関数体の紹介 Riemann予想とABC予想の類似

338 Views

February 16, 25

スライド概要

大域関数体は代数体と似ていて、整数論に登場する定理の多くを共有しています。
一方で、関数体の方が代数体よりも証明が容易である場合がしばしばあり、Riemann予想やABC予想のような整数論の難問が関数体の世界ではすでに証明されています。
https://github.com/gummycandy1021/slide/tree/main/function_field

profile-image

数学好きです。

シェア

またはPlayer版

埋め込む »CMSなどでJSが使えない場合

関連スライド

各ページのテキスト
1.

関数体の紹介 Riemann 予想と ABC 予想の類似 第 32 回日曜数学会 ‑ 2025‑02‑16 グミ

2.

自己紹介 一時期主食がグミだったので、グミと名乗っています。 (今はグミをあまり食べないため、汁なし担々麺と名乗るべき) 数学科の修士卒で、専攻は整数論でした。 今は数学とあまり関係ない仕事をしてしまっています。 日曜数学会への参加 • 第 30 回:初参加、発表なし • 第 32 回(今回):初発表 2/15

3.

記号 𝔽𝑞 を位数が𝑞の有限体とする。 𝔽𝑞 上の 1 変数多項式環𝔽𝑞 [𝑇 ]を、以降は単に𝐴と表記する。 𝐴の元の具体例 𝑇 + 2 ∈ 𝔽3 [𝑇 ] 2𝑇 + 3 ∈ 𝔽7 [𝑇 ] 𝐴の特徴 𝐴は整数環ℤと似ていることが知られている。 以降のスライドで、その類似点を紹介する。 3/15

4.

有限体上の多項式環𝐴と整数環ℤの類似点 𝐴には整数論のもとの同様の方法で定義できる関数や同様の定理が多数 ある。 たとえば…… • 単項 ideal 整域である。 • 剰余環は有限環である。 • 剰余環の乗法群は巡回群である。 • Euler の定理、Fermat の小定理が成り立つ。 • zeta 関数が定義できる。 • Wilson の定理が成り立つ。 • 平方(n 乗)剰余の相互法則が成り立つ。 • 素数定理が成り立つ。 • Dirichlet の定理 が成り立つ。 詳細は [1] を参照。 4/15

5.

関数体と代数体の類似 有限体上の多項式環𝐴と整数環ℤに限らず、より一般に関数体と代数体 の間に類似がある。 →関数体類似 整数環ℤ 有限体上の多項式環𝐴 有理数体ℚ 有限体上の 1 変数有理関数体𝔽𝑞 (𝑇 ) 代数体(ℚの有限次拡大体) 大域関数体(𝔽𝑞 (𝑇 )の有限次拡大体) 相違点は? ここまで類似点を紹介したが、相違点は……? 5/15

6.

相違点 相違点のうち特に興味深いこととして、整数の場合より証明が容易な ケースがあるということが挙げられる。 例えば…… 関数体バージョンの Riemann 予想は 1948 年に Weil によって既に証明 されている。 Theorem 1: 関数体バージョンの Riemann 予想. 𝐾を大域関数体で、位数𝑞の定数体を持つとする。 𝜁𝐾 (𝑠)の零点の実部は 12 である。 また、Bombieri による、より初等的な証明が院生向けの教科書に載っ ている。[1] 6/15

7.

さらに…… 関数体バージョンの Fermat の最終定理も証明済み。 Theorem 2: 関数体バージョンの Fermat の最終定理. 𝐾を関数体とし、その定数体𝐹 は完全であるとする。 𝑁 を𝐹 の標数𝑝 を割り切らない数とする。 次の場合は𝑋 𝑁 + 𝑌 𝑁 = 1は定数以外の解を持たない。 • 𝐾の種数𝑔𝐾 が0で、𝑁 ≥ 3のとき。 • 𝑔𝐾 ≥ 1で、𝑁 > 6𝑔𝐾 − 3のとき。 ※ 𝑥𝑛 + 𝑦𝑛 = 𝑧𝑛 の両辺を𝑧𝑛 で割れば、𝑋 𝑛 + 𝑌 𝑛 = 1の形になる。 誰が最初に証明したかはリサーチ不足…… 7/15

8.

