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September 17, 25
スライド概要
ASWアカデミーへようこそ 私たちアークシステムワークスは、長年にわたり対戦格闘ゲームの分野で革新的な映像表現に挑戦し続けてきました。特に『ギルティギア』シリーズで確立した3Dセルルック(アニメ調)CG技術や、日本の伝統的なアニメーション表現は世界中のプレイヤーやクリエイターから高い評価をいただいています。 「ASWアカデミー」は、私たちが培ってきたこれらの貴重な知識や技術を、惜しみなく公開する動画プロジェクトです。 なぜ、あのキャラクターはあんなにも生き生きと動くのか? 心を揺さぶる映像は、いかにして生み出されるのか? 開発に携わったスタッフ自身の言葉で、その設計思想から具体的なテクニックまでを深く、そして分かりやすく解説します。 次代を担うクリエイターにとっての新たな発見や学びの場となり、ゲーム開発のさらなる可能性を共に切り拓く一助となれば幸いです。
本日の講演について
講演概要 命題: 「いまいちカッコいいポーズがキメられない」のは ボーン配置が良くないからかも! キャラクターモデル作成において、メッシュ形状はいい感じで スキニングも問題なし、でもいざアクションポーズを取らせようとすると、 なんかイマイチかっこいい感じにキマらない。そんなことはありませんか? それは関節のボーン位置の設定が適切でないからかもしれません。 この講演では格闘ゲームの制作を通じてつちかったノウハウから 極端なアクションにも耐えうる実践的なボーン配置の例を紹介します。 ・メッシュはつくれるけどポーズをつけると完成度がイマイチと感じている人 想定受講者: ・より汎用性のあるキャラクターモデルが作りたい人
講演者プロフィール 本村・C・純也 アークシステムワークス株式会社 リードモデラー / テクニカルアーティスト / 他いろいろ モデラー出身でシェーダーを書きたくてテクニカルアーティストに。 モデリング・リギング・シェーダー作成、講演とかいろいろ。 現在はテクニカルアート面のサポートおよびR&Dを担当。 代表作: GUILTY GEAR Xrdシリーズ リードモデラー/テクニカルアーティスト DRAGON BALL FighterZ(バンダイナムコエンターテインメント) ディレクター/モデリング監修/テクニカルアーティスト
講演の流れ PART1: ボーン配置がなぜ重要なのか PART2: 身体各部位のボーン配置:ありがちなミスとガイドライン ●下半身のボーン配置 ・足の付け根 ・ヒザ ・足首 ・足指の付け根 ●胴体のボーン配置 ・重心 ・背骨 ・骨盤 ●上半身のボーン配置 ・鎖骨 ・上腕の付け根 ・首と頭部 ・ヒジ ・手首 PART3: 適切なボーン配置の探り方 ・指
最初に 格闘ゲームのアクションに耐えうる汎用的なボーン配置 今セミナーでは格闘ゲームの派手なアクションやポーズにも対応できるボーン配置の 考え方を紹介いたします。 格闘ゲームでは派手なアクションや強調されたポーズなど、人体をときに現実以上に 誇張して描く必要があります。格闘ゲームにも耐えうる構造であれば、 日常芝居や細かい演技など、様々なシチュエーションにも対応できるでしょう。 必ずしも解剖学的に正しいものではありません 人間の肉体の挙動を正確に再現するためには筋肉や皮膚、脂肪、靭帯などの 変形をシミュレーションする必要があります。リアルタイムのゲームでそれは無理なので ある程度は、はしょったりごまかしたりする形になります。 今回紹介するボーン配置は、実際の人体構造をそっくり再現したものではなく、 リアルタイムCG表現の都合に合わせた誇張や省略をしたものです。 求めている人体表現と、CGの都合、両方を加味した折衷案といったところでしょうか。 最終的に「画面に映るものがかっこよければOK」というスタンスです。
