論文の書き方と学生実験のレポート

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January 30, 24

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コンピュータを使って色々計算しています.個人的な技術に関するメモと講義資料が置いてあります.気が向いた時に資料を修正しています. 公立小松大学臨床工学科准教授 https://researchmap.jp/read0128699

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各ページのテキスト
1.

論文の書き方と学生実験の レポート 公立小松大学 藤田 一寿 Ver. 20250128 理学出身の人工知能を研究している人が書いています.他分野の人と意見が異なる場合があります.

2.

学生実験のレポートは卒業論文の準備? • 学生実験には,実験を通し座学で学んだことを深く理解するという 目的があります. • さらに,研究・開発に必要な技術や作法の習得という目的もありま す. • 学生実験が研究・開発に必要な技術の習得であるという観点では, 学生実験でレポート書くことは,論文や報告書を書く練習と見なせる でしょう.

3.

学生実験のレポートは卒業論文の準備? • 良い学生実験のレポートを書くためには,どうすればよいでしょう か. • そのためには,論文の書き方を知るのがよいでしょう. • 論文の書き方を知り,実験の報告についてより深く理解し,より良 い実験レポートを書きましょう. • さらに,この資料に書かれている論文の書き方を頭の片隅に入れて おき,卒業論文執筆に活かしましょう.

4.

論文の書き方

5.

なぜ論文を書く? • 研究成果は発表されなければ意味がない? • キャベンディッシュは電気と熱力学に関する革新的な発見(オー ムの法則,クーロンの法則,シャルルの法則,ドルトンの法則な ど)をしたが,それ発表しなかったため人類はそれらの知見を得 るために数年から数十年の年月を必要とした. • 研究活動は得られた知見を論文として公開することで初めて人類に 貢献できる. • • • • • キャベンディッシュは,水素の発見,水の合成,硝酸の生成(アルゴンの抽出),地球の密度の計測(重力加速度 の計測)など輝かしい成果を発表している. 電流計がない時代にオームの法則を発見している点が面白い. キャベンディッシュのクーロンの法則の実験方法はクーロンの実験方法より正確に計測できる. 化学者のデービーから「キャベンディッシュの死はニュートン以来最大の科学的損失」と言われている. (Cavendish - The Experimental Life : Max Planck Research Library for the History and Development of Knowledge) デービーは最も多く元素(6つ)を見つけた化学者だが,最大の発見はファラデーと言ったとか.

6.

論文で重要なこと • 何が新しいのか? • 論文は研究成果の最初の発表である. • 他の人が結果を再現出来るか? • 再現性がない研究に意味は無い. • 以上を伝えるために分かりやすく簡潔で明快な文章を書くことが重 要である.

7.

論文で何を伝えたいか • なぜ研究をするのか. • これまでどんな研究がなされていたか. • 何が新しいのか. • どうやって実験したのか.どんな手法を用いたか. • どんな結果が出たのか. • どのような結論が導けるか. • 既存の研究とどのような関係があるか.

8.

論文の構成 • 論文は通常次のような構成となる. • イントロダクション(Introduction) • 手法(Methods) • 結果(Results) • 議論(Discussion) • 参考文献(References) • この構造をIMRAD (Introduction, Methods, Results, And Discussion)と 言う. • 19世紀後半から徐々に使われてきた(Day,初めての科学英語論文).

9.

イントロダクション • イントロダクションでは研究を理解する上で必要な情報を最低限提 供する. • イントロダクションで書かれる内容 • 研究の背景 • 研究の意義 • 研究の問題と目的 • 研究の方法 • 研究の簡単な結果と結論

10.

手法 • 研究で用いた手法を書く. • 論文では研究結果の再現性が最も重要であるため,手法は他の研究 者が研究結果を再現するための情報を十分詳細に提供する. • プログラミングを用いた研究の場合,再現性を担保するため作成し たプログラムコードを公開することが多い.

11.

