第3回 東日本大震災原子力災害学術研究集会(20250319)

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July 05, 25

スライド概要

健康の社会的決定要因が注目されている。 福島原発事故でも、国・東電と被災者の間の非対称的な力関係、ふるさと喪失、生きがい喪失、避難先での差別・孤立などの健康の社会的決定要因は放射線被曝と同様、心臓病など身体の病の原因になる。相互作用で放射線の影響を増悪させる可能性もある。しかし、放射線の影響と比べ社会的決定要因は注目されにくく、対策が遅れている。なぜ見逃されてしまうのか、その根本的な原因を明らかにする。見逃されてきた健康の社会的決定要因を正当に評価することが、被災者の健康状態を改善し「安心」につながるとともに、社会的決定要因と深く結びついている社会秩序の安定=復興推進を促すはずである。放射線対策と復興推進は両立する。その具体的な方策を提案する。

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各ページのテキスト
1.

東日本大震災・原子力災害 第3回 学術研究集会 2025年3月19日 なぜ健康の社会的決定要因は見逃されてしまうのか 放射線災害の健康被害を正当に評価することが 真の復興を促す 伊藤浩志 福島市在住の独立研究者(学術博士) 専門領域: 脳神経科学/ストレス科学/リスク論/科学技術社会論 [email protected]

2.

本日の発表内容 ü 健康の社会的決定要因(健康格差)とは何か ü 福島原発事故における社会的決定要因 ü なぜ社会的決定要因が注目されないのか ü 問題提起: 社会的決定要因を正当に評価することで、 復興推進と放射線対策は両立できる

3.

本題に入る前に 人が病気になるメカニズムを知る必要がある でないと 放射線被ばくが 病気にどのように関わっているのか分からない

4.

現代における病気の主な原因 社会的決定要因 u WHO報告書: 世界のすべての国において、社会の格差勾配に従って人々の健康状態は悪化して いる (CSDH 2008) u 厚生労働省が「健康日本 21」の方針を転換 第1次(2000年~2012年):健康実現は「一人ひとりが主体的に取り組む課題」 第2次(2013年~2022年):個人の努力の任せず、「健康格差の縮小」を目指すと宣言 第3次(2024年~2035年):「社会環境の質の向上」が、格差縮小のために重要と指摘 ※ 第2次で健康格差縮小せず、 第3次報告書では、新型コロナウイルス感染症での格差拡大を懸念

5.

現代における病気の主な原因 社会的決定要因 u WHO報告書: 世界のすべての国において、社会の格差勾配に従って人々の健康状態は悪化して いる (CSDH 2008) u 厚生労働省が「健康日本 21」の方針を転換 第1次(2000年~2012年):健康実現は「一人ひとりが主体的に取り組む課題」 第2次(2013年~2022年):個人の努力に任せず、「健康格差の縮小」を目指すと宣言 第3次(2024年~2035年):「社会環境の質の向上」が、格差縮小のために重要と指摘 ※ 第2次で健康格差縮小せず、 第3次報告書では、新型コロナウイルス感染症での格差拡大を懸念

6.

生活習慣病の真の原因は慢性炎症による「老化」 格差は老化を加速させる ü DOHaD説 (成人病胎児期発症起源説) 1) 胎児/乳幼児期にストレスに晒されると生活習慣病/精神疾患になりやすくなる 2) その体質に、望ましくない生活習慣やストレスが加わることで発症 (Barker DJP & Osmond C 1986) ü 社会経済弱者: 社会の病 (生まれる前からの厳しい環境):慢性ストレスによるHPA軸の亢進 →海馬など脳(ストレス関連部位)が萎縮:ストレスに敏感に反応=強い不安 →強い刺激を求める:薬物(アルコール/喫煙)依存症になりやすい →太りやすい:運動不足/食生活の影響受けやすい →慢性的な過剰な炎症反応(サイトカイン過剰発現)で老化が加速 →生活習慣病・認知症になりやすい/感染症で重篤化しやすい(炎症反応の増悪) (Bellingrath S et al. 2013; Tchkonia T et al. 2013; Irwin MR & Cole SW 2013; Peterson RL et al., 2024)

7.

生活習慣病の真の原因は慢性炎症による「老化」 格差は老化を加速させる ü DOHaD説 (成人病胎児期発症起源説) 1) 胎児/乳幼児期にストレスに晒されると生活習慣病/精神疾患になりやすくなる 2) その体質に、望ましくない生活習慣やストレスが加わることで発症 (Barker DJP & Osmond C 1986) ü 社会経済弱者: 社会の病 (生まれる前からの厳しい環境):慢性ストレスによるHPA軸の亢進 →海馬など脳(ストレス関連部位)が萎縮:ストレスに敏感に反応=強い不安 →強い刺激を求める:薬物(アルコール/喫煙)依存症になりやすい →太りやすい:運動不足/食生活の影響受けやすい →慢性的な過剰な炎症反応(サイトカイン過剰発現)で老化が加速 →生活習慣病・認知症になりやすい/感染症で重篤化しやすい(炎症反応の増悪) (Bellingrath S et al. 2013; Tchkonia T et al. 2013; Irwin MR & Cole SW 2013; Peterson RL et al., 2024)

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生活習慣病の真の原因は慢性炎症による「老化」 格差は老化を加速させる ü DOHaD説 (成人病胎児期発症起源説) 1) 胎児/乳幼児期にストレスに晒されると生活習慣病/精神疾患になりやすくなる 2) その体質に、望ましくない生活習慣やストレスが加わることで発症 (Barker DJP & Osmond C 1986) ü 社会経済弱者: 社会の病 (生まれる前からの厳しい環境):慢性ストレスによるHPA軸の亢進 →海馬など脳(ストレス関連部位)が萎縮:ストレスに敏感に反応=強い不安 →強い刺激を求める:薬物(アルコール/喫煙)依存症になりやすい →太りやすい:運動不足/食生活の影響受けやすい →慢性的な過剰な炎症反応(サイトカイン過剰発現)で老化が加速 →生活習慣病・認知症になりやすい/感染症で重篤化しやすい(炎症反応の増悪) (Bellingrath S et al. 2013; Tchkonia T et al. 2013; Irwin MR & Cole SW 2013; Peterson RL et al., 2024) • • 生活習慣病の目の前にある原因:生活習慣 →生活習慣で説明しきれるリスク要因は1/3以下(Lantz PM et al. 1998) 背後にある根本原因:社会の病(慢性炎症反応による老化の加速)

9.

