20240615_新図書館を考えるための市民活動団体のメンバーによる情報の獲得

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June 16, 24

スライド概要

「2024年度日本図書館情報学会春季研究集会」の発表スライドです。

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1977年茨城県生まれ|皇學館大学文学部国文学科准教授・図書館司書課程|つくば→スロベニア→伊勢|図書館情報学(文学館・文学散歩・文学アーカイブ・ウィキペディアタウン・学生協働・読書会)|ビブリオバトル普及委員会代表理事(二代目)済|知的資源イニシアティブLibrary of the Year選考委員長|伊勢河崎一箱古本市

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各ページのテキスト
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2024年度日本図書館情報学会春季研究集会 於:京都橘大学アカデミックリンクス 2024年6月15日(土) 新図書館を考えるための 市民活動団体のメンバーによる 情報の獲得 岡野 裕行(皇學館大学文学部) 長澤 多代(三重大学附属図書館研究開発室)

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1.本研究の動機・背景・目的 ①三重県四日市市では、2028年の完成を目指して新図書館計画を進めている。 本発表の要項提出後の2024年5月23日に、現在の予定地での新図書館建設計画の中止の 報道記事が出ている(新図書館計画は引き続き行われることになっている)。 ※「近鉄と費用面調整つかず:市立図書館移転断念の方針 四日市市」『NHK 三重 NEWS WEB』 2024年5月23日、https://www3.nhk.or.jp/lnews/tsu/20240523/3070012907.html ②新図書館のあり方を検討するために、住民団体が主体的にかかわる事例は他の 自治体でも確認できるが、その検討過程で、そのメンバーが図書館に関する 情報をどこからどのように獲得しているのかに焦点をあてた研究はほとんど 見られない。 ③本研究の目的は、住民団体であるライブラリーフレンズ四日市のメンバーが、 新図書館のあり方の検討に必要な情報を、どのような情報源からどのように 獲得しているのかを、情報探索行動の観点から明らかにすることである。

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2.既往研究 ①住民団体の情報探索行動に関する既往研究では、住民団体のメンバーが以下の ような経路から情報を獲得している実態を明らかにしている。 ●団体の活動実績 ●個人的な経験 ●知人や専門家などの人的ネットワーク ●研修会 ●図書その他の資料 ●図書館視察 ●ウェブサイト ※萩原幸子「熟議民主主義論による「分析の視点」からみた図書館づくり住民団体の活動」 『Library and Information Science』no.75,2016,p.107-136. ※萩原幸子「図書館行政のガバナンスにおけるアクターとしての「図書館づくり住民団体」」 『専修大学人文科学研究所月報』no.297,2019,p.1-24. ※和田崇「市民活動における知識の獲得と創造:山口県光市を事例に」 『2011年度日本地理学会春季学術大会』vol.2011s,2011,p.626. ②ただし、既往研究は住民団体のメンバーによる情報探索行動を理解する上で 重要な視点を提示するものの、住民団体による図書館づくりのための 情報探索行動に焦点をあてたものではない。

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3.調査対象と研究課題 ①本研究ではライブラリーフレンズ四日市を調査対象として、同団体のメンバー による情報探索行動を明らかにする。 ●研究課題1:ライブラリーフレンズ四日市のメンバーは、新図書館のあり方を検討する ために必要な情報を、どのような情報源からどのように獲得しているのか。 ●研究課題2:ライブラリーフレンズ四日市のメンバーは、図書館情報学の専門家から 図書館に関するどのような情報をどのように得ているのか。 ②ライブラリーフレンズ四日市の発足について。 ●同団体の母体は「新しい図書館を考える四日市市民の会」(2017年1月発足)と、 「四日市の図書館を考える会「ささって」」(2018年11月発足)の2団体であり、 これらの構成メンバーが中心となって2022年5月に発足したものである。 ●現在、同団体は四日市市の新図書館への提言を行う唯一の住民団体になっている。 ③ライブラリーフレンズ四日市の主な活動は、以下に示すとおりである。 ●定期ミーティングによる情報交換 ●四日市市の市長・副市長との面談 ●ゲストを招いた講演会の開催 ●他自治体の図書館見学会 ●四日市市の商店街振興組合や商工会議所との会合