結果 • 結果では,結論を導くために必要なデータを示す. • 研究を通し取得したデータをすべて載せるのではなく,必要なデータを 選別して論文に載せる. • 近年は捏造問題や再現性問題に対応するため,生データを公開する場合 も多い. • 結果を分かりやすくするため図や表を用いる. • 大量の生データを載せず,統計処理を行いデータを整理する. • 統計処理を行う場合は,その手法の意味と前提を十分に理解すること. • 「よく分からないが,みんなが使っているから使う」ではいけない. • 例えば平均をとる場合,我々は「なぜ平均を取るのか?」,「なぜ平均 をとって良いのか?」に答えられる必要がある. 私は平均をとることすら恐ろしい.

12.

議論 • 結果から導出される結論を書く. • 結果に対して議論する. • 過去の研究と比較する. • 研究結果から予測される事柄を述べる. • 研究の波及効果を述べる. • 研究結果が他の問題を解決する可能性がある. • 研究結果が他の分野に使える. • 未解決点もくしはFuture workを述べる. • 次の研究のネタになるので述べたくない. • 当たり障りなく書くしかないか.

13.

参考文献 • 論文と関係する研究は過不足なくイントロダクションや議論で話題 にしているはずである. • 研究は全く0からするわけではなく,先人が積み重ねた知見から 着想を得ているはずである.巨人の肩の上に立つ. • また,研究は全く独立であるはずはなく,関係する研究が存在 するはずである. • 一方,アインシュタインは特殊相対性理論の論文に参考文献を 付けていない!?これは良くない例である. • 他の研究を話題にする際,その研究が載っている雑誌や本の詳細を 参考文献で書く必要がある.

14.

その他の構成要素 • タイトル • 論文には必ずタイトルが付けられる.タイトルは研究内容を適切に短く表 現したものにする. • 概要 • 論文の縮小版だと思って書く. • 関連研究 • イントロダクションで背景を語るとき関連研究について言及する. • しかし,関連研究の記述が多すぎるとイントロダクションが読みづらく研 究の意義が分かりにくくなる. • それを回避するために,関連研究だけに絞った節を設けることがある. • まとめ • 手法の提案などの場合,結果について最後に語るとき議論というほど語ら ない場合はまとめとする.

15.

学生実験のレポート

16.

理想的な学生実験の流れ 1. 実験書を読む. 実際は,実験書を事前に読み十分理解して実験に挑 むのは難しい.私が学生の頃は,実験担当の教員が 実験内容の説明を実験の前に講義していた. 分からないところは教科書を読んで復習する. 2. 実験ノートの準備をする. 3. 実験をする. データをとるだけではなく,実験ノートを書く. 4. レポートを書く. 5. 教員にレポートを見てもらう. 6. 教員の指示に従いレポートを修正する. 7. 教員にレポートと実験ノートを提出する.

17.

なぜ実験ノートを作らなければならないのか • 実験をする際,必ず実験ノートを取らなければならない. • 実験ノートに書くこと • 日時 • 天気,気温,湿度など • 何の実験をしたか • 使用機器 • 手順 • 実験の結果 • 最終結果だけではなく,操作内容,途中結果,気づいたこと,感想,その他メモを時刻と伴に随時書 いておく. • なぜ実験ノートを作るのか? • 後で何をやったか確認するため. • 失敗であっても,何が失敗か見つけるため. • 失敗の規則性や成功したときと失敗したときの差から発見がある. • 実験を行った証拠になる.

18.

実験ノート 日付 天気など 実験タイトル 10:00 操作1 何か変だ 材料 手順 事前に書く 実験中に書く

19.

実験レポートの作成 • 実験が終わったら実験ノートに基づき実験レポートを作成する. • 実験レポートの構成は一般的に次のようになる. • 表紙 • 実施日,班メンバー,天気,気温,湿度,氏名などを書く. • 目的 • 実験の目的を書く. • 原理 • 実験に関する原理を書く. • 手法 • 実験装置,資料,実験の手順を書く. • 結果 • 実験結果を書く. • 感想・考察 • 実験や実験結果で得られた感想や考察を書く.考察は難しいので感想だけも良い.

20.

