2.7K Views
May 25, 24
スライド概要
大阪大学で開発・運用している量子コンピュータ・クラウドを紹介します。
大阪大学量子情報・量子生命研究センター Quantum Computer(QC) programmer/system software for QC/developing QC clouds 実用的な量子コンピュータを実現するため、ソフトウェアを開発しています。量子コンピュータ・クラウドの中の人。 量子コンピュータの面白さを多くの人に広めたいと思い、量子コンピュータの入門書、入門記事等を書いています。
阪大量子コンピュータの紹介 第4回 量子コンピューティングEXPO【春】 大阪大学 量子情報・量子生命研究センター 特任研究員 束野 仁政(つかの さとゆき) 1
自己紹介 つかの さとゆき @snuffkin 量子技術の研究所 ◆量子コンピュータ・エンジニア • 大阪大学量子情報・量子生命研究センター(QIQB) 特任研究員 • 量子コンピュータのシステムソフトウェアに関する研究・開発・運用 ◆量子コンピュータのオープンソース活動など • 量子星占い(2019~) • 実機を使ったアプリケーションを開発し、運用中 • 量子コンピュータ・クラウド基盤gaqqie(2021~) • 情報処理推進機構(IPA)の未踏ターゲット事業に採択(2021年度) • おそらく、最初の量子コンピュータ・クラウドOSS • 「量子コンピュータの頭の中」(技術評論社) • ビジネス書でも専門書でもない、理系学生向け入門書 • 計算したりプログラミングしたり手を動かして理解する 量子コンピュータの入門段階で つまづかないようにしたい 書泉グランデ 数学書年間ベスト4 2
QIQBの活動(量子コンピュータクラウド関連) ◆国産超伝導量子コンピュータ初号機を公開(2023年3月) • 理化学研究所、大阪大学等の共同研究の成果。研究者向けに公開 • クラウドサービスのソフトウェア周りは大阪大学が主に開発 提供:理化学研究所 https://www.riken.jp/pr/news/2023/20230324_1/ 3
QIQBの活動(量子コンピュータクラウド関連) ◆国産超伝導量子コンピュータ3号機を公開(2023年12月) • 大阪大学等の共同研究の成果。国産部品のテストベッド • 自分たちでシステム化し、自分たちで運用 https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2023/20231220_1 4
量子コンピュータとは? 5
量子コンピュータとは? • 量子力学の性質を利用して、高速に計算を行うコンピュータ • 量子重ね合わせや量子もつれを利用して計算を行う • 電波・音波などと同様に、波は重ね合わせて処理できる…波の性質 • 結果を観測(測定)できるのは、1個の情報のみ…粒子の性質 線形代数の言葉で標語的に表現すると、 • (特定の)ユニタリ行列のかけ算を高速に行える • 𝑛量子ビットは、2𝑛 次元ベクトルを表現できる ➢量子ビットに対して、扱えるベクトルのサイズが指数的に大きい 高速なアルゴリズムを発見できた計算が高速になる • あらゆる計算が高速になるわけではない • スパコンなど、従来のコンピュータとは共存 6
量子コンピュータの現状 現在の量子コンピュータは ライト兄弟の初飛行に たとえられるような段階 Scott’s Supreme Quantum Supremacy FAQ! https://www.scottaaronson.com/blog/?p=4317 大勢乗せる(大量の量子ビットを扱う) 安全に長時間飛ぶ(正確に長時間計算する) 7
量子コンピュータとは? • 商用化はしているが、実用化は先の話 • 量子コンピュータには種類がある • 回路モデル(ゲート方式)、断熱量子計算(量子アニーリング方式はこの仲 間)、測定型量子計算など 目指すところはFTQC • 単一デバイス、分散量子計算 (大きな計算には必須) • アナログ計算機(NISQ)、デジタル計算機(FTQC) • 超伝導、イオントラップ、光、中性原子など • 物理方式はどれも長所・短所がある • 現時点で決定的な方式は無い(そもそも1種類である必要もないのでは?) • 大阪大学で現在システム化している量子コンピュータ ➢回路モデルで動作する、単一デバイスのNISQ超伝導量子コンピュータ ➢マイクロ波を使って、量子チップを制御 8
大阪大学の超伝導量子コンピュータ 制御装置からマイクロ波を送受信 希釈冷凍機 (円筒状) 希釈冷凍機の中身 64量子ビットのチップ 提供:理化学研究所 熱雑音を防ぐため チップ周辺はほぼ絶対零度 16万倍になると1000万量子ビット (富岳の800倍のサーバ室?) 9
量子コンピュータのクラウドサービス化 10
量子コンピュータのクラウド化 • 2016年 IBMが量子コンピュータをクラウド公開 • 公開した頃の様子がIBMのブログで紹介されている https://research.ibm.com/blog/quantum-five-years • 当時は5量子ビット。現在は133量子ビットの実機が一般利用可能 • Qiskit(量子ブログラミング・ライブラリ)はなく、GUIから利用していた 2016年当時の画面 • クラウド化の効果 https://wired.jp/2016/05/09/ibm-letting-anyone-playquantum-computer/ • 誰でもいつでもどこからでも、利用可能 • 理論の研究者だけでなく、一般の方も • 複数のQC実機が公開されるようになった • 複数のQCライブラリが公開されるようになった 11