病気に対する考え方を、180度変える必要あり ü ストレッサーの種類が多いほど、病気になりやすく、重篤化しやすい • • シンデミック : 病原体/栄養不良/暴力/社会経済格差などの相互作用 →うつ病/糖尿病/心臓病などを併発、病状増悪 (Singer M et al., 2017) アロスタティックロード:子ども時代の過酷体験、種類(虐待/差別/貧困/親の死…)が 多い人ほど、 →炎症関連遺伝子の発現数↑ (Slavich GM & Cole SW, 2013) →がん/心臓病/糖尿病のリスク↑ (Hughes K et al., 2017; Lin L et al., 2021) ü コロナ禍で、世界のトップジャーナルが公衆衛生対策の抜本的改革を提言 • 「 COVID-19 はパンデミックではない(シンデミックだ)」 (Lancet. Vol 396 October 17, 2020) 重篤化因子は生活習慣病(原文: non-communicable disease) →生活習慣病の原因である貧困/格差を解消しない限り、流行は止められない (ロックダウン/緊急事態宣言は必要なかった) Nature / New England Journal of Medicine / JAMA が同様の見解示す ※ 拙著でも提案: 『なぜ社会は分断するのか』(2021)

10.

病気に対する考え方を、180度変える必要あり ü ストレッサーの種類が多いほど、病気になりやすく、重篤化しやすい • • シンデミック : 病原体/栄養不良/暴力/社会経済格差などの相互作用 →うつ病/糖尿病/心臓病などを併発、病状増悪 (Singer M et al., 2017) アロスタティックロード:子ども時代の過酷体験、種類(虐待/差別/貧困/親の死…)が 多い人ほど、 →炎症関連遺伝子の発現数↑ (Slavich GM & Cole SW, 2013) →がん/心臓病/糖尿病のリスク↑ (Hughes K et al., 2017; Lin L et al., 2021) ü コロナ禍で、世界のトップジャーナルが公衆衛生対策の抜本的改革を提言 • 「 COVID-19 はパンデミックではない(シンデミックだ)」 (Lancet. Vol 396 October 17, 2020) 重篤化因子は生活習慣病(原文: non-communicable disease) →生活習慣病の原因である貧困/格差を解消しない限り、流行は止められない (ロックダウン/緊急事態宣言は必要なかった) Nature / New England Journal of Medicine / JAMA が同様の見解示す ※ 拙著でも提案: 『なぜ社会は分断するのか』(2021)

11.

以上を踏まえて 福島原発事故における 健康の社会的決定要因について検証する

12.

見逃されてきた「社会の病」 健康リスクの社会的決定要因 被災者の置かれた状況: 社会から排除された (サイトカイン過剰発現の)状態 • 爆発時の恐怖 / 故郷喪失 / 避難先での過酷な体験 / 孤立 / 経済的困窮 →被災者の4割がPTSDの可能性(辻内琢也ら, 2021) • 医療崩壊/医師不足に伴う医療ミス/診断治療の遅れ ※ 避難者が周辺自治体に殺到/鼻血騒動/人手不足の中での甲状腺検査 • 低出生体重児の一時的増加(事故直後)/外遊び自粛→子どもの肥満(慢性炎症) • 一連の政策: 強制避難区域の避難指示解除 / ALPS処理水海洋放出など →常に頭越しに物事が決まっていく、と被災者は感じている(受け身の状態) →受け身の状態に置かれ続けると、生活習慣病/精神疾患のリスク↑ (Bosma HR et al., 1998) 原因:心理社会的ストレスによる炎症性サイトカインの過剰発現 (Marmot M et al., 1997) • 風評被害:生業が正当に評価されない/失業への不安/生きがい喪失(=社会からの排除) • 事故責任の所在のあいまいさ/廃炉の見通しのなさ/度重なるトラブル →自然災害より人災で健康被害( PTSDなど )が甚大になる原因 (Hull AM et al., 2002; Neria Y et al., 2008; Arnberg FK et al., 2011)

13.

見逃されてきた「社会の病」 健康リスクの社会的決定要因 被災者の置かれた状況: 社会から排除された (サイトカイン過剰発現の)状態 • 爆発時の恐怖 / 故郷喪失 / 避難先での過酷な体験 / 孤立 / 経済的困窮 →被災者の4割がPTSDの可能性(辻内琢也ら, 2021) • 医療崩壊/医師不足に伴う医療ミス/診断治療の遅れ ※ 避難者が周辺自治体に殺到/鼻血騒動/人手不足の中での甲状腺検査 • 低出生体重児の一時的増加(事故直後)/外遊び自粛→子どもの肥満(慢性炎症) • 一連の政策: 強制避難区域の避難指示解除 / ALPS処理水海洋放出など →常に頭越しに物事が決まっていく、と被災者は感じている(受け身の状態) →受け身の状態に置かれ続けると、生活習慣病/精神疾患のリスク↑ (Bosma HR et al., 1998) 原因:心理社会的ストレスによる炎症性サイトカインの過剰発現 (Marmot M et al., 1997) • 風評被害:生業が正当に評価されない/失業への不安/生きがい喪失(=社会からの排除) • 事故責任の所在のあいまいさ/廃炉の見通しのなさ/度重なるトラブル →自然災害より人災で健康被害( PTSDなど )が甚大になる原因 (Hull AM et al., 2002; Neria Y et al., 2008; Arnberg FK et al., 2011)