さらにさらに…… 関数体バージョンの ABC 予想も証明済み。 Theorem 3: 関数体バージョンの ABC 予想(定理). 𝐾を関数体とし、その定数体𝐹 は完全であるとする。 𝑢, 𝑣 ∈ 𝐾 ∗ を𝑢 + 𝑣 = 1を満たすものとする。 このとき、次が成り立つ。 deg𝑠 𝑢 = deg𝑠 𝑣 ≤ 2𝑔𝐾 − 2 + ∑ deg𝐾 𝑃 𝑃 ∈ Supp(𝐴+𝐵+𝐶) ここで、𝐴と𝐵はそれぞれ𝑢と𝑣の𝐾における zero divisor で、𝐶はそれ らの𝐾における polar divisor である。 ※ 元の ABC 予想は次のように書きなおせる。 𝑢≔ 𝐴 𝐵 𝑚 , 𝑣 ≔ , ht( ) ≔ max(log|𝑚|, log|𝑛|) 𝐶 𝐶 𝑛 max(ht(𝑢), ht(𝑣)) ≤ 𝑚𝜀 + (1 + 𝜀) ∑ log 𝑝 𝑝 | 𝐴𝐵𝐶 8/15

9.

まとめ • 関数体は代数体と似ている。 • 関数体の方が証明が簡単な場合がある(関数体バージョンの Riemann 予想、Fermat の最終定理、ABC 予想は証明済み)。 • それらの証明は院生向けの教科書に載っている。[1] 整数論に興味のある方は、関数体についても学んでみてはいかがで しょうか? もしかしたら、関数体を調べることでこれらの整数論の難問に対する ヒントを得られるかも……? 図 1: スライドへのリンク 9/15

10.

QR コードデカい版 図 2: https://www.docswell.com/s/GummyCandy1206/Z7R1D6‑ 10/15 introduction̲to̲function̲fields

11.

(補記) • 関数体では整数論の定理だけでなく、他にも Riemann‑Roch の定理 や、Riemann‑Hurwitz の定理も同様に成り立つ。 • 関数体バージョンの ABC 定理の証明は Riemann‑Huwitz の定理を用 いる。 • 関数体バージョンの Fermat の最終定理の証明は ABC 定理を用いる。 • 円分体に対応する円分関数体が定義できる。 • ideal 類群も同様に定義できる。 • 関数体バージョンの Kronecker‑Weber の定理も成り立つ。 11/15

12.

(補記)年表 西暦 出来事 1670 Fermat 予想が提示される 1859 Riemann 予想が提示される 1948 Weil が関数体バージョンの Riemann 予想を証明する 1985 ABC 予想が提示される (不明) 関数体バージョンの ABC 予想、Fermat の最終定理が証明さ れる 1995 Wiles が Fermat の最終定理を証明する 2020 望月氏の ABC 予想の証明論文が『RIMS』に掲載される すべて関数体バージョンが先行して証明されている(と思う)。 ※ 年表のソースは Wikipedia です。 12/15

13.

(補記)一般の関数体 本スライドでは有限体上の 1 変数代数関数体を扱ったが、有限体・1 変 数に限らず一般の体𝑘上の𝑛変数代数関数体も定義できる。 Wikipedia [2] によると、正規射影既約代数曲線の圏は1変数関数体の圏 と反変同値であるらしい。 また𝑘がℂの場合、ℂ上の 1 変数代数関数体の圏は閉 Riemann 面の圏と 反変同値であるらしい。 [3], [4] 13/15

14.

全くの余談 11ln 11 = 314.159789… 100𝜋に近い。なんで? 14/15

15.

参考文献 [1] M. Rosen, Number theory in function fields, vol. 210. Grad. Texts Math., vol. 210. New York, NY: Springer, 2002. [2] 「代数函数体」. [Online]. 入手先: https://ja.wikipedia.org/wiki/%E 4%BB%A3%E6%95%B0%E5%87%BD%E6%95%B0%E4%BD%93 [3] alg‑d, 「Riemann 面と 1 変数代数関数体【関数論】」. [Online]. 入 手先: https://www.youtube.com/watch?v=3SN91FhMxIA&t=92s [4] 柳田伸太郎, 「代数学 IV/代数学概論 IV 講義ノート」. [Online]. 入 手先: https://www.math.nagoya‑u.ac.jp/∼yanagida/18W/ 20181220.pdf 15/15