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3.研究方法:データの収集 ①データの収集については、2024年3月26日(火)〜4月3日(水)の期間に、 ライブラリーフレンズ四日市のメンバーに対して、オンライン会議システムを 用いた半構造化インタビューを実施した。 ●ライブラリーフレンズ四日市のメンバー9名に対して個別にインタビューを行った。 (その内訳は7名の社会人メンバーと2名の大学生メンバーである。) ●インタビューでは、2024年1月の定期ミーティングで実施したメンバーによる活動の 振り返りをもとにした質問を投げかけている。 ●一人あたりのインタビューの平均時間は、70分(38分から115分)である。 ②既往研究における住民団体の情報探索行動をもとに、以下の情報源の利用に ついて質問した。この質問の前提として、情報ニーズについてもたずねている。 ●ライブラリーフレンズ四日市の活動実績 ●個人的な経験 ●社会的ネットワーク(メンバー、知人、図書館情報学の研究者など) ●研修会や図書館視察 ●図書、データベース、ウェブサイト、SNS、新聞、テレビ、ラジオなど

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3.研究方法:データの分析 ①本研究では、以上に示したメンバー9名へのインタビューによって得られた データを分析対象とし、情報提供者別にAからIまでコードを付与した。 ②メンバーが情報探索に利用している情報源を抽出し、質問項目で分類してその 全体像を捉え、その中から専門家としての図書館情報学の研究者たちから得た 情報に焦点をあてた情報探索行動を抽出し、更なる分析を行った。

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4.結果:住民団体の情報探索行動からわかること ①ライブラリーフレンズ四日市のメンバーが新図書館のあり方を考えるために 必要とする主な情報は、図書館の設備、デザイン、サービスに関するもの である(Bほか)。 その中でも特に関心の高かった項目は、以下の情報となっている。 ●利用される図書館や居心地のよい図書館(D、E) ●図書館づくりにおける市民のかかわり(A) ●街づくりの一環としての図書館のあり方(F) ②同団体のメンバーは、図書館の設備、デザイン、サービスに関する理解を 深めるために、国内外の図書館の情報を、主に同団体の定期ミーティングや 研修会、図書館視察、ウェブサイトなどから得ていることがわかった。

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4.結果:定期ミーティング ①同団体の定期ミーティングでは、各回の冒頭でメンバーが「お薦めの図書館」を 紹介している。 ●国内外の新しい図書館やそのサービスについての情報を得る機会となる(Aほか)。 ●建築士の経験を持つメンバーが写真を提示しながら図書館の建築やデザインについて 解説する報告(C)、フィンランドに出張したメンバーが市民による図書館利用の様子を 紹介する報告(G)、などがある。 ②他のメンバーが紹介した図書館の情報をミーティング後にウェブサイトで調べ、 更なる情報を得ているメンバーもいる(Eほか)。

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4.結果:図書館視察 ①同団体主催の図書館視察では、まちづくりにおける図書館のあり方(F、G) から多様な利用者を対象とする施設やサービス(B)、図書館づくりに携わった 図書館関係者の経験(D)などを知る機会になっている。 ②同団体が主催する図書館の視察以外にも、個人旅行の機会に訪問先の図書館を 視察しているメンバーもおり、この場合はウェブサイトで事前に関連情報を 得ている(Cほか)。 ●許可を得て館内を撮影するメンバーがいる(F)一方で、館内を巡回して観察するに とどめるメンバーも見られる(Gほか)。

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4.結果:団体主催の研修会や人的交流 ①同団体主催の研修会においても、各地の新しい図書館サービス(Eほか)、 図書館について調べるための各種データベース(Bほか)を含む、 図書館に関する多様な情報を得ている。 ●そのうち、図書館について調べるためのデータベースについては、研修会によって データベースの存在を知り、その有用性について理解する機会となりながらも、 積極的な活用にはつながっていない(Cほか)。 ②同団体主催の研修会からは、図書館に関する情報を得るだけではなく、 研修会に参加した小学生や高校生を含む市民から、新図書館についての 要望や意見についても得ている(Gほか)。 ③図書館についての意見は知人や家族からも得ている。 ●家族から新図書館についての見解や図書館に関する情報を得るメンバーがいる(F) 一方で、図書館に関心を持たない市民の図書館観を知るメンバーもいる(Dほか)。