なぜボーン配置を題材にしたのか 目立たないけど最終クオリティに直結する、文字通りすべての根幹 メッシュ形状やスキニングによる変形結果とは違い、ボーンの配置はぱっと見ではなかなか 良し悪しを判断することができません。 しかし、理想的なアニメーション、ポージングを行う上では、ある意味スキニングよりも重大な影響がある要素です。 ボーン位置の不備はどうスキニングを調整しても修正できるものではないからです。 後からの修正が非常に困難 ボーン配置の重要度をさらに上げるのが、後からの修正の困難さです。良くないボーン配置を見つけて直そうとしても すでにそのボーン配置でアニメーションが100個作られてしまっている、ということがあり得ます。 そうした場合、ボーン位置の変更に応じて100個のアニメーションを修正し、チェックし、書き出しなおさなくては ならなくなります。プロジェクトが大きくなればなるほど、修正が困難になるため、「直したくても直せない」というケースが 発生しやすいのです。ゆえにボーン配置は初期の段階で間違いのないようによく吟味して決めきる必要があります。 明確なガイドライン、資料の不在 このように、ものすごく重要なボーン配置ですが、世の3DCG系の書籍でどのように配置するのが良いかなどを 明確にまとめた資料やガイドラインは、知る限りほとんどありません。個々のアーティストが人体解剖図などを参考に 感覚と経験にそって配置しているのがほとんどのケースではないでしょうか。 今回のセミナーでは今まで蓄積した知見から、上手くいきやすいボーン配置をガイドラインとして紹介したいと思います。
作例モデル紹介 説明用のシンプルなリグの素体 ●FKベースのシンプルなポーズ人形的リグ構造 ●手足にはツイスト用の補助ボーンが入っており、ねじれを防ぐ構造 ●肩、ヒジ、手首、足の付け根、ヒザ、足首には半回転の補助ボーンあり 派手なアクションが映えるヒーロー体形だけど… 「アクションのための」ということで派手なポーズが映える肩幅の広いヒーロー体形の モデルになっています。ですが、今回のセミナーで紹介するボーン配置は 女性や子供など、ヒーロー体形以外の体形のキャラでも応用が利くものです。 半回転の補助ボーンについて補足: キャラクターのリグ構造において、各関節に50%の 回転で追随する補助骨を配置しておくと便利です。 一例として、例えばヒザを90度曲げたときに、 45度の角度を向くようにリグ設定された補助骨が あると、「膝の皿」の表現が容易になったりします。
Part1 ボーン配置がなぜ重要なのか
まずは極端な例 極端な例ですが、同じTスタンスでも、ボーンの配置が違うとポーズの印象がここまで変化します。 実際には、ここまで極端にズレていれば間違いに気づいて修正されますが、「間違いに気づかない程度の細かいズレ」 は見過ごされ、最終的には「なんか変だな」「なんかクオリティ低いな」という無意識の違和感につながることになります。
ボーン位置の違いによる地味な悪化の例 次に、前ページほど極端ではないですが、実際にありがちな例を紹介します。 下図の左右は、それぞれ同じメッシュで太ももの付け根のボーン配置の高さのみが異なります。 微妙な差異ではありますが、右と左、どちらがよりダイナミックなポージングに感じられるでしょうか?
ボーン位置の違いによる地味な悪化の例 わかりやすいようにアウトラインをつけてみましょう。足の長さ、股間のシルエットの印象に注目してみてください。 ボーン位置の違いによって、腰回りの形状が変わり、ややポーズが縮こまってしまっているのがわかるでしょうか?
極端なポーズで不備が露呈する 先ほどのポーズよりも変化が顕著にわかるのが、より極端なポージングを行った際です。 蹴り技などで大きく開脚する場合などに、ボーン位置の不備が露見します。 この例では、股関節の回転軸の位置の高さが異なるため、右側の例で開脚時のシルエットがおかしくなっています。 このように、ボーン位置の不備は大きなアクションをとろうとするほど顕在化し、 意図して極端なポーズでチェックをしない限り、容易に見過ごされてしまいます。 このようなことを避けるためには、あらかじめ正しいボーン配置の目安を知っておくことが重要になります。
ありがちなミス:先入観でボーンを配置 経験 が浅い間はよくやってしまいがちなのが、思い込みで関節の位置を配置してしまうことです。 先入観で関節を「足の付け根」に 配置してしまう。 足の付け根からの回転だと、 「内側が余って」しまう。 結果、先ほどのようないびつな変形結果に なってしまう。 望ましい変形結果を得るためには、思い込みに頼らず、しっかりと構造を調べた上で配置を工夫する必要があります。
まとめ:ボーン配置がなぜ重要なのか ・ボーン位置が正しくないと関節も正しく曲がらず、 ポージングにも当然悪影響がでる。 ・極端なアクションポーズほど、影響が大きい。 ・ボーン位置の不備は露見しにくく、 実際に極端なポーズをとった時に初めて露見する。 そして多くの場合、気付いたときにはすでに手遅れになっている。 ・適切なボーン位置を知り、あらかじめ設定しておくこと が超重要。そしてモーション作業に進む前に必ず確認を!