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見逃されてきた「社会の病」 健康リスクの社会的決定要因 被災者の置かれた状況: 社会から排除された (サイトカイン過剰発現の)状態 • 爆発時の恐怖 / 故郷喪失 / 避難先での過酷な体験 / 孤立 / 経済的困窮 →被災者の4割がPTSDの可能性(辻内琢也ら, 2021) • 医療崩壊/医師不足に伴う医療ミス/診断治療の遅れ ※ 避難者が周辺自治体に殺到/鼻血騒動/人手不足の中での甲状腺検査 • 低出生体重児の一時的増加(事故直後)/外遊び自粛→子どもの肥満(慢性炎症) • 一連の政策: 強制避難区域の避難指示解除 / ALPS処理水海洋放出など →常に頭越しに物事が決まっていく、と被災者は感じている(受け身の状態) →受け身の状態に置かれ続けると、生活習慣病/精神疾患のリスク↑ (Bosma HR et al., 1998) 原因:心理社会的ストレスによる炎症性サイトカインの過剰発現 (Marmot M et al., 1997) • 風評被害:生業が正当に評価されない/失業への不安/生きがい喪失(=社会からの排除) • 事故責任の所在のあいまいさ/廃炉の見通しのなさ/度重なるトラブル →自然災害より人災で健康被害( PTSDなど )が甚大になる原因 (Hull AM et al., 2002; Neria Y et al., 2008; Arnberg FK et al., 2011)

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見逃されてきた「社会の病」 健康リスクの社会的決定要因 被災者の置かれた状況: 社会から排除された (サイトカイン過剰発現の)状態 • 爆発時の恐怖 / 故郷喪失 / 避難先での過酷な体験 / 孤立 / 経済的困窮 →被災者の4割がPTSDの可能性(辻内琢也ら, 2021) • 医療崩壊/医師不足に伴う医療ミス/診断治療の遅れ ※ 避難者が周辺自治体に殺到/鼻血騒動/人手不足の中での甲状腺検査 • • 低出生体重児の一時的増加(事故直後)/外遊び自粛→子どもの肥満(慢性炎症) 世の中の関心(被ばくによる鼻血/小児甲状腺がん)より 一連の政策: 強制避難区域の避難指示解除 / ALPS処理水海洋放出など 命に関わる重大な健康リスク →常に頭越しに物事が決まっていく、と被災者は感じている(受け身の状態) →受け身の状態に置かれ続けると、生活習慣病/精神疾患のリスク↑ (Bosma HR et al., 1998) 原因:心理社会的ストレスによる炎症性サイトカインの過剰発現 (Marmot M et al., 1997) • 風評被害:生業が正当に評価されない/失業への不安/生きがい喪失(=社会からの排除) • 事故責任の所在のあいまいさ/廃炉の見通しのなさ/度重なるトラブル →自然災害より人災で健康被害( PTSDなど )が甚大になる原因 (Hull AM et al., 2002; Neria Y et al., 2008; Arnberg FK et al., 2011)

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見逃されてきた「社会の病」 健康リスクの社会的決定要因 被災者の置かれた状況: 社会から排除された (サイトカイン過剰発現の)状態 • 爆発時の恐怖 / 故郷喪失 / 避難先での過酷な体験 / 孤立 / 経済的困窮 →被災者の4割がPTSDの可能性(辻内琢也ら, 2021) • 医療崩壊/医師不足に伴う医療ミス/診断治療の遅れ ※ 避難者が周辺自治体に殺到/鼻血騒動/人手不足の中での甲状腺検査 • 低出生体重児の一時的増加(事故直後)/外遊び自粛→子どもの肥満(慢性炎症) • 一連の政策: 強制避難区域の避難指示解除 / ALPS処理水海洋放出など →常に頭越しに物事が決まっていく、と被災者は感じている(受け身の状態) →受け身の状態に置かれ続けると、生活習慣病/精神疾患のリスク↑ (Bosma HR et al., 1998) 原因:心理社会的ストレスによる炎症性サイトカインの過剰発現 (Marmot M et al., 1997) • 風評被害:生業が正当に評価されない/失業への不安/生きがい喪失(=社会からの排除) • 事故責任の所在のあいまいさ/廃炉の見通しのなさ/度重なるトラブル →自然災害より人災で健康被害( PTSDなど )が甚大になる原因 (Hull AM et al., 2002; Neria Y et al., 2008; Arnberg FK et al., 2011)

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見逃されてきた「社会の病」 健康リスクの社会的決定要因 被災者の置かれた状況: 社会から排除された (サイトカイン過剰発現の)状態 • 爆発時の恐怖 / 故郷喪失 / 避難先での過酷な体験 / 孤立 / 経済的困窮 →被災者の4割がPTSDの可能性(辻内琢也ら, 2021) • 医療崩壊/医師不足に伴う医療ミス/診断治療の遅れ ※ 避難者が周辺自治体に殺到/鼻血騒動/人手不足の中での甲状腺検査 • 低出生体重児の一時的増加(事故直後)/外遊び自粛→子どもの肥満(慢性炎症) • 一連の政策: 強制避難区域の避難指示解除 / ALPS処理水海洋放出など →常に頭越しに物事が決まっていく、と被災者は感じている(受け身の状態) 死亡率0.3%の小児甲状腺がんより (Bosma HR et al., 1998) →受け身の状態に置かれ続けると、生活習慣病/精神疾患のリスク↑ 命に関わる重大な健康リスク(糖尿病/心臓病/うつ病) 原因:心理社会的ストレスによる炎症性サイトカインの過剰発現 (Marmot M et al., 1997) • 風評被害:生業が正当に評価されない/失業への不安/生きがい喪失(=社会からの排除) • 事故責任の所在のあいまいさ/廃炉の見通しのなさ/度重なるトラブル →自然災害より人災で健康被害( PTSDなど )が甚大になる原因 (Hull AM et al., 2002; Neria Y et al., 2008; Arnberg FK et al., 2011)