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4.結果:情報源としての図書館情報学の専門家 ①講演会「あったらいいなこんな図書館」やワークショップなどの企画を立案する ことで、講師役となる図書館情報学の専門家から最新の学問的知見を得る。 ②図書館見学会においては、図書館情報学の専門家に当日の案内・解説役を 依頼することで、図書館見学時に注目すべきポイントなどを示してもらう。 ③媒介者として学生メンバーを仲立ちとする形で、最新の学問的知見を紹介して もらう。 ●大学で司書課程を受講している現役の学生メンバーを通じて、図書館情報学の専門家との 間接的なつながりができる。

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4.結果:情報源としての学生 学生メンバーは、以下の点で社会人メンバーと異なる関わり方をしている。 ①学生メンバーは短い周期で入れ替わってしまうため、タイミングとして今回の 調査時期にたまたま在学していた現役学生の個性に左右される傾向がある。 ●就職を理由として卒業後に四日市市を離れてしまうことも十分に予想されるため、 団体の目標が達成されるまでメンバーとして関わり続けられない可能性も高く、 なおかつそのような状況に置かれていることを自覚している。 ②学生メンバーも新図書館設立を自分事として考えながら活動に加わっているが、 ライブラリーフレンズ四日市の発足後に途中参加した立場であることに加え、 大学を卒業するまでの期限付きという時間的な制約があるため、活動に対する 関与の度合いも学生自身が探りながらとなっている。 ③大学の司書課程で学ぶこと(図書館に関する学問的な考え方や用語、最新の知見など) のほか、同世代(高校生から大学生くらいの年齢層)の考え方を社会人メンバーに 情報提供する媒介者の役割を意識的に担っている。

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5.結果のまとめ 研究課題1: ライブラリーフレンズ四日市のメンバーは、新図書館のあり方を検討するために 必要な情報を、どのような情報源からどのように獲得しているのか。 ●全体的な傾向として、ライブラリーフレンズ四日市のメンバー相互による 情報交換がもっとも多く見られる。特に通常の定期ミーティングのほか、 研修会や図書館の視察によるものが活用されている。 ●ウェブの活用については、SNSを通じたものがもっとも多く、それに次いで 各種ウェブサイトを閲覧している傾向にある。ただし、各種データベースや 国立国会図書館のカレントアウェアネスなど、専門情報を検索できるような ウェブサービスはほぼ参照されていない。 ●SNSやウェブサイトは随時参照されるが、データベースの利用人数は少ない。 このことは、SNSやインターネットで調べることには馴染みがあるが、 より詳細な情報を探そうとするところまでたどり着いていないと推測される。

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5.結果のまとめ 研究課題2: ライブラリーフレンズ四日市のメンバーは、図書館情報学の専門家から図書館に 関するどのような情報をどのように得ているのか。 ●ワークショップ・講演会・見学会などを企画・実施することで、新図書館の あり方を検討する際に参考となるような情報を直接提供してもらいながら、 四日市市の状況を専門家の立場から言語化してもらっている。 ●大学の司書課程で学んでいる現役の学生メンバーは、自身も四日市市に住む 地域住民の一人であるという立場にありながら、住民団体と専門家とをつなぐ 仲介者として機能している。このような学生メンバーが定期ミーティングに 積極的に参加することで、図書館情報学に関する最新の知見を入手するための 情報獲得ルートが確立されている。

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6.本研究では明らかにできなかった点 ①本研究では、ライブラリーフレンズ四日市のメンバーによる情報探索行動の 一部を提示したが、その調査結果のすべてを示すことができなかった。 ②本研究では、ライブラリーフレンズ四日市のメンバーの情報探索行動に焦点を あてたが、獲得した情報の利用の側面については分析することができなかった。 ③本研究では、主に情報の獲得について調査したため、それら獲得した情報を もとにして、同団体のメンバーがどのような市民活動を実際に行っているのか といった情報活用の点は調査対象としなかった。

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7.今後の課題 ①今回のインタビューだけでは拾い切れなかったデータを収集するために、 追加のインタビューやアンケートなどを実施すること。 ②ライブラリーフレンズ四日市のメンバーの情報ニーズによって獲得した情報に ついて、その利用の側面から分析すること。 ③ライブラリーフレンズ四日市の活動実績に加え、それらの効果を継続的に検証 していくこと。