Part2 身体各部位のボーン配置 よくあるミスとガイドライン
下半身のボーン配置
まずは下半身から ●アクションにおいては全身の土台となる下半身が超重要 ボーン配置において、まっさきにチェックする必要があるのが 下半身です。 全身のシルエットの大半を占め、重心移動や踏ん張りなど、 あらゆるアクションにおいてまさに根幹となるシルエット表現が 行われる部位だからです。 加えて、接地のためのIKの設定など、リグも複雑になりがち。 後からのアニメーション調整も上半身と比べて難易度が高く、 工数もかかりがちです。 ボーン配置においては、まずは何をおいても下半身の配置を マスターしておくと、後々効率が良くなります。
ありがちなミス:股関節の位置が低い 先ほどすでに例に出しましたが、股関節の配置ミスは影響が大きい上に極端なポーズをとらない限り露見しにくいため 発生しやすいミスです。よくあるのが、回転軸をかなり低い位置に配置してしまうケースです。 回転軸の違いから、ダイナミック に足を開いたときの形状が 大きく異なってきます。 腰回りが間延びして、相対的に 胴長短足に見えてしまう効果も あるので注意が必要です。 横から見た臀部の形状も 大きくくずれ、腰と脚部が 正しくつながっていないよう に見えてしまいます。
ガイドライン:股関節配置の目安(正面) ●考え方 関節を配置するときは、可動範囲から 逆算して考えるのがわかりやすいです。 人間の股関節はおおよそ真下から真横ま で90度程度開くことができます。 なので、最大限に開いた90度の時、真 下におろした時、その両方が成立する位置 から逆算すればよいのです。 ●配置の目安 股の付け根から、 斜め上に45度のラインを引き、 足の中心のラインと交わる場所、 と覚えておくと、多くの場合破綻が少なく てすみます。 解剖学的にもそこまで実際の人体から 外れていないはずです。
ガイドライン:股関節配置の目安(横) ●考え方 横から見たときの考え方も 基本的には同じです。 足は前方には90度以上 曲がることもあるため、腰全 体でみるとやや前気味につ いている必要があります。 ●配置の目安 腰全体の前後幅を基準に、臀部の張りだしを 除いて残った厚みのおよそ中心に配置すると 良い結果が得られることが多いです。 人間も元は4足動物だったことから、 「足は前に曲がるのに都合が良くできている」 と覚えておくと良いでしょう。
ガイドライン:ヒザ関節の配置 ヒザ関節は一方向にしか曲がらないのと、歩行モーションなどで頻繁に曲がっている様子が確認されるため、比較的 ミスが発生しにくい部位です。しかし注意しないとヒザを深く曲げたときの変形結果が不都合な形になることもあります。 関節位置が前過ぎるとヒザがとがり、 ふくらはぎがめり込む 関節位置が後ろ過ぎるとヒザが 伸びてしまい全体に間延びしてしまう ●配置の目安 ヒザ関節はシンプルにヒザの前後幅のちょうど中央 くらいと考えておけばよいでしょう。
補足:ヒザ関節の形状補助の配置 ヒザ関節は前方に向いているため、比較的目立つ関節の一つです。また人体のヒザ関節周りの構造は非常に複雑で、 単純な1軸関節では本来表現しきれるものではありません。 特にヒザ蹴りなど、ヒザを深く曲げたときの形状をしっかりと表現するには、何等かの補助ボーンの助けが必要になります。 ●「ヒザの皿」を表現するための補助ボーン 実際の人体のヒザは、大腿骨と脛骨が互いに滑りながら回転していく2重関節に 近いものです。加えて、「ヒザの皿」という要素も加わり、本来非常に複雑な 構造をしています。 ボーン数の制限や構造の煩雑さから、その全てを再現することは難しいのですが 足を深く曲げたときの形状を再現するための補助ボーンがあるのとないのとでは 表現力に大きな違いが出てきます。 この作例では先に説明した「半分の回転」を行う補助ボーンをヒザに配置し、 「ヒザの皿」の表現に活かしています。 記号として、「ヒザの前面」を構成 してやると、ヒザとして認識しやすい 補足:ふくらはぎなどの「つぶれ」を表現するためのボーン 作例のリグでは実装していませんが、ヒザを深く曲げたときに ふくらはぎや太ももがつぶれて左右に広がるような表現ができるようにしておくと、 めり込みを回避しながらより説得力のある表現ができるでしょう