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見逃されてきた「社会の病」 健康リスクの社会的決定要因 被災者の置かれた状況: 社会から排除された (サイトカイン過剰発現の)状態 • 爆発時の恐怖 / 故郷喪失 / 避難先での過酷な体験 / 孤立 / 経済的困窮 →被災者の4割がPTSDの可能性(辻内琢也ら, 2021) • 医療崩壊/医師不足に伴う医療ミス/診断治療の遅れ ※ 避難者が周辺自治体に殺到/鼻血騒動/人手不足の中での甲状腺検査 • 低出生体重児の一時的増加(事故直後)/外遊び自粛→子どもの肥満(慢性炎症) • 一連の政策: 強制避難区域の避難指示解除 / ALPS処理水海洋放出など →常に頭越しに物事が決まっていく、と被災者は感じている(受け身の状態) →受け身の状態に置かれ続けると、生活習慣病/精神疾患のリスク↑ (Bosma HR et al., 1998) 原因:心理社会的ストレスによる炎症性サイトカインの過剰発現 (Marmot M et al., 1997) • 風評被害:生業が正当に評価されない/失業への不安/生きがい喪失(=社会からの排除) • 事故責任の所在のあいまいさ/廃炉の見通しのなさ/度重なるトラブル →自然災害より人災で健康被害( PTSDなど )が甚大になる原因 (Hull AM et al., 2002; Neria Y et al., 2008; Arnberg FK et al., 2011)

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見逃されてきた「社会の病」 健康リスクの社会的決定要因 被災者の置かれた状況: 社会から排除された (サイトカイン過剰発現の)状態 • 爆発時の恐怖 / 故郷喪失 / 避難先での過酷な体験 / 孤立 / 経済的困窮 →被災者の4割がPTSDの可能性(辻内琢也ら, 2021) • 医療崩壊/医師不足に伴う医療ミス/診断治療の遅れ ※ 避難者が周辺自治体に殺到/鼻血騒動/人手不足の中での甲状腺検査 • 低出生体重児の一時的増加(事故直後)/外遊び自粛→子どもの肥満(慢性炎症) • 一連の政策: 強制避難区域の避難指示解除 / ALPS処理水海洋放出など →常に頭越しに物事が決まっていく、と被災者は感じている(受け身の状態) →受け身の状態に置かれ続けると、生活習慣病/精神疾患のリスク↑ (Bosma HR et al., 1998) 原因:心理社会的ストレスによる炎症性サイトカインの過剰発現 (Marmot M et al., 1997) • 風評被害:生業が正当に評価されない/失業への不安/生きがい喪失(=社会からの排除) • 事故責任の所在のあいまいさ/廃炉の見通しのなさ/度重なるトラブル →自然災害より人災で健康被害( PTSDなど )が甚大になる原因 (Hull AM et al., 2002; Neria Y et al., 2008; Arnberg FK et al., 2011)

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見逃されてきた「社会の病」 健康リスクの社会的決定要因 被災者の置かれた状況: 社会から排除された (サイトカイン過剰発現の)状態 • 爆発時の恐怖 / 故郷喪失 / 避難先での過酷な体験 / 孤立 / 経済的困窮 →被災者の4割がPTSDの可能性(辻内琢也ら, 2021) • 医療崩壊/医師不足に伴う医療ミス/診断治療の遅れ ※ 避難者が周辺自治体に殺到/鼻血騒動/人手不足の中での甲状腺検査 • 低出生体重児の一時的増加(事故直後)/外遊び自粛→子どもの肥満(慢性炎症) • 一連の政策: 強制避難区域の避難指示解除 / ALPS処理水海洋放出など →常に頭越しに物事が決まっていく、と被災者は感じている(受け身の状態) →受け身の状態に置かれ続けると、生活習慣病/精神疾患のリスク↑ (Bosma HR et al., 1998) 原因:心理社会的ストレスによる炎症性サイトカインの過剰発現 (Marmot M et al., 1997) • 風評被害:生業が正当に評価されない/失業への不安/生きがい喪失(=社会からの排除) • 世の中の関心(トリチウム/放射性炭素などの放射性物質)より 事故責任の所在のあいまいさ/廃炉の見通しのなさ/度重なるトラブル 受け身の状態/風評被害は、命に関わる重大な健康リスク →自然災害より人災で健康被害( PTSDなど )が甚大になる原因 例:糖尿病の死亡リスクは、放射線被ばくによる死亡リスクの約40倍の可能性あり M et al., 2017) (Hull AM et al., 2002; Neria (Murakami Y et al., 2008; Arnberg FK et al., 2011)

21.

見逃されてきた「社会の病」 健康リスクの社会的決定要因 被災者の置かれた状況: 社会から排除された (サイトカイン過剰発現の)状態 • 爆発時の恐怖 / 故郷喪失 / 避難先での過酷な体験 / 孤立 / 経済的困窮 →被災者の4割がPTSDの可能性(辻内琢也ら, 2021) • 医療崩壊/医師不足に伴う医療ミス/診断治療の遅れ ※ 避難者が周辺自治体に殺到/鼻血騒動/人手不足の中での甲状腺検査 • 低出生体重児の一時的増加(事故直後)/外遊び自粛→子どもの肥満(慢性炎症) • 一連の政策: 強制避難区域の避難指示解除 / ALPS処理水海洋放出など →常に頭越しに物事が決まっていく、と被災者は感じている(受け身の状態) →受け身の状態に置かれ続けると、生活習慣病/精神疾患のリスク↑ (Bosma HR et al., 1998) 原因:心理社会的ストレスによる炎症性サイトカインの過剰発現 (Marmot M et al., 1997) • 風評被害:生業が正当に評価されない/失業への不安/生きがい喪失(=社会からの排除) • 事故責任の所在のあいまいさ/廃炉の見通しのなさ/度重なるトラブル →自然災害より人災で健康被害( PTSDなど )が甚大になる原因 (Hull AM et al., 2002; Neria Y et al., 2008; Arnberg FK et al., 2011)

22.

見逃されてきた 「社会の病」と放射線被ばくの相互作用 ü 放射線 も、電離作用で水分子をイオン化、ラジカル発生、炎症性サイトカイン ↑ (ICRP Publication 118, 2011) 3.11から14年間、そして、これからもずっと、 自分の力が及ばない、社会から排除された状態に置かれ続ける→サイトカイン 放射線被ばく→サイトカイン↑ ↓ シンデミック : さまざまな疾患リスクが上昇

23.

見逃されてきた 「社会の病」と放射線被ばくの相互作用 ü 放射線 も、電離作用で水分子をイオン化、ラジカル発生、炎症性サイトカイン ↑ (ICRP Publication 118, 2011) 3.11から14年間、そして、これからもずっと、 自分の力が及ばない、社会から排除された状態に置かれ続ける→サイトカイン 放射線被ばく→サイトカイン↑ ↓ シンデミック : さまざまな疾患リスクが上昇

24.

