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April 09, 24
スライド概要
こちらで発表した資料になります。(公開するにあたり一部編集)
https://www.jasst.jp/symposium/jasst24tokyo/details.html#A7
温故知新: QAエンジニアとして 日本的品質管理を再考する JaSST'24 Tokyo: 公募セッション 2024年3月15日(金) 13:00 - 14:00 池田 暁(クオリティアーツ) 金子 昌永(PKSHA Workplace) 河野 哲也(ナレッジワーク)
本セッションの目的とタイムテーブル ● 目的:日本的品質管理を考える機会の提供 ○ モヤモヤを少しだけスッキリさせる ○ そして、日本的品質管理と仲良くなる(or 仲直りする) ● タイムテーブル ○ 登壇者自己紹介 :3分 ○ 日本的品質管理外観 :10分 ■ 議論のコンテキストを整える ○ ○ ○ ○ アンケート結果のサマリ :5分 事前質問をベースにディスカッション :20分 当日の質問をベースにディスカッション :20分 まとめ :2分 2
池田 暁(いけだ あきら) ● 主な所属 ○ ○ ○ ● 主な経歴 ○ ○ ● クオリティアーツ 代表 株式会社NDKCOM 技術顧問、長崎県スタートアップ支援事業 技術メンター NPO法人ASTER 理事、派生開発推進協議会 運営委員 伝統的製造業 在籍時代 ■ 日立情報通信エンジニアリングにて組込み系・Web系システムの設計、品質保証業務を経て、技術支 援部門を立ち上げ、テスト技術を中心にアジャイル開発やMBD/SPL等の導入に従事。 ■ 医用系の日立ハイテク、自動車系の日立Astemoと製品ドメインを移しながら、全社を対象とした品質改 善や研究による新技術導入、テスト自動化チーム運営等、プロダクトの品質確保や効率向上、技術高 度化に従事。 ■ その他、日立グループ横断部会活動のテスト分野主査として、グループ全体の技術力向上や技術者育 成に取り組んできた。 個人事業主・ベンチャー時代(いまここ) ■ 2021年7月に立ち上げた個人事業主「クオリティアーツ」にて、スタートアップ企業から大企業、公共など あらゆる方面に対して支援中。 ■ 株式会社ビズリーチを経て、現在はfintec某社にCQOとしても所属。 主な著書 ○ ○ ○ ○ 『実践ソフトウェアエンジニアリング第9版(共訳)』 『SQuBOK Guide V3(共著)』 『[改訂新版]マインドマップから始めるソフトウェアテスト(共著)』 『ソフトウェアテストの基礎(共訳)』等。 3
金子 昌永 (かねこ まさのり) ● PKSHA Workplace ソフトウェア品質保証リーダー (エンプラSaaS) ↑ 日立製作所 ソフトウェア工学研究者 (医療機器/車載) ↑ クラリオン 組込みソフトウェア開発者 (車載) ↑ 東京工業大学 工学部 情報工学科, 同大学院 国際開発工学専攻 本日は心のブレーキを外し 法定速度で爆走する ディスカッションを心がけます ● 本セッションを思いついた人 「QA=テスト と捉えている人々 / 業界が ありそうなんですが、もっと先があるので 日本的品質管理を再考する会をやりましょう」 ● 対外的発表 [共訳] 実践ソフトウェアエンジニアリング第 9版, インナーソースチェックリスト [講演/論文] SQiPシンポジウム2022チュートリアル, ET&IoT2021, ソフトウェアエンジニア リングシンポジウム 2020, XP祭り2019, SQiPシンポジウム2015 4
河野哲也(𝕏:@TetsuayaKouno) ● 現職:株式会社 ナレッジワーク QA Engineer ○ 新規プロダクトの一人QA QAエンジニア積極採用中 https://kwork.studio/recruit-engineer ● 経歴 ○ 高校卒業後日本無線でハードウェアQA(約10年) →電気通信大学で社会人マスタ/ドクタ + フリーのコンサルタント →日立製作所でソフトウェアのQA(約6年) →DeNAでWeb・モバイルのQA(3年半) →メルカリでグローバル環境でQA →2023年5月ナレッジワークにジョイン ● 著書 ○ QA・テストがモヤモヤしたら読む ITスタートアップのためのQAの考え方 (内製化失敗編/内製化成功編) 5
3人の共通点 伝統的製造業 通信インフラ, 自動車部品, 医療機器, 業務用ストレージ ↓ 新興企業 エンタープライズSaaS, CtoC SaaS 6
主に参考にした書籍 ● 現代品質管理総論 飯塚 悦功 ○ 今でも手に入る 書籍をベースにした 7
