AIオールインの現場感、EMとしてどう思考し、どう動くか

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September 11, 25

スライド概要

2025/9/11に開催した「DeNA × AI Talks #2 - エンジニアのための、AIツール導入・活用最前線 -」で発表した資料です。

イベント概要: https://dena.connpass.com/event/364933/
アーカイブ動画:https://youtu.be/r0CO2zEWgJg

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DeNA が社会の技術向上に貢献するため、業務で得た知見を積極的に外部に発信する、DeNA 公式のアカウントです。DeNA エンジニアの登壇資料をお届けします。

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各ページのテキスト
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AI Talks #2 AIオールインの現場感 EMとしてどう思考し、どう動くか 平子 裕喜 ( @kocchi ) DeSCヘルスケア製品開発統括部プロダクト開発部開発グループ © DeNA Co., Ltd. 1

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目次 1 現状の成果と課題 2 〜 翻訳 〜 経営の号令を現場の物語に 3 〜ムーブメントの起こし方〜 ホットスポットを作る 4 〜 攻めと守りの両立 〜 高速なPoC 5 〜 2ランクアップ 〜 バリューストリームと組織の全体最適 © DeNA Co., Ltd. 2

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自己紹介 © DeNA Co., Ltd. 3

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自己紹介 - 平子 裕喜 DeSCヘルスケア製品開発統括部 プロダクト開発部開発G EM - - © DeNA Co., Ltd. 2013年 DeNA入社 ゲームプラットフォーム→オートモーティブ→HR→CTO室 を経由 2024年 3月まで全社横断の生成AI活用推進をリード 2024年 8月にヘルスケア kencom にJOIN - スクラムマスターとして組織のアジャイル化 - 事業全体のOKRのファシリテーション 2025年 4月からkencom EMに 4

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データヘルス事業 - kencom ヘルスケアエンターテインメントアプリ kencom(ケンコム) 「楽しみながら、健康に。」をテーマに、 あなたに合わせた健康情報をお届けして、 楽しく健康になる毎日を提供するアプリ。 スマホで 健診結果 閲覧 ゲーミフィケー ション インセンティブ プログラム 5

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現状の成果と課題 © DeNA Co., Ltd. 6

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導入(現状の成果と課題) ● 実は、kencom開発チームのベロシティは 2024年秋対比ですでに2倍以上になった ○ ただし、あくまで一つの結果指標であり、 生産性向上だけを目指しているわけではない ● より本質的な価値を顧客に届けるため、スピードと クオリティを上げなければならない ● エンジニアの個別最適だけではなく、全体最適を考 えるべき © DeNA Co., Ltd. 7

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〜 翻訳 〜 経営の号令を現場の物語に © DeNA Co., Ltd. 8

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全社ビジョンを自部門へ翻訳し、理想と現状とのギャップを生み出す ● DeNA全体の指令「AIオールイン」 ● kencomは既存事業 ○ kencomにとっての最優先課題 → 重いコスト構造の解消 ○ 運用でカバーしてきた労働集約的な業務を仕組み化しなければ達成できない ○ 仕組み化するにも開発リソースが必要だが、事業優先度が高い開発もある ○ AI活用によって生産性を上げることは前提条件であることを理解してもらう 我々にとっても、「AIオールイン」 は生存・成長戦略であることを伝える。 © DeNA Co., Ltd. 9

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実際に伝えたことのサマリ DeNAの「AIオールイン」を受け、kencom事業の最優先課題は「重いコスト構造の解消」で あり、そのためのAI活用による生産性向上を推進する! 私たちが新しい技術を探求し 、自由にアイデアをぶつけ合い 、失敗を恐れず挑戦する 。そ んな活気に満ちた状態を作り出す! アウトカムとしては以下を実現する! ● 圧倒的な効率化(重いコスト構造の解消への貢献) ○ ● 新たな価値創造(プロダクトの成長) ○ ● 自由な発想からkencomの体験を向上させ、顧客満足度を高め、収益を生み出す 組織全体の活性化 ○ © DeNA Co., Ltd. 新しいツールやプロセスを発見・導入し、生産性を飛躍的に向上させる 私たちの熱量がヘルスケア事業全体に伝播し、イノベーション文化を醸成する 10

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〜ムーブメントの起こし方〜 ホットスポットを作る © DeNA Co., Ltd. 11