クラウド化により、参入者が増加 • 2019年 AWSがAmazon Braketを開始 https://aws.amazon.com/jp/blogs/news/amazon-braket-get-started-with-quantum-computing/ • 2020年 MicrosoftがAzure Quantumを開始 https://cloudblogs.microsoft.com/quantum/2020/05/19/azure-quantum-preview-new-developer-training-learning-tools/ クラウド公開されている実機(一部) 超伝導 イオン トラップ 中性原子 光 ※SpinQはNMR方式の実機も公開している 12
量子コンピュータ・システムの中身 13
量子コンピュータは高価なため、共同利用が主流 • IBMの127量子ビット実機を導入するコストは約83億円 補助の背景 • 安全保障の確保に関する経済施策を推進するため、 経済安全保障推進法が2022年に成立 • 経済安全保障推進法における重要物資として「クラウドプログラ ム」が指定されており、安定的な供給の確保のために国が半額補助 認定に係る主な要件 経済産業省主催「第9回 半導体・デジタル産業戦略検討会議」の資料より https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/joho/conference/semicon_digital/0009/4hontai.pdf 14
量子コンピュータは高価なため、共同利用が主流 • QuEraの実機を導入するコストは約65億円 産総研が公開している調達情報より https://www.aist.go.jp/aist_j/procure/supplyinfo/pub/detail/RR3TFWHJ • 大規模なQCを特定の個人・研究室が保持するのは難しいため、 (少なくとも当面は)共同利用が主流となると思われる ➢クラウドサービスとして、システムを構築するのが自然 15
阪大量子コンピュータサービス (2023年12月) クラウド、バックエンドは オープンな情報が少ない フロントエンド層 クラウド層 プログラミング 層の名前やコンポーネント 分割は統一見解が無い 多くの機関との共同研究 バックエンド層 ユーザ認証 ジョブ管理 スケジューリング トランスパイル マイクロ波信号 波形生成 マイクロ波信号 送受信 計算処理 クラウドサーバ エッジサーバ measurement tool 制御装置 量子チップ ouqu-tp qmt server ユーザ QURI Parts riqu 凡 例 インターネット通信 ローカル通信 16
まだ標準規格が無い 阪大量子コンピュータサービス (2023年12月) 従来技術が活躍 サーバーレス フロントエンド層 クラウド層 マイクロ波の 波形生成 量子ライブラリはPythonが多い OSSにするのが一般的 プログラミング バックエンド層 ユーザ認証 ジョブ管理 スケジューリング トランスパイル マイクロ波信号 波形生成 マイクロ波信号 送受信 計算処理 クラウドサーバ エッジサーバ measurement tool 制御装置 量子チップ ouqu-tp qmt server ユーザ QURI Parts riqu 超伝導量子回路の 先端はほぼ絶対零度 GUIでも量子回路 を作れる OpenQASM3(デファクト?) →IBM,AWSなどが策定 凡 例 量子チップ固有の命令に変換 インターネット通信 量子回路の最適化, etc. ローカル通信 マイクロ波の 送受信, FPGA 17
紹介記事 Qiitaにもある程度書きました https://qiita.com/snuffkin/items/62c657e4d665c986d42f 18
量子ソフトウェア勉強会 https://qsrh.jp/seminar/ 秋に行うグループワークでは、 実機を使えます アルゴリズムやハードウェアなど幅広い分野を紹介 (クラウド、マイクロ波) 日程 タイトル 担当講師 1 5/31(金) 量子コンピュータの現状と展望 藤井啓祐 2 6/14(金) 量子計算の基礎 藤井啓祐 3 6/21(金) 量子アルゴリズムの基礎 御手洗光祐 4 7/5(金) 量子機械学習の基礎 御手洗光祐 5 7/12(金) 量子コンピュータと量子化学計算の基礎 水上渉・吉田悠一郎 6 7/19(金) 量子エラー補償の基礎 箱嶋秀昭 7 7/26(金) 量子アルゴリズム各論/質問大会 藤井啓祐 8 8/2(金) 量子コンピュータと金融実務計算 宮本幸一 8/8(木) 実機見学会1日目(オンライン・オンサイトハイブリッド) ・クラウドで量子計算が行われる仕組み ・量子コンピュータの物理的実現方式(超伝導方式編) ・国産実機3号機を利用したハンズオン 10 8/9(金) 実機見学会2日目(オンライン) 量子コンピュータシステム・制御と量子センシング 根来誠 11 8/23(金) 量子コンピュータの物理的実現方式(イオン・中性原子・光方式編) 山下眞 12 未定 Amazon Braket を用いた実機・シミュレータでの開発 宇都宮聖子・針原佳 貴(AWS) 9 束野仁政 小川和久 実機見学会 井辺洋平(QunaSys) 19
1冊目にオススメの本 量子コンピュータの仕組みや歴史などを一般向けに解説 「驚異の量子コンピュータ」 藤井啓祐 著(2019年) 「量子コンピュータが本当にわかる!」 武田俊太郎 著(2020年) 数式は使わず、概念や研究現場の雰囲気が分かる 20
実機デモ 21
量子コンピュータのシミュレータ(Web)と実機デモ Qulacs Simulator https://qulacs-gui.github.io/qulacs-simulator/ • Webサイトに ログインせず利用可能 • ドラッグ&ドロップで 量子回路を作成 • 結果の可視化 • 実機を実行できる • シミュレータと実機の 結果を同時に見れる • Observableに対する 実行結果を可視化 22