品質とは ● 品質の定義 ○ ○ ○ ○ ○ ニーズに関わる(考慮の対象の)特徴の全体像[飯塚] ユーザにとっての価値 [品質保証の立場からの定義] ユーザの満足度=顧客満足度 [品質管理の立場からの定義] 要求に対する適合 [クロスビー] 誰かにとっての価値 [ワインバーグ] ■ ■ ○ 「誰か」が重要、例えば使用するユーザやシステム管理者であったり 製品を売る販売会社や場合によっては開発者自身(未来の自分)の場合もある システムが本稼働するとき、 どこまで真のビジネス(ユーザ)ニーズに合っているかということ ● まとめると ○ 最終的にユーザが使用(利用)する時点でそのニーズをどれだけ満足しているか?=良 い品質とは何か? ■ ■ 改めてユーザとは誰かを問い続けることが重要 バグが無いことが良い品質とは言えない 参考文献: 「現代品質管理総論」 , 「ソフトウェア品質保証入門」 8
日本的品質管理:QC(品質をコントロールする) ● QC:Quality Control / SQC:Statistical Quality Control 品質を(統計的に)コントロールする ○ ○ 製品品質を設計や仕様に向けてコントロール→生産現場の仕事 ■ 長さ、重さ、芯の硬さ の管理 顧客のニーズ・顧客価値はどこへ? 設計 仕様 規格 9
脱線:QCに対して野球のメタファー ● 「QC = テスト」で理解されることがあるが 本当にテストは品質をコントロールしているのか? 球審 キャッチャー ピッチャー 10
脱線:QCに対して野球のメタファー ● 「QC = テスト」で理解されることがあるが 本当にテストは品質をコントロールしているのか? テストエンジニア ストライクゾーンという Specに対して 合否(ストライク・ボール)の 判定をしている 11
脱線:QCに対して野球のメタファー ● 「QC = テスト」で理解されることがあるが 本当にテストは品質をコントロールしているのか? テストエンジニア 投球の質は分かるので、 それはコントロールに役立つ (逆に質をコントロールしだすと荒れ試合に ) 投球の質をコントロール しているのはコチラ 12
日本的品質管理:TQC(総合的品質管理) ● TQC:Total Quality Control / 総合的に品質をコントロールする 生産現場からサービス部門・管理部門など全社的な活動 ■ 全員参加(QCサークル活動) ■ 改善 ○ 品質だけではなく、コスト・ 納期・量・安全など あらゆる経営目標を品質管理 の対象とした →時代のニーズに合致した 品質管理における品質の捉え方 ○ 設計品質:計画の品質・ 狙いの品質 ○ 適合品質:狙いとの 一致度合い ○ 合致品質:ユーザのニーズを 満たす品質 ○ ● 13
日本的品質管理:TQCからTQMへ ● TQM:Total Quality Management / 品質のための経営を含めた管理 ○ 経営システムにおける総合的な品質向上のための方法論→経営のためのツール ■ ○ 品質が良い = 売れる → 経営としては非常に合理性がある 全社員から経営者へ、、、経営システムから全社員へ 14
日本的品質管理における品質保証 ● 品質保証とは(品質管理の真髄である [“日本的品質管理”, 石川]) ○ 顧客が満足する製品・サービスを提供すること、あるいはそのための活動 ■ 比較的新しい概念・方法 →昔は品質に関する責任の原則は購入者にあった(無保証) ● 品質保証の起源 ○ ○ ○ 製品・サービスの複雑化による「補償(弁償)」が必要に 生産・販売の大規模化の影響による補償の限界 補償に留まると、その費用ゆえに製品・サービスの競争力が低下→補償よりも保証へ ● 品質保証の方法の変遷 ○ 「検査重点主義」→「工程管理重点主義」→「新製品開発重点主義」 ■ 検査では品質は向上しない →はじめから良品を作るようにする →工程管理→ 良品を作っても売れなければ意味がない →良い製品仕様を作る →真の品質保証 ● ISO9000における解釈(欧米的な考え方に近い) ○ 契約型製品であれば契約事項、市場型製品であれば製品仕様に明示された事項 に関して、または組織内部で定めた要求事項に関して、これらを満たす能力が あることを実証すること→外国人がQAという場合この解釈がかなり近い 15
品質保証活動の要素 「現代品質管理総論」原文を引用 ● 信頼感を与えることができる製品を顧客に提供するための体系的活動 ○ ○ ○ ○ 顧客が満足する品質を達成するための手順の確立 定めた手順通りに実施した場合に顧客が満足する品質を達成できることの確認 日常の作業が手順通りに実施されていることの確認と実施されていない場合の フィードバック 日常的に生産されている製品が所定の品質水準に達していることの確認ならびに 未達成の場合の処置 ● 使用の段階でメーカー責任のトラブルが生じた場合の保証と 再発防止のための体系的活動 ○ ○ 応急対策としてのクレーム処理、アフターサービス、製造物責任補償 再発防止策としての品質解析と前工程へのフィードバック 16