ありがちなミス:足首の回転軸の位置が高い よく見かけるのが足首の回転軸の配置ミスです。 普通の立ちポーズだとミスに気付きにくく、 モーションを作ってしまったので泣く泣くそのまま 実装してしまうということも多いのではないでしょうか。 普通の立ちポーズだと問題ないように見えて 見過ごされがち。気付いたときには手遅れに…
足首配置の重要性 アクション描写において、足まわりの接地はあらゆる挙動の説得力を高めるのに非常に重要です。 とくに、「踏ん張る」動作では接地面にかかる荷重の描写が説得力を生むので正しい足首関節の 配置が特に重要になります。 足首関節の位置が高すぎると、足を開いて踏ん張るようなポーズの時に足からかかる力が、 足裏の接地面の外に出てしまい、今にも足をくじきそうな印象を与えやすくなります。 ヒールの高い靴などはポーズのつけ方から気を付ける必要があります。
ガイドライン:足首の回転軸配置 ●配置の目安 ボーン配置位置の目安としては、「くるぶしの下端」 を意識するとうまく行きやすいです。 ヒールのある靴を履いている場合は、ヒールの厚みも 加味して調整する必要があります。 足先を伸ばしたときにスネと足の甲がほぼ直線で 並ぶようになっていると、さまざまなポーズをとった 時に自然で美しい形状になります。
ガイドライン:つま先ボーンの配置 靴を履いている前提で、足指全体をまとめて一本の骨で動かす場合の回転軸 足指を使って踏ん張るようなポーズは走 行時など、あらゆるアクションで重要に なってきます。 つま先の接地面の長さが、足全体の およそ1/3程度と覚えておくと、 それほど間違えません。 (裸足の場合はもう少し短くても良い) ●配置の目安 上述のように、足全体の1/3あたりに配置すると バランスが良い。 高さは足指の付け根のちょうど真ん中くらい。 ソールのある靴の場合、ソールの厚みも加味する 必要があります。
ありがちなミス:スネが長すぎる 立ち姿がスタイリッシュに見えるため、太ももに比べて スネを長く作りたくなってしまうときがありますが、 注意が必要です。 本来、人体においては太もものほうがスネよりも長い 構造になっています。(大腿骨は人体で最も長い骨) 太ももよりもスネのほうが長い場合、アクションシーンで 良く登場するヒザをついてしゃがむポーズや、大きく足を 開いて踏ん張るようなポーズがうまく作れません。 どうしてもスネが長いデザインのキャラクターを作る必要が ある場合は、リグの工夫で太ももとスネの長さを自由に 変化できるようにしておき、ポーズごとに「絵になる」 長さに調整する形にするといいでしょう。 同じポーズでも太ももとスネの長さの比率が違えば 左図のように大きな差が出てきます。スネが長すぎると 膝立ちポーズも容易に取れないのがわかるかと思います。
胴体のボーン配置
胴体のボーン配置 ●体幹とも呼ばれる胴体 「体幹」とも呼ばれるように、まさに人体の「幹」。 人体の中心として、前屈、後屈、ねじり、傾けなど、 様々な表情を見せ、まさにアクションの根幹部分を支える 部位です。
全身の重心位置 ●全身の重心位置は「丹田」に置こう 「丹田」(たんでん)とは、東洋医学や武術における用語ですが、「へそ下三寸」に あるという全身の重心です。諸説ありますが、おへそから数センチ下あたりを指します。 この位置は頭部の重さ(以外と重い!)も含めた全身のおおよその重心位置です。 (足の長さ、肉のつき方などで個人差はありますが) アニメーションをつける際、全身を回転させるような動きを作る場合 回転軸は全体の重心に置いたほうが圧倒的に作りやすくなります。 そのため、全身を動かす親階層のボーンはこの「丹田」の位置を目安に 配置しておくとうまくいきやすいです。
回転の重心は動かせるようになっていると良い ●全身の重心位置は一定ではない バク転や宙返りなど、アクロバティックな動きを する際、姿勢の変化によって全身の重心位置 は「体の外」に出ることがあります。 前ページの丹田のさらに親として 「移動できる重心」 の骨を持っておくと、これらのアクションを作りや すくなります。 回転軸 丹田 左図のようなポーズの時に、丹田を中心に キャラクターを回転させてしまうとものすごく 回転が不安定に見えてしまいます。 このような動かせる重心が設定されていないと モーションの調整作業が大変になります。
