑖 , [𝑒𝑖 , 𝑒𝑗 ]] = 0 otherwise (1) 上記の Dynkin 図形は 𝐴𝑛 型のもの。 40/43 宇佐見 公輔 Onsager 代数とその周辺

41.

Onsager 代数の拡張 Definition (D 型 Onsager algebra) (1) 生成元 𝑒0 , … , 𝑒𝑛 と以下の関係式で生成される Lie 代数を 𝐷𝑛 型 Onsager 代数と呼びます。 [𝑒𝑖 , [𝑒𝑖 , 𝑒𝑗 ]] = 𝑒𝑗 Dynkin 図形上で頂点が隣のとき [𝑒𝑖 , [𝑒𝑖 , 𝑒𝑗 ]] = 0 otherwise (1) 上記の Dynkin 図形は 𝐷𝑛 型のもの。 41/43 宇佐見 公輔 Onsager 代数とその周辺

42.

Onsager 代数の拡張 Definition (Generalized Onsager Algebra) 𝐴 = (𝑎𝑖𝑗 ) を対称化可能な generalized Cartan matrix とします。生 成元 𝑒1 , … , 𝑒𝑛 と以下の関係式で生成される Lie 代数を Generalized Onsager Algebra と呼びます。 1−𝑎𝑖𝑗 𝑖𝑗 𝑠 ∑ 𝑐𝑠 [1 − 𝑎𝑖𝑗 ](ad𝑒𝑖 ) 𝑒𝑗 = 0 𝑠=0 (1) Cartax matrix が 𝐴1 型の場合は Dolan-Grady 関係式 (1) 𝐴𝑛 型の場合は Uglov と Ivanov の定義 (1) 𝐷𝑛 型の場合は Date と Usami の定義 に、それぞれ一致します。 42/43 宇佐見 公輔 Onsager 代数とその周辺

43.

参考文献 The Onsager Algebra, Caroline El-Chaar, 2012 Generalized Onsager Algebras, Jasper V. Stokman, 2019 43/43 宇佐見 公輔 Onsager 代数とその周辺