概要:品質保証活動の要素 ● はじめから品質の良い製品・サービスを提供する ○ ○ ○ ○ 仕組みがある 仕組みが妥当 きちんと実施 実物で確認 ● 何か問題があったら適切に対応する ○ 応急処置 ○ 再発防止 17
ソフトウェア開発における品質管理・品質保証 ● 生産現場の狭義の品質管理ではなく広義の品質管理に取り組めば良い ○ 品質管理は全社的な活動→QA部門だけではなく、ソフトウェアエンジニアを含め 全ての部門が対象になる ■ 欧米は、品質管理スタッフが主体的に活動をしているようである ● よくある誤謬 ○ ○ ○ 「品質管理=QA or テスト」は誤り 「品質保証(QA)=テスト」も誤り 品質管理 ≠ 上流から成果物のレビューをしたり、プロセスをチェックする ■ ≠ バグを見つけて集計して、そのデータを品質として管理する (「そのデータ で品質を管理する」としたい) ● 品質保証(QA):テストは重要な活動ではあるが、 開発プロセス全体でプロダクトの品質を保証していく ○ 開発成果物のレビュー、開発プロセスの改善などなど、基本的になんでもやる ■ シフトレフトという言葉があるが、品質保証はもともとはシフトレフトを包含している 18
本セッションの目的とタイムテーブル ● 目的:日本的品質管理を考える機会の提供 ○ モヤモヤを少しだけスッキリさせる ○ そして、日本的品質管理と仲良くなる(or 仲直りする) ● タイムテーブル ○ 登壇者自己紹介 :3分 ○ 日本的品質管理外観 :10分 ■ 議論のコンテキストを整える ○ ○ ○ ○ アンケート結果のサマリ :5分 事前質問をベースにディスカッション :20分 当日の質問をベースにディスカッション :20分 まとめ :2分 19
アンケートのご協力ありがとうございました! 20
業歴の長い企業に勤めている方ほど日本的品質管理に馴染み深く理解度も高いと 仮説を立てて設けた質問です。 21
製造業に勤めている方ほど日本的品質管理に馴染み深く理解度も高いと 仮説を立てて設けた質問です。 22
日系企業に勤めている方ほど日本的品質管理に馴染み深く理解度も高いと 仮説を立てて設けた質問です。 23
登壇者3名の回答は「全て」です 24
登壇者3名の回答は「全て」です 25
予想よりも多く知られているという感触でした。 本セッションに興味のある方々による回答であることの証左ではないかと考えます。 キーワードによる認知度合いの差があり、出会いやすさの違いが考えられます。 26
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本セッションの目的とタイムテーブル ● 目的:日本的品質管理を考える機会の提供 ○ モヤモヤを少しだけスッキリさせる ○ そして、日本的品質管理と仲良くなる(or 仲直りする) ● タイムテーブル ○ 登壇者自己紹介 :3分 ○ 日本的品質管理外観 :10分 ■ 議論のコンテキストを整える ○ ○ ○ ○ アンケート結果のサマリ :5分 事前質問をベースにディスカッション :20分 当日の質問をベースにディスカッション :20分 まとめ :2分 29
適用や活用の観点 ● ● ● ● ● 「品質のことを勉強しろ」という声がSNS上などで度々出てきますが、その割には勉強するための情 報が乏しく、どのように勉強すれば良いか見えてきません。 石川先生などが書かれた書物を参考にするか、品質管理を矮小化して記載しているネット上のペー ジを参考にする、日科技連のセミナーに参加するぐらいしかないのでしょうか。 「日本的品質管理とは何か?日本的品質管理をどう取り入れるとよいのか?」興味のある人達に向 けて、話してほしい。現代品質管理総論を眺めてみたものの、実際のスタートアップの開発現場にお ろそうとしたときに、知と活動の間に距離を感じて、何処から始めるとやりやすく、具体的な活動に落 とし込もうにも何をするとアウトカムに繋がるのか、思いつかないことがある。また普段の勉強会等 で取り上げられる頻度の少ないものなので、馴染みを感じられていない。 アジャイル開発において日本的品質管理を行おうとした時の、QCとして取りうる第一歩と理想(目指 すもの)の設定イメージ 日本的品質管理を目標とするならQAエンジニアは何を学習すべきか?[選択肢から 57%] QAエンジニアが日本的品質管理を学んだ後、どのように業務に実践していけばよいのか知りたい です。 30