ここまでのまとめ

25.

放射線量に振り回されないで! 被ばく量からの推計 健康リスクを大幅に過小評価 ü 現在のリスク推定:寄与リスクを前提にしている ※ 国も、国を批判する脱原発派も、この点では同じ ü しかし、疫学の世界で最も信頼されてる教科書 『Modern Epidemiology』 を執筆した UCLAのGreenland教授は、次のように指摘している • 寄与リスク(attributable risk)と原因確率(probability of causation)を混同してはな らない • 被ばく者の寄与リスクが 0% でも、理論的には、真の原因確率は 100% になる (= すべての被ばく者が被ばくで寿命が短くなる)可能性がある • 被ばく量に頼る寄与リスクは、他の要因との相互作用で発病が「早まる」こと を カウントできない ので、真の原因確率を過小評価してしまう (Modern Epidemiology, Third Edition, 2008) (Bulletin of the Atomic Scientists, 68: 76-83, 2012) 「社会の病」と被ばくの相互作用(シンデミック)を見逃している現在のリスク推定 被災者の健康リスクを大幅に過小評価している可能性が高い

26.

放射線量に振り回されないで! 被ばく量からの推計 健康リスクを大幅に過小評価 ü 現在のリスク推定:寄与リスクを前提にしている ※ 国も、国を批判する脱原発派も、この点では同じ ü しかし、疫学の世界で最も信頼されてる教科書 『Modern Epidemiology』 を執筆した UCLAのGreenland教授は、次のように指摘している • 寄与リスク(attributable risk)と原因確率(probability of causation)を混同してはな らない • 被ばく者の寄与リスクが 0% でも、理論的には、真の原因確率は 100% になる (= すべての被ばく者が被ばくで寿命が短くなる)可能性がある • 被ばく量に頼る寄与リスクは、他の要因との相互作用で発病が「早まる」こと を カウントできない ので、真の原因確率を過小評価してしまう (Modern Epidemiology, Third Edition, 2008) (Bulletin of the Atomic Scientists, 68: 76-83, 2012) 「社会の病」と被ばくの相互作用(シンデミック)を見逃している現在のリスク推定 被災者の健康リスクを大幅に過小評価している可能性が高い

27.

放射線量に振り回されないで! 被ばく量からの推計 健康リスクを大幅に過小評価 ü 現在のリスク推定:寄与リスクを前提にしている ※ 国も、国を批判する脱原発派も、この点では同じ ü しかし、疫学の世界で最も信頼されてる教科書 『Modern Epidemiology』 を執筆した UCLAのGreenland教授は、次のように指摘している • 寄与リスク(attributable risk)と原因確率(probability of causation)を混同してはな らない • 被ばく者の寄与リスクが 0% でも、理論的には、真の原因確率は 100% になる (= すべての被ばく者が被ばくで寿命が短くなる)可能性がある • 被ばく量に頼る寄与リスクは、他の要因との相互作用で発病が「早まる」こと を カウントできない ので、真の原因確率を過小評価してしまう (Modern Epidemiology, Third Edition, 2008) (Bulletin of the Atomic Scientists, 68: 76-83, 2012) 「社会の病」と被ばくの相互作用(シンデミック)を見逃している現在のリスク推定 被災者の健康リスクを大幅に過小評価している可能性が高い

28.

ところで

29.

3.11以降の議論 健康リスクといえば、放射線被ばく なぜ、社会的決定要因は置き去りにされるのだろうか

30.

根本的な原因は 安心安全二元論にある

31.

安心と安全の一般的な捉え方 ü 安心:主観的なリスク認知の問題 →客観的な科学的事実とは異なる →あやふやな心の問題 / 市民の感じ方の問題 ü 安全:客観的なリスクアセスメントの問題 →科学は、リスクを物質に還元し、定量化できる →専門家は、リスクを正しく理解可能

32.

安心安全二元論を大前提とすることで 社会の病はリスク評価の対象から除外された ü 放射線量は物質に還元し定量できる →科学的リスク評価 = 安全の対象 ü 社会の病(人と人との間にある病)は物質に還元し定量できない →客観的なリスク評価の対象から外される →社会の病に対する不安=こころ(リスク認知)の問題とされる 1) 「過剰」と解釈されリスクコミュニケーションの対象 2) 「権利」の問題として賠償の対象の不安は「権利の問題」

33.

リスク認知研究の新しい流れ ü リスク認知に偏りある人:社会経済弱者(女性/米国黒人/マイノリティ) (Marshall BK et al. 2006; Olofsson A & Rashid S 2011; Sansom G et al. 2019) • • ストレスで扁桃体( 情動反応の中枢)が活性化→バイアスがかかりやすい 慢性的な炎症状態→実際に病気になりやすい(強い不安に合理性あり) 例) 米国の黒人:新型コロナワクチンに不信感が強い (Balasuriya L et al., 2021) ü 福島原発事故:放射線「不安」が強いのは、社会経済的弱者 • • 低収入層(年収400万円未満)/低学歴層(非大卒)で強い不安 不安感と居住地の放射線量に、関連は見られない (「福島子ども健康プロジェクト」, 2013年〜2018年の調査結果) • 健康リスクが高く、放射線の影響を受けやすい ⇨過剰な不安ではない

34.