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ホットスポットを作り、ムーブメントを起こす ● ムーブメントは2人から始まる まずは自分が踊り手・フォロワーになりな 内発的動機の 焚付け 仲間を作りやすい 場作り がら、個別に火を付ける ● 手上げ式のワーキンググループを作り、推 進チーム化 ● 挑戦・学習・共有 組織文化の強化 © DeNA Co., Ltd. 挑戦・学習・共有する組織文化がAI活用を 加速させる 12

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参考)kencom開発Gの組織状況サーベイ結果 (FY25H1) 指標 スコア(5段階) 解釈 AI活用度 4.71 DeNA全体の中でもトップクラス。全社上位20%の水準を大きく上回る活用が進ん でいる。 振り返り文化 4.50 新しいツールを学び、適応するために不可欠な、継続的改善の文化が根付いてい る。全社上位20%の水準。 知識共有 4.29 AIのベストプラクティスをスケールさせる上で極めて重要な、学習内容を積極的に 共有する文化が定着。全社上位20%以上の実践度。 課題解決への集中 4.31 政治性よりも客観的な問題解決を重視する高度な集中力があり、実用的なツール採 用を可能にする。 心理的安全性 4.71 新しい技術の学習を促す「質問・挑戦」を歓迎する風土が、全社トップ水準以上で 確保されている。 © DeNA Co., Ltd. 13

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〜 攻めと守りの両立 〜 高速PoCとそれを支える仕組み © DeNA Co., Ltd. 14

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DeNAのAIガバナンスモデルはブレーキではなく加速装置 EMとしては当然、生成AIにおけるリスクも管理しなければならない。 DeNAには「スピード」と「リスク管理」を両立するため、「トライアル」と「利用」の二 段階のワークフローがある。 この仕組みをうまく使うことで、安全に、かつ高速にPoCが可能。 検証計画策定 (予算・期間含む) ● ● 手上げ式での 限定的な検証 ツールトライアル申請 ツールの購買までのリードタイムはほぼ無し 法務・セキュリティ確認を走りながら行う 評価 ツールの本格利用 を申請・購買 ツール利用申請 試用申請中に法務やセキュリティ確認 が済んでいるので、ゼロタイムで安全 に本格利用・スケール https://engineering.dena.com/blog/2025/09/ai_journey_3/ © DeNA Co., Ltd. 15

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〜 2ランクアップ 〜 バリューストリームと組織の全体最適 © DeNA Co., Ltd. 16

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バリューストリームの真のブロッカー 開発現場で生産性を低下させているのは、必ずしもコーディングの遅さではない。本当のボトルネック は、待ち時間・割り込み・手戻りといった「外的負荷」の積み重ね。 ● 企画担当者がエンジニアの回答を待つ ● エンジニアが仕様の明確化を待つ ● デザイナーが誤解したまま進めて手戻りが発生する ● 仕様がわからないのでテストができない これらの一つひとつは小さな遅延だが、バリューストリーム全体に広がると、生産性を大きく損う。つ まり課題は「コードを書く速さ」ではなく、役割間の無駄なやり取りに潜む外的負荷をいかに削減する かにある。 © DeNA Co., Ltd. 17

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これまで ―エンジニア最適化 kencomチームはまず、Cursor や Cline、Claude Codeといった開発者向けAIツールを導入した。 これによりエンジニア個人の効率は大きく改善。 ● 調査にかかる時間が短縮され、検索や情報探索の負担が軽減 ● 割り込みから作業に戻る時間が短くなり、コンテキストスイッチの心理的負担が減少 ● 頼まれごとが積み上がるストレスから解放され、頭の中のワーキングメモリが空く ● その結果、エンジニアは設計や難しいバグ修正といった本質的負荷の高いタスクにより多くの時間 を注げるように これだけでも全体のスピードは上がっているが、まだ改善ポテンシャルがある状態。チーム全体のボト ルネック解消には至っていない。 © DeNA Co., Ltd. 18

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いまとこれから ― 全体最適化 次に目指すべきは、バリューストリーム全体の最適化。 全員が「本質的負荷」に時間を割けるようにし、外的負荷をシステムから取り除くことが鍵。 外的負荷の削減(チーム全体) ● ● © DeNA Co., Ltd. 企画やデザイナーが自律的に情報 を取得できれば、エンジニアへの 依存や割り込みが減る 職種間の待ち・齟齬・手戻りが削 減される 本質的負荷の強化 ● ● ● エンジニア → 設計・実装に専念 PdM/企画 → 顧客価値や事業戦略 に注力 デザイナー → 体験や表現の改善 に集中 19

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全体最適における鍵になりえる? © DeNA Co., Ltd. 20