組織的な観点 ● 開発組織内の公用語を日本語から英語にするメガベンチャーを 何社か見かけるのですが、QA、QC視点でどんな影響があると 思いますか?(BDDを導入しやすくなる等) また、長期目線で組織的にどのような価値が生まれると 思いますか? ● 伝統的企業と新興企業では日本的品質管理に対する理解が異なるの か?[選択肢から 23%] ● 日本的品質管理は、短期間で少人数による小規模開発の繰り返しに 適用できるか(長期間で大人数による大規模開発にしか適用できない のではないか) 31
課題意識 ● セッションの中でご説明あるかもしれませんが 「なぜ今、日本的品質管理を再考しようと思ったのか」 を知りたいと思いました。 ● 本セッションを行おうと思ったきっかけ、 登壇者各位の課題感はどのようなものですか? 32
ビジネス的な観点 ● ● 以下をお聞きしてみたいです! ・日本的品質の「品質」をどのように定義しているかはもちろん、マーケティング、プロダクトマネジメ ント、UX、あるいはスクラムなどの文脈で語られる「価値」とどういう関係性にあるか ・日本的品質管理が製品の売上や顧客がその製品を使うことによって上がった数字などのImpact に対してどの程度影響を与えたかを計測したり、上手く行っていないことの分析はどのように行って いるか (日本的品質管理でしか為し得なかったユーザー影響があればお聞きしたい) 日本的品質管理は現代のソフトウェア開発でビジネス面で競争力があるのか。 日本的品質管理は手間がかかり高価な製品ができあがるイメージだが、海外との競争に勝てるの か。 33
有用性や活用可能性の観点 ● ● ● ● 新興企業では全体的な傾向としてソフトウェアエンジニアリングが軽視または無視されていることが 多いと感じます。ソフトウェアエンジニアリングを単に知らないのか、知ってはいるが効果がない、ま たはうちとは関係ないと思い込んでいるのか、必要性は理解しているが学習の機会がないのか、な どさまざまな理由が考えられそうです。どうお考えでしょうか? 日本的品質管理は現代のソフトウェアエンジニアリングに通用するか?[選択肢から 55%] 日本的品質管理はよい考え方と思います。が、プログラム言語(TypeScript, Kotlin, R)やフレーム ワーク(Vue, React, Angular) が次々と出てくる時代になって、タイムパフォーマンスを重視して今稼 げるスキルを身につけたい若者/ITエンジニアと、しっかりプロセスや仕組みを作って品質目標を達 成したい品質保証の役割に、おおきなギャップがあるように感じます。品質保証は家父長的な立場 から少し変わった方がいいと思うのですが、どう変わればいいでしょうか? 日本的品質管理が導入されたとして、テストの立ち位置はどうなるのか? 34
歴史的な観点 ● ● 昨今、自動車メーカーによる検査不正が大きくニュースに取り上げられていますが、この状況と日本 的品質管理には何か関係性があるのでしょうか?日本的品質管理を推進していれば起きなかった のか、あるいは日本的品質管理の悪いところがあるなら、それが要因になってしまっているのでしょ うか?(日本的品質管理のことがあまり良く分かっていないため、的外れな質問でしたらすみませ ん) 日本的品質管理は一度は廃れたのか?なぜか?[選択肢から 36%] 35
参考資料 ● 文献 ○ ○ 「現代品質管理総論」飯塚 悦功, 朝倉書店 「ソフトウェア品質保証入門 ‐ 高品質を実現する考え方とマネジメントの要点」 保田 勝通 , 奈良 隆正, 日科技連出版社 ● 参考になる(と思われる)資料 ○ ○ 「時代遅れでブレーキ扱いのQAから、イマドキでアクセルとなるQAへの脱皮」, 西 康晴, ソフト ウェア品質保証プロフェッショナルの会(旧ソフトウェア品質保証部長の会)第14期 成果発表 会 https://www.juse.or.jp/sqip/community/bucyo/14/files/shiryou_kichokouen.pdf ”TQMの大誤解を斬る!出版記念講演会動画 講演2「品質保証って本当は何だろうか?」飯 塚 悦功先生” https://www.youtube.com/watch?v=h7rqm_Kr9pg 36
ご清聴ありがとうございました 温故知新:QAエンジニアとして日本的品質管理を再考する JaSST'24 Tokyo: 公募セッション 2024年3月15日(金) 13:00 - 14:00 池田 暁(クオリティアーツ) 金子 昌永(PKSHA Workplace) 河野 哲也(ナレッジワーク)