リスク認知研究の新しい流れ ü リスク認知に偏りある人:社会経済弱者(女性/米国黒人/マイノリティ) (Marshall BK et al. 2006; Olofsson A & Rashid S 2011; Sansom G et al. 2019) • • ストレスで扁桃体( 情動反応の中枢)が活性化→バイアスがかかりやすい 慢性的な炎症状態→実際に病気になりやすい(強い不安に合理性あり) 例) 米国の黒人:新型コロナワクチンに不信感が強い (Balasuriya L et al., 2021) ü 福島原発事故:放射線「不安」が強いのは、社会経済的弱者 • ・低収入層 (年収400万円未満)/低学歴層(非大卒)で強い不安 新型コロナ感染で重篤化しやすい • ・不安感と居住地の放射線量に、関連は見られない 不信感強いのは、差別されているから →強い不安には合理性がある • (「福島子ども健康プロジェクト」, 2013年〜2018年の調査結果) 健康リスクが高く、放射線の影響を受けやすい ⇨過剰な不安ではない

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リスク認知研究の新しい流れ ü リスク認知に偏りある人:社会経済弱者(女性/米国黒人/マイノリティ) (Marshall BK et al. 2006; Olofsson A & Rashid S 2011; Sansom G et al. 2019) • • ストレスで扁桃体( 情動反応の中枢)が活性化→バイアスがかかりやすい 慢性的な炎症状態→実際に病気になりやすい(強い不安に合理性あり) 例) 米国の黒人:新型コロナワクチンに不信感が強い (Balasuriya L et al., 2021) ü 福島原発事故:放射線「不安」が強いのは、社会経済的弱者 • ・低収入層 (年収400万円未満)/低学歴層(非大卒) で強い不安 日本でも、 新型コロナ感染で重篤化しやすい • ・不安感と居住地の放射線量に、関連は見られない 新型コロナワクチン拒否者 不信感強いのは、差別されているから →強い不安には合理性がある • (「福島子ども健康プロジェクト」, 2013年〜2018年の調査結果) 社会経済弱者に多い 健康リスクが高く、放射線の影響を受けやすい ⇨過剰な不安ではない

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リスク認知研究の新しい流れ ü リスク認知に偏りある人:社会経済弱者(女性/米国黒人/マイノリティ) (Marshall BK et al. 2006; Olofsson A & Rashid S 2011; Sansom G et al. 2019) • • ストレスで扁桃体( 情動反応の中枢)が活性化→バイアスがかかりやすい 慢性的な炎症状態→実際に病気になりやすい(強い不安に合理性あり) 例) 米国の黒人:新型コロナワクチンに不信感が強い (Balasuriya L et al., 2021) ü 福島原発事故:放射線「不安」が強いのは、社会経済的弱者 • • 低収入層(年収400万円未満)/低学歴層(非大卒)で強い不安 不安感と居住地の放射線量に、関連は見られない (「福島子ども健康プロジェクト」, 2013年〜2018年の調査結果) • 健康リスクが高く、放射線の影響を受けやすい ⇨過剰な不安とは言い切れない

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リスク認知研究の新しい流れ ü リスク認知に偏りある人:社会経済弱者(女性/米国黒人/マイノリティ) (Marshall BK et al. 2006; Olofsson A & Rashid S 2011; Sansom G et al. 2019) • • ストレスで扁桃体( 情動反応の中枢)が活性化→バイアスがかかりやすい 慢性的な炎症状態→実際に病気になりやすい(強い不安に合理性あり) 例) 米国の黒人:新型コロナワクチンに不信感が強い (Balasuriya L et al., 2021) ü 福島原発事故:放射線「不安」が強いのは、社会経済的弱者 • • 低収入層(年収400万円未満)/低学歴層(非大卒)で強い不安 不安感と居住地の放射線量に、関連は見られない (「福島子ども健康プロジェクト」, 2013年〜2018年の調査結果) • 健康リスクが高く、放射線の影響を受けやすい ⇨過剰な不安とは言い切れない 主観的なリスク認知(安心)は、 単に「こころ」の問題ではなく 客観的なリスク(安全)の問題と密接に関わっていた

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全体のまとめ

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まとめ:その1 被災者に寄り添った復興を実現するためには ü 安全(リスク評価)と安心(リスク認知)は分けられない。危ないから不安を感じる → リスク評価の対象として、不安の原因を明らかにする必要がある ü 不安の主な原因は、健康リスクの社会的決定要因(心理社会的ストレス) • 放射線不安が強いのは社会経済弱者 住民間の格差/差別/ふるさと・生きがい喪失による社会からの「孤立」 国との一方通行の関係/事故責任の所在の曖昧さ ・ ALPS処理水海洋放出 ・ 除染土の再利用/最終処分 ü 社会的決定要因の削減が における主要な健康リスク • • → 効果的な放射線防護策になる • • (心臓病、脳卒中、糖尿病) どちらも同じ物質(炎症性サイトカイン)による炎症反応 社会的決定要因(低線量被ばくより重大なリスク)を取り除くことが、放射線による炎症を 被ばく量に換算すると 1Sv以上か 軽減することにもなる ※ 社会の病との相互作用による発病の加速をカウントできない現在のリスク推定は、 真の原因確率を大幅に過小評価している(参考:UCLA Greenland教授の指摘)

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まとめ:その1 被災者に寄り添った復興を実現するためには ü 安全(リスク評価)と安心(リスク認知)は分けられない。危ないから不安を感じる → リスク評価の対象として、不安の原因を明らかにする必要がある ü 不安の主な原因は、健康リスクの社会的決定要因(心理社会的ストレス) • 放射線不安が強いのは社会経済弱者 住民間の格差/差別/ふるさと・生きがい喪失による社会からの「孤立」 国との一方通行の関係/事故責任の所在の曖昧さ ・ ALPS処理水海洋放出 ・ 除染土の再利用/最終処分 ü 社会的決定要因の削減が における主要な健康リスク • • → 効果的な放射線防護策になる • • (心臓病、脳卒中、糖尿病) どちらも同じ物質(炎症性サイトカイン)による炎症反応 社会的決定要因(低線量被ばくより重大なリスク)を取り除くことが、放射線による炎症を 被ばく量に換算すると 1Sv以上か 軽減することにもなる ※ 社会の病との相互作用による発病の加速をカウントできない現在のリスク推定は、 真の原因確率を大幅に過小評価している(参考:UCLA Greenland教授の指摘)