背骨のボーンは何本が適切? ●背骨の数は最低3本は欲しい 骨盤から上、腰から胸にかけてのエリアを何本のボーンで表現するのがベストか、 という質問には絶対的な答えはありません。 ですが、モバイルでたくさんのキャラクターを出さないといけないなどのケースを除き、 ある程度の表現力を持たせたいのであれば、最低でも3本は欲しいということが 多いのではないでしょうか。 3本あれば、「S字」を描くことや、カーブのピークをある程度変化させるような 表現ができるためです。 5本以上のボーン数になってくると、スキニングの煩雑さのわりには 目立ったメリットが感じられにくいため、実際には3~4本あたりが妥当でしょう。 2本だと表現幅が少ない 3本あれば様々な表現が可能
ガイドライン:背骨の配置(高さ) アークシステムワークスでは多くの場合、背骨は下記3本の構成としています。 ● Waist (ウェスト) ● Stomach (腹) ● Chest (胸) ●配置の目安 3本それぞれの配置の目安は以下のようにしています。 ● Waist :丹田(前述)の高さ ● Chest :みぞおちの高さ ● Stomach :上記二つのの中間の高さ
なぜChestの位置が高いのか 背骨の配置のページにおいて、Chestの位置が高いと感じた人もいるかもしれません。 Chestの位置を高めにしているのには理由があります。 ●表現のためにあえて嘘をついた配置 Chestの位置が高いのは背中を丸めるときに きれいな曲線を描くようにするためです。 解剖学的な正しさを目指したものではなく、 意図的な誇張表現です。 実際には肋骨付近はあまり曲がらないのですが、 アクション表現のためにあえて嘘をついてシルエットが 大きく変化するように骨を配置した結果となります。
ガイドライン:背骨の配置(奥行き) Chestの高さと同じように、背骨の奥行き方向についても、少々の嘘をついています。 ●表現のためにあえて嘘をついた配置:その2 「背骨」と言うくらいですから、本来胴体のボーンは背中よりにあるべきです。 しかし、アークではあえて胴体の厚みのちょうど真ん中くらいに背骨を配置しています。 いくつか理由がありますが、主にねじる変形の結果を安定させることと、 前屈、後屈したときに上体の長さが変わって見えてしまうことを避けるためです。 背中側に置きすぎてしまうと、 前屈時に体が短くなってしまう
独立して動かせる骨盤 ●蹴り技があるゲームでは骨盤を独立して動かしたい リグ構造によっては下半身だけを動かすような骨を持たないことがありますが、 蹴り技などを多用する格闘ゲームでは上半身を固定したまま、 骨盤から下だけを回転させるような骨があるとポーズ調整に便利です。 その場合の回転軸は背骨と骨盤の間なので、ちょうど前述の丹田と同じくらいのところに来ます。 骨盤から下だけを独立して回転できると 蹴り技などのポーズ調整がしやすい 骨盤の回転軸の位置は ほぼ丹田と同じでOK
上半身のボーン配置
上半身のボーン配置 ●もっとも目立つゆえにもっとも難しい アクションに限らず、あらゆるシーンでキャラクターの上半身は もっとも注目を集めやすい部位です。 顔周りは言うに及ばず、肩や腕、手の演技なども キャラクター表現の上では避けて通れないものです。 また、普段見慣れているからこそ、些細な違和感にも 気づきやすく(気づかれやすく) 細かい調整が大きな意味を持つ部位でもあります。 手指などについてはまさにミリ単位の調整で印象が大きく 異なってくるので、ボーン配置が特に重要となります。
肩の動きについて ●肩の動きを軽視するなかれ 「肩をすくめる」 「肩を落とす」などというように、肩の動きは アクションのみならず、感情表現でも非常に重要なパーツと なります。 アクションにおいても、パンチを打つときなどに「肩を入れる」か どうかでポーズの力強さや意味あいが全く変わってきます。 肩の姿勢によって「力を込めている」「軽く打っている」 などの演じ分けができるのです。