なぜ,レポートに実施日時,天気,気温などを書くのか • 実験結果の検討や再現のために必要 • 実験結果が予想通りか,そうでないかに関わらず,実験結果から新 たな発見に繋がるかもしれない. • その実験結果を再び得るためには,同じ条件を揃える必要がある. • 日時,気象が実験に影響を与えるのであれば,それらも合わせる必 要があるだろう. • 物の性質は温度などに影響する.実験結果が温度に敏感なら気温の情報が 重要になるだろう. • 人の気分や感じ方は日時や気象条件から影響を受ける.認知神経科学など 人を扱う研究なら気象の情報は重要となるかもしれない. • 施設の状況は日時で変わる可能性がある.実験施設の状態が年末年始が一 番安定しているから実験するには良いという人もいた.

21.

なぜ目的を書くのか • 実験で何をやるか(やったか)を認識するため. • 何を理解(もしくは習得)するために実験をやっているかを理解す るため.

22.

原理・手法をなぜ書かせるのか • 原理を書くことで座学で習ったことを思い出すため. • 原理を書くことで,実験内容の理解を深めるため. • 手法を書き,実験内容と手順を理解するため.

23.

なぜ図を描かねばならないのか • 器具をよく観察し,それを理解するため機器の図を描く. • 装置の配線などは図で描かないと分からないため図を描く. • 実験から得られた数多くの数値をそのまま示しても,その数値が何 を意味しているか分からないためグラフを描く. • 複数ある数値はグラフにし可視化することで,数値の変化の規 則性や数値同士の関係を見出す.

24.

なぜ単位にうるさいのか • 単位がわからないと数値が何を示しているか分からないため. • 数値が何を示しているか分からないと • 実験結果を解釈できない. • 計算で数値を用いる際,数式に数値を代入できない. • 補助単位が無いだけでも正しい数値を求められない. • 単位が分からないと実験を再現できない. • 数値と単位の組み合わせの間違いや補助単位の間違いがある数値を 信じ実験すると,実験に失敗するだけではなく重大な事故が起こる かもしれないため.

25.

なぜ単位にうるさいのか • 単位が物理法則を理解する上で重要なため. • 次元解析:物理量における,長さ,質量,時間,電荷などの次 元から、複数の物理量の間の関係を予測すること(wikipedia). • 次元を解析することで,実験結果から導かれた数式の物理的意 味を検証することが出来る. • 共通テストのテクニックとして使った人もいるかも知れない. • 選択肢の数式の次元を求め,次元が間違っている選択肢を排除する.

26.

なぜ感想と考察が必要か • 期待する結果と実際の結果が食い違った場合,その原因を考えるこ とで実験とその原理のより深い理解が得られるため. • 実験での気づきが後の学習に生きるため. • 感想を書くことで,実験を振り返って欲しいため. • 感想は,「〇〇が面白かった」,「〇〇が大変だった」,「こ の操作は苦手だ」など,単なる個人的な感想であっても良い. • 感想を書くことで,実験の大変だった部分の理解や,自分の興 味や苦手なことなどを理解することが出来る.

27.

実験は失敗しても良い • 研究成果は数多くの試行錯誤と失敗から生まれる. • 我々は,数多くの試行錯誤と失敗を経て生まれた美しくまとめられた結果だけ を見ている. • つまり,失敗は悪ではなく必要なのである. • 当然,学生実験も失敗して良い. • 実験では予定通りの結果が出ることが重要ではなく,どんな結果であれ考察す ることが重要である. 我々が見える世界 我々が見えない隠れた世界 教科書や論文から見える美しい世界. 理路整然と書かれ,あたかも結果が導き出されるのが当たりか のごとく書かれている. 数多くの間違い,試行錯誤,失敗がある泥臭い世界. 創作活動や研究活動は,死屍累々の失敗の中から輝 かしい成果が生まれる.選択と集中と相性が悪い. 裾野が小さくなれば頂上は低くなる.

28.

おわりに

29.

おわりに • 学生実験,卒業論文,修士論文などを書くときに,この資料の内容 を思い出しましょう. • しかし,リソースは限られているので,このスライドの内容を思い 出しながら現実と折り合いをつけ妥協して実践しましょう.