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まとめ:その1 被災者に寄り添った復興を実現するためには ü 安全(リスク評価)と安心(リスク認知)は分けられない。危ないから不安を感じる → リスク評価の対象として、不安の原因を明らかにする必要がある ü 不安の主な原因は、健康リスクの社会的決定要因(心理社会的ストレス) • 放射線不安が強いのは社会経済弱者 住民間の格差/差別/ふるさと・生きがい喪失による社会からの「孤立」 国との一方通行の関係/事故責任の所在の曖昧さ ・ ALPS処理水海洋放出 ・ 除染土の再利用/最終処分 ü 社会的決定要因の削減が における主要な健康リスク • • → 効果的な放射線防護策になる • • (心臓病、脳卒中、糖尿病) どちらも同じ物質(炎症性サイトカイン)による炎症反応 社会的決定要因(低線量被ばくより重大なリスク)を取り除くことが、放射線による炎症を 被ばく量に換算すると 1Sv以上か 軽減することにもなる ※ 社会の病との相互作用による発病の加速をカウントできない現在のリスク推定は、 真の原因確率を大幅に過小評価している(参考:UCLA Greenland教授の指摘)

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まとめ:その1 被災者に寄り添った復興を実現するためには ü 安全(リスク評価)と安心(リスク認知)は分けられない。危ないから不安を感じる → リスク評価の対象として、不安の原因を明らかにする必要がある ü 不安の主な原因は、健康リスクの社会的決定要因(心理社会的ストレス) • 放射線不安が強いのは社会経済弱者 住民間の格差/差別/ふるさと・生きがい喪失による社会からの「孤立」 国との一方通行の関係/事故責任の所在の曖昧さ ・ ALPS処理水海洋放出 ・ 除染土の再利用/最終処分 ü 社会的決定要因の削減が における主要な健康リスク • • → 効果的な放射線防護策になる • • (心臓病、脳卒中、糖尿病) どちらも同じ物質(炎症性サイトカイン)による炎症反応 社会的決定要因(低線量被ばくより重大なリスク)を取り除くことが、放射線による炎症を 被ばく量に換算すると 1Sv以上か 軽減することにもなる ※ 社会の病との相互作用による発病の加速をカウントできない現在のリスク推定は、 真の原因確率を大幅に過小評価している(参考:UCLA Greenland教授の指摘)

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まとめ:その1 被災者に寄り添った復興を実現するためには ü 安全(リスク評価)と安心(リスク認知)は分けられない。危ないから不安を感じる → リスク評価の対象として、不安の原因を明らかにする必要がある ü 不安の主な原因は、健康リスクの社会的決定要因(心理社会的ストレス) • 放射線不安が強いのは社会経済弱者 住民間の格差/差別/ふるさと・生きがい喪失による社会からの「孤立」 国との一方通行の関係/事故責任の所在の曖昧さ ・ ALPS処理水海洋放出 ・ 除染土の再利用/最終処分 ü 社会的決定要因の削減が における主要な健康リスク • • → 効果的な放射線防護策になる • • (心臓病、脳卒中、糖尿病) どちらも同じ物質(炎症性サイトカイン)による炎症反応 社会的決定要因(低線量被ばくより重大なリスク)を取り除くことが、放射線による炎症を 軽減することにもなる ※ 社会の病との相互作用による発病の加速をカウントできない現在のリスク推定は、 真の原因確率を大幅に過小評価している(参考:UCLA Greenland教授の指摘) 被ばく量に換算すると、生涯被ばく線量は 500mSv相当か、それ以上の可能性

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まとめ:その1 被災者に寄り添った復興を実現するためには ü 安全(リスク評価)と安心(リスク認知)は分けられない。危ないから不安を感じる → リスク評価の対象として、不安の原因を明らかにする必要がある ü 不安の主な原因は、健康リスクの社会的決定要因(心理社会的ストレス) • 放射線不安が強いのは社会経済弱者 住民間の格差/差別/ふるさと・生きがい喪失による社会からの「孤立」 国との一方通行の関係/事故責任の所在の曖昧さ ・ ALPS処理水海洋放出 ・ 除染土の再利用/最終処分 ü 社会的決定要因の削減が における主要な健康リスク • • → 効果的な放射線防護策になる • • (心臓病、脳卒中、糖尿病) どちらも同じ物質(炎症性サイトカイン)による炎症反応 社会的決定要因(低線量被ばくより重大なリスク)を取り除くことが、放射線による炎症を 軽減することにもなる ※ 新型コロナと同じ: 基礎疾患の予防・治療(格差是正)が効果的なコロナ対策になる 被ばく量に換算すると、生涯被ばく線量は 500mSv相当か、それ以上の可能性

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まとめ:その2 復興推進と放射線対策は両立できる ü 原発事故も新型コロナと同じ: 低線量被ばくの影響は、社会的決定要因との相互作用が重要 例1) 活発な外遊びが、子どもの被ばく影響を和らげる ・ 外遊び自粛でサイトカインの血中濃度↑、心臓病 / 糖尿病などのリスク↑ 理由その1) 心理社会的ストレス: 室内に篭る圧迫感 / 社会からの孤立 理由その2) 運動不足:筋肉を動かさない / 肥満 → 被ばくにより、さらなるサイトカイン↑↑↑、心臓病/糖尿病などのリスク↑↑↑ ・ 活発な外遊びにより、サイトカインの血中濃度↓ → ベースラインのサイトカイン↓、被ばくの影響↓ → 子どもの健康増進 / 将来の質の高い労働力 / 地域経済の活性化 例2) 中央と地方/身の回りにある格差是正が、効果的な放射線対策になる ・ 社会経済格差によるサイトカイン↑で、放射線による炎症も増悪↑↑ → 格差是正でサイトカイン↓、被曝の影響も↓→健康増進/地方創生/経済が活性化

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まとめ:その2 復興推進と放射線対策は両立できる ü 原発事故も新型コロナと同じ: 低線量被ばくの影響は、社会的決定要因との相互作用が重要 命 と 経 済 は 両 立 可 能 例1) 活発な外遊びが、子どもの被ばく影響を和らげる ・ 外遊び自粛でサイトカインの血中濃度↑、心臓病 / 糖尿病などのリスク↑ 理由その1) 心理社会的ストレス: 室内に篭る圧迫感 / 社会からの孤立 理由その2) 運動不足:筋肉を動かさない / 肥満 → 被ばくにより、さらなるサイトカイン↑↑↑、心臓病/糖尿病などのリスク↑↑↑ ・ 活発な外遊びにより、サイトカインの血中濃度↓ → 被ばくの影響↓ → 子どもの健康増進 / 将来の質の高い労働力 / 地域経済の活性化 例2) 中央と地方/身の回りにある格差是正が、効果的な放射線対策になる ・ 社会経済格差によるサイトカイン↑で、放射線による炎症も増悪↑↑ → 格差是正でサイトカイン↓、被曝の影響も↓→健康増進/地方創生/経済が活性化