ありがちなミス:肩の動きが小さい 肩の姿勢は力の入り具合の演技に必須 それだけに、肩の動かせる範囲が狭いと、 演技の幅、表現できる力強さの幅も極端 に狭まってしまいます。 動きを大きくするためには、動かしたい肩の 部位から、回転軸の中心までの距離を大 きくとる必要があります。 回転の半径が小さければ小さいほど、こじ んまりとした動きしか取れないためです。 人体の肩の可動範囲は驚くほど広いです。 自分で実際に肩を上下前後に動かして 確かめてみましょう。 全く同じ回転値のポーズでも、ボーンの配置位置 しだいで回転半径が狭くなり、動きも硬くなる
ガイドライン:鎖骨ボーンの配置 ●配置の目安 実際の人体の肩は鎖骨、肩甲骨、上腕骨など多 くの骨と筋肉、腱で構成されており、本来は一個 の骨による単純な回転運動で再現できるもので はありません。 ある程度簡略化しつつ、必要十分な表現力を得 るために、ひとまず背面の肩甲骨回りの構造は 省略して、鎖骨の動きを中心に近似するのが多く の場合、落としどころになるのではないでしょうか。 アークでは大きな肩の動きを得るために、 実際の鎖骨と同様、胸の中心に近い位置に 回転軸を置いています。
ありがちなミス:肩関節の位置がずれている ? ? 上の図ほど極端ではないにしろ、よくやってしまうのが上腕の回転軸の配置ミスです。 同じメッシュでも上腕の回転軸の配置位置次第で、 上図のように腕を下ろしたときの肩幅が変化し、ワキ部分に大きな隙間ができたり、 逆に胴体に上腕がめり込んでしまったりすることがあります。 比較的気付きやすいので放置されることは少ないですが、避けたい状況です。
ガイドライン:上腕ボーンの配置 ●配置の目安 上腕ボーンの回転軸を決めるときには、「ワキ」の 位置と腕の太さから逆算すると正解にたどり着きや すくなります。 適切な肩幅はキャラクター毎に違うので難しいので すが、「ワキ」の位置を基準に考えるとおおよその 法則性を見出せます。 腕を下ろしたときに「ワキの下に体温計を挟んで 保持できるくらい」、胴体と上腕の内側がややめり 込むくらいの変形結果が望ましいでしょう。 広背筋が発達しているキャラクターは特に腕と胴 体が少しくらいめり込んだほうが自然です。 一回で決めきるのは難しいですが、非常に重要 な配置なので何度も調整していきましょう。 腕の太さと垂直に下ろしたときの位置から逆算
ガイドライン:前腕の回転軸 ヒザと同じく、ヒジも1方向にしか曲がらない 関節です。 左図の例は、解剖学的に正しいわけでは 全くないのですが、過度なめり込みや伸び縮 みが発生しにくいのでよく使っている配置です。 実際にはもう少しヒジ側に近い位置が 解剖学的には正しいのですが、内ヒジの めり込みが顕著になるための妥協策です。 ●配置の目安 ヒジの先端から、1cm~1.5cmほど下りた位置を目安にして います。ヒジよりも低い位置に関節を置くことで、前腕を曲げた ときのヒジのとがりが良く出てくれるようになります。
補足:ヒジの扱いについて 「ヒザの皿」があるヒザとは異なり、ヒジの突起は完全に前腕の一部なので注意が必要です。 (自分のヒジを触りながら曲げ伸ばししてみるとわかります) なんらかの意図した演出でない限りは、ヒジの突起はほぼ100%前腕と一緒に動くように ウェイト設定したほうが自然です。 ヒジを深く曲げた場合、前腕側が直線を保ち、上腕の背面がカーブを描くことに注目しましょう。
ありがちなミス:前腕が長すぎる そのほうがスタイリッシュに見えるせいか、 上腕と比べて前腕を長く作ってしまうことが あります。スネと同じようなケースですね。 前腕が長い場合、腕を伸ばしているときは 問題なくても、腕組みや合掌、 顔を触るなどの日常動作のポーズを作る 時に非常に不自然になってしまうので 注意が必要です。 アクションにおいても、力の入ったフックを 打ちたいときに前腕が長すぎるとうまく ポーズが作れません。 人体において、前腕は上腕と同等か、 少し短いくらいだと覚えておくと良いでしょう。 どちらのほうがより力強く見えるでしょうか?