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AIソフトウェアエンジニア『Devin』 DeNAはCognition AIと戦略的パートナーシップを締結し、 開発現場の常識の変革へ挑戦 ● 「Devin」は、ソフトウェア開発プロセス全体を自動化する革新的な自律 型のAIソフトウェアエンジニア ● 従来のコーディングを補助するAIツールに対し、「Devin」はコードの作 成だけでなく、要件定義、設計、コーディング、テスト、デプロイまで の複数のタスクを統合して、効率的かつ精度高く自律的に実行すること が可能 ● エンジニア一人ひとりが自律的に動ける開発チームを持てるようにな り、1日あたりの成果が増加し、開発期間が劇的に効率化・短縮化され、 同じリソースでより多くの機能開発が可能に ● これまではエンジニア不在では開発できなかったコードを、非エンジニ アであっても指示を正しく与えることで「Devin」が代わりに生成してく れるため、モノづくりの裾野が拡大 © DeNA Co., Ltd. 21

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バリューストリームの全体最適における鍵 — Devin Devin がなぜ鍵になりえると考えているのか? ソースコードや設計の一次情報を翻訳し誰でも理解できる「共有知」に変換 共有知化 ユニバーサルI/F ● 「エンジニアしか知らない」という知識の属人性を解消 ● 誰かが最適化(ナレッジやプレイブックの整備)をしたら全員に恩恵 ● Slack や Web UIからアクセス可能 ● CLI や IDE のように職種を限定せず、全職種が即利用できる Devin は「知識のハブ」として外的負荷を吸収し、チーム全体が本質的負荷に集中できる環 境を実現しうる。これにより、バリューストリーム全体の生産性は掛け算的に高まる。 © DeNA Co., Ltd. 22

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ヘルスケア事業全体の最適化 © DeNA Co., Ltd. 23

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AI CoEモデル と 先端ラボとしての kencom開発G AI CoEコアチームとAI推進者の体制で、300人以上が在籍するヘルスケア事業の横断的 なAI活用を推進。kencomチームを先端ラボとして位置づけ。 AI CoE コアチーム 部門 A AI推進者 部門 B AI CoE コアチーム AI推進者 事業部CTO直轄で組織全体のAI活用を整備 ・ヘルスケア事業全体の Eng Mgr で構成 ・PoCなどプロジェクト管理とアサイン ・全社ガードレール策定・導入 CTO 伊藤 先端ラボ 平子 部門 C AI推進者 © DeNA Co., Ltd. 先端ラボ kencom ヘルスケア事業の中でも特に、新しい領域や ツールを開拓(Pioneer)→ 証明(Prove)→ 伝播(Propagate)を推進。 ホットスポットとして熱の発生源に。 24

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まとめ © DeNA Co., Ltd. 25

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1. AI活用はツール導入ではなく、ビジョンから始める 「AI ALL IN」を現場の物語に翻訳し、事業成長・価値創造・文化 醸成をつなげる。 2. 成果は文化の結実、ホットスポットからムーブメントを作る 振り返り・知識共有・心理的安全性という土壌が、AI活用を加速さ せる。良い文化作りがホットスポットを作る。 3. 局所から全体最適へ 外的負荷をAIに吸収させ、人は本質的負荷に集中する。ホットス ポットを熱源に、全社へ伝播する。 © DeNA Co., Ltd. 26

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絶賛採用中です! https://herp.careers/v1/denacareer/N nlELBk0HDHG © DeNA Co., Ltd. 27

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Appindex © DeNA Co., Ltd. 28

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バリューストリームの全体最適を考える上でのレンズ:認知的負荷 ソフトウェア開発の生産性を考えるとき、しばし 内的負荷(Intrinsic Load) 解くべき課題の本質的な複雑さ(例:複雑なビジネスロジック) ば「エンジニアのコーディング速度」が注目され がち。 人間にはワーキングメモリの限界があり、処理で 外的負荷(Extraneous Load) 問題の本質とは無関係な無駄(待ち時間、割り込み、ツールの不便 さなど) きる情報量は限られています。この制約を理解す るために有効なのが認知的負荷理論。 成果を飛躍的に高めるために重要なのは、外的負 本質的負荷(Germane Load) 荷を徹底的に最小化し、確保した認知資源を本質 知識習得・スキル向上・イノベーションなど、価値創造に直結する 努力 的負荷へ再配分すること。 © DeNA Co., Ltd. 29

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© DeNA Co., Ltd. 30