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まとめ:その2 復興推進と放射線対策は両立できる ü 原発事故も新型コロナと同じ: 低線量被ばくの影響は、社会的決定要因との相互作用が重要 例1) 活発な外遊びが、子どもの被ばく影響を和らげる ・ 外遊び自粛でサイトカインの血中濃度↑、心臓病 / 糖尿病などのリスク↑ 理由その1) 心理社会的ストレス: 室内に篭る圧迫感 / 社会からの孤立 理由その2) 運動不足:筋肉を動かさない / 肥満 → 被ばくにより、さらなるサイトカイン↑↑↑、心臓病/糖尿病などのリスク↑↑↑ ・ 活発な外遊びにより、サイトカインの血中濃度↓ → 被ばくの影響↓ → 子どもの健康増進 / 将来の質の高い労働力 / 地域経済の活性化 例2) 中央と地方/身の回りにある格差是正が、効果的な放射線対策になる ・ 社会経済格差によるサイトカイン↑で、放射線による炎症も増悪↑↑ → 格差是正でサイトカイン↓、被曝の影響も↓→健康増進/地方創生/経済が活性化

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まとめ:その2 復興推進と放射線対策は両立できる ü 原発事故も新型コロナと同じ: 低線量被ばくの影響は、社会的決定要因との相互作用が重要 命 と 経 済 の 両 立 可 能 例1) 活発な外遊びが、子どもの被ばく影響を和らげる ・ 外遊び自粛でサイトカインの血中濃度↑、心臓病 / 糖尿病などのリスク↑ 理由その1) 心理社会的ストレス: 室内に篭る圧迫感 / 社会からの孤立 理由その2) 運動不足:筋肉を動かさない / 肥満 → 被ばくにより、さらなるサイトカイン↑↑↑、心臓病/糖尿病などのリスク↑↑↑ ・ 活発な外遊びにより、サイトカインの血中濃度↓ → 被ばくの影響↓ → 子どもの健康増進 / 将来の質の高い労働力 / 地域経済の活性化 例2) 中央と地方/身の回りにある格差是正が、効果的な放射線対策になる ・ 社会経済格差によるサイトカイン↑で、放射線による炎症も増悪↑↑ → 格差是正でサイトカイン↓、被曝の影響も↓→健康増進/地方創生/経済が活性化

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復興推進と放射線対策は両立できる ü 命の守り方には 2 種類ある 1) 功利主義:経済成長(復興推進)は、大多数の人の健康状態を良くする (多少の被ばくは、やむを得ない) 2) 義務論主義:少数者/弱者の命を守ることを優先(被ばく影響を重視) ※ どちらも間違ってない(2種類の正義がある) ü 現代社会では2種類の正義(功利主義と義務論主義)は対立しない Ø 社会経済格差は、勝ち組含め社会全体の健康状態悪化=経済の停滞招く → 格差是正(義務論主義)は全体の健康増進/経済の活性化(功利主義)を促す ※ 練習問題としての新型コロナ(前述) ・ ハイリスクグループ(社会経済弱者)を徹底的に保護しさえすれば… → 経済止めなくても、流行は収束できた(緊急事態宣言はいらなかった)

50.

被ばく量に頼った推計 健康リスクを大幅に過小評価 シンデミック / アロスタティックロード の概念を理解して 社会的決定要因との相互作用に着目すれば 「命」と「経済」は両立可能 分断解消、真の意味での復興

51.

ご清聴ありがとうございました 駆け足の説明で分かりにくかったかもしれません 興味を持たれた方は、ご連絡ください [email protected] なお、詳細は以下の拙著にまとめてあります 『なぜ社会は分断するのか ─情動の脳科学から見たコミュニケーション不全』 (2021年3月11日刊, 専修大学出版局)

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現在のリスク評価の大前提となっている自然観 ü リスクの見積もりは、自然科学的に行う • リスク: 「危害の度合い」 × 「その発生確率」(ISO/IEC GUIDE 51:2014) ü 自然科学が扱う「自然」の大前提となっているのは (典型例は西洋医学) • 現象を物質 に還元する「機械論的自然観」(伊東俊太郎『変容の時代』2013) ギリシア、中国、イスラム、日本にもなかった特殊な西欧思想 ü もう一つの自然観 (典型例は東洋医学) • 自(おのず)から然(しか)ある状態(木田元『反哲学史』1995) ü 自然観 (文化)に優劣はない: 問題を切り取る視点が異なるだけ • 現在の西洋科学的リスク評価で、見落としているリスクがあるかもしれない! →それを明らかにするのが、リスクコミュニケーションの役割の一つ ⇨ 西洋医学の発想(新薬:単一の物質) ⇨ 東洋医学の発想(漢方:生薬)

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リスク評価の「まず在る」視点:主観・客観二元論 ü なぜ、原因を物質に求めようとするのか • 現在の自然科学を生んだ西欧近代思想では、 事物の存在を、<意識するもの> と <意識されるもの> との関係とみなす →認識論的には、 <意識> と、意識内部が対象とする <表象> →存在論的には <意識の主体(私)> と、意識外部にある <それ自体で存在するもの> →が、<主観> と <客観> の関係とみなされる • だから、主観・客観二元論に基づいて、 →自然科学は、それ自体で存在する「物質」に病気の原因を求めようとする ü リスク評価の対象となるのは … → 主観の外部にある、それ自体で存在する物質として客観「視」されたリスク <典型的な見解 > 客観的リスク(科学)と主観的リスク(人の感じ方)の間には、ズレがある 主観的リスクは、客観的リスクより大きく見積もられる ・例) 未知なもの、子孫への影響が及ぶもの、負担が不公平なもの… (原子力安全委員会 安全目標専門部会, 2002) →安心・安全二元論 :安全は科学の問題(客観)、安心は心の問題(主観)