ありがちなミス:手首の回転軸の配置 ●以外と難しい手首の配置 格闘ゲームではときおり「掌底」つまり手のひらで相手を 打つようなアクションが出てきます。 そういったとき、手首ボーンの回転軸の位置が適切でないと、 前腕の向きと、手首の根本(つまり「掌底」)の位置が 合わず、力がうまく伝わっているように見えません。 手首の根本の、親指の付け根付近は、いくら手首を 反らしても前腕の延長線上からは出ないということに 注意すると良いでしょう。 試しに自分の手首を反らして親指の付け根がどのような 位置に来るか確かめてみると、これを実感できます。
ガイドライン:手首の回転軸の配置 ●配置の目安 掌底の位置を前腕の延長線上に配置するためには、 手首の回転軸を普通に考えるよりもかなり手の平がわ に配置する必要があります。 手首と手の平の境目ギリギリあたりに配置してやっと 説得力のある手首の反らし表現ができるようになります。
手指について ●ボーン配置最大の難関といってもいい手指 ボーン配置で最も難易度が高いと思われるのが 手指の配置です。理由はいくつかあります。 ●見慣れていて、違和感が表出しやすい おそらく人生で一番長く目にしている体の部位です。 ささいな違和感にもすぐに気づいてしまいます。 ●さまざまな手指の表情すべてに対応する必要性 グーチョキパーのみならず、様々な形をとり、 感情の表現にも使われる。 ●関節の数が多い上、全体でのバランスも求められる 単純計算で片手で5*3で少なくとも15本。 その全てが納得できる比率で配置されている必要がある。 ●単純に細かいので精度が求められる 体の他部位と比較しても構造が細かく、ミリ単位の調整が必要 それだけに、上手くいったときのクオリティ向上も顕著です。
ありがちなミス:指が丸まってしまう ●わずかなズレが違和感を生む 指周りはその細かさゆえに繊細なボーン配置が 求められます。数ミリずれただけで指の形状が大 きくかわり、本来求めていた形状とは 異なる結果になってしまいます。 左図の例では、指の骨の位置を5~7ミリほど 変えただけですが、指の曲がり方が 大きく変化しているのがわかるでしょう。 同じメッシュでも、わずか数ミリのボーン回転軸の 違いによって、指関節がシャープに曲がるが、 丸まってしまうかが変化するのです。
ガイドライン:指の関節(高さ) 関節をとがらせたいときは指の甲側に配置する 指の関節で変形結果がゆるく曲がってしまう場合は、回転軸 が指の甲から離れすぎてしまっている場合がほとんどです。 自分の指を触ってみればわかりますが、骨は指の腹側よりも 指の甲側のほうに入っています。 ●配置の目安 指の甲から、指の厚みの1/3 ほどの高さに配置するといい でしょう。
ガイドライン:指の関節(付け根の位置) 指 手のひら ●配置の目安(指の付け根の位置) 指の根本の関節は、見た目上の指の付け根の位置ではなく、「手のひらの中」にあります。 指を根元から曲げる場合、半ば掌を折り曲げるようにしていることに注目しましょう。 配置の目安としては、各指の「ゲンコツ」の真下と考えると良いでしょう。 親指の付け根は手首と手のひらの境目付近から始まることにも注目しましょう
ガイドライン:指の長さ 指の長さの比率の設定は本当に難易度が高く、 一回で上手くいくことはなかなかありません。個人差、 キャラクター差もあり、何度も試行錯誤しながら理想に 近づけていくしかありません。 一つ指針があるとすれば、「きれいな握りこぶしが作れる」 ということが適切な比率になっているかどうかの試金石に なるということです。 ●配置の目安 難易度の高い指の比率ですがいくつかヒントがあります。 ・人差し指、薬指はおおよそ同じ長さ。(薬指のほうがやや長い) ・中指は人差し指よりおよそ爪一枚分長い。 ・小指は薬指よりもおよそ関節一つ分だけ短い ・親指と中指はおおよそ同じ長さ(ただし節の比率は異なる) ・どの指も根元から先端に行くにつれて骨は短くなっていく。
ガイドライン:首の回転軸 首は複数の頸椎が連続した構造で、本来 一本の骨の回転だけで表現できるものでは ありません。 ある程度簡略化しつつ、適度に説得力と 表現力をもった形を模索する必要があります。 肩周りの関節と同じ理由で、首もある程度 幅広い動きをさせるためには、基部を深くもって 根元から動かせるようにする必要があります。 関節位置を「深く」もったほうが大きい動きが可能 ●配置の目安 首筋の根元から動かせるように、鎖骨の根本 付近の高さに回転軸を配置すると良いでしょう。 奥行き的には胴体の前後幅の中央あたりを目安にし ておくと、前傾、後傾どちらにも対応しやすくなります。
ガイドライン:頭の回転軸 頭は本来固有の回転軸を持たず、首から つながる頸椎の上に固定されています。 顔の向きを変えるとき、曲がっているのは 首なのです。 首と同じく、多数の頸椎すべての動きを 再現するのは過剰な労力になりますので 少ない骨数で近似を探ることになります。 アークで使っている方式では、先ページの 首の根本と頭の直下、2本の骨で頸椎の 多数の骨の動きを近似しているといえます。 ●配置の目安 頭付近を動かすために、頭蓋骨からつながる最初の 頸椎の付近に回転軸を置いています。位置的には 鼻と口の中間の高さ、耳のやや後ろあたりです。
Part3 適切なボーン配置の探り方
適切なボーン配置の探り方 注意:今回紹介したボーン配置のガイドラインは絶対的なものではありません あくまでアークにおいて格闘ゲームを作る時にうまくいった事例の紹介でしかありません。 完全な人体のシミュレーションができない以上、時と場合によって誇張と省略と解釈を 都合に合わせて取捨選択して、ケースバイケースで最良の配置を探っていくしかないのです。 良い結果を得たいのであれば、何かのガイドラインに盲目的に従うのではなく、 都度都度ベストな方法を探っていく必要があります。重要なのは考え方なのです。 では適切なボーン配置をどうやって探っていったらいいのでしょうか。 いくつかTIPSを紹介します。 ●思い込みで作らない。 まずは解剖学図や写真、イラスト技法書など、資料を参考に。 ●自分の体が最高の教師。 いろいろ自分の関節を動かして観察しよう。 ●トライアンドエラーを前提に。 一発で上手くいくことはほとんどない! ●いろいろなポーズをとらせて不備がないことを確認しよう。 後から発覚しても遅い! ●上手くいった時の配置を覚えておこう。 →近隣のパーツの位置関係から、自分なりの配置の法則を見出していこう。
最後に
最後に まとめ: 望んだようなカッコいいポーズをとれないキャラクターモデルにどんな価値があるでしょうか? ・メッシュ ・スキニング ・ボーン配置 この全てがそろった時、初めてキャラクターモデルはそのポテンシャルをフルに発揮できます。 そしてその中でもボーンの配置は、まさにキャラクターモデルの根幹を担うものです。 いくらメッシュ形状が良くても、いくらきれいにスキニングされていても、 ボーン配置の不備はそのすべてを台無しにしてしまう恐れがあります。 それだけに、ボーン配置のノウハウを蓄積して適切な配置ができるようになれば それだけでキャラクターモデルの最終的な価値は大きく向上します。 一度マスターして法則性を見出せさえすれば、 以降はずっと常にキャラクター作成に応用し続けられるのがボーン配置なのです。 今回のセッションが皆さんのボーン配置の理解において少しでも参考になったなら幸いです。